《パドックの下はパクチーがいっぱい/子大の競馬サークルの先輩が殺された?著ぐるみの中で?先生、どうする? 競馬ファン必見、妖怪ファン必見のライト・ラブリー・ミステリー》8 いわゆるビギナーズラックってやつ

なぜ外れたのかをあれこれ推察しても意味はない。圧倒的に外れた方が多いのだから。

サークルのルールとして、馬券はひとり一日最大三十六枚と決めてある。日に五千円も賭けることはご法度である。

普通、サークルメンバーは最大の三千六百円を投しているし、ミリッサも同様だ。

一レース三百円。これを減らして、重賞レースのみ五百円という配分はOKだ。

當てればよいということではなく、あくまで今日一日競馬を楽しむというスタンスは譲れない。

一レース數枚の勝馬投票券で勝負を楽しむということになる。

「メイメイ。今日、馬券は買った?」

「はい。馬連を。當たりました」

「何レース目?」

「第五レースのメイクデビューと、メインレースだけ」

「へえ。これからも?」

「いいえ。サークルにれてもらった限りは、みんなと同じように」

「よかった。ミーティングでは、購理由をみんなで考察するのよ。じゃ、メイメイ、その馬連が的中した理由はなんだったと思う?」

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「ええっ! 私から?」

「誰からでもいいのよ。特に意味はないよ」

フウカの進行は流れが良い。

時に無駄話も混じるが、恒例のテーマはさっさと終えてしまうというのが彼の流儀だ。

「たまたま。いわゆるビギナーズラックってやつ」

「それじゃ、考察にならないよ。買った理由が何かあるでしょ。それともコンピューター馬券?」

「あ、そういうことなんですね。そうですねえ……、私、、小さいでしょ」

牝馬しか買わないと決めていたという。

「一番馬重の軽い子にしようと」

「なるほど」

「三百キロ臺の子が二頭いたから。それだけ。參考になった?」

「なるか!」と、ジン。

「メインレースも同じ理由?」

「まあね。でも、ダメ」

「それ以外の理論は?」

「ないよ。パドック見て、なんとなく。オッズは無視。ジョッキーも無視。前走がどうのこうのも無視。當たるはずないよね」

「ううん、オッズを無視せず、ジョッキーも考慮して、前走の績も見たからって、當たるはずもなし」

「重馬場得意とか、右回り得意とか、輸送が有る無しとか、も知っていたからって當たらないし」

「あら、メイメイ、案外、詳しいね」

「言葉だけ。ずっと競馬場でバイトしてるし。耳年増」

「當たる確率を考えたら、重賞レース以外は先行馬の中から選んでおくというのがよさそうだけど」

などと、それぞれに想を言いあう。

ミーティングと言えど、所詮は単なる想や愚癡の言い合い。

これでいいのだ。

サークルR&Hは、競馬は楽しむためのもの、というスタンスを貫いている。

楽しみの範囲を超える負けがあってはいけない。一枚も當らなくても、ミーティングに參加して楽しめなくては。

ミリッサは、かつての痛烈な失敗を糧にして、競馬に対するこの考えが揺れることはない。

「今日もルリイア先輩、帰って來なかったね」

ミーティングもそろそろ終わりだ。

ジーオが持ってきてくれたものも、ほぼ胃の中に落とし込まれた。

「メイメイ。サークルのルール」

「パドックを見る。でしょ」

「それは、ポリシーかな。自由時間に誰かを拘束しない。先輩後輩の區別なし。敬語なし。私は今、部長だけど、だからといって立てる必要なし。いい?」

「はい。わかりました」

「ダメ。その言葉遣い、NG」

「あ、はい。なるほど」

「慣れてね。もちろん、先生は別よ」

「先生、今日もありがとうございました」

と、立ち上がりかけたジンをフウカが押し留めた。

「ちょっと話があるのよ」

座り直すジン。

その瞳に期待がありありと現れていた。

「楽しみ。どんな話?」

フウカはコホンと咳払いでもしそうなほど背筋を正し、まっすぐ見つめてきた。

「先生、ノーウェ先輩のことなんだけど」

ノーウェ。

乃生恵。

ミリッサの授業をけていた卒業生で、サークルの出者。

ミリッサにとって、思い出の多い學生の一人だった。

四年前。

に出會った最初の授業。教室の最前列に座っていた二年生のノーウェ。

そのいでたち。

大膽な花柄のワンピースの元を大きく開け、素晴らしいとしか言いようのない笑顔をみせていた。

その最初の授業で顔と名が一致するようになった學生はノーウェだけ。

三年前、

四限の授業が終わり、帰ろうとするミリッサを、大學の正門脇で待ってくれていたノーウェ。

一年半前。

大學の謝恩會。

何度も何度も、一緒に寫真を撮ろうと付きまとっていたドレスアップしたノーウェ。

そのノーウェは、半年前、この京都競馬場でいつも開かれている、再生財団のPRイベント中に死んだ。

イベントマスコット「ケイキちゃん」の著ぐるみの中で。

階段を降りようとして足を踏み外し、そのはずみで外れたケイキに張り巡らされたワイヤーが首に絡まって。

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