《パドックの下はパクチーがいっぱい/子大の競馬サークルの先輩が殺された?著ぐるみの中で?先生、どうする? 競馬ファン必見、妖怪ファン必見のライト・ラブリー・ミステリー》15 「私、一緒に行っても」「いいよ」

午後になり、雨は止んだ。

三限と四限、いずれも三年生の授業である。

心理的提案技法論と先鋭彩技論。

ジン、ラン、メイメイ、そしてアイボリーが出席。

ハルニナの姿はなかった。

晝休みの部活にはいたのに。

最近、出席率が低い。

単位が危ういというのに、とミリッサは思ったが、すぐに忘れた。授業に集中。

いずれも、論という名が授業名についているが、どちらもデザイン演習的要素を含んでいる。

學生たちがデザイン・プチ演習に取り組んでいる機の間を歩き回り、その場でアドバイスを與えていく。

時には、ミリッサ自ら學生たちの演習用紙に書き込んでいく。

例えば、こういう形狀はどうだい、こういう構の方がよくないかい、ほら、こうやって描くとテクスチャーが、というわけだ。

前から橫から後ろから、年頃の娘に接近するわけだから、れないように気をつかう。

元を押さえる學生もいるが、概して無頓著だ。

もちろん、私語は止。

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しかし、演習ともなると、互いに見せ合ったりして會話が生まれる。

々のことは大目に見ているが、殺人事件、という聲が聞こえた。

抑えた聲だが、聴きなれない言葉だけに、幾人かが振り返る。

「ジン! 靜かにしなさい」

ジンはしおらしく謝ったが、話しかけられた方のアイボリーはし驚いたような眼をしてジンを見ていた。

仲良しの二人である。いつも並んで座っている。つい、話してしまったのだろう。

ミリッサは、至急、かん口令を敷かねばならないと思った。

ただでさえ白い目で見られがちな競馬サークル。その上に殺人事件の捜査に首を突っ込むなど、大學當局に知れたら印象悪化は免れない。

四限授業終了のチャイムが鳴った。

演習のプリントを回収し、教室を出ていく學生たちに挨拶を返し、しづつ後片付けを始めながら、教室に居殘る學生たちを眺めた。

デザイン演習は決められた時間に終わること。これがモットーであるし、それが実社會に出た時にも役に立つ。しかし、あとしだけやらせて、もうしで完するから、という學生からプリントを奪い取るわけにもいかない。テストであれば別だが、日々の訓練なのである。

今日の居殘りには、珍しくランがいた。

いつもは終業のチャイムともに、プリントを投げ出すように提出して教室を飛び出していくのに。

ははあ、一緒に駅まで帰ろうという気だな。

ランはくりくりした目を向けてきてはプリントに目を落とす。手はあまりいていない。

居殘った學生が一人去り、二人去り、とうとうランだけになり、彼も一応はさよなら、と言って教室を出て行ってしまった。

ミリッサは、なんとなく寂しい気がしながら、黒板を消し、窓を閉め、モニターの電源を落とし、教科書や出席簿やプリントなどを鞄にしまい、目立つごみを拾い集め、照明を消した。

一階まで上がると共用のロッカーに鞄ごとれた。ここにもランはいない。

正門まで來ると、ここでランが待っていた。

毎日ではないが、こうして學生たちの誰かと、あるいはグループで駅までの道を降りていくのが常だ。

ほとんど、講義容が難しすぎるとか、演習時間をもっと取ってとか、バイトのこととか、サークルのこととか、他のない話をして親しみを深めていく。だが、時には度を越した親しみ、つまり危険なわなを仕掛けてくる學生もいる。

いわば、ピンクトラップ。

れてくるなど必要以上に馴れ馴れしい態度をとったり、授業中には絶対に見せない艶然とした瞳を向けて來たり、ストレートにご飯に連れて行って、などといかけてくる學生もいる。

むろん、すべて無視、無反応。

ミリッサがこの大學で長く講師を続けてこれたのも、こうしたトラップにかからなかったからだ。

授業途中で休講となってしまった男講師もいるが、きっと、そういうことじゃないかとミリッサは思っていた。

それに、大學に呼んでくれた親友のヨウドウの手前もある。あいつに恥をかかせるわけにはいかない。

すっかり雨は止み、薄日が差している。

「待ってた? でも、今から用があるんだ」

先鋭彩技論の授業のために、ミリッサはいろいろな工夫をしていた。

授業名にある通り、が人の行や心理にどのような影響を與えるか、人によってじ方は違うのか、そしてそれを空間計畫にどう活かすか、がテーマの授業である。

座學だけでは、學習は深まらないし、また退屈極まりない。そこで、多くのフィールド學習を取りれていた。

フィールド學習といっても、教室を出て學を歩き回るだけ。學外に出る授業も大學としては表向きは推奨していたが、手続きが面倒。

それに例えばショッピングセンターなどでフィールド學習でもしようものなら、二、三十人の子學生を規律ある集団としてまとめ上げるのは至難の業だ。

おのずと學で済ませることになる。

しかし、來週の授業は違う。

裏山で自然の木々や草花を観察し、心に響く何かをじ取る訓練授業である。

それに、後期授業の中間點で、気持ちがダレてくるころ。ちょっと足を延ばし、軽いハイキングまがいの時間はいい気分転換になる。半期十五回の授業にも、計畫的にリフレッシュは必要だ。

「あ、そうなんですね」

「一応、下見。毎年、行ってるけどね。念のため」

実際、下見は必須である。

どこまで行くかも例年通り、小さな滝の祠のあるあたりまでと決めてある。ハイキングの目標地點、というわけだ。

しかし、大雨で増水していたり、山が崩れて通行できなくなっていたり、スズメバチの大きな巣が行く手を阻んでいたり、不安な要素も多々ある。

大切な學生に怪我をさせるわけにはいかない。

ミリッサはランに軽く手を振って、正門をくぐり、守衛室に向かった。

落膽し、きらきらする目を伏せて歩き始めたランを見て、気が変わった。

今からの用は、授業準備である。學生に手伝えと言って、咎をけることはない。

ランはジーパンにスニーカー。いつものように軽快な服裝。大丈夫だ。

「裏山に行く。來週の授業のために」

と、聲をかけた。

「えっ、じゃ」

ランの瞳が見引かれ、輝きだした。

目の下の二つほくろも、大きくなったような気がする。

「私、一緒に行っても」

「いいよ」

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