《パドックの下はパクチーがいっぱい/子大の競馬サークルの先輩が殺された?著ぐるみの中で?先生、どうする? 競馬ファン必見、妖怪ファン必見のライト・ラブリー・ミステリー》19 何をしでかすか分かったものじゃない

グリーンの制服、制帽を著た男を、清掃員はあいつ呼ばわりだ。

「アサツリってやつです。ルリイアさんに首ったけでね」

「やめてくださいよ」

ルリイアは厳しく言ったわけではない。

むしろ、笑いながら。

いつもの會話なのかもしれない。

「へえ!」

と応えたミリッサに気をよくしたのか、清掃員が付け加えてくれる。

「ルリイアさん、気を付けた方がいいですよ。あいつ、何をしでかすか分かったものじゃない」

ミリッサは、実は、その男を知っていた。

例の事故の前後だろうか。

呼び止められたことがある。

振り返ったミリッサにこう言ったのだった。

お客様、職員のに手を出さないで下さい。

は?

失禮千萬。

しかし、ここは競馬場、しかもルリイアの職場。

ひと悶著は起こしたくない。

なにか、誤解でもあるのではないでしょうか。

と、丁寧なけ答えをしたが、嵩にかかったのか、男はこう付け加えた。

が出てるんですよ。

誰から、とは聞かなかった。

ルリイアがそう言うはずがない。

この男の造だ。

よほど、ふざけるな、と言ってやりたかったがぐっと我慢。

するとこうだ。

場合によっては警察を呼びます。

腹に據えかねたが、ルリイアのことを思うと、結局は不問にしたのだった。

ルリイアにもこのことは伝えていない。

この男、ルリイアの上司か同僚か。

一方的にルリイアに好意を寄せている、異常な面のある男、なのだろう。

いずれにしろ、ルリイアは気付かないはずがない。自分で何とかするだろうと。

「心底、いやな奴」

清掃員は、男から目をそらし、ますます小聲で言った。

「元々は、あの亡くなったの人に興味があったみたいだけどね」

「そうだったんですか」

「どこのボンボンちゃんか知らないが、コネで社して、ああやってを付け回して。ルリイアさん、変態上司を持って大変だけど、気を付けなさいよ。最近、疲れているみたいだけど、あいつが原因?」

「あ、いえ、そんなことは。ありがとうございました」

手を止めたことに禮を言ったのか、忠告に禮を言ったのか分からなかったが、とりあえずは清掃員を解放し、いや、解放され、ルリイアは小さなため息をついた。

「苦労してるみたいだな」

というミリッサに、微妙な笑顔を見せたルリイア。

振り返ると、変態上司アサツリはまだこちらを見ている。

ルリイアは、今度は大きくため息をついた。

「清掃業務は委託?」

「そうなんです」

競馬場の清掃関係の作業は、一括して専門業者に委託しているという。

マルタクリーンという會社だそうだ。

関西一円で手広く事業を展開しているそうで、ここ京都競馬場も一つの現場ということになる。

「さっき言ってたキオウミさん? ここの擔當課長?」

「ええ、京都南部全域を統括されているようで、競馬開催日の土曜日曜は、よく來られています」

ノーウェがその男の娘。

初耳だった。

もちろん警察は、この男にも事聴取しただろう。我々としても、話は聞いておいた方がいいだろう。

「紹介してくれないか」

「はい、もちろん。お悔やみを言わなくちゃいけませんし」

「遅ればせながら、だね」

「ええ。でも、今日は、來てるかな」

「うん。後で」

次に會った警備員からも、清掃員と同じように、當日の現場に人影はなかったと聞かされた。

清掃員以上の老男だ。

ただ、こちらからも新たな報を得た。

押収された監視カメラのデータが警察から返卻されたという。

もう、事項でも何でもない。

見ますか、と聞いてくれる。

もちろんである。

ミリッサは、ルリイアの仕事ぶりをまた垣間見たような気がしてうれしかった。

信頼され、慕われている。かわいがられている。

そうでなければ、彼らが自分の孫娘のような年齢の、かつ新人職員に、このように接してくれるとは思えなかった。

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