《パドックの下はパクチーがいっぱい/子大の競馬サークルの先輩が殺された?著ぐるみの中で?先生、どうする? 競馬ファン必見、妖怪ファン必見のライト・ラブリー・ミステリー》22 人の心は、その人だけのもの、って思います?

四年ほど前。

その夕、正門で待っていたのはハルニナだった。

二年生でそんなことをする學生はほとんどいない。

先生にまだ親しみをもっていないこともあるが、二年生の授業は二限目。下校時間よりずっと早い午前中。

正門で先生を待つという行為は自然ではない。

しかし、その日、明らかにハルニナは待っていた。

その証拠に、よかった、ミリッサが一人で、と言ったのだった。

よく覚えている。

今と同じような山吹のローブを纏ったハルニナが、早速ポケットから出してきたもの。

棒付キャンデーを差し出したハルニナは、駅前でただでたくさん配ってる、賄賂じゃないし、と言ったのだった。

そのころ、ハルニナはよく話す普通の學生だった。

服裝は人目を引くが、それぞれの個をことさら主張するのはいいことだし、世間の風でもある。

ハルニナはよく笑い、快活に挨拶をした。

績もピカ一。ただ、よく欠席した。

正門を出て、他の大勢の學生に混じって歩き出した二人。

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ミリッサは、どうハルニナに話しかければいいのか、迷った。

それほど、ハルニナはうきうきしていたし、変な話題でも振ろうものなら、道往く學生たちが振り返るほど大聲で笑いそうだった。

「學校、楽しそうだね」

と言ったものだが、これにハルニナは、

「そりゃあ、好きな人がいるから」

と、舌を出したものだ。

「職員に?」

「當たり前ですよ。私、、ですから」

と、やはりびっくりするくらい大きく笑ったものだ。

いろいろな話をした。

學校での出來事ばかり。

坂道を下りながら。

影石を積んだ石塀のお屋敷を過ぎ、コンクリート打ち放しのカフェを通り過ぎ、大きなケヤキの木の下を通り、二つ目のバス停を過ぎ、急ぎ足の學生に追い越されながら。

阪急の影駅で別れるものと思っていたが、ハルニナは迷うそぶりもせずについてくる。

「私もJR」と。

坂道は平坦になり、JR神戸線の摂津本山駅までもうし。

街は靜かな住宅街から商店がちらほらある街へと変わる。

學校から初めての信號機のある差點を過ぎれば、広い道幅を有する商店街にっていく。

その商店街の中ほど、焼き鳥をメインとするごく小さな惣菜店の橫に路地がある。

と、ここまで來た時、ハルニナが袖を引っ張った。

「こっち」

「ん?」

「もうちょっと話したいから」

と、なおも引っ張る。

路地を抜ければ、神社の境っていく。

神社の、いわば裏門というわけだ。

神社は思いのほか広く、開放的で街のオアシスといった風

小さな子供たちも時々遊んでいるし、老夫婦が散歩する姿も見かける。

引かれるままにミリッサは境っていった。

ミリッサ自、この學生ともうし話してみたいとじていた。

楽しいとじていた。

には誰もいなかった。

の當たる石のベンチに腰掛けると、正面からの西日が眩しかった。

ハルニナの第一聲はこうだったと思う。

「見てよ、これ」

ハルニナはローブをたくし上げ、素足を見せた。

「あ、どうしたんだ」

見ると、ハルニナの右足、くるぶしのすぐ上に、赤いが卵ぐらいの大きさで盛り上がっていた。

「いやでしょ」

膨れ上がったそれは、きれいなドーム形をしていて、今にもはち切れそうなほど張りつめていた。まるで艶々の半明なゼリーのようだった。

「ダニにやられた」

と、ハルニナは足をローブに隠した。

「痛いのか?」

「ううん。でも怖くてれない」

「薬は?」

「塗れないよ。だから怖くて」

そしてハルニナは、唐突にこう言った。

「ミリッサ先生、人の命って、はかないものだと思います?」

あまりの話題転換にミリッサは戸ったものだ。

「それとも、永遠だと思います?」

応えようがない。

考えたこともない。

「さあなあ」

としか、言いようがない。

常識的なことを言っても、ここは意味がない。

若い娘が、「命」を話題にしようとしているのだから。

心配になった。

ハルニナは何か、思い詰めていることでもあるのか。

好きな人、とさっきは言ったが。

「じゃ、これは? 人の心は、その人だけのもの、って思います?」

ますます、ややこしいことになってきた。

応えあぐねていると、ハルニナは大きく微笑んだ。

びっくりするような素敵な笑みだった。

初めて見るハルニナの、そう、きっと、心からの笑み。

ミリッサはそうじたことを悟られないように、あえてこう言った。

「君の好きな人、幸せだね」

「ええっ、そうですか?」

ハルニナの語尾には、小さな疑問符がついていた。

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