《パドックの下はパクチーがいっぱい/子大の競馬サークルの先輩が殺された?著ぐるみの中で?先生、どうする? 競馬ファン必見、妖怪ファン必見のライト・ラブリー・ミステリー》25 私の親衛隊の隊長です

ハルニナが立ち上がった。

「ありがとう。全部聞いてくれて」

「何だか分らんぞ」

ミリッサも努めて明るく言って立ち上がった。

「さあ、ご飯にしよう。おなかすいたね」

ハルニナがまたあの笑みを見せた。

競馬場の地下に戻った。

「ご飯はまた今度に」

「そういわずに」

「學生と二人きりで食事はしない主義。お茶でもな。知ってるだろ」

「じゃ、先生っていうのはやめにする。さっきみたいにあなたって言うわ。それでどう?」

「どうもくそもあるか。お前は俺の授業を講している學生だ」

とは言いつつも、ミリッサはそれもいいかも、と思い始めていた。

時刻はいつの間にか八時を回っている。

それに何より、先ほどのわけのわからない話を、もうしすっきりする形にしておきたいとも思った。

心は揺れた。

講師としての振る舞い、ここではリスク回避であるが、に従うべきだという思いと、ハルニナをもっと知りたいという思いの間を。

ハルニナと並んで廊下を行く間にも、揺れに揺れた。

しかし、決然と、じゃ、今日はここで、と立ち止まることもできない。

悲しいかな、帰り道がわからない。

廊下はやけに明るく無機的で、たくさんの扉が並び、それらが全く同じ表をしている。

道はいたるところで差し、折れ曲がり、まるで迷路。

何度か曲がるうちに、東西南北さえ分からなくなった。

すでに、あの第三コーナーの植栽帯ににさえ戻ることはできない。

例によって、幾つかの扉を抜け、きっとその間にスキャンエリアも數多通過していることだろう。

ついていくしかない。

しかし、あきらめ、とか、怒り、といったは全く湧いてこなかった。

この昂る気持ちはなんだろう。

「ここです」

とハルニナがひとつのドアを開けた。

「お待ちしていました!」

と、明るい聲。

「メイメイ!」

「先生、どうぞおりください」

中には男が二人、すでに著席していた。

「ご紹介させていただきますね」

男は立ち上がり、歩み寄ってきた。

「グリーン」

の筋質の男が手を差し出してきた。

和な顔つきだが、差し出された手は骨ばっていて、力強かった。

「PHルアリアンの幹部の一人。私の信頼する懐刀です」

懐刀は、じっと見つめてくる。

かなりの威圧だ。武闘派か、と思えた。らかい布を纏った姿で、拠はないが。

「こちらは」

妙なことになってきた。

この様子では、先ほどの続きを、とはならない。

何の會か知らないが、參加せざるを得ないのか。

振り返ると、もうそこにメイメイの姿はなかった。

「ヘッジホッグ。同じくルアリアンの幹部です。私のもう一人の懐刀」

こちらの男は小柄。背広姿だ。

禿げ上がった頭を下げてから、手を差し出してきた。

グリーンと違って、冷徹な目をしていた。ハルニナの參謀といったところだろうか。

メイメイが戻ってきて、食事を並べ始めた。

「でね、ミリッサ。もう一人、紹介します」

ふむ、會の參加者はまだいるのか。

「メイメイ」

「はい」

「えっ」

「私の親衛隊の隊長です」

「……」

ミリッサの驚きをよそに、ハルニナは著席を促した。

この會がなんなのか、まだ話してくれない。

部屋の中央に大きなテーブル。

白いクロスが掛けられて、中央に盛り花。

肘置き付きの木製チェアが八腳、取り囲んでいる。

ミリッサは、メイメイと並んで末席に座ったものの、前の背広姿の男の視線が気になって落著けなかった。

晩さん會はぎごちなく始まった。

武闘派グリーンも參謀ヘッジホッグも、口を開かない。

最初に出されたスープのカップが震えないように、ミリッサは慎重に口に運んだ。

一口飲むと、幾分落ち著いて、前の二人と、主人席に座ったハルニナを見比べた。

PHとは。

ルアリアンとは。

という疑問がまた頭をもたげてくる。

席順と話しぶりから見て、ハルニナはこの二人の男を従えていることは明白。

懐刀とも言った。

いったい、どんな組織なのだろう。

そして、とんでもないことに気がついた。

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