《パドックの下はパクチーがいっぱい/子大の競馬サークルの先輩が殺された?著ぐるみの中で?先生、どうする? 競馬ファン必見、妖怪ファン必見のライト・ラブリー・ミステリー》26 危うく殺されるところでした

いったい、ここはどこなんだ。

競馬場の地下ではないのか。

競馬場の関連施設、つまり倉庫や管理用諸室が集中するエリアではないのか。

それにしては、近代的で清潔な廊下だし、この部屋にしても。

部屋は三十平方メートルほどの広さで、ナチュラルある合いで彩られている。

壁は濃淡の違う緑に塗られてあり、天井は濃い青、今から夜になるというような空の

裝飾といえるものは、ハルニナの後ろ、つまり正面の壁に掛けられたモロッコ風デザイン畫のタペストリーのみ。

野菜料理が運ばれてきた。

運んできた若い男の顔をどこかで見たことがあるような気がした。

そういう目で見ると、この武闘派グリーンも、どこかで見たことがあるような気がし始めた。

スタンドか……。

「ミリッサ、お酒は」

「ありがとう。でも、結構だ」

飲めるものなら、飲まずにいられるか。という気もするが、きっと悪酔いする。

「遠慮しないで」

と、ハルニナは給仕係に目配せをした。

「さて、人心地著いたところで、話を始めましょうか」

と、やっとハルニナが切り出した。

しかし、たちまち、反対者が現れた。

グリーンとヘッジホッグ。

「それは、また後程、ということにされた方がよいかと存じます」

部外者、かつ、何も知らないミリッサがいる前ですべき話ではない、というわけだ。

それはそうだろう。

こんな會を催すことさえ、きっと彼らは反対したはずだ。

PHやルアリアンなど、中のに違いない。

自分は招かざる客。

では、と晩さん會途中で席を立つわけにもいかず、はこわばってくる。

ハルニナはどんな反応をするだろう。

「いいのよ」

「いえ」

「この人は信用していいの」

「しかし」

という聞きたくもない聲が耳にってくる。

くそったれめ!

ミリッサは、注がれた酒を口に含んだ。

これまで飲んだこともない酒だった。

リキュールの一種だろう。強い芳香がありながら、甘くはない。アルコール度數が強いわけでもないのに、頭に突き抜けるような覚があった。

結局、ハルニナはすまなさそうな目を向けてきた。

「ミリッサ、ごめんなさい。この人たちを悪く思わないで。私より、ずっと経験富で長い長い年月を生きてきたのよ、この人たち。彼らの言うことを聞くことにしてるのよ」

「いいさ」

の、後に、俺にとってはどうでもいいこと、と付け加えたかったが、そこは自重するに越したことはない。

「じゃ、別の話をします」

はわからないが、今度はグリーンもヘッジホッグも異議を唱えない。

事前に、打ち合わせてあったのかもしれない。

「先週、ミリッサ、地下馬道で倒れたでしょ」

「ああ」

「その時のこと、説明しますね」

「立ちくらみじゃないのか」

「そういうことにしておいてください。でも、実際は」

ハルニナは確認するように男たちを見てから、

「襲われたんですよ。危うく殺されるところでした」

と言った。

「えっ!」

「私も迂闊でした。まさか、彼がそこまでするとは思っていなかったので」

穏やかならぬ話に、ミリッサは口に含んだ酒を吐き出しそうになった。

「でも、もう大丈夫。手は打ちましたから」

「おい! なぜ俺が……」

「そうでしょうね。わけがわからない、でしょうね」

「當たり前だ。いったい……」

何が起きているのか。

「誰が」

「もう危険はありません」

殺されかけたことが、そんなに簡単に、はい、では安心ですね、となるはずもない。

「ハルニナ、もうちょっと丁寧に説明してくれないか」

「すみません。でも、私を思い出してもらえれば……」

と、ハルニナはまたグリーンとヘッジホッグに目をやった。

話はここまでが限界なのだろう。

さらに詳しく聞き出そうにも、安心してください、と繰り返すだけだった。

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