《パドックの下はパクチーがいっぱい/子大の競馬サークルの先輩が殺された?著ぐるみの中で?先生、どうする? 競馬ファン必見、妖怪ファン必見のライト・ラブリー・ミステリー》32 楽しんだ殘り香を共有するだけの會だから

やっと警備員詰所からジンが顔を出した。

「データ移行完了」

「やれやれ」

「なにが、やれやれなんですか」

「いや、こっちのこと」

「もしかして、遅すぎるって怒ってた? 早送りしながらダビングしてたから」

ジンがメモを取っていた。簡単に説明してくれる。

畫は三時間分。開始時刻は午前十時。

事故があったのは、第四レースのし後、午前十一時三十五分ごろ。

映像には、二階廊下が映っている。事故のあった廊下を南側から、つまりノーウェが落ちた階段の降り口を左手に、その上の三階への階段の登り口を右手に橫から見る格好で、廊下が続いている。

誰も歩いていない。

左側にはいくつかのドア。窓も開いていてとても明るい。右側には壁が続いているだけだ。

階段の先、二十數メートルほどで右に折れ、突き當りになっていた。

畫の中ほどで、ケイキちゃん姿のノーウェ先輩とルリイア先輩が突き當りの右から出てきて、こちらに向かって歩いてきます」

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「うむ。じっくり見てみよう」

「ですね」

警備員に禮を言って立ち去りかけると、聲をかけてきた。

「これより前の畫も必要でしたら、またお聲掛けください。なにも映っていないようでしたけど」

「ありがとうございます。念のためお聞きしますが、當然、警察もこの畫、同じものを見ているんですよね」

「もちろんです。むしろ、元データはまだ警察にあります。お渡ししたのは、常に取ってあるバックアップのコピーです。々畫質は落ちますが」

二階の売店まで戻ってきてジンと別れた。

売店の店員や、付近の客に聞き込みをするのだという。

清掃員のと目が合った。

手招きされて近づいていくと、聲を潛めてこう言う。

「さっき、アサツリと話していたね。気を付けた方がいいよ。昨日も言ったけど、あいつ、曲者だから」

清掃員は、苦々しげに口をゆがめると、清掃の手を止めずになおも言う。

「あいつは、ルリイアさんのためなら、どんな噓でもつく」

そのせいで、この清掃員も含めて多くの者が迷をこうむっているという。

「そうなんですか」

「フン、つまらない話。例えばね」

ある日、二階のラウンジで、暴れだした男客がいたという。

負けた腹いせに、設えられたソファーを蹴飛ばした挙句に橫倒しにしたという。

それをルリイアがなだめて、元通りにしようとしたことがその客の神経を逆なでした。

ますます暴れだして大騒ぎになったという。

その原因を作ったのは、客の方だったし、ルリイアの対応のまずさもあったのかもしれない。

しかし、アサツリが書いた報告書には、警備員と客とのトラブルとされてあり、警備員の接客研修が必要とまで書かれてあったという。

「まだまだあるよ」

あるイベントの開始時刻が遅れたことがあった。

原因は、ルリイアのうっかりミスで、開始前にセッティングしておくべきテーブルが足りなかったことだが、これも、事前の會場清掃が遅延したからだということになっていた。

「大迷だったよ。ま、あれだな。あいつはあれでルリイアさんに盡くしているつもりなんだろ。が、相手にされていない。で、ますますエスカレートしてるんだろうよ。何をしでかすか、知れたもんじゃないよ」

ご忠告、ありがとうございます。

ミリッサは、競馬場関係者の聞き込みをジンだけに任せておいてはいけないかも、と思い始めた。

正規職員、非正規職員、清掃や警備やシステムやビバレッジなどの委託業者、売店や飲食店やコンビニなどの賃借業者、それに常連客。

多岐にわたる。

そのうちの誰かが、有益な報を持っているかもしれない。

午後のレースも、ミリッサの調子は良かった。

各レース三枚しか馬券は買わないが、どれか一枚は的中するという絶好調だった。

アイボリーとも會った。

今日からさっそく部。

新人メイメイとアイボリーに、フウカがサークルのルールを教え、馬券の買い方はランが教えている。

アイボリーからは、事故に関係する興味深い話も聞けた。

周山企畫廃業のいきさつだ。

事故後、警察に押収されたケイキちゃんの著ぐるみに代わって、予備の著ぐるみを使っていた。それに機械的な不備が見つかった。

新調する必要があったのだが、その資金的手當てができず廃業に追い込まれた、というのだった。

アイボリーの嘆息。

「會社は、実は叔父が経営していたんです。そのせいで、お給料、ずいぶん弾んでもらってたんですけど、それもおしまい」

小遣いという意味を含めて、割のいいバイトだったらしい。

「叔父さんなのか。ということはヨウドウと兄弟ってこと? それとも母方?」

「はい。父の兄になります。シュウザンといいます」

會社名は、叔父の通稱からとったという。

周山企畫は、主な取引先が財団なのだが、事故の責任を取らされたということらしい。

新調する著ぐるみの費用はすべて周山企畫持ちということになった。

単に人がって、振り手振りでアトラクションを演じるというだけの著ぐるみなら、大した費用ではない。

しかし、ケイキちゃんはAIや的要素をふんだんに搭載した、非常に高額の著ぐるみである。人が搭乗する、いわばマシン。

周山企畫の懐事では、それを予備を含めて二臺、新たに用意はできなかったらしい。

「ということで、競馬サークルにりました。頑張りますので、よろしくお願いします」

「頑張らなくていいよ。楽しむためのサークルだから」

競馬場遊園地ポーハーバー・ワイでのバイトは続けるという。

「だから、夜のミーティングには出られないときもありますけど、いいでしょうか」

むろん、構わない。もともと、強制でも何でもない。

これはメイメイも同じこと。

「無理しなくていいんだよ。楽しんだ殘り香を共有するだけの會だから」

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