《パドックの下はパクチーがいっぱい/子大の競馬サークルの先輩が殺された?著ぐるみの中で?先生、どうする? 競馬ファン必見、妖怪ファン必見のライト・ラブリー・ミステリー》37 まるで靜止畫のように

監視カメラの畫をジンと共有し、互いに気になったことを換しようということにした。

三時間分の畫だ。もう、時刻は遅い。まずは一気に一通り流し見してみよう。

ミリッサは帰宅後、自の本業である空間デザインの作業に手を付けた。

個人宅のリフォームの仕事である。

気分転換のつもりだった。

施主が高齢となり車椅子頼りが迫ってきたことでリフォームを、というわけだ。

もともと、この住宅はミリッサが二十五年程前に設計したものである。當時は、ご夫婦と子供たち三人、そして高齢の両親が同居ということで、多くの個室が必要だった。その間取りに苦心したものだが、今回はその個室の壁を取り払い、夫婦二人の機能的な大空間に生まれ変わらせるというプランだ。

當時から想定してあったので、間取りの変更案は難なくまとまり、あとはインテリア、そして水回りの更新の方向検討ということになる。

施主とは舊知の仲。著工予定は年明けから。まだ、検討時間は十分にある。

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近々、打合せの予定だが、もう骨子はできている。

ミリッサは、次回の打合せ用図面に手をれてから、警備員がくれた畫の再生に取り掛かった。

畫の畫面には時刻が秒単位で挿されていた。

十時零分零秒から開始。

カメラはエレベータの前の天井近くに設置してあるのだろう。ジンが言ったように廊下が映し出されている。

視野は、エレベーター前から、階段の登り口、下り口を経由して奧の突き當りまで。

あの日、ミリッサはこの手前を通りかかった。

エレベーターを出て右に向かい、スタッフオンリーである左方には目をやらなかったと思う。

背後から聞こえたあの小さな悲鳴がノーウェのものだったとすれば、もしエレベーターを降りたとき、左側に目をやっておれば、ノーウェと目があったかもしれない。あるいは、事故のその瞬間を目の當たりにしたかもしれない。

実際、その後の刑事の事聴取は執拗だった。

事故當時、最も近くにいたのがミリッサだったのだ。

刑事はそうとは言わなかったが、きっとエレベータ前を映している監視カメラにミリッサが寫っていたに違いない。

今見ている畫は、エレベーター前のものではない。

エレベーター前に設置され、廊下を映している畫だ。

ここにミリッサが寫っていなかったことで、命拾いをしたといえるだろう。

畫面には、なにも起きない。

誰も通らない。

退屈な畫だった。

時折、畫面のチラツキなのか、それともダビング時に生じた小さなデータエラーなのか、小さな黒い點やの筋のようなものが一瞬現れるだけ。

三十分が過ぎて、畫面に変化が起きた。

廊下の突き當たり、右側から曲がって畫面にって來たのは、あの警備員だった。

こちらに向かって歩いてくる。

階段の位置まで來ると、立ち止まった。まずは登り階段を見上げた。次に振り返って下り階段を見た。

幾帳面な格なのか、カメラを意識してのことかわからないが、どちらも指差し確認。

もちろん異常はないのだろう。

こちらに向かって、つまりエレベーターの前まで歩いてくる。

途中、立ち止まって振り返ってみて、またここで指差し確認。

そして畫面の下に消えた。

再び、まるで靜止畫のように、何事も起きない時間が続く。

つい、他のことを考えてしまいそうになるが、なんとか注意を畫面に向け続けた。

かなり時間が経って、また人が通りかかった。

今度はあの清掃員。

畫面の下から現れて、突き當りの方へ歩いていく。

何も落ちていないが、一応、ごみを探すかのように左右に首を振りながら。

突き當りまで行って、引き返してくる。

おっ。

顔を上げて立ち止まった。

畫面下から人が現れた。

ミリッサは思わず前のめりになった。

ルリイアだ。

続いてノーウェ。

畫面の中央、階段の前で清掃員は立ち止まって、軽く頭を下げた。

ルリイアも立ち止まり、なにか話しかけているようだ。

ノーウェはその橫を通り過ぎていく。

清掃員が再び頭を下げた。無表だ。

ルリイアもすぐにノーウェを追って立ち去った。

そして二人で突き當りを右に折れた。

清掃員は、階段の上と下を見て、何も落ちていなかったのだろう。

畫面下に消えた。

何を話していたのか。

ボリュームをマックスにしても、ザーという音だけ。

音聲は含まれていない。

いよいよだ。

ここからが本番。

この後、あの事故が起きる。

畫面に目を凝らす。

一瞬の変化、きも見逃してはならない。

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