《パドックの下はパクチーがいっぱい/子大の競馬サークルの先輩が殺された?著ぐるみの中で?先生、どうする? 競馬ファン必見、妖怪ファン必見のライト・ラブリー・ミステリー》55 あいだみち

庭の小徑、という表現は正しくはなかった。

いつしか、山中である。

しかも、かなり深い渓谷沿いの徑。

土はり気を帯び、うっそうと茂る木々の下は背丈を優に超えるクマザサが視界を遮っている。

見上げると、星々が瞬き、かろうじてここが異次元などではないことを示していた。

いや、仮想現実の世界か。

そんなはずはない。直接り込めるそんな技はまだ存在しない。

徑は草々に埋もれ、消えりそうなほど頼りないが、それでもしっかり踏み固められているようで、歩きにくくはなかった。

靜かだ。

夜だからだろうか。

鳥の聲はおろか、蟲の羽音も、葉れの音さえもない。

聞こえるのは、己の靴音と息遣いのみ。

前を行くランの足音さえ聞こえない。

顔にかかるクマザサを払い除けつつ歩くこと十分ほど。

しだけ視界の開けたところに出た。

三叉路のようだ。

「ここまで來れば一安心」

「安心、って、どこが?」

「ミリッサ、ごめん。強引に連れ歩いて。ちょっとだけ説明するね」

間徑。

あいだみち、なのだという。

妖怪が使う抜け道。

先ほどの一軒家のように、日本中にその出口はあるという。

「梅田の阪急の近くにあるのはあそこだけ。でも、阪神間だけでも百はあるよ。日本全國となればそれこそ何萬もある」

ちなみに、と言って、ランが笑った。

「學校の近くにもあるし、京都競馬場の近くにだってある」

時々、遅刻しそうになった時に使うのだという。

「いつもあいている口もあるし、さっきみたいに鍵のかかってる口もある」

「へええっ。世の中、知らないこと、あるもんだな」

ミリッサは笑った。

全く恐怖はなかった。

恐怖のないことが不思議だった。

と、ランがしゃがみこんだ。

見ると、その足元、小さな平石が三叉路に接するように據わっていた。

その上に白い小皿。

そこに、ランは、さっき買ったおはぎを置いた。

むっ。

唐突に笹藪の中から、にゅっと黒い手が突き出され、おはぎを摑むやいなや引き込められた。

一瞬の出來事だった。

さすがに、背筋がわなないた。

ランは何食わぬ顔で立ち上がると、さらに解説をしようとしてくれる。

「ここはね。なんていうのかな。ま、簡単に言うと、特殊な妖怪が作り出した道」

人間が住む世界と違って妖怪が住む世界がある。

一か所だけ。

狹くはないけど、広くもない。

それこそ山もあるし畑もある、海もあるし川もある。

でも、いわゆる開発とか、されていないわけ。

延々と続く森、とかね。

境界っていう概念もないのよね。

困るでしょ、迷ってしまって。

「だから、あいだみちっていう妖怪が便宜を図ってくれている。一時的に道を作って見せてくれる。さっきのおはぎは、そのお禮」

なんとも奇妙な話になってきたものだ。

「普通、妖怪は誰でも、お禮さえ持參していれば通れる。別におはぎとかじゃなくてもいい。妖怪の世界で通じるお金でもね。実際は何でもいいの。お禮という形であればね。距離に応じてお禮はたくさんしなくちゃいけないけど」

「あれか。貝殻とか」

「それ、いつの話? 石時代じゃあるまいし。お金といったら、ちゃんとしたお札とコイン」

「そんなものがあるのか」

「今度、見せてあげる」

「それはそれは。でも、妖怪じゃないオレはどうなる? お金ももちろん持ってないぞ」

「心配なし」

「オマエと一緒だから?」

「それもあるけど、ミリッサは特別な人だから」

うむ?

特別な人?

どこかで聞いたような臺詞。

そうだ。

ハルニナだ。いや、メイメイだったか。

あれだ。

PH。

パーフェクト・ヒューマン。

「それって」

「私が何も知らないと思ってる?」

「いや」

「じゃ、そこんところは仲間で話し合ってもらうとして、私は私の仕事を」

「仕事?」

「今からね」

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