《後は野となれご令嬢!〜悪役令嬢である妹が婚約破棄されたとばっちりをけて我が家が沒落したので、わたしは森でサバイバルすることにしました。〜》お風呂って無防備ですわ!
外で吠えるアルテミスの聲が聞こえていた。
それを聞きながら、溫かい湯の中で、ヴェロニカはほっとため息をついた。明だったお湯は瞬く間に汚れていく。
窓辺には白い陶でできたビーナスの像が置いてあり、床の青いタイルも清潔な雰囲気を出していた。心地の良さに、また深く息をつく。
目を閉じるとひどく落ち著く。ようやく自分がいるべき場所に戻ってきたように思えた。
「わたしったら、こんなに汚かったのね」
見たこともない湯のに衝撃をける。爪の間にも泥がり込んでいた。
長い髪も念に洗う。
(アルベルトはわたしの髪が好きだと言ってくれるから)
いくら髪を綺麗にしても、もうアルベルトには會えないだろう。それでも褒めてくれた髪をしく保っていたかった。
手鏡で、顔も確認する。
そして落膽した。
左の額から頬にかけて、大きな傷ができていたのだ。ヒグマに襲われた時にできた傷だ。治っても、跡は殘ると思われた。
「アルベルトとじゃなくても、こんな傷じゃ、もう結婚は無理ね……」
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はあ。と大きくため息をつく。
そしてあの男だったら、なんと言うだろうと考えた。
「……デリカシーないものね、の子の気持ちなんてしも分からない野蠻人だもの」
――そんな傷が何だ? 死ぬわけじゃあるまいし。
きっとそう言うだろうと思うとおかしくて、しだけ元気になった。
外でアルテミスがまだ吠えている。
(後であの子も洗ってあげよう)
ぱしゃん、と顔に湯をかけると空気がふいに張り詰めたようにじた。
音がしたわけではない。
しかし確かに、人の気配をじる。
外――アルテミスの吠え聲が急に止んだ。
「……おばさま?」
エリザがいるのかと思い、聲をかける。が、返事はない。代わりに、どたどたと數人の足音が聞こえた。がさつで暴な音。直で、男だと思った。嫌な予に背筋が寒くなりのまま湯船から立ち上がる。
その瞬間、風呂の戸が勢いよく開けられた。
「よーお。ヴェロニカお嬢様」
からかうような、耳障りの悪い聲とともに現れたのは、見たこともない男たちだ。普通の男なら、の浴中に堂々と風呂の戸を開けるなどという行為はしない。ヴェロニカは戦慄した。彼らが軍服を著ていたためだ。
(どうして!)
突然の訪問者は、またしても兵士たち。
目的は、ヴェロニカ以外にない。
(まさかおばさまが、わたしの居場所を兵士に教えたの!?)
無防備なヴェロニカはを隠す布もない。
一糸まとわぬ白いを見た兵士たちは加的ににやりと笑った。
「さすがあのクオーレツィオーネ伯爵に大事に育てられただけあって、その辺りの町娘とは違う。一級品ってじだ」
「……淑の風呂場を覗くなんて、A國紳士も格が落ちたものだわ」
恐ろしかったが、ヴェロニカはそれでも気高い態度を崩さない。銃を持つ男たちは笑い合ったようだった。
「気が強いは好みだ。泣き顔が見たいぜ。なあ嬢ちゃん、死ぬ前に一発楽しもう」
兵士の一人がヴェロニカに一歩、歩み寄る。口元には下品な笑みを浮かべているが、その目の奧に笑みはない。
ヴェロニカはそっと手を後ろに回す。
(ただで死んでたまるものですか!)
兵士がに摑みかかろうとした瞬間、窓辺のビーナスを手に取り、その頭に思い切り打ち付けた。バリン、と陶は割れる。
兵士は頭からを流し、くらりと床に手をつく。その一瞬の間を見逃さずヴェロニカは兵士の間をすり抜けようと飛び出した。
しかし、
「きゃあ!」
あえなく他の兵士に捕まり、羽い締めにされてしまう。
「もういい、さっさと殺そう」
別の者が冷たくそう言い、目の前に拳銃の銃口が差し出された。
*
――不思議なことに、銃聲はしなかった。
理由はすぐにわかった。銃口をこちらに向けていた兵士の首に、ナイフが突きつけられていたからだ。兵士はその目を見開き自分を殺す人を見た。そしてナイフが抜かれると、を噴き出し天井を真っ赤に染めながら兵士は床に倒れる。
その場にいる者たちの中で、ただ一人ヴェロニカだけが心から歓喜の聲を上げた。
「ロス!!」
ヒグマと共に、滝の下に落ちていった彼。その激しさを語るように、彼の服は破れ、中傷だらけだった。しかし、確かに生きて立っていた。
「ロス、生きてたのね!!」
ヴェロニカは笑顔で彼にぶ。ロスは厳しい目線を殘りの兵士たちに向ける。
意外な反応をしたのは、兵士たちの方だった。
「ロス、だと!? まさかあ(・)の(・)ロ(・)ス(・)か!?」
信じられない、とでも言うような驚愕の表。
一方のロスは死んだ兵士の銃を拾い上げると続けざまに銃弾を放つ。一人頭に見事に當たり、倒れる。
「くそっ!」
絶ともとれる聲を上げた別の兵士が銃を放とうとするが、それよりも素早くロスが額を打ち抜き絶命させた。
最後はヴェロニカを捕らえている兵士である。ロスがこちらを見ると、兵士は小さな悲鳴を上げた。
「く、來ると、このの首を折るぞ!」
しかし、その頃ヴェロニカは安堵で冷靜になっていた。後ろに手を回し、兵士の腕を両手で摑むと力の限り爪を立て、同時に持てる力全てを持って、兵士の足を踏みつけた。思わぬ攻撃に、兵士の手が緩む。ヴェロニカは腕から抜け出した。
「あがっ!」
短い悲鳴が彼の言だった。ヴェロニカの無事を確認したロスの銃が彼を殺した。
靜寂が訪れる。ヴェロニカを襲撃しにきた兵士たちは皆床に倒れていた。
の海と死の山の中で、へたりと座り込み、ぜえぜえと息をする。先ほどまで安心して湯につかっていたはずなのに、こんな狀況になるなんて。
……でも、よかったと思ったことが一つだけある。
「あなたが無事で、本當に嬉しいわ」
素直な言葉だった。
ロスはヴェロニカに目をやると、すぐに逸らす。不思議に思っていると、を拭く布と著替えとして用意されていた服が投げられた。
ようやく自分が素っであることを思い出した。見ないようにとの気遣いらしい。
「無事とも言えん。満創痍だ」
顔を外に向けたままロスは答えた。ひどく疲れた様子だ。
確かに彼は中傷だらけであったが、けるだけの元気はある。運の良いことに、そこまで大きな怪我はしていないのだろう。
死を踏まないように慎重に著替えながら、ヴェロニカは疑問を口にする。
「ヒグマはどうしたの?」
「さあな。川に流されたか、滝の途中の巖で死んだか」
「あなたはどうしてたの?」
「流されて気を失っていたようだが、しばらくして気がついた。それから、お前を追った。道にかすかにだが、軍靴の跡を見つけたからな。嫌な予がしたんだ」
「ふうん。わたしが心配だったのね?」
その問いにロスは答えず、代わりに別のことを口にした。
「脅威が去ったと安心しているようだが、まだ、敵(・)が殘っているだろう」
血が繋がってないからあなたに戀してもいいよね
頑張ってみましたが変だと思います そんなでも見てくれたら嬉しいです
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