《後は野となれご令嬢!〜悪役令嬢である妹が婚約破棄されたとばっちりをけて我が家が沒落したので、わたしは森でサバイバルすることにしました。〜》アルベルトのご登場ですわ!
【immoral】不道徳なさま。背徳的。
一話以來の登場になるレオン王子とミーア嬢、そしてヴェロニカの婚約者のアルベルトが登場します。
A國王都は活気にあふれる都市である。水路に沿って町は発展しており、教會の鐘樓は高くそびえ、人口も他の町とは比べものにならないほど多い。
今朝も市場では、大勢の人が商売や世間話に花を咲かせていた。
その活気に反して、しい白い城、その城のとある一室は暗かった。
王子、レオンは蝋燭に火を燈した。外は日が照っているため、明かりを求めたのでは無い。ある人の死を悼むためである。
部屋の小さな神の像の前に、そっと蝋燭を置いた。
「……彼のことは、姉のように思っていた。死を聞いて、悲しい」
つぶやく王子のその後ろで、ソファーに座るのは金髪の青年だった。しい彫像のような顔を、無表でレオンに向けている。
「それは本心からの言葉か?」
「アルベルト! それはあんまりだ!」
レオンは振り向き、抗議の聲を上げた。アルベルト、と呼ばれた青年は、なおもなんのも表さない。
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「レオン、君はヴェロニカの妹を疎ましく思っていたんだろう? なら、ヴェロニカの死を悲しむのが本心か、疑ってみたくもなるさ」
「なあ、アルベルト、君も彼の死がショックなのは分かるが、私に當たらないでくれたまえ」
レオンは彼の向かいのソファーに腰掛けると、ため息とともに言った。レオンの母の妹がアルベルトの母にあたるため、二人は従兄弟同士になる。レオンにとってアルベルトはよき兄貴分であり、友である。また婚約者が姉妹に當たるため、二人の中は深かった。
「私もい頃から彼と過ごしてきた。本當の姉のように慕っていたんだ」
「だが、悲劇を招いた一因は広場での一件では?」
A國の人間がヴェロニカの死を聞いたのは、今よりし前のことだ。逃げようとしていた馬車が襲われたらしい。森の中であったため、発見が遅くなった。そこには大量のの跡と、森の中に捨てられた馬車があった。者の変わり果てた死はあったが、ヴェロニカの姿はない。現場の狀況からして、すでに夜盜にでも殺されていると考えるのが妥當だとのことだ。
レオンはアルベルトを見た。しやつれたように思う。
アルベルトがヴェロニカを心からしていたことは知っていた。未だ婚約を解消していないことからも、そのの深さはうかがえる。彼の落膽も悲しみも理解しているつもりだ。
しかしレオンとて、ミーアとの婚約が思うように進まず苛立っている。そこに冷たい言葉を浴びせられると傷つくというものだ。
「あんまりですわ! 逃げたのは、そのヴェロニカさんの責任でしょう? それに馬車が襲われるなんて、誰も予想できませんわ」
そう言葉を発したのはミーアだった。彼はレオンの隣に座るとその手を取った。レオンは勇気づけられる。
ミーアは真っ直ぐにアルベルトを見ると続ける。
「私たちのに、どんな障害があったとしても、必ず乗り越えてみせますわ!」
「僕がその場にいたら君たちを毆ってでも、そんな馬鹿げた茶番劇、終わらせていたけどね」
アルベルトが言うのはあの婚約破棄騒ぎを起こした広場での一件だろう。彼は深くため息をつくと、これ以上の會話は無意味だというように立ち上がる。するとミーアも素早く立ち上がり、レオンの手を離すと今度はアルベルトの手をそっと包み込んだ。
「ヴェロニカさんの事は、本當に殘念だと思っていますわ。でも、死者は何をしてくれるのです? 前へ進まなければ。ね?」
アルベルトはその手をさっと離すとミーアを冷たく見た。軽蔑したようなその瞳にレオンはほんのすこしだけ、自分が悪いことをしているのではないかとじた。一方のミーアは気づかないのかニコニコとしている。
「ヴェロニカとの婚約は解消しない。君たちとは違うんだ。たとえ死んでも、彼をしている」
アルベルトはため息をつき、それから、レオンを見た。
「とはいえ、レオン。君の決斷を邪魔するつもりはないよ。どうかミーア嬢を大切にすることだ。今度こそ、的になって婚約破棄などと大勢の前で言わないことだね」
失禮する、と言って、本當にアルベルトは去って行った。
「なんだか、かわいそうな方ですね」
「そんな言い方をするな、彼は真面目な男なんだ。それに、気安く男にれるんじゃ無い」
ミーアを窘めるように言うと、彼は無邪気に笑った。
「あら、嫉妬ですか? 嬉しいです! うふふ!」
それから、レオンのにそっとを委ねた。
「早く、正式に婚約したいです。そうしたら、私は永遠にあなたのものですから、ね? お父様を早く説得してくださいね」
「……ああ、分かってるさ」
そう言って、レオンはミーアにキスをした。チェチーリアとの婚約は白紙に戻されたものの、未だミーアとの婚約には至っていない。
それはミーアが男爵という低い分の出であるからだ。側室の前例はあるものの、正室になったことはない。それにミーアは奔放だった。無邪気とも言える。そこがレオンにとって心惹かれたのであるが、王族の妻として相応しいかはまた別の問題だった。その點、チェチーリアは完璧だった。月のように寄り添い、レオンが至らない點はそっと手を貸してくれていた。
実を言うと、時折、チェチーリアのことが気になり、かにグレイに手紙を出していた。グレイから返ってくるのは、「怪我、病気なく、健康です」というそっけのない返事だけであったが、安心していた。
そんなレオンの心を知ってか知らずか、ミーアは一點の曇りの無い笑顔を見せた。
「大丈夫ですわ、レオン様! きっと、何もかも上手くいきますよ。だって、神様は私たちの味方ですもの」
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