《後は野となれご令嬢!〜悪役令嬢である妹が婚約破棄されたとばっちりをけて我が家が沒落したので、わたしは森でサバイバルすることにしました。〜》一切は靄の中ですわ!

――これが最後だ。

ロスは口の中でそうも呟いた。

朝の靄(もや)の中では何もかも曖昧になる。生も死も、も憎しみもも、全て揺らぎ流され形を留めることはない。

実の所、の傷は深かった。

もし再び敵が襲ってきたら、彼を守り通せるだけの力が殘っていると、言い切れる自信はない。

何よりも――これ以上彼といることが恐ろしかった。自分が他の誰かにり代わってしまうような、そんな恐怖があった。

だから、ロスはそ(・)れ(・)を決めた。

(……俺も存外、大したことはない)

いくら鬼神だ悪魔だと言われたところで、今はたった一人のが恐ろしくてたまらない。正のない夜の闇に怯える子のように、ロスはヴェロニカを畏怖していた。何もかも見かすかのような曇りのない瞳を、もう見つめ返すことができなかった。

ここは國境の近くの山脈だ。ほんのし先に、B國がある。

想像するに、今A國で何が起こっているのか正確に言える人は、ロスと、そしてロスにこれを命じた人だけではないか。

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そしてロスがこれから行おうとしていることをその人が知らないのだから、実際、全てを知っているのはロスだけだ。

そのロスは、ヴェロニカのを抱えながら森の中を進んでいく。歩きながら、聞こえているはずもないのに話しかけた。

「お前はしい、ヴェロニカ。……その気高さを、好きにならない男はいない」

こうして目を閉じている彼は純真無垢なのようで、普段の気の強さはまるでじられない。

「だが、俺ではだめだ。きっとお前を汚してしまう。いるべき場所へ、帰るんだ」

を目的の場所まで連れてくると、そっと地面に橫たえた。初めて會った日にけ取ったブローチをその手に握らせる。

朝のがはっきりと辺りを照らし出す。ヴェロニカの橫顔を、白いが包んでいく。目前のその建は、きっと彼を迎えてくれるだろう。

――契約は打ち切られた。

もう、ロスがヴェロニカの側にいる理由は、ない。

* * *

その夜もまたヒューはかいがいしくもレオンに會いに行き、そしてまたしても玉砕して帰ってきた。

いつもと違いミーア嬢が彼の側にいなかったため話を聞いてもらえるかと期待したが、結局レオンは再び冷笑しただけだった。

「いい加減、しつこい奴だな」

などと言われる始末。元來短気なレオンだ。こうなってしまったら二度と同じ話は聞いてくれまい。

つまり、何者かがA國を陥れようとしているのではないかという話だ。

一瞬、ヒューはそれが、ミーア嬢の仕業ではないかと疑った。強引にレオンに近づくミーアのきはそれだけ不自然で、実際、彼が現れてからなにかが狂ったように思える。しかしグルーニャ男爵家に、國の暗部をかせるだけの力があるとは思えない。ならば彼は無関係か。

既に深夜。王宮の中に與えられた部屋に戻る途中で丁度向かい合う中庭の奧に微かな気配をじた。

廊下の隅、とある一室、わずかであるが、明かりがれている。

普段は使われていないはずの部屋だ。

(誰かいるのか、こんな深夜に)

――いかにも怪しい。

大抵謀が語られるのはこんな月のない晩だ。ヒューはそっとその扉に近づいた。慌てていたのか閉め忘れた扉の隙間から中の様子がうかがえた。

いたのは、やはりというべきか、ミーアだ。

白いレースの寢間著にをつつんだ彼は相変わらず可憐であったが、いつもの余裕のある表はない。蝋燭が燈った燭臺を持ち、対面する相手に何かを必死に訴えている。

「彼はきっと……っているわ! このままだと……計畫……」

小聲で話しているため、上手く容が聞き取れない。対面する人はミーアよりさらに低い聲でしゃべるようで話の容までは分からない。だが聲の雰囲気やミーアの目線から會話の相手が男であることは間違いない。

(相手は誰だ……)

何者と會しているのか。よく見ようと、ゆっくりと扉を開く。そして見えた人に戦慄した。

(なぜ、あの人が!?)

きなくさいどころの話ではない。小を追っていたら、意図せずとんでもない大に行き著いてしまった。

ヒューは気づかれないように、そっとその場を後にしようとする。その人が関わっているとしたらとんでもないことが起こる。貴族一家の沒落などでは話は終わらないだろう。

この會は、よ(・)く(・)な(・)い(・)。非常に、よ(・)く(・)な(・)い(・)。

信頼できる人に知らせようと、きびすを返そうとした瞬間であった。

――ガツン

頭に衝撃をじて、床に崩れ落ちる。まともに正面から食らってしまった。

背後から現れた第三の人に毆られたのだと気がついたのは、薄れゆく意識の中、こちらを見つめる部屋の中の二人の人と目が合ったからだ。

こちらを見つめるミーアの瞳。

それは、普段の天真爛漫な彼と違い、ぞっとするほど冷たい瞳であった。

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