《後は野となれご令嬢!〜悪役令嬢である妹が婚約破棄されたとばっちりをけて我が家が沒落したので、わたしは森でサバイバルすることにしました。〜》男裝の麗人って憧れですわ!
病院の隣に宿舎があるため當然といえばそうであるが、見回りの兵たちが常に駐在していた。
病院で暮らす人々にとっては心強いものであろうが、ヴェロニカにしては都合が悪い。いくら看護をして盡くしたところで、元は分も分からぬ不詳の娘だ。不審な行をすれば疑われるのは免れない。
怪しまれずに病院を去るために、さてどうしたものかと考えながら再び日々が過ぎたところで、運ばれた兵士たちの會話を聞いた。
「國境付近でまた張が高まってるらしいな。ずっと睨み合いを続けていたが、ここに來て増援を送ってるぜ。軽傷者はそっちに回されてる」
「くそ! ようやく戦場から解放されたってのに」
「今度こそお陀仏かもな。故郷の土はまだ遠い」
ベッドの上の男たちは笑い合う。ヴェロニカは別の兵士の世話をしながら考えた。
出兵の兵士たちに紛れることができれば、一気に國境まで行くことができる。きっと山道を一人で戻るよりは勝機があるのではないか。
Advertisement
問題は、どうやって紛れるかだ。
れ聞いた話によると三回に分かれて増援を送るらしい。すでに一回出発している姿を見た。國境へと向かう兵士たちは、荷馬車で隊列を組んでいた。
二回目の出発は――今日の夜だった。
「無謀だよ」
ヴェロニカの作戦を聞いたスーザンはやや呆れた様子だった。誰も來ない薬品倉庫で聲を潛めて話している。
「だとしてもやるわ。ここの人に迷はかけないから。……こんなこと頼んで本當に申し訳ないと思ってるわ」
「あたしはあんたを心配してるんだよ」
ヴェロニカが肩をすくめると、スーザンは大きくため息をついて、ポケットからはさみを取り出す。
「全く、あんたみたいに度と勇気のある子は兵隊の中にだってそういないよ。本當にいいんだね?」
「ええ、やってちょうだい」
答えを聞くとともに、スーザンはヴェロニカの長い髪をひと思いにばさりと切った。はさみの小気味よい音にを任せる。
「昔、娘にやってあげたのを思い出すよ。あたしはこう見えて手先が用でね、近所でも頼まれたりしたもんだ」
「わたしはいつも家の容師がやってくれていたわ。王都で暮らしてたときは婚約者に紹介して貰った方に、彼好みの髪型にしていただいていたの」
「見かけによらず、案外男に盡くすタイプなんだね」
スーザンは快活に笑う。その間も、ちょきりと束の髪のが切られていく。さっきまでヴェロニカを飾っていたしい髪は、今や抜け殻となって床に落ちる。
「アルベルトはいつもわたしの髪が好きだって」
「そんな大事なもの切っちまって、本當によかったのかい?」
「いいのよ。また生えてくるし、そんなものでわたしの価値は下がらないもの。人間、見かけじゃないのよ、魂なの。あら、ふふ」
言ってから、あの男のような口ぶりだと思って笑ってしまった。見かけからしさが失われても、不思議と気分はよかった。
髪のがすっかり短くなる。そうすると、頭が軽くなり、心まで弾む。
「男に見えるかしら」
「どうかね、暗いと見間違えるかもしれないけどね」
スーザンが手鏡を渡したので確認した。そこには男のように短い髪になってしまったヴェロニカが映っていた。
「いいじよ。人は何でも似合うわ」
冗談めかしてそう言うと、しかしスーザンは真剣な顔をして薬品棚を開けると奧から布に包まれた棒狀のを取り出した。
「あんたが倒れてたのを一番初めに見つけたのはあたしさ。こんなもん持ってちゃ、すぐに兵士どもにとっ捕まっちまうと思って隠しておいたんだ」
「これは……」
け取って布をめくると、出てきたのはロスの長銃であった。
彼はこれをヴェロニカに殘したらしい。これでを守れという考えであったのだろうか。
「……故郷に帰るわ」
ヴェロニカは銃を握る。ずしりと重く、しかし――意外なほどに手になじんだ。
あの森での日々が確かな実となって帰ってくる。あれは本當にあったことなのだ。今度の旅にロスはいない。だからたった一人で何もかも始末をつけなければならなかった。
「ここでのことを絶対に忘れないわ。いただいた親切も。全部の不幸が終わって、平和な世の中になったら必ず會いに來るわ」
それから、心配そうな顔をしている目の前のスーザンに微笑んだ。
「あなたはB國のお母様よ」
「あんたみたいないい子は絶対に幸せになるよ。大丈夫、何もかも上手くいくよ。さようならヴェロニカ、あんたはあたしの大切な娘さ」
溫かなを抱き締めてから、案外涙もろいスーザンの涙を拭ってやる。それが、二人の別れだった。
*
見回りの兵は基本的には二人一組で行している。しかし代の際、引き継ぎを終えると必ずその兵士は病院の建の裏で一人煙草に火をつける。そこで星空を見上げながら思いにふけるのが數ない楽しみらしかった。
だが今日、彼はその場所にたった一人ではなかった。
いつものように煙草をくわえたところで、人の気配に気がついた。
見ると、若い看護師が草の上にうずくまりすすり泣いていたのだ。
「どうしたんだい」
気分でも悪いのか、悲しいことでもあったのか。
兵士はそっと彼に近づき、手をその肩にかけようとした。
――弱い者が強い者を倒す際に最も大切なことは、その隙を突くことである。
油斷、余裕、あるいは獲にかぶりつく瞬間の隙……今回の場合は、親切心。
泣くいたいけな娘に、兵士の気は緩んだ。
ヴェロニカはこの兵士のルーティンを知っていた。兵士たちのきを注意深く観察していたからだ。だからこその作戦である。次の出発を待ってはいられない。決行するなら、この兵士が見張りにつく今日しかないと思った。
ヴェロニカは持っていた銃を棒のように握ると、銃の後ろ側を兵士の腹に力一杯お見舞いする。
「ごふっ」
予期せぬ攻撃に妙な聲を上げて兵士は見事に失神した。
「あなたに恨みはないのよ」
素早く兵士の服をがせると縛り上げた。目的は兵士の制服を奪うこと。
軍服は大きかったが、著れないことはない。暗がりでは型もわからないはずだ。きっと誤魔化せるだろう。
軍帽を被り、ガラスに映った自分の姿を見ると、なかなか様になっている。
ヴェロニカの作戦。
それはB國兵士に変裝し、國境付近まで向かうことだった。
「いいじゃない。どこからどう見ても新米兵士ってじだわ」
何食わぬ顔をして表から病院を出ると、國境に向けて出発する兵士の一団に紛れ込む。
待ち構える戦場にそれぞれ士気を高めている兵士たち。意識は遙か、戦場に向いている。だから誰も自分たちの中にA國のが紛れ込んでいるなど思いもよらないのだ。
ヴェロニカは兵士たちがひしめき合う狹い馬車に揺られながら、一人靜かに思う。
(逃げ続けるのはもうたくさんよ。家族を取り返すの。絶対に、負けてなるものですか)
狂愛的ロマンス〜孤高の若頭の狂気めいた執著愛〜
古式ゆかしき華道の家元のお嬢様である美桜は、ある事情から、家をもりたてる駒となれるよう厳しく育てられてきた。 とうとうその日を迎え、見合いのため格式高い高級料亭の一室に赴いていた美桜は貞操の危機に見舞われる。 そこに現れた男により救われた美桜だったが、それがきっかけで思いがけない展開にーー 住む世界が違い、交わることのなかったはずの尊の不器用な優しさに觸れ惹かれていく美桜の行き著く先は……? ✦・━・✦・━・✦・━・✦・━・✦・━・✦・━・✦ ✧天澤美桜•20歳✧ 古式ゆかしき華道の家元の世間知らずな鳥籠のお嬢様 ✧九條 尊•30歳✧ 誰もが知るIT企業の経営者だが、実は裏社會の皇帝として畏れられている日本最大の極道組織泣く子も黙る極心會の若頭 ✦・━・✦・━・✦・━・✦・━・✦・━・✦・━・✦ *西雲ササメ様より素敵な表紙をご提供頂きました✨ ※R描寫は割愛していますが、TL小説です。設定上強引な展開もあるので閲覧にはご注意ください。 ※設定や登場する人物、団體、グループの名稱等全てフィクションです。 ※隨時概要含め本文の改稿や修正等をしています。文字數も調整しますのでご了承いただけると幸いです。 ✧22.5.26 連載開始〜7.15完結✧ ✧22.5 3.14 エブリスタ様にて先行公開✧ ■22.8.30より ノベルバ様のみの公開となります■
8 127男女比1:599
頭が悪く進路がなかなか決まらない中學3年生の小坂 光。最後の最後に滑り込みで入學できた高校は今年度から男女共學になる元女子高。不安になりながら迎えた入學式當日。なんと今年度の男子合格者は光1人だった! 笑えて感動するちょっとありえない戀愛ストーリー。
8 57カノジョの好感度が上がってないのは明らかにおかしい
『好感度を上げすぎるとその人との関係がリセットされる。』 ある日、そんな無慈悲な呪いをかけられた彼は、戀人も友達も一切いない哀しい學園ライフを一人謳歌していた。どうせ消える関係に期待するなんて馬鹿らしい。そうのたまい、人と深く関わること自體を拒否してきた彼だったが、突然転校してきた少女や、様々な人々と接していく中で、彼は少しずつ変わっていく。 呪いと過去が交錯する中、彼は何を望み、何を失い、何を摑みとるのか。 ※カクヨムにも連載中です。
8 145ロリっ娘女子高生の性癖は直せるのか
幼馴染の堂庭瑛美は背が小さい美少女、もとい美幼女だ。 でも彼女には他人には言えない秘密の性癖を持っていた。 「マナたそカワユス! キタコレ!」 「…………」 學校ではしっかり者なのにプライベートでは俺に世話を焼かせる堂庭。 こいつを更生させろって? 一応努力してみますか。 個性的すぎるヒロイン達と織り成す學園ラブコメディ。 頭を空っぽにしてニヤニヤしながらお楽しみください。 ※小説家になろう、カクヨムに転載しております ※2/23 完結しました!
8 121婚約破棄から1年後・・・・・・
1年前に婚約者だった當時の王太子から婚約破棄され、更に実家から勘當、追い出された『エミーナ・レオハルト』、今は王都にある小さな雑貨店を営んでいて、それなりに幸せに暮らしている。そんなある日、突然、王太子の取り巻きだった兄がやってきて・・・・・・。
8 138乙女ゲームの悪役令嬢になったから、ヒロインと距離を置いて破滅フラグを回避しようと思ったら……なぜか攻略対象が私に夢中なんですけど!?
「イザベラ、お前との婚約を破棄する!」「はい?」悪役令嬢のイザベラは、婚約者のエドワード王子から婚約の破棄を言い渡されてしまった。男爵家令嬢のアリシアとの真実の愛に目覚めたという理由でだ。さらには義弟のフレッド、騎士見習いのカイン、氷魔法士のオスカーまでもがエドワード王子に同調し、イザベラを責める。そして正義感が暴走した彼らにより、イザベラは殺害されてしまった。「……はっ! ここは……」イザベラが次に目覚めたとき、彼女は七歳に若返っていた。そして、この世界が乙女ゲームだということに気づく。予知夢で見た十年後のバッドエンドを回避するため、七歳の彼女は動き出すのであった。
8 91