《後は野となれご令嬢!〜悪役令嬢である妹が婚約破棄されたとばっちりをけて我が家が沒落したので、わたしは森でサバイバルすることにしました。〜》反撃開始、なのかしら?

――ああ、神様!!

思わずんでいました。今までの人生でこれほど嬉しかったことはありません!

「お姉様ー!」

その姿を見るなり、思いっきり飛びつきました。ポチが散歩する時よりも、わたくしは跳ねていたでしょう。

「お姉様! お姉様!」

ああ、本當に、こんなことってあるのでしょうか?

何度も何度もその無事を祈った方です。

「その服! その髪、どうされたんですの!?」

は汚れていて、髪は短くなっているし、男のような服を著ていましたが、それは確かにわたくしの大切なお姉様、ヴェロニカ・クオーレツィオーネだったのです。

伝えたいことが山ほどありました。

神様にお姉様の無事をお祈りしたこと。

グレイと仲良くなったこと。

お友達ができたこと。

念願の犬を飼えたこと。

はしゃぎすぎて修道院長に怒られたこと。

お父様のこと。

後悔していること。

……わたくしが、どんなにあなたに會いたいと思っていたか、ということ。

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だけど、なにも言葉になりませんでした。口からはただただ嗚咽がれて……。

「うう、ひっく、おねえさまぁ……」

「チェチーリア、今まで、本當にごめんなさい……ごめんね……」

わたくしの頭を優しくでるお姉様の聲も、震えていました。その顔は涙で濡れていました。それで分かりました。わたくしたちは、きっとずうっとおんなじ思いを抱えていたのですね。

修道院長の計らいで、今日はわたくしのお仕事はお終い、お姉様と話すことが許されました。

お姉様はとても疲れたご様子でしたが、を洗って、服を著替えて溫かいお茶を飲むと、し落ち著いたようでした。質素な服ですが、お姉様は見事に著こなしています。うーん、人は得ですわ!

「チェチーリア、改めて本當にごめんなさい。あなたの話を信じるべきだった。ううん、その前から……わたしはもっと、家族に向き合わなきゃいけなかったのよ」

何度も謝るお姉様にわたくしは慌てて言いました。

「いいえ、いいえ、お姉様!」

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ちゃんと向き合わなければ。今、その時が來たのです。

「謝るのはわたくしの方ですわ! わたくし、自分のことばかり考えていました。自分がどうやったら追放されずに済むか……追放されても生きていけるかって、そればかり。お父様のこと、お姉様のこと、どうなってしまうかなんて考えていませんでしたもの。本當は、もっと真剣に訴えなければならなかったのに。こうなってから後悔するなんて大馬鹿野郎です……」

「そんなことないわ。わたしの方が」

「いいえ、わたくしの方が」

またお互いに謝り合って、そしてけなくなって思い切り笑いました。ああ、お姉様の笑顔です。本當に、何年ぶりでしょうか。い頃のお姉様が重なります。本來はこうやって屈託なく笑う人なのでした。

それから、わたくしはここに來てからの生活を話しました。と言っても単調で、朝起きて仕事をして夜眠るだけなのですが。

グレイの話をすると、「なるほどねぇ」と意味ありげに頷きました。

次にお姉様がここに來るまでの長い旅路のお話を聞くことになりました。そのお話の驚愕すること! 奇跡の旅路です。

なんとお姉様は馬車が襲われた後、た(・)っ(・)た(・)一(・)人(・)で(・)森をさまよい、エリザおばさまのお屋敷にたどり著いたらしいのです。

「たった一人で、すごいですわ!」

嘆の聲を上げると、お姉様の笑顔にりが差しました。なんでだか、それ以上聞いてはいけない気がしたので、話題を変えます。

「でも、おばさまのことは悲しいですわ。裏切っていたなんて」

「信じられるのは自分だけなのよチェチーリア」

渋いおじさんみたいなことをお姉様は言います。

そしてお姉様は、おばさまの屋敷から兵士たちに追われてB國に行ったらしいのです。B國では病院で働いて、隙を見てA國に戻ってきたらしいのです。

「まるで冒険小説ですわね」

お姉様、とてもかっこいいですわ。

でも、と疑問に思ったことを尋ねました。

「ご飯はどうしていたんですの?」

お姉様は、ああ、といって、ずっと持っていた布に覆われた長い棒を持ち上げました。はらり、と布が取れます。思わず悲鳴を上げました。

「きゃあ! 銃ですわ!」

「森で拾ったのよ。これでを撃つの」

ごく普通のことのように平然とお姉様は言いました。わたくしはまじまじと彼を見つめます。

お姉様のおしさは相変わらずですが、その中に、より一層の強さが混じったように思います。それが何かは分かりませんが、お姉様をさらに輝かせていました。外見のしさばかりではありません。中からあふれ出るのように見えました。森での生活が、何かを変えたのでしょうか。

だけど、わたくしは目をそらしてしまいました。お姉様がどこか遠い人になってしまったように思えて、しだけ寂しかったのです。

「……ねえ。チェチーリア」

お姉様が話しかけたので、わたくしは顔を上げました。とても真剣な目が見えます。

「わたし、分かったと思う。誰がわたしたち家族を引き裂いたのか」

「誰が……って」

あえて犯人をあげるとしたら、それは乙ゲームロスト・ロマンのシナリオ制作者でしょう。まったく憎たらしいですけれど、今は神のような存在。手出しはできませんわ。

「このままだとお父様は裁判で有罪になってしまうわ。そしたらあなただって危ないのよ」

「でも、それがシナリオなんですわ。どうしようもないことなのです」

わたくしがまた下を向こうとしたところ、ガッと強い力で肩を捕まれました。お姉様は怒っているみたいです。

「いいえ!」

決意をめたような強い瞳がそこにありました。お姉様は続けます。

「どうしようもなくなんてない! シナリオがあるとするなら、それは誰かにとって、都合がいいように歪められたものよ! そんなもの、ばきばきに崩してやりましょう! お父様を救いに行くのよ!」

――お父様を救うですって!?

考えてもみなかったことでした。

だって、既定路線でシナリオ通りで、わたくしは悪役令嬢で……。それを変える事なんてできっこない。運命には逆らえませんわ。

お姉様はそれでも言います。

「あなたの人生は誰のものなの? ゲームの通りくのが、あなたの人生なの? チェチーリア、違うでしょう?」

だって今までどう頑張ってもゲームの通りになったのですよ? だけど……、肩を摑むお姉様の手はとても溫かくて、本當に優しいのです。だから、わたくしは反論ができませんでした。

「決まってる運命なんてないのよ。だって、もしシナリオの通りなら、あなたが追放されるとき、わたしは側にいないはずでしょう? 味方にだって、ならなかったんでしょう? でも、わたしはあなたの隣にいて、無実を信じたのよ。どうしてか分かる? あなたがとても優しくて、人を憎んだりしない子って知っているからよ。なんでかって? 今までのあなたの行で、運命が変わったんだわ!」

それは、とてつもなく衝撃的な話でした。

確かに、ゲームのシナリオと違う點は多ありました。

運命が変わったんですの?

そしたら、わたくしはもう、何にも縛られなくていいんですの?

「もう悪役令嬢である必要はないのよ。一人では変えられなくても、二人ならゲームのシナリオだって、謀だってぶち壊せるわ」

お姉様の目はとても優しくて、わたくしの目の奧はつーんとしてきます。

でも、お姉様。でも……。

わたくしの手は震えています。

「……わたくし、怖いんですの。だって、ここから先のことは、シナリオにはないんですもの。本當に死んでしまうかもしれないんですもの」

せっかくお姉様がご無事でわたくしの所に來たのに、こうして再會できたのに、この安心を、また手放さなくてはならないの? 道筋のない運命の激流にを委ねるのは怖いです。

震える手を、お姉様の溫かな手が包みました。らかく白かった手は、今はしだけ日焼けしたように見えました。仕事もたくさんして、荒れた手です。握られるわたくしの手も、荒れ放題です。この手を誰かに見られるのは恥ずかしいです。でも、お姉様はしも自分の手を恥じていませんでした。

追放されてから、全てが変わってしまいました。でもお姉様の強さは変わりません。

「ねえ、チェチーリア。人生に、シナリオなんてないのよ。運命は誰かに與えられて、一方的に翻弄されるものじゃない、自分のこの手で切り開いていくものよ。それに、大丈夫よ、何があってもわたしが守るもの」

「だけど」

「わたしが噓を吐いたこと、ある?」

しだけ考えてから、答えました。

「いいえ。一度として」

いつもお姉様は真実をはっきりと口にされます。時々怖いほどだったそれが、今は心強くじました。

わたくしたちは、しっかりとうなずき合いました。お父様を助けに、王都へ行く。それが今、決まったのです。

と、お姉様が窓の外に目をやりました。

「犬がいるの?」

庭ではポチが大聲で吠える聲が聞こえました。

「そうなのですわ! ポチですの。おかしいですわね、いつもは無駄吠えなどしない、とてもいい子なのですけど」

お姉様にポチを紹介しようと思って、庭に案しました。ポチはとても人なつっこい子なので、仲良くなれるでしょう。

でも、その喜び方は異常でした。しっぽがちぎれてしまうのではないかと思うほどぶん回し、そして悲鳴に近い聲を上げてびます。さっきのわたくしみたいです。

つまり、ずっと會いたくてたまらなかった人に、會った時のような……。

「アルテミス!」

お姉様はそう言ってポチに抱きつきました。ポチは更に興します。お姉様のお顔をベロベロになめ回しました。

「アルテミス?」

「わたしの犬よ!」

「お、お姉様の!?」

うひゃあ、びっくり仰天です。

ポチはアルテミスという名前で、なんとお姉様の犬らしいのです。だからポチと呼ばれてもあまり反応しなかったのですね。なるほど、納得です。

嬉しそうな二人の姿を見て、涙が出そうになりました。お姉様は微笑みます。

「幸先がいいわ。これから全てを取り戻す、一番初めがアルテミスね」

「だけど、どうやって出會ったんですの?」

お姉様はおかしそうに笑いました。

「森で拾ったのよ」

「まあ!」

森ってたくさんのものが落ちているものなのですね? ってそんな訳ないじゃあありませんか!

ポチ、改めアルテミスがお姉様の銃を興味深げに嗅いだ後、誰かを探すようにきょろきょろと周りを見回して、そして見つけられずに不思議そうな顔をしました。

「本當は、森で何があったんですの?」

「フランケンシュタインの怪を教えていたのよ」

冗談でしょうか?

お姉様は遠くに思いを馳せるように目を細めると、ほんのしだけ寂しそうに、でも、とても優しく微笑みました。

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