《後は野となれご令嬢!〜悪役令嬢である妹が婚約破棄されたとばっちりをけて我が家が沒落したので、わたしは森でサバイバルすることにしました。〜》サバイバル開始(二回目)ですわ!

修道院には、ヴェロニカとチェチーリアが二人で逃げたということにしてしいと頼んだ。できれば一、二日経ってから、王都に連絡をしてしい、とも。

王都に連絡を取ることは同時に二人が追われることも意味する。修道院にはできるだけ迷をかけたくなかったが、なるべく距離を稼いでおきたかった。もう一人の背いた者、グレイについても、いずれは王都も知ることになるだろうが、あえてこちらから行を一緒にしていることを教えてやるつもりもない。

もちろん、アルテミスも一緒だった。

三本足のかわいい彼は、ヴェロニカが去ろうとすると途端に不安げに鳴くのだ。置いていくことなどできかなった。

「ポチ……じゃなかった、アルテミスがかわいそうじゃありませんか? 怪我も治ったばかりなのに」

「何が幸せかなんて、誰にも分からないわ。この子が一緒に來たいというなら、それが一番いいのよ」

チェチーリアにはそう言ったが、実際のところヴェロニカがアルテミスと離れたくなかった。もう二度と、なにも失いたくはなかった。

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「どうやって王都へ行きますか? オレたちがここを出たと知ったら、兵士だって道を見張るでしょう。人がいない道があるとしたら……」

グレイの目線は王都がある方角に向けられているが、見えるのは雪を被り始めた山脈であり、目的地はその先だ。

彼が不安にじているのは聲の調子から明白だった。これから待ちける未知の試練を恐れているらしい。

「どうやって? 決まってるじゃない」

ヴェロニカは、不敵に笑う。

「森の中で、サバイバルよ」

「お、お姉様速いですわ! し待ってくださいまし!」

はあはあと息を切らせながらチェチーリアが登る。ヴェロニカはグレイが妹の手を取って引っ張るのを立ち止まって待っていた。橫を歩いていたアルテミスも立ち止まる。皮の友人は三本足だというのに、それに気がついていないかのようにすいすいと歩いた。

「一日歩けば慣れるわ」

妹をめながらまた歩く。登り続けるのは永遠に疲れ続けるとも思えるが、不思議なもので、一日もすればが慣れてしまう。それは経験から來る事実だった。

事前にグレイとともに地図を見ながら進む道を決めていた。

まだ周囲には木々が生えているが、高度がますにつれ草は低くなり、代わりに雪が現れるだろう。ヴェロニカにとって雪山は未知である。だが、他に道はなかった。

「鹿だ……」

グレイが前方に目をこらしたのでヴェロニカも見る。し先の木の影に、座り込む鹿の姿があった。草を食むでもなく、ぼんやりと空中を見つめている。こちらに気がついているのか、耳はぴくぴくとく。

鹿の目は良くない。代わりに、絶えず集音のような耳で報を拾う。

「撃ちますか」

グレイもそれなりに知識はあるようで、即座にそう言った。チェチーリアのが固くなるのがじられた。

ヴェロニカは銃を向けるが、當たらないだろう、と直する。いつしか獲に弾が當たるか當たらないか、瞬時にじ取れるようになっていた。

その通り、鹿はその気配をじて、ささっと逃げていってしまった。

ほっとチェチーリアが息をつくのが聞こえた。それから慌てたように咳払いをすると、

「ざ、殘念でしたわね!」

取り繕ったようにそう言った。妹が鹿の命を奪うのに抵抗をじているのには気がついていた。まるで初めて森へった時の自分のようだ、とヴェロニカは思った。

「だけどお姉様かっこいいですわ」

休憩がてら巖に腰掛けたところでチェチーリアがそう言う。アルテミスがその傍らででられている。

「全然疲れたご様子もないですし、銃だって……。一どうやって覚えたんですの?」

「死ぬ気になればなんでもできるものよ」

「森で本當は誰かといたんですの?」

チェチーリアの目は純粋な疑問をヴェロニカに投げかける。ヴェロニカの妹だけあって、なかなかどうして鋭いものだ。誰にもロスの話はしていなかったのに。

グレイは地図を広げながら、靜かに姉妹の會話を聞いている。

「山の神様に々教えて貰ったのよ」

「それってアルテミスですか?」

「……さあ? どうかしらね」

「どうなのです? アルテミス。あなたは全部見ていたのでしょう?」

チェチーリアが優しくアルテミスにれる。アルテミスは何もかも知っているが、何も答えない。口の堅い友人は、賢そうな目でヴェロニカを見つめる。

「山の神様には何を教わったんですの?」

「うーん……そうね。銃の撃ち方とか、食べられるものとか。他にも々」

「どんな方だったのです?」

「どんなって……。レディファーストもなってないし、むさいし、怖いし、髭が汚かったわ」

思い出して思わず笑った。ロスという男は本當にヘンな奴だった。

遠くじていたあの日々が、森の中にいると鮮明に思い出される。木々のざわめきも、生きの息づかいも、土の匂いも強烈だ。

辛く、恐怖をじる生活だった。だけど、それだけじゃない。じていたのは、それだけじゃなかったはずだ。ヴェロニカのが、溫かくなる。

「優しい人だったのですね、山の神様は」

どこをどう聞いたらそんな想を持つのかと、ぎょっとして妹を見た。相変わらず大きな瞳でヴェロニカを見つめている。勘違いを正さなくてはと慌てて否定した。

「全然優しくないわよ! それに人というより、ゴリラに近いわ!」

「だけどお姉様、山の神様のお話をするとき、とても楽しそうでしたわ」

チェチーリアが意味ありげにいたずらっぽく笑ったので、その額を軽くつつく。そうするとチェチーリアはケラケラともっと楽しそうに笑った。たまらずヴェロニカも笑う。大聲で笑い合う道連れたちに何があったのかとグレイが顔をあげても、まだ笑っていた。

ヴェロニカは幸せだった。こうしていると、ずっと小さかった頃に戻ったみたいに思えたのだ。

が、ふいに違和を覚え、ヴェロニカは後方を振り返る。アルテミスも同時にすくっと立ち上がった。

「どうしたんです?」

急なきにグレイも即座に反応する。彼は手に修道院で半ば無理矢理持たされた長銃を握っていた。

(気のせいかしら)

視界の隅で、何かが見えた気がしたのだ。だが、今目を凝らしても姿は確認できない。ぞわり、と鳥が立つ。

「……獣が偵察しに來ているのかもしれないわ」

ここは人間の領域ではない。いつだって、森は彼らのものだった。

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