《後は野となれご令嬢!〜悪役令嬢である妹が婚約破棄されたとばっちりをけて我が家が沒落したので、わたしは森でサバイバルすることにしました。〜》◆ヴェロニカ・クオーレツィオーネ(伯爵家長)、アルベルト・アルフォルト(公爵家長男)――數年前。

僕の実家であるアルフォルト家の屋敷は王都中心部にあるからか、何かのついでにヴォニーは頻繁に遊びに來る。

今日もそうだ。家で嫌なことがあったから、僕の元に逃げてきた。

「やっぱりチェチーリアはおかしいわ! わたしに手に職をつけた方がいいって泣きながら言うのよ。しつこいから怒っちゃった」

確かにあの子はたまに突拍子もないことを言う。手に職か。今の時代、悪い考えじゃないけど、貴族の彼らには必要ないだろうな、と思う。「大変だったね」と返し、ヴォニーを抱き寄せる。

「だけどチェチーリアちゃんにも考えがあるのかもしれないよ。喧嘩したら、謝らなきゃ」

そう言うと、彼し不服そうではあったけど「アルベルトがそう言うなら」と頷いた。

「早く、大人になってあなたと結婚したいわ。あんな家、嫌いよ」

呟く彼に同意する。僕も早く、君と一緒になりたいよ。

見ての通り、彼は家族との関係で悩んでいる。

の妹はもっとずっとい頃に流行病にかかって高熱を出し、薬が手にり投與したはいいが頭のネジがぶっとんでしまった(らしい)。彼の父は出世ばかり頭にあり、権力にすり寄ることに必死だ。まあそのおかげで僕のアルフォルト公爵家と婚約に至ったのだから、悪いことばかりじゃないかもしれないけれど。

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つまり、彼は小さい時からずっと家族の中に居場所がない、孤獨なだった。

「家族なんて、呪いと同じだ」

『アルベルト・アルフォルト』の父であるシドニア・アルフォルトは、従順な僕がこんなことを言っていると夢にも思わないだろうな。

「大丈夫?」

心配そうに僕の顔を覗き込む大きな瞳。「どうして」と尋ねると、「怖い顔してたから」と返事が返ってくる。ああ、不安にさせてしまうなんて、僕もまだまだだな。

「ねえ、街を歩こうか」

気晴らしになれば、と思った。

店が建ち並ぶ道ばたで、ヴォニーがでかい男にぶつかった。おしゃべりに夢中で前を見ていなかったのは彼だけれど、男も道を譲ることはしなかった。危ないと思ったときには遅かった。幸い転ぶことはなかったけれど、買い袋を勢いよく取り落とした彼はすかさず文句を言う。

「ちょっと! 痛いじゃないの!」

「悪い」

ヴォニーが見上げるほど背の高い彼は、黒髪で黒い目をしていた。からして、A國人ではなさそうだ。時折彼のような人たちを見かける。多くは出稼ぎの外國人だ。

彼はヴォニーの落とした買い袋を拾うと、そっと返す。

「すまん。前を見てなかった。君のだろ」

「最悪だわ! ねえ、汚れたらどうしてくれるの? 買ったばかりのハンカチなのよ!」

ヴォニーはそれをひったくるように奪い取ると、袋の中を確認する。カラカラに乾いた道路の上、袋にっているのだからハンカチが汚れる訳ないのだけど、きっと僕からのプレゼントだから大切にしてくれているのだろう。

「だから謝っただろう」

驚いたことに、見るからに貴族である僕らにも、その男はひるむことなく不愉快そう言い放った。舌打ち付きで。

ヴォニーはよもやそんな態度を取られるとは思わなかったのだろう、面食らったような表をして固まってしまった。

その様子を見た男は馬鹿にしたように口の端を歪め、冷ややかな目をした後、

「拾った禮も言わず、ぶつかって謝りもしないとは。貴族って奴らはよほど偉いんだな」

そう皮を言って去った。

ヴォニーはつかの間あっけにとられ、そして馬鹿にされたのだと気づいたところで憤慨した。

「何よあの態度! 所詮、低い分の者ね。禮儀がなっていないわ!」

「そんなこと言っちゃだめだよ」

窘めると、ヴォニーは「ごめんなさい」と僕に謝る。彼にとって、僕は唯一心を許せる人間だ。だからいつも素直だった。

はそのまま、先ほどの男の背中が小さくなっていくのを見送る。その目線に、何かが含まれているような気がした。

「見取れてるの? ああいう人が好み?」

「まさか! よしてよ、あなたっていじわるだわ。ああいう外國人もいるのね、と思って不思議だったのよ」

「ああ、あれは軍人だと思うよ。軍だけじゃない、町中にだって、これからああいう外國人はどんどん増えるだろうね。A國は変わる。よくも悪くもね」

「外國人が不満? わたしもルーツは外國人よ」

「君はいいんだよ」

おでこにキスをすると彼は嬉しそうに微笑む。

僕により彼は不安に駆られ、僕によりその笑顔を作る。僕が彼を幸せにしていて、彼は今、僕がいなくては生きられないんだ。そう思うと、とても満たされ、幸福だった。

學園を卒業したら、結婚だ。もうすぐ、本當に君を幸せにすることができる。

僕の作る未來の楽園。そこに君と住めることを願う。

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