《後は野となれご令嬢!〜悪役令嬢である妹が婚約破棄されたとばっちりをけて我が家が沒落したので、わたしは森でサバイバルすることにしました。〜》◆シドニア・アルフォルト(公爵――アルベルトの父)

アルフォルト家は現王朝が始まって以來A國臣下であり、その歴史は王族と同じほど古い。王家との関係は深く、家來というなら一番に名が挙げられる。A國民であれば、遙か郊外まで誰もがその存在を知るほどだ。

現當主のシドニア・アルフォルトにしても、王妃の妹を妻に迎えていた。よもや、彼が王家を裏切るなど誰も疑うことはない。

そのシドニアは、城から屋敷に戻る馬車の中にいた。嫌に馬の扱いが荒い者であるが、堪えて目を閉じ、思案にふける。

思うのは、一人息子のアルベルトのことだった。する妻は息子を産むと同時に病に倒れ、あっけなく逝ってしまった。ゆえにアルベルトは何よりも大切なたった一人の家族であった。父の言いつけをよく守り、素直で朗らかな息子だった。

しかし今、アルベルトはシドニアに何の思いも語らない。ただただ冷たくなって、たった一人で孤獨の中にいる。

(一、どこから、狂っていた……?)

アルフォルト家は完璧であった。常に貴族の中で唯一王からの絶対の信頼を勝ち得てきたのだ。

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例えここ何代かで急速に財をしたクオーレツィオーネ家が臺頭してきたとしても、アルフォルト家の地位は変わらないはずだった。

(どれほど我が一族がを流しA國に盡くしてきたか、陛下は知らぬ訳がないというのに!)

膝の上で握る手に思わず力がった。

王は、シドニアを裏切った。この最大の裏切りを許せる訳がない。たとえ今までA國に盡くしてきた一族に背くことであっても、それを許してしまえば、それこそ人の道理に背くことになる。一族も分かってくれるはずだ。

――ガタン、と馬車が突然止まり、シドニアは目を開けた。何事かとカーテンを開け、外を見る。すると慌てたような者の聲がした。

「ああ! なんてこった、急に飛び出してくるなんて」

窓からかろうじて見える前方で、何者かが倒れているようである。

(なんてことだ)

誰かを轢いたらしい。急に帰ることとなったので屋敷付けの者を呼ぶいとまがなかったのがいけなかった。馬車の扱いが下手な奴だと思っていたが不安は的中したようだ。

「どうしたんだね」

シドニアは馬車から降り、地面の上に足を置いた。者は困ったようにシドニアを見た。彼の手には、小さなが抱えられている。それはだった。

「見せてごらん」

、醫療の心得はあった。シドニアはぐったりと目を閉じるの側に屈むと、おや、と思う。

「ジェシカ!」

突然、後方から甲高い聲が聞こえた。振り返ると、そのよりも歳はやや上であろう年が怒ったような表をしてシドニアを睨み付けていた。ぼろぼろの服裝からして、裕福ではなさそうだ。あるいは孤児か。

年はに駆け寄り、それからシドニアに向かってんだ。

「あなたの馬車がジェシカを轢いたんだ! どうしてくれるの!? ぼくの、たった一人の妹なのに!」

「そうかい。でも、どうすることもできないよ」

そう告げると年の目は見開かれ、怒りが宿る。

「なんて奴だ! 貴族ってやっぱり馬鹿ばっかり! 金なら腐るほどあるんだろう!?」

やはり、金目當てか。シドニアは心苦笑いをした。

「では、君の妹がどんな怪我をしたか看てみよう」

そう言って、れる。の顔が、ピクリとく。わざとらしく、シドニアは首を橫に振った。

「だめだ。手遅れだ」

「え!!」

年は驚愕したような聲を上げると、に近づく。こんなことをしても、やはり妹のことが心配なようだ。シドニアはふ、と笑みをこぼす。

「噓だよ。手遅れどころか、おかしいな。この子のには、傷一つついていないみたいだが? ……まったく、したたかな子たちだね。當たり屋と言うんだよ、これは」

シドニアが靜かに告げると、年は決まり悪そうな表をした。

「ばれちゃった。どうしよう、ジョーお兄ちゃん」

は目を開け、今にも泣きそうな聲で言う。

「しっ! ジェシカは黙ってろよ。お兄ちゃんの言うことを、ただ聞いていればいいんだ!」

年はに厳しい視線を向けた。

真晝間の太に當たり、年の髪がる。それにアルベルトの面影を重ね、シドニアのは締め付けられた。

そして、あることを思いつく。

「よければ私の屋敷に來るかい? もしかすると、は出ていないが怪我をしているかもしれないよ。詳しくみてみよう。お茶くらいならだせるからね」

思いもよらぬ展開に喜んだのか年とは顔を見合わせて無邪気に笑い合う。

シドニアは二人の子供を見る。妹だと言っているが、あまり似ていないように思えた。案外実の兄妹でなく、孤児同士でつるんでいるだけかもしれない。を寄せ合い、道で暮らす子らがいるということは把握していた。

こんない子供らがこんな行為をして金を得ようとするとは、A國もいよいよ終焉が近い。いずれ國民は道徳心をなくし、いきすぎた個人主義に陥れば、更に余裕を失っていく。そうなれば、社會の存続すら危うい。威厳なき王、尊敬なき領主。力をつけた民衆は、やがて権力の無意味さに気づくだろう。

このままではだめだ。このままでは――……。

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