《後は野となれご令嬢!〜悪役令嬢である妹が婚約破棄されたとばっちりをけて我が家が沒落したので、わたしは森でサバイバルすることにしました。〜》あの日の會話の全貌ですわ!

第一話と同じ日にわされていた會話です。

とある屋敷。蝋燭が照らすだけの暗い部屋。

周囲に聞かれたくない會話がされるのは明らか……であるような會。

ロスはアルベルトの向かいに腰を下ろすなり、すぐに言った。

「で、あんたは俺に何をむって?」

「そう気を張らないでくれよ。歴戦の強者なんだろう?」

アルベルトは苦笑する。隨分肝の座った青年だ、とロスは表に出さず思う。曲がりなりにも恐れられ、まっとうな人間なら近づくのも憚る軍人を呼び出しておいて、余裕の態度とは。

「言っておくが、こんな夜に呼び出されちゃ、警戒もするってもんだ」

「じゃあ、手短に言うよ。君には父からけている命令に背いて貰いたい」

「はあ? なんで俺がそんなことしなきゃならんのだ」

告げられた言葉は驚嘆すべきものだ。無論、即座に斷る気でいた。

「金はいくらでも払うよ。それほど難しいことを言うつもりもない。君が殺す気でいる標的を、逆に守ってくれればね?」

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――あり得ない。

「やめだやめだ。のこのこ來た俺が馬鹿だった。そんな割に合わねえ仕事は斷る。第一、リスクがでかすぎる」

「鬼神と恐れられる君が、リスクが怖いのか?」

「買いかぶりすぎだ、俺は肝の小さな臆病者だぜ。あんたにしても、それは裏切り行為じゃないのか? 悪いことは言わない。今の立場を失いたくなきゃ考え直した方がいいぜ」

「立場なんて、本當に大切なものに比べたらどうだっていい」

「あいにく俺は、この暮らしを手放す気はないんでね」

「君にとっても悪い話じゃない。よく考えておくれ。金をもらえて、しかも正義を全うすることができる。今までの汚れ仕事と違って、謝されるものだ」

「ふん。正義だのなんだの言う奴は信用できん」

「父が何を目的にしているか知っているかい?」

「知らねえな。そういったことには関わらないようにしているんだ。だた命令に従うだけだ」

「A國のっとりだよ。今回の騒は始まりに過ぎない。いずれ國王を葬り、A國を滅ぼすつもりでいる」

「なんだと?」

「父はB國と通している」

「……それは本當か」

「本當さ。おかしいと思っていただろ? A國がB國に突然押され気味になったのはなぜか。B國から多額の金をけ取り、軍事報を流しているんだ」

「なんのために」

「言ったろ、彼は國がしいんだ。なんのために、なんて知らないよ。権力を求めているのかもしれない。

まずはB國からの賄賂。それを資金にしてグルーニャ男爵家を買い取った。あそこはほら、借金まみれだったろ。父の思うままく男爵家は娘を王子に迫らせた。それでチェチーリアがわずらわしくなった王子は婚約破棄。當主も近く、逮捕されるはずだ。

手際がよすぎると、君だって不思議に思ってるんじゃないか? そう、あらかじめ準備されていたんだよ。だけど、クオーレツィオーネ伯爵家を排斥することは、王に近い権力を手にれるための手始めに過ぎない。王を盲信する伯爵は父にとって邪魔だからね」

「で、あんたがそれを止める理由は?」

「別に王や王子、國がどうなろうが僕の知ったこっちゃない。だけど、彼は違う。してるんだ。心の底から。失うなんて、考えられない。だから、君を雇って守って貰う。この騒にケリがつくまでは」

「終わると思ってんのか」

「終わらせる。父は僕を信じ切っている。その油斷に、つけいる隙がある。僕は父の背信の証拠を摑み、王に直訴するつもりだ。そしたら、父こそお終いだ」

「そんなことが実際できると思っているのか? 苦労知らずの人間の描く夢語だ」

「だけど君にしたって、何かしらの期待を込めて僕のところにきたんだろう。暮らしを変えたいと思ってるはずだ。A國のお貴族主義に嫌気が差してるって顔をしている」

「なぜ」

「だって僕がそうだからさ」

「だがこうは思わないのか? 俺が今貴様を差し出せばそいつからの恩賞はそりゃたくさんだろう。おまけにみの暮らしが手にるだろうさ。他に隠していることがありそうだな」

「流石に、勘はいいんだね。なら、全部言うよ。手のをさらけ出してあげる。

父は王に取って代わる気だ。には王族のが流れているから、まったくおかしな話でもない。つまり王を殺す気でいるんだ。

……でも、その前に、僕が父を排除する。そうすれば、公爵家は僕のものだ。王からも報償も貰えるだろうし、財産は思うままさ。だから、君にもおみのままの報酬をあげよう」

「聞かなきゃよかったぜ……。それは計算の上か? それとも途方もない馬鹿野郎なのか?」

懐に忍ばせていた拳銃を取り出すとその額に向けて構えた。こんな話を聞かされて、ロスとてただじゃ済まない。自分が安全にこの屋敷を去るためには、このお坊ちゃんを殺すしかない。

しかしアルベルトは薄ら笑いを崩さぬまま、ロスに穏やかに言い返した。

「拳銃を向けて、僕を殺す? それもいい」

「ふん。まぶた一つかさないとは。ただの高貴なる人間ではなさそうだな」

気にくわないが、思ったよりはずっと覚悟を決めているようだ。ロスは拳銃を降ろす。アルベルトの態度は拳銃があろうがなかろうが、しも変わりはしない。

「どうでもいいだろう。なくとも、公爵家の跡取りであることには変わりない」

「金を払うといったな?」

「もちろん」

「……なら、俺に一生暮らせるだけの金と、誰にも邪魔されず暮らせる屋敷をくれ。上等な犬小屋もな」

「妙な要求だな。いいよ、約束しよう」

「いいぜ、乗ってやる」

「え……」

すんなり納得すると、アルベルトはそこで初めてり付いたような笑みを崩した。ようやく本來の彼の素顔を垣間見たように思う。

「意外そうな顔だな。もっと説得に時間がかかると思っていたか?」

「正直、逆上されるかとは覚悟していた。君に関して聞こえてくる噂は、どれも恐ろしいものだったし。君は暮らしに満足しているんじゃないのか?」

「別に、満足していると言ったが、もう十分すぎるほどA國には盡くした。早いが隠居生活でも決め込もうと思ってね」

それは以前からぼんやりと考えていたことだ。予定を早めてもいい。ありていに言えば、今の暮らしに飽きたのだ。

「へえ。悪鬼と恐れられた君のような男も、人生に疲れることがあるんだね」

「王都じゃ犬の餌代がかさむんだ」

適當に返答するとアルベルトは笑う。

「はは。面白いね。では、立ということでいいかい?」

ロスが自分の依頼を引きけたことに安堵しているようにも思えた。先ほどよりも張が解けている。ロスは頷くと、立ち上がった。

「決まりだ。その娘を守ればいいんだな? 今までにくらべりゃ、なんとも単純で分かりやすい仕事だ」

「ああ、よかったよ」

「じゃあな。次に會うときは金を用意しておけ。ああ、俺の逃走経路もな」

そう言って去ろうとする間際、しかしアルベルトの鋭い聲が聞こえる。

「傷一つつけるな。そして僕の命令だと怪しまれるな。彼は何も知らず、そのままでいてしいんだ。そしていくらしいからといって、絶対に手を出したりするなよ」

貴族の思考回路には辟易する。馬鹿馬鹿しい。

何かと思えばあり得ないことだ。

背後を振り返り、不機嫌を隠すことなく言った。

「出さねえよ。皆まで言うな。分かってる。貴族ってのはうるさい奴が多いな」

「ヴェロニカの顔は分かるかい?」

「何度か見かけたことがある。大層な人だから、よく覚えてるぜ。ヴェロニカ・クオーレツィオーネの姿はな」

王宮に近い貴族なら大抵は知っていた。加えてその娘は王都で何回か見かけたことがある。多くの場合、このアルベルトと一緒に街を歩いていた。人目を引く人だが、気が強そうでもあった。

「だけどね」

今度こそ彼の元を去ろうとしたとき、呟くような聲が聞こえた。

「彼のためなら、なんでもしてあげたいと思ってしまう。そういう不思議な魅力のある人なんだよ、ヴェロニカは……」

戯れ言を聞き流し、屋敷を後にする。

これからその彼を守るためいくつか準備をしておくとなると、やや時間がいる。隊にも怪しまれることなくそれをするのには、さらに短時間としなくてはならない。

――ああ、アルテミスも連れて行こう。

もしかすると、そのままこの地には帰らなくなるかもしれないのだから……。

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