《後は野となれご令嬢!〜悪役令嬢である妹が婚約破棄されたとばっちりをけて我が家が沒落したので、わたしは森でサバイバルすることにしました。〜》ミーアさん、あなたって人は……ですわ!
著々と婚約の式典準備は執り行われていく。広場には一晩かけていくつもの飾り付けがなされ、若い二人の新たな門出を祝福しようとしていた。
もうしばらくすれば、ミーアとレオンをもギランギランに飾り付けんと使用人達がやってくるだろう。式は予定通り行われる。
「ミーア」
「はい、レオン様」
「昨日のことは、君の言うことを信じることにしたよ」
「もちろん、私はレオン様に噓はつきませんもの。怪しい人影を見て付いていっただけですわ」
「ああ……」
レオンの表には隠しきれない苦悩が浮かんでいた。疑っている。いや、ほぼ、確信をしている。自分以外の誰かを、ミーアがしていることを。
しかし認めることはできない。婚約者が他の男に橫慕しているなど、王族たるレオンにあってはならないことだからだ。
そこにミーアは逃げ道を與えてあげた。不振な人影を見て後を追ったのだと。聞こえた會話は――きっと聞き間違いだろう、と。レオンは従った。彼は弱い。
――馬鹿馬鹿しい。とんだ茶番だ。
驚いたことに、この男はまだミーアのことを信じるつもりでいる。昨晩あの會を見られた時は今度こそお終いだと思っていたが、元がお坊ちゃま育ちのレオンの事だ。人の悪意や闇など、知識として知っていてもまさか自分がその標的になっているとは夢にも思っていないのだろう。
どこまでもお人好し。
それがミーアがレオンに抱くの全てだった。
レオンに近づくのは実に簡単だった。學園の理事長であるシドニアの助けもあり、レオンの行パターンを知った後は、彼と接點を作り、無邪気なとして印象づけた。
正義があり、弱者を放っておけない。そんな彼の前でチェチーリアにいじめられているか弱いを演じきった。英雄としての自分に飢えていた彼は、面白いくらい簡単に、ミーアの手に落ちた。
「今日で全てが終わるんだ」
「なにをおっしゃいますの? 始まりでしょう?」
今日、婚約の式典が執り行われる。本來であれば結婚生活の“始まり”となるこの式を、終わりと稱してしまうあたり、やはりレオンは隠し事ができない格だ。
レオンはこの騒に疲れ切っていた。誰かが終わらせてくれと、そう願っている。甘ったれの彼らしい。いつだって運命の引導を他人の手に委ねるから、こうも簡単につけられるのだ。
ミーアにとっては、やはりこの婚約は始まりだ。王子のは、幕開けに過ぎない。そして幕引きは、A國の滅亡だ。
このレオンはいずれA國の王になる。
(あたしが、王妃に、この、あたしが)
そうすれば、國を破綻に導くことは容易だ。
見てろよA國。
何もかも奪ったくせに、なにも與えてはくれなかった、くそくらえの祖國。
(シドニア様がいつも言うように、こんな國は終わった方がいい)
だからといって、B國の勝利を切に願っているわけではない。でもそれ以上に、A國を憎んでいる。
シドニア、といえば最後に會ったのは昨日だった。以來姿を見せない。それはミーアのせいでもあるのだが、これから先を思うとやはり不安は抱えたままだ。
ロス、とかいう名前の暗部の一人がカルロ・クオーレツィオーネを伴って獄したらしいという話も聞いた。捕まるのは時間の問題だろうが、それもまた不安要素の一つだ。
チェチーリアの所にヴェロニカが現れたという噂も聞いた。そちらの真偽は未だはっきりとはわかっていない。
(でもまさか、あたしたちの計畫が途中で終わることなんて、あってはいけないのよ)
すでにレールは敷かれている。
車は回り続けている。
あとは目的地へと進むだけだ。
止められなど、誰にもできない。
「そうだな……始まり、そうかもしれない。いろいろあったが、やっと私たちは結婚するんだ」
レオンはどこか諦めたように言うとミーアを抱き締めた。
「幸せになろう」
「もちろんですわ」
すぐさま返事をする。レオンはようやく安堵したように微笑んだ。
ミーアの思う幸せの中に、レオンがいないことなど、彼は知るよしもない。
狂愛的ロマンス〜孤高の若頭の狂気めいた執著愛〜
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