《後は野となれご令嬢!〜悪役令嬢である妹が婚約破棄されたとばっちりをけて我が家が沒落したので、わたしは森でサバイバルすることにしました。〜》リビングルームコンバットですわ!

その気配に気づいたのは、やはりロスが一番早かった。ずっと暇そうに眠っていたアルテミスも起き上がり、窓の外に向かって吠える。

襲撃は、定石通りの夜明け前か。

「アルテミス、どうかしました?」

窓に寄ろうとするチェチーリアの手を摑み、努めて靜かな口調で告げる。

「窓に寄るな。何でもないって顔して、座ってろ」

「へ……?」

は驚いたようにロスを見た。

目線でカルロにも合図する。平素のように、會話をしろ、と。

「そ、そういえばです。わたくし、気がついたんですの」

「な、なにをだね」

ぎこちない父娘の會話が始まる。

ロスは拳銃を二人に渡すと自分もいくつか手に取り、口笛を吹いてアルテミスを呼び寄せた。この犬が、また撃たれては敵わない。

「お、乙ゲームの隠しキャラの屬ですわ! 多分、それはアルベルトに當てはまると思いますの!」

「そ、それはすごい。しかし今重要なのか?」

「重要ですわ、何よりも! だってそれは」

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「すぐにソファーのを隠せるようにしておけ」そう二人に告げるとロスは音も無く、窓に忍び寄る。そして僅かに開けた。

「ヤンデレなのですわ!」

チェチーリアがそう言ったとほぼ同時だった。ロスは外にいる者たちに向けて発砲した。弾が続く限り撃ち抜く。木のの數人が倒れるのを見た。

敵は二十名ほどか。撃ち方が雑だ。ロスが鍛えてきた兵たちほど洗練されてはいない。

(これで俺を殺せると? 舐められたものだ)

だがすぐに弾切れとなる。別の銃を取り出し、撃つ。

たちどころに大量の銃弾が戻ってきた。

「きゃあああ!」

「ひええええ!」

窓ガラスが割れ、チェチーリアとカルロの悲鳴が重なる。

容赦なく浴びせられる銃弾の雨に、二人は耐えきれるだろうか。ちらりと様子を見るとカルロはソファーのに隠れている。

こうなっては得策ではない。相手から丸見えの部屋の中より窓際の方が安全だ。銃弾が止んだわずかな間にロスはソファーごとカルロを窓に寄せた。

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チェチーリアはどこだ。

の姿を探すと既に窓際におり、全く予期せぬ事に、銃を構えていた。

「前世ではゲーセンに通い詰めてFPSの令嬢と言われたものですわ」

意味は分からないが、構えは中々様になっている。

「よせ!」

止めようとするが、その間もなく彼は銃を敵に向けて放つ。的確な銃の扱いに加え、腕も確かだ。ヴェロニカよりも撃は上手い。

銃先から立ち上る白い煙をふっと吹き消しながらチェチーリアは不敵に笑った。

「言ったでしょうロスさん。わたくしの方がお姉さんなのだと。人生経験富なわたくしからのアドバイスですけれど、もうし他人に甘えてもいいのではないでしょうか?」

言いながらもチェチーリアは再び敵に向けて撃ちまくる。幾人か倒れたようだ。度と腕に対してロスは思わず心してしまう。

「俺の隊にスカウトしたいくらいだ」

「來世はそうしましょうか? 暗殺部隊の悪役令嬢なんて今までいなかったかもしれません」

「……」

満面の笑みで振り向かれるが、半分も言っている意味がわからない。この娘を勧するのは例え來世であっても止めておこう、とロスは心に誓った。

敵兵はじりじりと近づいてくる。撃ち殺していくが間に合わない。姿を見るに、やはり昨日いたアルフォルト家の私兵達だ。

と、兵士の一人が窓に向けて何かを投げれた。見ると、黒いそれはA國で開発途中の手榴弾だ。門外のはずだが金にものを言わせて買い取ったか。

(これだから金持ちは嫌いなんだ)

ニトログリセリンと珪藻土からなる小型弾が今にもはじけ飛ぼうと火花を散らしている。破裂する前に遠ざけなければ皆仲良くお陀仏だ。迷うことなく素手で摑むと敵に向けて投げ返す。

たちまち空中で飛散する。火花と轟音の後で煙が立ちこめる。視界が格段に悪くなる。

バン、と扉が開けられて、ロスとチェチーリアが銃を構えた。兵士達が屋敷に侵したか。

しかし現れたのは、食堂に行っていたグレイと、なぜだかグランビュー家の息子の姿があった。

「ヒュー!? どうしてここに!?」

チェチーリアが驚く。

「話すと長くなるんだけどさ、シドニアの野郎とミーアの會を見ちゃってアルベルトに後ろから毆られたんだ。あ、短かった。あはは。うわ!」

笑うヒューの隣の壁に銃弾がめり込んだ瞬間、武裝した兵士達が窓から突してくる。グレイとヒューが機の上に置かれていた銃を取るのが視界の端に映る。

――子供達に危害を加えさせるわけにも、これ以上撃たせるわけにもいくまい。

即座にそう思ったロスは、兵士が部屋に突するのを見るなりまずは一人のこめかみに銃弾を見舞った。

兵士達は三方向のきをすると決めているらしかった。

ロスとチェチーリア、カルロ、グレイとヒュー、それぞれ分斷された一行に向かいその命を奪おうとしている。その中でもまず初めにロスの命を止める、とでも思われているのか銃の先端が向いている量は他の者よりも多かった。もちろん黙ってされてやる気はない。

恐ろしく戦闘のスキルと才能に恵まれた者には、その者たち獨自にしか分からない場の流れがある。即ち、命の危機に際して、どのようにけば敵を突破し自分を守ることができるか、という導線が明瞭に浮かぶのだ。

ロスは向けられた銃先から火花が散る前に、眼前の兵士の一人に當たりをぶちかますと、先手を取られて気を散らした彼らをまずできうる限り殺した。

そしてこの場で最も無防備なカルロを殺傷せんと向かう兵士の後頭部にも撃ち込む。

瞬間、背後に數人の気配。

撃ち殺した兵士のが床に倒れる前に摑むと自分とカルロの盾にした。

浴びせられる銃弾を凌ぎながらも的確に相手の急所に撃ち込んでいく。弾が無くなったのでカルロの握る銃を奪うと今度はヒューとグレイに銃を構える兵士達に弾を放つ。倒れる兵士たち。しかし數発でまたしても弾切れを起こす。

兵士達はロスがこの部屋における最大の脅威であると思ったらしく、振り返り銃を向ける。そこから弾が発出される前に盾にしていた兵士から素早く銃を抜き取ると彼らめがけてその死を放り投げた。

仲間のに妨害され、勢を崩した兵士らの額を順に撃つ。

仕留め損ねた一人がロスに向けて構える。その前に撃ち殺そうとする。が、弾は出ない。

「くそ!」

三度の弾切れ。

もはや鉄のオブジェと化した使いにならない銃を捨てると、兵士の間合いにりその腕を摑みを思い切り蹴り飛ばす。彼は空中を舞い、背中から壁に激突する。

頭を激しく打ち付けた兵士にとどめをさそうと機に殘っていた銃を取る。

が、ロスが引き金を引く前に既に兵士は數発の弾を浴びていた。

見ると、腰を抜かしたままでいるカルロが死から貰ったらしい銃を握っていた。カルロの顔面は蒼白で、手は震えている。だが顔を見合わせ微かに頷き合った。

と右肩に熱。殘黨に撃ち抜かれたらしい。

急所を外した兵士が生きていたか。

(死に損ないが)

再度撃たれる前に、銃を取り落とす寸前で左手に持ち替えると、弾が出なくなるまでそいつのに打ち込み続けた。

しん、と客間は靜まりかえる。

「す、すげぇ」

ヒューが口をぽかんと開けてロスを見る。彼が構えていた銃は出番がなく、今や撃つ気なしといわんばかりに床を向いていた。

「ロスさんには朝飯前だ、でしょう?」

「當然だ」

グレイの尊敬のまなざしに答える。肩で息をしながら汗を拭う。もちろん強がりでしかない。

の海と化した客間の中にどかりと座り込み、用のなくなった拳銃を放る。アルテミスがめるように、ロスの手を舐めた。その頭をでる。

激しい撃ち合いの後だ、耳が遠い。煙と火薬との匂いに、はからずも戦場を思い出した。

「チェチーリアが兵士の數を減らしくれたおかげだ」

腰を抜かしていた父親を助け起こしていたは「えへん」と得意げに笑った。

「しかし……どうして、アルフォルト家の兵士が私たちを襲ったんだろうか」

カルロが疑問を口にする。彼の手は直してしまったかのように、銃を握りしめたままだ。

「なぜだと」

ここで一行を一網打盡にしようとしていたのは、他ならぬアルベルトだ。

理由は――シドニアと共犯関係にあるためか?

機は明確ではないが、いずれにせよアルベルトは疑いようがなく……

「あのお坊ちゃんは、どうやら敵だったようだ」

「じゃあ……」

カルロが絶の表を浮かべる。

「じゃあヴェロニカが危ないじゃないか!」

次話投稿は月曜日に行います!

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