《後は野となれご令嬢!〜悪役令嬢である妹が婚約破棄されたとばっちりをけて我が家が沒落したので、わたしは森でサバイバルすることにしました。〜》一同大集結ですわ!

――普通であれば、王とシドニアの間にったミーアはその兇弾に倒れたはずだ。

しかし、気がつけば壇上の固い床に押し倒されていた。まったくの無傷のままで。

自分に重なるように上にいたのはレオンだ。ミーアを庇ったらしい。

「怪我はないか!?」

必死の形相でレオンはミーアの無事を確かめる。プライドの高い彼がよもや自分の安全よりもミーアを優先するとは、言葉にはしないまでも心驚いた。

そんな彼にも傷はない。

(じゃあ……王が!?)

確かに弾は発出された。その先にいたのは、一人しかいない。

しかし、王もまた無傷だ。やたらと豪華な椅子からはずり落ち、両脇を駆けつけた護衛に抱えられながらではあるものの、そのに怪我はない。ただ呆けたように、目の前の人を見ているだけだ。

もう一人、まったく別の者がこの場に割ってったのだ。

「アルベルト!?」

レオンが従兄弟に向かってぶ。

(どうしてこの人までもがここに……)

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ミーアはまだ床に倒れたまま、やはり驚愕の思いで彼を見た。彼――アルベルトはシドニアの銃弾を肩にけたらしく、生々しい鮮が瞬く間に服を染めていく。餅をついているのは撃たれた衝撃で後ろに転び立ち上がれないためだ。

どこからか悲鳴が上がる。それでも人々はまだその場に大勢いた。多くは野次馬だ。この余興の行く先を面白げに見つめている。

ミーアはまだその場からけなかったが、一足先に我に返ったレオンが、ミーアのを引っ張り壇上の隅に避難した。

兵士達が駆け寄ってこようとするのを、シドニアが制する。

「來れば、王を撃つ」

彼は本気だ。何しろもう既に一発撃っている。

兵士達は構えの勢を取っているが、やはり近づいてはこれない。兵士達がシドニアを撃つには障害が多すぎる。王やレオン、その他有力貴族達に當たる可能があるからだ。

「もう止めてください父さん!」

空気を変えたのは、アルベルトの聲だった。

彼は肩を押さえながらふらふらと立ち上がる。を多く流しているが、その口調は明瞭だ。

「あなたのしでかしたことは、もう全て知れています、父さん」

「父だと?」

未だ拳銃を真っ直ぐ構えたままのシドニアの顔には、さらなる激怒が浮かんだ。

まずい、とミーアは思う。彼の元に行かなくては、ともがくが、レオンの腕に抱き締められたままほどくことができない。レオンもまた、直してしまったかのように二人を見ている。

シドニアがアルベルトに一歩、歩み寄る。他の者など見えていないかのようだ。

「なぜそんな目で私を見る? 誰が名を與え、服を與え、人生を與えたと思っている!? 主人に牙を向ける犬など、聞いたことがない!!」

その言葉に、ミーアはもがくのを止めた。力が抜ける。犬。が悲しみに染まっていく。

アルベルトが撃たれていない方の手で上著のポケットに手をかける。

(まさか……)

そう思ったのと、ほぼ同時だった。まるで流れるような線を描いたアルベルトの手は、上著から銃を取り出すとシドニアに向けて迷いなく撃った。

誰も止める間もなく起きたそれにあっけにとられる。薬莢がからりと床に落ちたが、予期せずに弾はシドニアには屆かなかった。

またしても、思いがけない訪問者が現れたからだ。アルベルトの放った弾丸は――壇上の空中で止まったように見え――そのまま床にぽとり落ちた。

ミーアはそれを凝視する。

こんなことが起こりえるのだろうか。

銃弾をよく見ると、もう一つ別の弾がのめり込んでいる。いずこからか飛んできた別の銃弾が、彼の放った弾に全くもって同じ力で當たり、拮抗した二つの銃弾は行き場なく落ち、シドニアに屆くのを止めた。

民衆の中から一際大きな悲鳴が上がる。見事に人々が左右に割れていく。逃げう人の奧から現れた者達を見てミーアの頭はまたしても混を極める。

レオンもそちらを見たらしく、ぼそりとその先頭の人の名を呟いた。

「チェチーリア……」

掠れるような聲だったが、どこか懐かしさとも含まれていることに、ミーアは気がついた。

チェチーリアは広場を睨み付けている。その目が捉えるのは敵のミーアでも、元婚約者のレオンでもなく、アルベルトだった。

そして彼の後ろに、銃を構える男がいた。の大きい、見た目からして軍人だ。彼の銃が煙を上げるのを見るに、そこか放たれた弾がアルベルト兇行を止めたのだ。腕は恐ろしく立つ。

いるのは二人だけではない。逃亡したはずのクオーレツィオーネ家當主のカルロ、グレイ、それから、シドニアとの會を見られて以來監していたヒューがいた。

「どうして」

ミーアの聲は、弱々しく震えていた。

ダン、と男が空に向けて銃を放つと、人々は更に悲鳴を上げて逃げう。蹴散らすように、彼はまた銃聲を響かせる。

隙ができたと見たのか、護衛達は王を連れて壇上から逃れていく。しかしミーアとレオンは騒のまっただ中にいて、どこにも逃げることはできない。

一瞬で地獄と化した婚約式の會場をミーアは力なく見続けた。先ほどまでこの場の主役は自分だったはずなのに、あっという間に傍観者になってしまった。

何が起きているのかまるでわからない。

幾人もの思いと目論見とが重なり合った今この場で、思い描いていたシナリオは全く見當違いなものになろうとしていた。

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