《後は野となれご令嬢!〜悪役令嬢である妹が婚約破棄されたとばっちりをけて我が家が沒落したので、わたしは森でサバイバルすることにしました。〜》罪の決著ですわ!

ジェシカが歪んだ笑みを見せベッドからを起こしたのを、見張りの兵に取り押さえられる。そうでなければ、今にもロスに摑みかかっていただろう。

「お兄ちゃんがあのを救うためにあんたを雇ったんだ! あんたが引きけなきゃ、全部上手く行ったのに、計畫はめちゃくちゃになった!」

「ひどい言いようだな? 傷つくぜ。お前達の不手際を俺のせいにするなんて」

別に摑みかかられたとしても構わない。小娘にやられるほどではなかった。

「あのが生きてるから、お兄ちゃんは婚約を破棄しなかった! それが許せなかった」

「なるほど」

と軍の幹部が得心したように言った。

「それでロス、お前はジョーとシドニアの企みに気がつき、伯爵家を救おうと畫策していたのか」

「もちろん。それに忘れてくれるな、A國も救った」

しれっと認める。幹部はジェシカに向き直り言った。

「だがよくもまあ、ぺらぺらと話したものだな」

は笑う。

「あたしがこうして全部話したのはね。お兄ちゃんが真にしているのはあたしだけって、あんたたちに証明するためよ。あの目障りな、ヴェロニカじゃなくてね」

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そう言ってから、前れもなく突然服をぎ、出させた。さすがの男達も一瞬の間、くことができなかった。

――彼には、古いものから真新しいものまで、無數の傷があったのだ。

さの殘るしいの白い皮に、あまりにも似つかわしくない無慘な傷跡。中には相當深いものまである。見張りの兵士が、う、とうめき聲を上げのけぞった。

ロスはジョーの異常さを改めて知る。

待してたお兄ちゃんはますます酷くなった。でもあたしは耐えられた。お兄ちゃんにとって、って痛みだったから。蟲やを殺してたのも、全部してたからなの。あたしはこの世界でたった一人、お兄ちゃんだけをしているから、どんなでも嬉しかった」

うっとりと彼が言う。

のまま彼を折檻し続けたのは、他ならぬジョーだ。二人以外の世界を知らない彼は、それこそがだと思い込んだ。

まるで理解できない、とロスは思った。

「よかったな。念願葉って二人仲良く永遠に、死ぬまで牢獄暮らしだ」

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そう告げると、幹部の男も頷きジェシカに言った。

「ゆっくりと犯した罪と向き合うんだ。人を欺いた罪と」

ジェシカは笑う。

「なによ。みんな、噓をついてるじゃない。賢い振り、仲良しな振り、偉い振り……。どんな聖人だって人を出し抜きたくて面ドロドロしているのに、どうしてあたしたちだけがんじゃいけないの。どうして求めちゃいけないの」

今になってもは罪を罪と思わないらしかった。い頃からの歪んだ価値観は、そう簡単には変わらない。

もう聞き出すことは聞き出した。ロスは病室を去る。出て行く際、呟かれた言葉が耳に殘っていた。

「だけど、なんでレオンはあの時、あたしを庇ったんだろう……」

その意味を、ジェシカはこれから考え続けることになるのだろう。

* * *

ロスの話を聞いて、ヴェロニカはアルベルトと名乗っていた青年を思った。それは他の者も同じだったようで、代表するようにしてグレイが尋ねる。

「ジョーって奴は、どうしてるんです?」

「あいつは口を閉ざした」

答えたのはヒューだった。彼にしては珍しく渋い表のままチラリとロスを伺い、何やら視線で會話をわした後で、結局はそのまま言った。

「頭がおかしくなったんですよ。今じゃ、簀巻(すま)き狀態」

簀巻き狀態が分からず、ロスに助けを求めると、彼もまた言いにくそうに言った。

「希死念慮が強く……拘束されている。話を聞き出そうとしても暴れるから、看守が手を焼いてるらしい。意味不明の言葉を呟き続けて、ろくな會話もできない」

キシネンリョ……聞き慣れない言葉を口の中で繰り返す。

首を絞められた時、恐ろしく思うと同時に、そうせずにはいられなかった彼がひどく悲しかった。

失神したヴェロニカの周りの切り刻まれたソファーに殘る鋭い刃の跡が、そのまま彼のびのようにじられた。

いつか彼は、家族は呪いだと言っていた。シドニア(義父)を思ったのか、あるいはジェシカ(妹になった)のことだったのかもしれない。逃れられないしがらみの中に、彼もいた。

だけど結局、彼がヴェロニカを殺すことができなかったのも、ジェシカを撃ったシドニアを憎み殺したのも、同じ故だと信じたい。

人が當たり前に持っている、そのが彼にも確かにあったのだと。

もう決して言葉をわすことはない。真実は、誰にも分からない。

だとしても、いつもヴェロニカに向けられていた、彼のあの、優しくらかな笑みは、本だったと思いたかった。

ヴェロニカの手の震えを止めるようにふと、大きな手がれた。思考が遠い世界から今に戻る。

ロスを見ると目線は前を向いているものの、その手はしっかりとヴェロニカの手を握りしめていた。ヴェロニカも、きつくその手を握り返す。

「全てはわたくしのせいなのです……」

ずっと黙っていたチェチーリアがひどく暗い顔をしながらしょんぼりと言う。

「わたくしが熱病になって、お父様が薬を手配してくれたから、薬が足りなくなって、本當のアルベルトは亡くなってしまったんでしょう?

それに、前世の記憶を取り戻して、普通だったら馬鹿げていると思われるような妄想を、ためらいなくジョーに話してしまったから、今回のことが起きてしまったのです」

「チェチーリア。お前のせいじゃないさ」

カルロがめる。ヴェロニカも同意する。

確信がある。本當に、妹のせいではない。むしろ、彼のおかげだと思えた。

「チェチーリアが、わたしを助けてくれたのよ」

そう言うと、チェチーリアは今にも泣きそうな顔でヴェロニカを見た。

「わたくしが?」

「ええ。だって、あなたが前世の記憶ばかり語るから、わたしは家が嫌になって、鬱屈したで蟲を殺したの。一応言っておくと一度だけよ? でも、それがジョーの共を得るきっかけになった」

彼はヴェロニカを同士と思い、依存した。ヴェロニカもまた、彼に依存した。

「だから彼は、わたしを殺さなかった。ゲームのシナリオどおりだったら、わたしは登場しなかったんでしょう? とっくにジョーに殺されていたんだわ」

変化はまだある。

ジョーはヴェロニカを手放したくなかった。だからゲームと違ってヴェロニカの存在するこの世界では、あとしで彼と結婚するはずだった。

「ゲームのシナリオだったらチェチーリアは二年後に婚約破棄になるはずだった。でも早まったわ。それはどうしてだか、分かる?」

「そうか」

合點がいったように、ロスが言った。

「ジェシカは、ジョーをしていたから、奴の結婚をどんな手を使っても止めなければならなかった。それで計畫を早める必要があった。

クオーレツィオーネ家が沒落すれば、自然、ヴェロニカの婚約も破棄されるはずだと。そうすれば、ジョーは自分のものになると考えたわけだ」

「でしょうね。でも本來じっくりと時間をかけて行うはずだったことだから、準備不足のまま進んでしまった。レオン殿下もチェチーリアに気持ちを殘したままだったし。お父様の裁判も、証拠が揃わずに思ったよりも進まない。結果、やっぱり上手く行かなかった」

歯車は激しく狂い、狂ったままき出した。初めから壊れた車の先に待つのは當然、破滅だ。

だからヴェロニカが生きていて、そして家族がこうして揃って食事をできるのは、狂い出した歯車の張本人、他ならぬこの妹がいたからだ。

「やっぱり、あなたのおかげなのよ」

「うわーん、お姉さまあ!」

チェチーリアは遂に泣き出した。カルロがその肩を抱きよしよしとめる。

「レオン様はジェシカの企みに気がついていたのかな」

グレイが主君を思い口を開いた。

確かにあの時、レオンは抵抗なくジェシカを拘束させた。どこか思うところはあったのかも知れない。

「ジェシカが婚約式の前日に、ジョーと城で會ってたようだ。それをレオンは見た、という」

ロスが言う。

「本當かどうかは分からん。まさか王子に事聴取ともいかないからな。……だとしたら、淺はかだ。一國の王子としては致命的な阿呆だな」

危険因子から目を背け、自分のを優先させるなど國を守る者としては失格だ、と言いたいらしい。険しい表のまま、「だが」と続ける。

「人としては、嫌いにはなれん」

ロスの言葉に、ヴェロニカもレオンを思った。

小さい頃、けなくて泣き蟲だった彼は、大人になって、王族に相応しい人になろうと、誰よりも強くあらなければと思ったのだろう。その正義を利用されたと思うと義理の姉になりかけたとしては同もする。

「そのレオン様ですが」

主君を罵られても平然としているヒューはレオンのこれからを告げる。

「異國に留學することになりそうですよ。こんな騒ぎがあっちゃ居づらいだろうし、なにより陛下の逆鱗にれちゃって……。

チェチーリアちゃんと婚約をやり直そうともさせたみたいだけど……もうそうも行かないだろう?」

ヒューはチェチーリアとグレイを意味ありげに見比べてため息をつく。二人は束の間見つめ合い、同時に頬を染めて俯いた。

「仕方ないから、オレも留學に付き合うことにした」

「そうなのか?」

知らなかったらしく、グレイが驚く。

「ああ。百戦錬磨のオレがいれば、もうに騙されることもないだろ? それに、確かにちょっと向こう見ずな人だけど、あれでいて、めちゃめちゃ純粋で、友人思いで、いいところもある。ほっとけないよ。オレにとっちゃ大事な主(あるじ)だからなあ」

ヒューはやや照れくさそうに言い、そしてまた別の事に思い至ったらしい。

「でもようやく分かった。シドニアとジェシカの會を見たとき、なんて言ってたのかずっと気になってたんだ。

『彼はきっと、裏切っているわ! このままだと計畫が臺無しになる』ってところかな。彼の復讐心は強かったんだろうし、ジョーを手にれるためには計畫はなんとしてでも功させなければならなかったんだろうから」

彼は一人納得すると、まるで百面相のように今度は腑に落ちない、といった表になった。

「だけど分からないな。ヴェロニカさんが蟲を殺したからって何なんです? 子供なんて皆そんなじでしょう。オレなんて、ありんこを百匹捕まえて、バケツに浮かべて遊んでましたよ! ジョーは結局、初めからそういう奴で、ヴェロニカさんを言い訳に使ったに決まってます!」

ヒューの場違いに明るいその言葉がきっかけだった。悲しい話は終わり、和やかな雰囲気が訪れた。

ここからは、ひたすらに楽しいパーティになる。味しい料理とお酒、そして大好きな家族と友人達とひたすらに話す夜。

ヴェロニカも大いに笑う。

なぜなら今日はクリスマス、大切な人たちと過ごす、とびきり楽しい日であるからだ。

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