《後は野となれご令嬢!〜悪役令嬢である妹が婚約破棄されたとばっちりをけて我が家が沒落したので、わたしは森でサバイバルすることにしました。〜》片っ端からねじ伏せるだけですわ!
「どの道、あなたたちは全ての罪をアーサーに著せるつもりだったのよ。王都に攻めても、援軍なんて準備さえなかった」
「でも、そう上手く行くんでしょうか」グレイが言った。
「アーサー・ブルースの潔白を信じる人もいそうでは?」
ヴェロニカは否定した。
「誰だって、犯してもいない罪で裁かれてはいけないけれど、犯した罪があれば、他人はどこまでも殘になれるものでしょう? 彼にははいないし、本當に親しい友人も、いなかったのよ。世論をかすなんて、お手のだわ」
ふう、と息を吐き、反論の間を與えたが、返事はない。
「なぜあなたたちはこんな馬鹿げた真似をしたの?」
長い沈黙の後で、ようやくオーエンが口を開く。
「アーサー・ブルースは、いずれ反逆者になる人間だった」
それは、ヴェロニカの推論を肯定する言葉だった。ヒューの目が見開かれ、兄から一歩離れる。
「そんなこと分からないわ」
ヴェロニカは言った。
「わたしがロスと出會ってに落ちたように、決まっている運命なんてこの世にはない。
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彼の人生だって、誰と出會って何をじて、どう生きるかで変わったはずよ。あなたが唆さなければ、彼は今だって真っ當に生きていたはずだわ。この先、誰かをし、誰かにされることだってあったかもしれない。
恣意的に彼の人生を歪める権利なんて、あなたたちにはありっこない! あなたたちは自分ののために、ただそんなちっぽけなもののために、彼を抹殺したんだわ! 人の心の無い、本の悪人よ!」
そのとき、今まで黙っていたエリザベスが、素早くいたのが見えた。
「だったらどうだと言うんだ!」
手には、拳銃が握られている。貴族たちが悲鳴を上げ、逃げった。
銃口は、ヴェロニカに向いていた。
エリザベスは怒りの表を浮かべ、剝き出しのままんだ。
「獨善的な正義だな! 生まれたときから何もかも與えられて、恵まれた人間には、なぜ私がこんなことをせずにはいられなかったのか、分かりはしない! 人として真っ當な生き方など、永遠にできはしない連中がいるんだ!」
「ヴェロニカ逃げろ!」
カルロがヴェロニカに走り寄ってくるのが見える。
――続けざまに、発砲の音がした。
目の前で、エリザベスがを流し倒れている。
丸腰で、こんな敵地に來るわけがないと、思わなかったのだろうか。
「分かりたくもない。あなたが撃とうとしなければ、わたしは撃ったりしなかったわ」
だが妙だ。ヴェロニカが撃った音に重なるようにして、別の銃の音もした。警護の兵士ではない。誰に當たるとも分からない中、銃を使う愚か者はいないだろう。
もっとも、圧倒されて、誰もきさえできていないようだが。
ヴェロニカは白煙が漂う銃を、そのままオーエンに向けた。オーエンの手にも拳銃が握られ、白煙が上っていた。
別の人間から弾は一発ずつ撃ち込まれ、エリザベスを殺傷するに至ったようだ。
オーエンは、激しい揺を見せながらも、銃を下ろしはしない。
「か、彼が君を殺そうとしたからだ! 皆見ていただろう! これは正當防衛だ!」
「口封じの間違いでしょう」
オーエンは顔を歪める。
「なぜ分からない! オレは君を守りたかっただけだ! あの、ロスとかいう男から、救い出したかった! あいつは悪魔だ! 人殺しだ! オレたちとは、別種の生きなんだよ! 學生の時から君のことが好きなんだ! してるんだ!」
ヴェロニカは眉を顰めた。
一、彼が何の話を始めたのか分からない。ロスこそが、ヴェロニカをあらゆるものから救い出してくれた天使だ。
第一、オーエンとはほとんど會話をしたことがない。一方的に心を抱かれるいわれもないし、心はまるで揺れなかった。
オーエンは、拳銃を床に放り投げ、周囲に訴えかけるように言った。
「アルベルトが……アルベルトが言ったんだ! アーサー・ブルースを利用すれば、悪人を一人殘らず抹殺して、楽園を築けると。その暁には、ヴェロニカをオレのものにしてよいと!」
「なんですって……」
あの男の名が上がるとは思ってもみなかった。
カルロにしても驚いたらしく、ヴェロニカに近寄るのを止め言った。
「彼は心を閉ざしているはずだ」
「詐病に決まっているだろう!」
オーエンは狂気じみた笑みを浮かべる。
「彼はオレだけに本當のことを語ってくれた。國を救おうとしたら、謀により投獄されたんだと。彼は被害者だ。あのロスとかいう男に、最の君まで盜まれてさ!
學生の時から何一つ変わっていなかった。アルベルトは素晴らしい人間だ。牢獄の中からでさえ、オレを導いてくれたんだ。だから――」
それ以上の妄言を、聞きたくなかった。
アルベルトの病が偽でも、オーエンが彼を信奉していていも、そんなものはどうでもいい。ヴェロニカとロスの間にあった語を、何も知らずに語られるのが許せなかった。
ヴェロニカは、引き金にかけた指に力を込める。だが、弾を放つ前に、オーエンは勢いよく床に倒された。
「くそ兄貴!」
彼の隣にいたヒューが、思い切り頭を毆っていた。ヒューはそのまま、何発も兄を毆りつける。
弟の拳を顔面にけながらなすすべもなくオーエンはを流す。
「何が救うだ! 馬鹿じゃねえのか!? 散々人を駒扱いしてきて、結局自分がよりにもよって、あのアルベルト・アルフォルトの駒じゃねえか! 最低だよ、最低だ!」
ヒューの目には涙が浮かんでいた。毆られているのはオーエンなのに、まるでヒューの方が痛みをじているかのように、悔しそうに絶する。
「殺してやる! この世のために、オレがあんたを抹殺してやる――!」
誰も近づこうとはしなかった。ただ、一人を除いては。
「ヒュー。もうよせ」
レオンがすっと、喚き続ける友人に寄り、その腕をそっと止めた。ヒューは肩で呼吸をしながらも、レオンを見てまた泣きそうな表をする。
レオンはヒューをオーエンから引き剝がすと、気絶寸前の彼に向かって言った。
「オーエン・グランビュー。話を詳しく聞く必要があるようだ。だがその前に、貴様は廃嫡だ。今よりグランビュー家の嫡男は、このヒューだ。貴様の父親にも、そう伝えておく」
ヒューが目を見張りレオンを見た。
意識があるのかないのか、顔を腫らしたオーエンは何も答えない。
レオンは周囲に向かって言った。
「いいか。今、この場では、何も起こらなかった。平常通り、貴族らの親睦が深まっただけだ。だが、私が許可するまで誰も出てはならん。誰がシャルロッテ・ウェリントンの屬していた組織に加擔していたのか、私が責任を持って調べよう。……大方予想ついているがな」
広間の數人は、先ほどからずっと顔面が蒼白だった。
「逃げようなどとは考えるなよ。私はこれでも、この國の王子だ。あらゆる手段を駆使してお前たちを追い詰めることができるのだから」
どんなに崇高な理想を抱いている人間がいても、とどのつまりは己のを覆い隠しているに過ぎない。
アーサーも、オーエンも、エリザベスも。――そしてヴェロニカも。
國を変えたいとは思っていない。この場に出たのは、アーサーがその正義を持って斷罪しようとしていた人間を引きずり出すためだった。
だがそれも、レオンが上手く処理をしてくれそうだ。いつの間にか、彼も隨分頼もしくなった。
ならばもう、ヴェロニカがここにいる理由はない。
側までやってきた父に向かって言った。
「お父様、後のことはお願いします。もうロスが起きているかもしれないわ。目覚めるとき、側にいたいの」
気持ちはもう、ロスに向いていた。
起きた彼はなんと言うだろうか。きびすを返し、出口に向かって歩き始めると、誰かがんだ。
「こんなやり方をしては、敵を増やすだけだぞ小娘が!」
振り返り、聲を発した人を探すが、誰もがヴェロニカに目を向けており、正を突き止めることはできなかった。だから仕方なく、全員に向かって言う。
「敵ですって? あえて言うわ。むところよ。どうぞかかっておいでなさい。片っ端からねじ伏せて差し上げますから」
會場中の唖然とする貴族たちに向かってヴェロニカは微笑み一禮した。
「お騒がせして申し訳ありませんでした。どうぞ引き続き、楽しんでくださいね? それではごきげんよう。良い式典になることを心から願っておりますわ」
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