《後は野となれご令嬢!〜悪役令嬢である妹が婚約破棄されたとばっちりをけて我が家が沒落したので、わたしは森でサバイバルすることにしました。〜》◆聖ルチアのお話

――あたしの命は、何のために存在したのだろう。

虛無より生じて虛無に消える。この命に、どんな意味があったんだろうか。

死の淵に立って、窓の外に、大きな虹を見た。

瞬間、四方を囲う部屋の壁はなくなって、軽いは宙に浮き、虹にぐっと近づいた。

小さい頃、教會で教えてもらった。あれは神と大地を生きるの契約のしるしだと。

神様は、あたしたちに一、何を約束してくれたの? 毎日毎日、腐るほど生まれて消える命に対して、なにができるというの。

それを、今あたしにも果たしてくれるの。死にゆくちっぽけな、こんなにもくだらないあたしのことも、神様は、忘れていなかったの。

この世に生まれて來たときと同じように、あたしはまた、突然消えていなくなる。

でもね神様、心殘りがあるの。

あたしが、大好きな人たちのこと。

ああ、また、あたしは馬鹿だ。こんなときに思い出すなんて。

ゴルゴダの丘へと向かう神の子の、汗を拭った聖様のお名前は――。

―― ヴェロニカ(祝福を擔う者)。

に、神の子さえも、心を打たれた。と慈悲に満ちた、生きている聖様。

ねえ、どうかヴェロニカ様。

あたしの大切な人たちを、守ってください。幸せへと導いてください。差す方へと、連れて行ってください。

あたしにできなかったことを、どうか。

あたしの大切なミシェルとロスのことを、どうか。

ねえどうか――。

――――――。

そしてあたしは、夢を見た。

ロスがいた。

馬車でどこかへ向かっている。

彼はし大人になっているようだ。だけど、相変わらずかっこいい。

彼の目の前には、とても綺麗なの子がいる。

二人の手は固く結ばれている。

二人は、あたしの話をしている。とても幸せそうに、どこか悲しそうに。

涙が溢れた。

よかった。

あなたは幸せを見つけたのね。もう誰にも縛られず、暗い闇にも囚われず。その子と一緒に、幸せになるのね。

だけど、ほんのしだけ嫉妬を覚えた。

――その子を幸せにしないと許さないわ。

あたしはそう言って、彼に最期の口づけをした。

一瞬だけ、彼は目を見開いたけど、もしかしたら気のせいだったのかもしれない。彼の手があたしにばされる。摑んだのは溫かな春の空気だけだ。

二度とれることはないおしいあなた。

さようなら、あたしの、かわいい人。

もう、の痛みはない。

天空から差すが見えた。次に起こることを、どういうわけか生まれる前から知っていた。この世のあらゆる生が、生み出され、そして行き著くところへと、あたしも還るのだ。

大きな存在に包まれながら、郭は曖昧になり、あたしは空へと溶けていく。自分が消え、無數の大気へと置き換わった。

その中に、お母さんとお父さんをじた。あたしは笑った。

なんだ、二人とも、ずっとそこにいたのね。

きっと、辛いときも苦しいときも悲しいときも、そこからずっと見守ってくれていたんだ。

孤獨な夜も、決して一人ではなかった。

恐怖はなかった。

お母さんの腕の中で思い切り泣いた時のような、懐かしさと、ひたすらの安寧があった。

もう二度と、悲しむことも、苦しむこともない。永遠の國に行けるんだ。

あたしの命は、この世に生まれ落ちたときと同じような、幸福と祝福に満ちていた。あたしはこの人生を生き抜いたんだと、を張って言える。

幸せだったんだ。

あたしの人生はここで終わるけれど、あたしの命がここで終わるわけじゃない。大好きな人の中で、いつまでも消えないとなって、暗い道を照らし続けよう。

ふと、ミシェルの姿が見えた。見違えるほど大人になっていて、どこかの街でせっせと働いている。

これは空想かしら?

だけど、あたしは弟に語りかけた。

ねえミシェル、心配しないで。

これから先、あなたが苦しい時は、あたしがずっと見守っているから。だから、どうか幸せになることを、怖がったりしないで。

だって、誰もがきっと、幸せになるために生まれてきたんだから――。

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