《後は野となれご令嬢!〜悪役令嬢である妹が婚約破棄されたとばっちりをけて我が家が沒落したので、わたしは森でサバイバルすることにしました。〜》◆聖と天使のお話

轟々と、耳に吹雪の音が聞こえていた。ミシェルがシャルロッテを見つけたのは、まさに幸運だったと言える。

雪に埋もれる寸前の、彼のドレスの裾が見えたのだ。

掘り起こし、彼が生きていることに安堵した。

數発撃たれているようだが、かすかに呼吸をしている。

「シャルロッテ、起きて。見なよ、城が燃えてるんだ」

男にもらった外套をで包むと、彼はうっすらと目を開けた。背負い、吹雪の中でも確認できる、燃える城が見えるようにしてやった。

が、ふうと、息を吐くのをじた。

ミシェルもその瞳に、燃える炎を反させる。

あの城には、あらゆるが渦巻いていた。ミシェルの過去と未來が、あそこにあった。だがその全ては消え去り、一つの終わりを告げるかのように、炎となって天へ昇っていく。

さっき會った二人が、無事兵をあそこへ送り込んだということだ。

「オレ達も、行こう」

返事を待たずに、城とは反対方向へと歩き始めた。

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「シャルロッテが來るってさ。全然考えてなかったから、びっくりしたよ」

やはり、反応はなかった。背負うはひどく冷たい。彼はこのまま死んでしまうのだろうか。悲しみを見せないように、再び話しかけた。

「馬鹿だなあ、オレたちって。一何個の選択肢を間違えたら、こんなことになるんだろう」

ようやく囁くような、シャルロッテの聲がした。

「きっと、もう、死ぬ……のよ。だって、が、すごく、痛い」

シャルロッテの聲に、ミシェルは勇気づけられた。

「でも、不思議……」

のか細い聲は、それでもはっきりと聞き取れる。

「生まれてはじめて、わたし、生きてるんだって、思えた。こんな、死の、間際なのに……」

雪の上を歩き続ける。足跡は、瞬く間に雪に消されていく。

「後悔、してるわ」

懺悔の言葉は、ミシェルの心を打った。初めてシャルロッテに會ったとき、じたのはシンパシーだった。

自分と同じように、死ぬこともできずに生きている、空っぽの人間。だから彼に、全て壊せと言った。ぶち壊してしまいたかったのは、自分自の人生だったというのに。

「シャルロッテ、ポンコツって、言ってごめん」

シャルロッテが、笑った気配がした。

「なによそれ」

「ロスから、オレを助けてくれたんだろ。それに、今だって、アーサーを撃っただろ。シャルロッテは、全然ポンコツなんかじゃない」

「そうじゃ、ないわ。わたし、好きだったの。ロスさんのこと、本當に、好きだった。本當に、本當なんだから。彼の目に、しでもわたしを、映したかった。だけど、だめだったなぁ……」

の聲は震えている。

「自分をせない人間が、誰かにしてもらえるわけなかった。ありのままの、自分じゃだめだった。死にたいって、思う人間が、生きてちゃ、だめだった」

涙のひとしずくが、ミシェルの首に落ちた。

「違うよシャルロッテ」

の言葉を否定しなければならないという、強い思いがあった。

「違うと思う。そんなの、頭でっかちの理想しか見ない奴が言う言葉だ。本當は、逆なんだ。

誰かにしてもらえて、初めて人は自分をせるんだ。必要としてもらえて、初めて自分が大切になるんだ。シャルロッテのせいじゃない。全然、違うよ」

ヴェロニカは、ロスは、ミシェルを必要としてくれていた。時に勝手に、時に本心から。

「ヴェロニカさんと、食べたあの、……。すごく不味かったけど、すごく、味しかった……。なんで、あの時、そう思ったのか、やっと今、分かった」

シャルロッテは言葉を続ける。

「わたし、嬉しかったの。ヴェロニカさんが、わたしと向き合ってくれて。わたしのこと、ただのわたしとして見てくれて。ねえ、信じられる? わたしのこと、勇気があるって、褒めたのよ? ……どうしたら、あんな人になれるんだろう……」

まるで話している間は、命が続いていくとでも思っているかのように、彼の言葉は止まらない。

「ミシェル、前に、言ってたでしょう? 聖は死んだから、祭り上げられるんだって。わたしも、死んだら、誰かに見つけてもらえるのかしら。本の、聖になれるのかしら……」

「あれ、噓だ。オレって捻くれてるから」

即座にミシェルは言った。

「死んで崇められてどうするの。本當は、生きてる奴が、一番偉いんだよ」

アーサーは銃弾が一発だけった拳銃を持って殺したの墓に訪れた。

彼はあの日、自ら命を絶とうとしていたのだ。

ミシェルが彼と出會って生き延びたように、彼もまた、ミシェルと出會って今日まで生きた。

彼は優しかった。兄のように、親のように慕っていた。笑い合った日々だってあった。ミシェルのを案じ、心から寄り添ってくれたことだって、あったのだ。

――全く無責任だ。

この、社會という奴は。

まず産み落としておいて、死ぬな生きろと言う。

「……じゃあ、責任取ってくれるのかって話。幸せになれるって保証もないのに、生き続けるのってしんどいだろ。

命は大事だとか、生きなきゃだめだとか、勝手に大人たちは言ってくる。じゃあお前は、この苦痛を終わらせてくれるのかよ」

今まで孕んできた怒りが、雪の中に浮かんでは消えていく。

「くれるわけない、でもしょうがない。だってこれは、他の誰のものでもない、オレの人生なんだから」

憎しみを込めた瞳で世の中を見つめて來たが、己の道を切り拓くのは己自だと気がついてしまった。與える人間になることの喜びを知ってしまった。

シャルロッテも、同じ葛藤を抱えている気がした。過去犯した罪が、今になってのしかかる。

「わたし、変なの。あれほどんだ死があるのに、全然、死にたくないの」

ミシェルのも、限界が近い。を失いすぎたし、今すぐに倒れてしまえたら、どれほど楽だろうと思う。

それでも歩みを止めなかった。

「もし、二人して生きていたらさ。今度こそ……本當に求めていた生き方をしてみようよ」

「今更、できるの、かしら」

「できるよ! 生きてやろうよ。戦い抜くんだ。生き抜いて、思い知らせてやるんだ。オレたちは誰にも従わない兇悪な獣なんだってことを。そして死ぬときさ。オレはちゃんと生きたって、を張りたい。どんな大人になったって、自分を誇っていたいんだ」

「あ(・)の(・)人(・)みたいなこと、言うのね」

シャルロッテが、笑ったような気がした。

「宛てがあるの? どこへ、行くの? どうやって生きるつもり?」

先ほどよりも楽しそうな彼の聲に、ミシェルも嬉しくなった。

「さあね。決めてるわけないだろ? だけど、きっとなにがあってもへっちゃらだ。人生なんて、案外どうってことないって、あの二人を見てたら思うだろ?」

城が更なる発をしたのか、一際大きな炎をじた。

出會いが運命を変えるのだろうか。あの二人を知り、ミシェルは前のミシェルではなくなってしまった。

またいつか、どこかで會うことがあるだろうか。願わくば、會いたい。そのとき、どんな話をしようか。

想像して、ミシェルは笑った。

「昔の人だって、こう言ってたじゃん。“後は――……”」

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