《キチかわいい猟奇的とダンジョンを攻略する日々》そんな裝備で大丈夫か?

罪人『日比野(ひびの)天地(てんち)』

罪名『殺人罪』

判決『無期攻略』

「俺らの仕事も楽になったよな~。囚人の世話なんてクソだりぃことしなくて、ダンジョンにぶち込んどきゃいいんだしよ」

「だなぁ。生きる意味も価値もねえクズが社會貢獻できる上に、食費とか施設維持費とか無駄な経費もかからない。そして何より、俺らの仕事が減る。すげえ畫期的なシステムだよな」

後ろを歩く二人の看守が、俺の存在などまるで気にも留めず……いや、あえてイヤミとして聞かせているのか、笑いをえて聲高に話し続ける。

「最初はガチでやべーんじゃねーかと思ったけど……いやー、結果的にはダンジョンさまさまってじだな。今じゃ余裕で定時に帰宅できるしよぉ」

「ホントホント。ゴミ捨てするだけとかマジでチョロイわー」

「ゴミ捨て! それウケる! 俺たち看守じゃなくて、囚人をダンジョンにポイポイ捨てるゴミ処理係ってか、アハハハハッ!」

――うるせえなぁ……。

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この會話、録音してネットにばら撒きてえ。

まあ、それができないって分かってるからベラベラしゃべってるんだろうな、コイツら……。

死ねばいいのに。

発寸前までストレスを溜め込みつつ、何とか後方の雑音を遮斷しようと努力しながら、ダンジョンの口へと続く廊下をひたすら歩いた。

「つか、無駄に遠いんだよ。どうせ囚人……いや、ゴミで蓋してんだからモンスターも來ねーんだし、もっと近くにしとけよなーマジで」

「それな。だりぃよなー毎回毎回。……おっ、ようやく見えてきたぞ」

やっと著いたのか……。

長い長い廊下の先にあったのは、鋼鉄……かどうか定かではないが、いかにも固くて頑丈そうな扉だった。

「生認証オッケー、セキュリティカードオッケー、パスワード力……と。これもいちいちメンドくせ」

何やら々と複雑なロック解除の作業を行うと、ゴゴゴゴゴと重々しい轟音とともに仰々しく扉が開かれた。

その奧には……えぐるように穿たれた、巨大ながあった。

剝き出しになった地面にポッカリと空いたの広さは直徑二十メートルに達し、それを扉と同じ素材と思われる壁で厳重に取り囲んでいる。

これが……ダンジョンの口、か……。

「おい! えーっと、名前なんだっけか……ガキ! ほらよっ、決まりだから一応くれてやるよ」

そう言って、看守は無造作に俺の足元に何かを放り投げた。

剣だ。

一メートル程度の、簡素な剣だ。

ゲームだったら序盤に格安で売ってる類のヤツだ。

「どーせすぐ死んじまうだろうからもったいねーけど、冥土の土産に持ってけや。せいぜいソレでモンスターの一匹でも倒して、役に立ってから死んでくれよ」

後ろ手にはめられた手錠が暴に外され、俺は剣を拾い上げようとする、が……。

お、重い……!

マジかよ、こんなチャチな剣なのに。

金屬バットよりちょい重い程度の重量を想像してたのに、ところがどっこいだよ。

これを自由自在にるゲームの主人公、マジリスペクト。

呼吸を荒くし、必死に両手で剣を抱えてフラつく俺を見て、看守の嘲笑のボリュームが一段階上がる。

「おいおい大丈夫かよ? 見るからに貧弱そうなガキだと思ってたけど、やっぱダメだな、こりゃ。邪魔だからって他の囚人にぶっ殺されちまうんじゃねーの?」

「こんな奴が人殺しだなんて信じられねーよなぁ。犬か貓の間違いじゃねーの、アハハハハハッ!」

好き放題言いやがって……くそっ。

死ねばいいのに。

ぶった切ってやりたいところだが、こんなもん振り回せねえし……。

えーっと、つまり、アレか。

この貧相な剣一本だけを持ってに飛び込み、恐ろしいモンスターが蔓延る未知のダンジョンを攻略しろってことか。

なるほど、把握。

って、いやいやいや、どう考えても無理ゲーすぎるだろ。

せめて拳銃とかさ……科學が発展した今のご時世、もっとマシな武がどんだけでもあるだろうが。

もったいない神なのか、郷にっては郷に従う武士道神なのか知らねえけど、頭おかしいだろ。

いくら犯罪者だからって、あまりにも非人道的な仕打ちだ。

こんな制度ができるなんて、いよいよ日本は狂ってやがる。

最後に、捨て臺詞として罵詈雑言の一つでも浴びせてやろうか。

……と考えてはみたものの、悲しいかな、ボキャブラリーが貧困なため何も思いつかない。

加えて、正直かなりビビってて余裕が全くない。

よって、黙っての方へ振り向く。

我ながらけないとは思うよ。

ここまで言われて何も言い返さずにチワワみたいに震えてるんだから。

でも仕方ないだろ、俺は一介の高校生なんだぜ?

そして相手は二人、しかも大人。

っていうか、暗くて見えないんだけど……この、落ちたらやばくね?

モンスターとエンカウントする前に墜死じゃね?

「ちっ! さっきから黙りやがってムカつくなぁ。オラ、さっさと行けや!」

イラついた看守が俺の背中を思いっきり蹴り飛ばす。

その勢いで俺のに向かって――――。

えっ!? ちょ、まっ……! まだ心の準備が……ッ!

慌てふためいて手足を必死にばたつかせるが、剣の重さも手伝って俺はどこまでも続く暗闇にあっけなく吸い込まれていった。

「う……うわああああああああああああああっっ!!」

ちっ……くしょう……。

俺はただ、平和で平穏な日常をんでいただけなんだけどなぁ。

ままならねえなぁ、人生は……。

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