《キチかわいい猟奇的とダンジョンを攻略する日々》この世の全ての食材に謝を込めて……いただきます!

「ふぉおおおおおおおおおおっ!!」

意識を取り戻し、俺はんだ。

やべえええええええっ、寢てた!

完っ璧に寢てた!

何で寢れるの? 馬鹿なの俺!? つーか大馬鹿だよ俺!!

でも、だって、仕方ねーじゃん。

どうせ、ずっと寢ずに過ごすのは不可能だし。

疲れたし、あったかいし、目の前ですっごい気持ちよさそうに寢られたら、もう……もう……。

もしかして死んだ? 俺死んだ?

一気に覚醒して堂々と言い訳をし、瞬時に周りを見渡す。

……うん、天國でも地獄でもない。

寢る前と変わらず、しい泉に囲まれた謎の水晶のそばだ。

……ただし、凩がいない。

サーーッと顔が青ざめるのが自分でも分かった。

ああぁぁ……神よ、我を救いたまえ。

呑気に寢ていた分際で言いにくいけど、置き去りとは何とむごいことを。

そうだ、この魔法道、番い結びの羅針盤を壊して凩組長に知らせれば……。

間違いない、二百パーセント呆れられて怒鳴られて毆られる。

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だが……だが……背に腹は代えられない……。

「にゃっはははぁあ! ふぉぉおってふぉぉおって、オモシロぉぉぉいいっ」

あ。

凩がいた。

普通に、俺の背後であぐらをかいて座ってた。

なんてこった……コイツがいることで、こんなにホッとするとはな。

まさか、神不安定なのおかげで神が安定するなんて思わなかった。

心なしか、最初に會った時の數倍は可く見えなくもない。

を言えば、の滴る生にかぶりついてなければもっと可い。

「うにゅぅぅぅうう? タベるぅぅうぅ??」

「あ、いや……。そ、それ、ひょっとして、昨日のオルトロスの……?」

「そぉぉそぉぉお。おテテぇにぃぃおアシぃにぃぃ、いいいっぱいだからぁオイシぃぃぃだからぁぁあ、はぁいアアアアアーぁンっ」

「え? い、いやいや、えーっと、その……」

言葉が通じた。

しかも、食べを分けてくれるみたいだ。

相変わらずニマニマと楽しそうに笑いながら、あーんして両手に持ったドデカイを食べさせようと俺の口に突き出してくる。

これが手作りのお弁當で、彼の手や口の周りがだらけでなく、小さなフォークに刺したタコさんウインナーだったら、俺は「あーん」と言って素直に大口を開けたかもしれない。

でも、これは無理だ。

初めて會話らしい會話をして、おそらく大切であろう食べをくれるに対して失禮かもしれない。

でも、これ生だし。

明らかに、食べたらヤバイだろ。

すげー臭いし。

置き去りにされなかった嬉しさや、人間らしいコミュニケーションができるありがたさも吹っ飛ぶくらい、この生からは危険な匂いがする。

コイツが食べてるから大丈夫か、と安易な判斷を下せないインパクトがある。

しかし、腹は減った。

思えば、ダンジョンに來てから何も食べてない。

ベースに食べらしきがあったから、狩りの前に食べとけばよかったなぁ。

「…………あ~~……ありがと……」

「どぉぉぉいたしまぁぁしたぁぁぁぁあぁあぁぁあ♪」

とりあえず、俺はけ取った。

の子のあーんを斷る日が來ようとは、人生何があるか分からんな。

凩は全く気にする様子もなく、再びをかじりだした。

てか……うへぇー、何だこれ、気持ちわるっっ。

素手でコレはきっついわぁー。

にわか料理人の俺でも、顔をしかめざるを得ない。

ちゃんと抜きしてキレイに捌いた鶏や牛とは一線を畫するえげつなさだ。

せめて洗って焼かないと無理だな、こりゃ。

とはいえ……焼こうにも、ガスコンロもIHクッキングヒーターも鍋もフライパンもない。

當たり前だけど。

「な、なあ凩。これ、焼いて食べたいなーとか思うんだけど、火とかって起こせたり……する、わけない、よなぁ……」

「ん~~~~ぅんん?」

そんな都合よく火が使えりゃ苦労しないか、と思いつつダメ元で聞いてみる。

すると、凩はきょとんとした顔をして首をかしげた後、小さく「ぁぁ~」と呟いて前方を指さした。

その方向……ちょうど口の脇の壁際に、よく見ると薪のようなが大量に積まれていた。

「おおっ! あんなもんがあるとはラッキー。ありがとう、凩」

何であるのか分からんが、神よ、謝します。

小走りで近寄ってみると、薪だけじゃなくナイフと火打石まで置いてあった。

至れり盡せりとはまさにこのことだ。

もしかしたら、先輩囚人様方がここを中継地點とか休憩場所とかにしているのかもしれない。

水もあるし暖房もあるし、ここは聖地であったか。

「よーーっし、いっちょ料理でもしてみるか!」

田辺さんから、魔が食えるという報は聞いている。

というか、それがダンジョンでの主食らしい。

一応、そこかしこにキノコやら植は生えているし、ベースでは野菜の栽培もしているらしいのだが、基本的には魔を食べるとのことだ。

それを聞いた俺は、食文化の違いでホームシックに陥る外國人の気持ちを一瞬で理解してしまったわけだが、一方で「ちょっと食ってみたいなぁ」という気にもなっていた。

なあに、イナゴの佃煮や蜂の子の延長線上だと思えば、さほど敬遠することもないさ。

オークとかスライムはごめんだけどな。

慣れない手つきで散々格闘した末、ようやく火を點け、を泉で丹念に洗う。

その間、凩はポケーっとした顔で興味深そうにこちらをじっと見つめていた。

生で食っちゃう凩にとっては、「何やってんの、マジウケるんですけど(笑)」ってじなのだろうか。

さて、食材オーケー、火もオーケー。

後はフライパンでもあればいいんだが……。

と思ったら、あった。

薪のすぐ近くに、フライパンが。

かゆいところに手が屆くラインナップ、いやあ激の極みだ。

流石に某有名メーカーの高級品ではなく、魔につけていた金屬防の破片を叩いて曲げて組み合わせて、それっぽいじにしただけのお末なだが、十分に使えそうだ。

早速、を細かく切って焼いてみた。

この時點で、もはや完全に見た目はうまそうな熊だ。

何人も慘殺したオルトロスの足とはとても思えない。

いや、うん、そうだ、これは熊だ、そういえばそうだった、失念してた。

……そう思って食べよう。

懸命に暗示をかけたところでミディアムに焼き上がったので、いよいよ実食。

ナイフを突き刺して豪快にかぶりつく。

…………ふむ……これは……。

うまいっ!!

ちょいとくて臭みはあるが、思いのほかジューシーながたっぷりで、濃厚な旨味がガツンとじられる。

何とも野味あふれる質で、噛めば噛むほどパワーがみなぎってくる。

こいつぁ悪くない。

いや、最高だ! トレッビアーーン!

ダンジョンでこんな上等なを食えるとは夢にも思わなかった。

そうして、俺が舌鼓をガンガンと軽快に打ち鳴らしながら至福の時を過ごしていると……。

いつの間にか、凩が俺の隣にちょこんと座ってを覗き込んでいた。

目を輝かせて、が空きそうなくらい。

「ふぉぉおあああああっ! ナニナニナぁぁニそれぇぇええっ、すっごぉぉぉいすっごおおおおおおいぃぃっ!!」

凩はめちゃくちゃテンションが上がっていた。

オルトロスを切り刻んでいた時と同じくらい。

「ねぇえねぇぇええええ、ちょーだいちょーだぁぁあああいぃぃっ! アーンアアぁぁぁあぁンっっ」

「……お、おう…………」

雛のように口をパクパクさせる凩。

あまりの勢いに気圧されながら、をふーっと冷まして凩の口にシュート。

の子にあーんをする日が來ようとは。

「んんんんぅぅぅううんんっ、オイっシぃぃぃいいいいいいっっ♡」

凩は両手を頬に當てて大げさにもぐもぐと咀嚼し、ぷるぷるとを震わせると、天を仰いで歓喜の聲を上げた。

……いやいや、どんだけ!?

ただ焼いただけなんですけど。

この子には調理するっていう概念がねえの?

それもう、原始人以下じゃねーか。

調味料とかも使ってねーし、そんなに喜ぶほどのことじゃ……。

――――あっ。

そういえば俺のスキルって……。

俺は、ふと思いついて、に手を近づけて、とある単語を口に出してみる。

そう、覚えたてのスキルの名前を。

「……Seasoning(シーズニング)!」

すると、驚くべきことに、俺の手から白と黒のがふわりと舞い降りた。

もしかして……と指に當てて舐めてみると……。

塩とコショウだった。

何このスキル、便利! 素敵!

やっぱり戦闘の役には立たないが、使えねーとかディスってマジごめんなさい。

……ただ、魔法というにはカッコ悪いっつかショボイけど。

塩コショウにする俺を見ていた凩は、我慢できなくなったのか、ナイフをひったくると大きく口を開けてを頬張った。

「――――!!」

瞬間、凩は雷に打たれたような顔をしてビクッと背筋をばし――。

「ふにゃぁぁぁぁああ~~~~ぁあぁぁ……♡」

力が抜けるような聲を吐き出して、とろんとした目を中空に向けながら、仰向けにバタンと倒れた。

なんちゅうリアクションだ。

料理漫畫じゃねーんだぞ。

確かにうまいけども、ただ焼いて塩コショウかけただけなんだけどなぁ。

でも、まあ……。

あの殘非道、冷酷無比、理解不能で猟奇的な凩マユが、俺が焼いたでこんなに喜んでくれるってのは、何というか……単純に嬉しい気もする。

ドヤァってじだ。

思わずニヤついてしまう。

俺はし得意げな笑みを浮かべて、フライパンに殘ったを口に運ぶ。

それにしても……。

こうして見ると……コイツがオルトロスを喜々としてブッた斬った人間とは到底思えないな。

相変わらず表はアレだけど、年相応の、普通に可の子だ。

……って、何歳か知らないんだけどね。

顔は似てないのに、なぜか芽を思い出す。

背格好が似てるからだろうか。

し……。

ほんのしだけ、傍らで橫たわるに親しみをじながら、俺はオルトロスのを完食した。

ごちそうさまでした。

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