《キチかわいい猟奇的とダンジョンを攻略する日々》萬策、盡きたー

私は、ここ一年、一回も學校に行ってない。

別に、學校生活に問題は、なかった。

例えば、イジメられてた、とか。

無視されてた、とか。

勉強ができなかった、とか。

そういうのじゃ、ない。

……今はもう、勉強はできないけど。

きっかけは、本當にちっちゃなことだった。

一週間、インフルエンザで、學校を休んだ。

普通に寢て、普通に治って、普通に學校に戻れば、何も問題はなかった。

だけど、長引く微熱と退屈から、私は四六時中、オンラインゲームにのめり込んでた。

特に珍しくもない、休日の過ごし方なのだが、ゲームの友達は、私がインフルエンザだと聞くと、とても心配して、気遣ってくれた。

ちゃんと加してる?

こまめに水分とっとけよ~。

大丈夫? 寢た方がいいんじゃない?

はちみつヨーグルト食え! はちみつヨーグルト!

逆に考えるんだ、「學校休めてラッキー」と考えるんだ。

ただの社辭令だった、かもしれない。

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実際には、どうでもいいと思ってた、かもしれない。

所詮、ほんのちょっと指をかして、畫面に打ち込まれた、無な文字列だ。

それでも…………。

それでも、學校では、建前でも、私を心配してくれる人は、いない。

治って、學校に行っても、何も言わないし、言われない。

もちろん、お見舞いなんて、誰も來ない。

……來られても、戸うし、気まずいし、めんどくさいけど。

その時、私は思ったのだ。

私が、いるべきなのは、ここなんじゃないか、って。

無口で、無想で、誰にも必要とされず、いてもいなくても何も問題ない。

そんな自分を、変えられない自分。

そんな自分でも、ここなら……ゲームの中でなら、変わることができる。

気軽に話せる友達だって、何人もできた。

私はみんなが必要だし、みんなも私を必要としてくれる。

そうして、私は、今の私になった。

今では、すごく後悔してる。

私は、辛いことから逃げる、バカで、おろかで、弱くて、無能で、言い訳ばっかりで、嫌になっちゃうくらい救いようのない、ダメな子どもだったと。

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でも、勇気のない私には、もう戻ることはできなくて。

時間が経つほど、心が弱くなっていって。

何もかも、どうでもよくなっていって。

気持ちを閉ざし、ただ無意識に、その日その日を無駄に過ごして……。

ふと、気づいた時……お父さんとお母さんが、倒れてた。

何があったか、全然覚えてない。

きっと、正しいことを言われただけだ。

きっと、私が悪かったのだろう。

冷たくなった両親から、青ざめるお兄ちゃんから、私は、また逃げようとした。

逃げてばっかりだ、私は……。

だけど、お兄ちゃんは、言ってくれた。

こんな私を、助けたいと。

嬉しかった……。

嬉しかった……けど、ごめんだけど、不安でいっぱいだった。

お兄ちゃんは、いつも、絶対クリアできるクエストしか、やらない。

堅実、安全、平和が一番だって、よく言ってる。

それなのに、お兄ちゃんは、すっごく雰囲気に、流されやすい。

勝てない勝負にだって、場の空気に合わせて、ノリノリで挑んだりする。

良く言えば、協調がある。

悪く言えば、主がなくて、流れに逆らう度がない。

だから、今回もそうなんだと思った。

無理だって本當は分かってるけど、家族として、兄として、仕方なく、そうするのが正しいって、思い込んでるだけで、そうしたいわけじゃない。

助けたいっていうのは、本心なんだろうけど……本意じゃないんだ。

……なんて、偉そうに言う私は、もっとダメだ。

今日まで、ずるずる言い訳して、これからのことも、お兄ちゃんに任せきりで。

だって、私なんかをかばう、お兄ちゃんの言うことに、反対する理由も、意味もないから。

どうせ、もう何をしたって無駄だから……。

そう、思ってたけど、お兄ちゃんの考えた計畫は、すごく順調だった。

全部、言ってた通りになって、一週間が経った。

でも……。

このまま、罪を償うことなく、生きてもいいのかな……。

――そんな安息も、悩みも、バッサリと打ち切られた。

私が、お父さんとお母さんを殺めてしまってから、十二日が経過した日の夜。

私とお兄ちゃんは、逮捕された。

生まれて初めて乗ったパトカーで、生まれて初めて連行された警察署。

そこの一室の、小さな取調室。

アニメや漫畫でよくあるような、デスクライトが一つ置かれた、簡素なステンレスの機。

私達は、そこに並んで、無言で座ってた。

隣をそっと橫目で見ると、お兄ちゃんは顎に手を當て、真剣な顔で俯いてる。

張してるようにも、慌ててるようにも、不安なようにも、見えない。

何を考えてるんだろう。

この狀況を、どう思ってるんだろう……。

しばらくすると、眼鏡をかけた背の高い男の人が現れ、らかな笑みを浮かべながら、沈黙を破った。

「いやあ、待たせてしまってすまないね」

年齢は三十臺半ば、くらいかな。

綺麗に整えられた髪に、穏やかな聲に、筋のない細

警察というより、銀行員のような人だ。

「さて……まずは素直に付いてきてくれてありがとう。私は警察本部捜査一課管理の……いや、自己紹介はよそうか。私のことは『刑事さん』と呼んでくれればいいよ」

そう言って、刑事さんは私たちの向かいに、ゆっくりと腰を下ろした。

「ああ、あまり気構えなくていいよ、天地君、芽君。これまでの事聴取と同じように、ちょっとお話をさせてもらうだけだからね。ほら、お茶どうぞ。なんならカツ丼も出そうか? ははは」

正直、怖そうな男の人に囲まれて、睨まれて、怒鳴られると思ってた私は、思いのほか優しそうな刑事さんに、ほっとして、自然と肩の力が抜けた。

お兄ちゃんも、そう思ったのか分からないけど、びっくりするくらい、ふてぶてしく、ぶっきらぼうに、刑事さんの言葉に答える。

「……この狀況でリラックスなんてできませんよ。そんなことより、逮捕ってどういうことなんですか? 俺達は親を殺されて家を燃やされた被害者なんですよ? ちゃんと説明してください」

お兄ちゃんの態度を、意外にじたのか、刑事さんは何度か目を瞬かせて、苦笑する。

「はは、これは失禮した。それじゃあ、ご希に沿って早速本題にらせてもらおうか」

刑事さんは姿勢を正すと、真面目な顔をして、私とお兄ちゃんを互に見つめて、言った。

「斷言しよう。君たちはご両親を殺害し、それを隠蔽するため、家に火を點けた。……そうだろう?」

ドキッと、心臓が跳ね上がる。

完全に、バレてる。

なんで?

どうして?

すでに逮捕狀が出てる時點で、ある程度は覚悟してたけど、ここまで確信を持って斷言されるとは、全く思ってなかった。

私は、揺が顔に出ないように、をきつく噛み締める。

「…………なんでそんな結論に至ったのかサッパリ分かりません。事聴取の時に答えた通り、俺達は無実です。言いがかりはやめてください」

平常心を保つことも難しい私と違って、お兄ちゃんは平然とシラを切る。

「言いがかり……ね。じゃあ、逮捕に繋がった拠を一つずつ話そうか」

対する刑事さんも、まるでじない。

眼鏡を持ち上げて、出來の悪い生徒を諭す先生みたいな口調で、語りかける。

漫畫なんかだと、こういうインテリ風の刑事は、見た目の割にトンチンカンな推理をするキャラ、だったりするけど、この人はどうだろう。

まだ若いのに、管理……って言ってたから、階級は多分、警視。

きっと、キャリア組の、エリートなんだろう。

落ち著いた雰囲気もあって、すごく頭がよさそうに見える。

私は、下手にしゃべらない方がいい、かもしれない。

「まず、最初におかしいと思ったのは侵経路だ。君たちは、犯人がどこから家にったと思う?」

「……窓からなんじゃないですか? まさか玄関から『こんにちは、今日もいい天気ですね』って気に挨拶しながらったわけじゃないでしょうし」

お兄ちゃんは、冗談めかして答えるが、続く刑事さんの言葉に、口をつぐむ。

「そうだね。事実、居間の窓には外から割られた形跡があった。でも、変だとは思わないかい? 君たちのご両親は家にいたんだ。會話はするだろうし、テレビも見ていたかもしれない。普通に考えて、侵する前に犯人もご両親も、お互いの存在に気付くはずじゃないか?」

「…………」

「不可解な點は他にもある。兇に使われた包丁は、この家ので間違いない、そうだったよね?」

「……はい、そうです。それが何か?」

「仮に犯人が気付かれず侵し、その後ご両親に出くわしたとしてもだ。果たして、二対一の狀況なのに逃げず、あろうことか兇を探しに臺所まで行くかな?」

「…………」

「さらに、には刺し傷以外に目立った外傷はなかった。つまり、ご両親は家に押しった怪しい男を相手に、武を持って撃退するどころか、ろくに抵抗もせずに數十回も刺されたことになる」

「………………」

気付かなかった。

まさか、ほとんど焼け落ちて、証拠がなんにも殘ってない狀況から、そこまで推理されてしまう、なんて……。

お兄ちゃんが、犯人の仕業に見せかけるために、わざと窓を割った時は、なるほどなあ、すごいなあって、思ったのに。

「……もしかしたら、犯人はうちの親と知り合いだったんじゃないですか? 普通に招かれて家に上がり込んで、隙を見て殺した……とか。そう考えると筋が通りますよね?」

予想してた通り、なのかな。

それとも、こんなはずじゃなかった、のかな。

さっきから、変わらない調子でけ答えする、お兄ちゃん。

「そうだね、その可能はあるだろう。なかなか鋭いな、天地君は。警察に向いてるんじゃないかい? ただね……捜査を続けているうちに、徐々に違和を覚えてきたんだよ」

「…………」

「近辺の監視カメラに事件後の犯人と思われる人がはっきりと映っていたんだが……まず疑問にじたのは、マスクに帽子、サングラスという、あからさまに怪しい格好をしていたことだ」

「……いや、単純に顔が映ったり誰かに目撃されたらまずいと思ったからじゃないですか?」

「それなら監視カメラや人通りの多い場所は避けるはずだ。しかし犯人はそうじゃない。むしろ、不審な格好をしてわざと人目につくように行しているみたいじゃないか」

「…………」

「逃走後、兇と服を河川敷に放棄したのも妙だった。証拠を持ち帰りたくないのは分かるが、川底に沈めてしまった方がいい。まるで、発見されないと困ると言わんばかりだ。これはもう、自分の存在をアピールしているとしか考えられない」

「そんな馬鹿な、深読みしすぎですよ。ただの間抜けだったんじゃないですか?」

何とか言い逃れようとするお兄ちゃんと、その言葉を否定して、じわじわと追い詰める刑事さん。

私は、その様子を、ただただ黙って見てることしか、できない。

お腹が痛い……。

「気になることはもう一つ……。事件後に、現場から遠ざかる犯人の姿は數多く殘されていたにもかかわらず、事件前の犯人は一切映っていなかったんだ」

「……犯人は犯行後、返りで汚れた自分の服を燃やして、父さんの服に著替えてから逃走したんですよね? 事聴取の時に見せてもらった服は確かに父さんの服でした。犯行前はマスクとかもしてなくて、それで映像じゃ分からなかっただけじゃないですか?」

「服裝をいくら変えたところで、長や格、歩き方からある程度は推測できる。間違いなく、犯行前にそれらしき人はカメラに映っていなかった。それに、心理的に考えて犯行後はなおさら警戒心が強くなってしかるべきだ。つまり、何が言いたいかと言うと……」

そこで、刑事さんは一旦言葉を切り、改めて私達の顔を、じっと見つめた。

「被害者に警戒も抵抗もされない間柄で、なおかつ犯人の目撃報や映像がないと真っ先に疑われる人…………それは、君達以外にいない」

…………。

だめだ……。

もう、だめだ…………。

「実際に手を下したのがどちらかは分からないが……犯行後、犯人役になって逃げていたのは背格好からして天地君、君だろうね。ただ、君には犯行の機がない。こればかりは邪推になってしまうが、あるとするならば……」

刑事さんの目が、引きこもりの私を、捉える。

ここまで、だよね、お兄ちゃん……。

言わなきゃ……私が……私が……。

「わた――――」

「あ~~~~あ、バレちゃいましたか……。仕方ない、正直に白狀しますよ」

……え…………?

「両親を殺して、妹を脅して協力させて、まんまと罪から逃れようとしたのは……………………俺です!」

な……なん…………で…………。

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