《キチかわいい猟奇的とダンジョンを攻略する日々》立って、歩け。前へ、進め。
私が、かすれた聲で罪を告白しようと、口を開いたところで。
これまで何とか逃れようと、刑事さんの言葉を否定し続けてたお兄ちゃんが、突然、自供した。
自分が両親を殺し、私を脅して協力させたという、噓を。
「……隨分あっさり認めるんだね。意外だったな……私はまだ、狀況証拠しか言ってないのに」
「いやー、俺は無駄なあがきをしない合理的な人間なんです。このまま無意味にチクチクじわじわ攻撃され続けるなんて馬鹿らしいじゃないですか。それに、これだけ調べてるんなら、どうせ決定的な証拠もあるんでしょ?」
お兄ちゃんは、肩をすくめて、観念したように、両手を広げた。
分からない……。
お兄ちゃんが、何を考えてるのか、全然、分からない。
「ご明察……と言っても、現段階では天地君。殘念ながら君に関する報しか集まっていない。……私の勘では、芽君が今回の主犯だと睨んでいるんだがね」
「……なるほど……ちなみに、冥土の土産に教えてもらってもいいですかね? 警察が摑んでることを全部。後學のため、ってわけじゃなくて、単純に、そのー、知的好奇心からなんですが」
「はは、冥土だなんて大げさだなぁ。私もダンジョンには行ったことがないから知らないけどさ。まあ、どのみち全て話してから真偽を問うつもりだったから構わないよ。せっかく淹れたお茶も飲んでもらいたいしね。茶だけど」
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刑事さんが、笑顔で差し出したお茶を、「あ、どーもどーも」って言って、のんきにゴクゴクと飲む、お兄ちゃん。
場の雰囲気が、取り調べから一転、和やかな談笑みたいになった。
空気が、軽い。
私を除いて。
「さて……天地君は、攜帯でゲームをやってるかい? ほら、以前に流行ったじゃないか。GPSによる位置報を利用して現実世界を歩き回り、モンスターを捕まえるっていう」
「あ~、位置ゲーってやつですか。まあ、それなりにやってますけど」
「私も多嗜んでいるんだが、なかなか興味深いね、あれは……。おっと、何が言いたいかと言うと……我々警察は令狀を持って申請すれば、捜査対象の位置報を攜帯電話會社から取得することができるんだよ。例えば、君が事件當日の何時何分、どこにいたのか……とかね」
G、P……S…………。
う、そ……そんな……うそ……………。
お兄ちゃんは當時、まだ學校にいたって、証言してる。
そ、それじゃあ、お兄ちゃんが、本當は家に帰ってきてたことも、放火の直後に出て行ったことも、全部……全部……。
「うわー、そうかぁ……それは全く気付きませんでした。あはははは! いやぁー納得だ!」
深くて暗い、水の底に、ずぶずぶ沈んでくような気持ちの、私と違って、お兄ちゃんは楽しそうに、からからと笑った。
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アニメの最終話を、見終わった後みたいに、満足した顔で。
強いボスを、苦労して倒したみたいに、やりきったじで。
「念のため、君が毎日通っているスーパーで聞き取りをして裏は取らせてもらったよ。まあ、早々に犯行を認めてくれたおかげで、結果としては無駄になっちゃったけどね」
「はは、それはお手數をおかけしました。……で、他に何か分かってることは?」
「そうだね……君が噓をついていたとなると、考えられる真実は多くない。天地君と芽君の両方が殺人に関與しているケースと、むまざるは別として片方がかばっているケース。このどちらかだ」
「……まあ、そうですね」
「とは言え、芽君はずっと家にいたためアリバイもなければ確たる証拠もない。強いて挙げるなら、事聴取の際の『両親と知らない男が爭う聲が聞こえた』というくだりだが……」
「そう言わせとけば完璧だと思ったんですけどね~。妹に虛偽の発言を強要したのって、もしかして何かの罪になります?」
「……當然ながら罪になるよ。本當にそれが事実であれば……ね」
――――!!
そう、か……そう、だったんだ……。
お兄ちゃんは、最初っから、こうなるって、分かってたんだ。
殺人を隠し通すなんて、無理だから……最初っから、私の代わりに、なるつもりで……。
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「真実ですよ。犯人がこう言ってるんですから間違いないじゃないですか」
バカだ、私は……。
本當に……本當に、バカだ。
お兄ちゃんなら、絶対にこうするって、気づけたはずなのに。
考えるのをやめて、ただお兄ちゃんの言う通りにするのが、きっと正しいことなんだって、自分勝手に思い込んで……。
「それじゃ、貴重なお話ありがとうございました。もう取り調べは終了ですよね? 後は煮るなり焼くなり好きにしてください」
言わなきゃ。
違いますって。
本當は、全部、私が悪いんだって。
言わなきゃ、いけないって思ってる。
思ってるのに、どうしても、口が、開かない。
「……まあ、正直なところ捜査も行き詰っていてね。君達が明日引越しだから、焦って逮捕に踏み切らせてもらったんだ、実は。……証拠が十分じゃなかった芽君には、特に申し訳ない話だが」
だめだ。
怖い。
自分で考えて、責任を持って、行することが、怖い。
誰かに、お兄ちゃんに、言われてないことをして、本當にいいのか。
自信が、持てない。
格ゲーで、ハメ技をくらった時みたいに、口をぱくぱくして、顔を真っ青にして、淺い呼吸を繰り返すのが、一杯……。
自分が本當に、嫌になる。
でも、ここで言えなきゃ、言わないと、お兄ちゃんが……。
「そういう事も鑑みて……君達がそうだと言うのであれば、ここで捜査を終えよう。警察としては徹底的に調べ上げるべきなんだろうが……私は未來ある二人の意思を尊重したいと思う」
普段なら、絶対に飲まない、すごく濃そうな緑茶を、口に含ませる。
広がる苦味が、水分が、私の背中を押してくれてる、気がする。
HPとMPを、全回復させた私は、力いっぱい、湯呑みを握り締めた。
「天地君が両親を殺し、芽君は仕方なく協力させられた……本當に、それでいいんだね?」
――いいわけ、ない……!!
「あ、あ、あの……! わ、わた、私が――――」
「芽っ!!」
「――――!?」
前のめりになって、必死に絞り出した、私の枯れた聲を、お兄ちゃんが、重ねて消した。
ここに連れてこられてから、初めて真っ直ぐ見つめる、お兄ちゃんの顔。
そこには、私にはない、強い心がこもった瞳と、かすかなほほえみが、あった。
「……悪かったな、々。絶対戻ってくるから、それまで待っててくれ。頼む」
なんで……なんで、そんなこと、言うの?
それで、いいの?
本當に、それが、お兄ちゃんのみで、正しいの?
……ううん、決まってる。
そんなわけ、ない。
「あ~それと、しばらく會えなくなるから言うけど……お前に借りてた本、學校に置いてきちゃったから取りに行ってくれ。ついでに、コーヒーこぼして汚しちまって……。なんつーか、マジごめん」
そんなわけ、ないのに……。
ダメ、なのに……。
「それじゃ…………元気でな、芽」
その目を見たら、気持ちを聞いたら、私は、空気の抜けた風船のように、小さく、しわしわにしぼんでしまって……。
うつむいて、頭の中も、目の前も、真っ暗になって……。
それ以上、何をすることも、言うことも、できなかった――――。
一週間後。
私は今、遠縁のおじいちゃん、おばあちゃんが住む家の、縁側にいる。
がスーっとして、ホッと落ち著く、木の香り。
ぽかぽかと、全を優しく包み込む、日の。
車の排気音も、ヘッドフォンからの音楽もない、心地よい靜けさ。
清々しく、穏やかな風が、寄り添うように、頬をでる。
「――って、普通はそう、思うんだろう、けど……」
がざわざわして、心がかきされる、木の香り。
ギラギラと、全を容赦なく焼き焦がす、日の。
車の排気音も、ヘッドフォンからの音楽もない、不自然で、不気味な靜けさ。
気持ち悪い、っぽい風が、そっけなく、頬を通り抜ける。
……何もかもが、気に障る、そんな狀況で。
私は、何をするわけでもなく、うっとうしく広がる田んぼを、不愉快なくらい澄んだ青空を、ただただボーッと、ため息をつきながら、眺めてた。
あれからすぐ、私は釈放され、お兄ちゃんは起訴された。
突然の逮捕で、一人ぼっちになった私。
そんな私を、おじいちゃん、おばあちゃんは、何も聞かず、屈託のない笑顔で、暖かく迎えれてくれた。
まだギプスが取れず、新しい環境にも慣れてない私は、心の靜養も兼ねて、しばらく學校には通わず、ゆっくり過ごしていいと、言われてる。
そうは言っても、パソコンはないし、攜帯は圏外だし、やることはない。
……ううん、仮に、ネット環境が充実してても、今は何も手につかない。
私は、ずっと、後悔してる。
あの時……私がやったと、告白できなかったことを。
言い訳にしかならないけど、言うつもりだった。
だって、お兄ちゃんは、何にも悪くないから。
こんなの、絶対、おかしいから。
だけど……。
お兄ちゃんの目を見て、言葉を聞いて、思ってしまった。
私が、しゃべったら、この気持ちを、裏切っちゃうんじゃないか。
失されるんじゃないか。
嫌われるんじゃないか。
……バカな私は、そう思ってしまった。
そんなの、いまさらなのに。
私が一人、勝手に悩んで、悩んで、納得できる言い訳を、都合のいい解釈を、正解のない問題の答えを、必死になって考えてる間に……。
お兄ちゃんの刑が、執行された。
昨日のことだ。
罪狀は、殺人、放火、死損壊、強要。
判決は、ダンジョンの、無期攻略。
起訴から、たったの六日。
あまりにも、あっという間だった。
ダンジョンが現れてから、法律の改正で、訴訟期間が、大幅に短されたこと、お兄ちゃんが、犯行を認めていること、控訴しなかったことが、判決を早めた。
ダンジョン攻略、って聞くと、元ネトゲ廃人の私には――おそらくお兄ちゃんにとっても――思わず、わくわくしてしまうけど、それが現実で、近になると、話は違う。
何十年かも分からない、長い、長い間、ずっとダンジョンの中だなんて……。
そんなの、死刑と一緒だ。
お兄ちゃんは、絶対に戻るって言ってたけど……無理だ。
それが噓だってことは、さすがに分かる。
噓をついたつもりじゃ、なくても、昔から運オンチのお兄ちゃんが、無事でいられるわけ、ない。
「私……これから、どうすればいいの、かな…………」
何気なく、ぽつりと口から出た言葉。
その相変わらずの、救いようのなさに、ハッと気づいて、ぽこぽこと頭を叩く。
どうして、いつも、そんな風に、考えちゃうんだろう。
他人任せで、自分じゃ何にもしないで、できなくて。
何が起きても、誰が何を言っても、私は結局、私のままだ……。
「こんにちはー、宅配便でーす!」
突然の來客に、がびくっと反応する。
……無視しよう。
引きこもり質が、まだ抜けてない私は、一秒でそう判斷した。
……いや、でも、ちょっと待って。
おじいちゃんと、おばあちゃんは今、畑に行ってる。
あれ? 田んぼだったかな……?
とにかく、今は家に、いない。
いくら私が恩知らずでも、こんな私の、お世話をしてくれてる人のために、荷のけ取りくらい、しなきゃダメだ。
勇気を振り絞って、郵便をけ取り、震える手で、何とかハンコを押した私は、冷や汗びっしょりのまま、畳の上に倒れ込んだ。
「……あの人、私のこと、変な目で見てた。絶対、そんなじだった。なんでだろ? どこか、おかしかったかな? どこも、おかしくなかったよね……?」
無駄に広い部屋の中を、ゴロゴロ転がりながら、ぶつぶつと、つぶやく。
……うん、落ち著こう、私。
もう、引きこもりは、卒業したんだ。
おじいちゃんと、おばあちゃんにも、心配はかけられないし、學校にも通わなくちゃ、いけないんだから、この程度のことで、揺しちゃ、いけない。
うん、平気。
生徒も十人くらいしか、いないらしいし、ケガが治ったら、すぐにでも……いや、キリが悪いから、來月に……ううん、來年度から……やっぱり、學校には行かずに、農業でも、しようかなぁ……。
何を考えても、うじうじと悩んで、最後には逃げてしまう私は、気を紛らわすように、配達された荷に、目を留めた。
「けっこう、軽かったけど……何だろう? これ……」
差出人を見ると、お兄ちゃんが通ってた、學校の名前が、書かれてた。
學校が、一、何を……。
気になった私は、封を開けて、中を取り出した。
「これって……たしか、お兄ちゃんの……?」
中には、お兄ちゃんが、いつも使ってた、スクールバッグがってた。
なんで……?
學校に、置きっ放しだったから、妹の私のところへ、送ってきた……?
でも、たしか、あの日……。
そうだ、あの日、たしかに、お兄ちゃんは買い袋と一緒に、これを持ってた。
あれから、學校には一日も行ってない、はずなのに、どうして……。
「わざわざ、學校に置いてきた……ってこと? なんで、そんなこと……」
もしかして……。
なんの確証もない、ただの勘だけど。
この中に、私へのメッセージがあるような、そんな気がした。
私は、バッグを開けて、逆さにして、ってるを全部、ぶちまけた。
……でも、中にあったのは、筆箱と、學生証と、數冊の教科書……だけ。
「あはは……。そう、だよね……」
當たり前だ。
特別なものなんて、あるわけ、ない。
分かってたのに、それなのに、すごくがっかりして、肩を落としかけた。
その時。
ふと、お兄ちゃんの言葉を、思い出した。
「そういえば……お兄ちゃん、私に借りてた本を、汚したとか、學校に置いてきたとか、言ってた。……あれ? でも、私は、お兄ちゃんに本なんて、貸して、ない……」
どういう、こと?
何か、ひっかかる。
RPGで、寶箱を取り損ねてるような、大好きな漫畫の、新刊の発売日を忘れてるような、そんな変なじが……。
私は、教科書のページを、ぱらぱらとめくり……そして、違和の答えを、見つけた。
數學の教科書……その間に、注意しないと気づかないくらい、目立たないように、一枚の紙が、四つ折りにして、挾まってた。
「間違い、ない……。これは、お兄ちゃんが、私に、殘しただ」
課金ガチャを引くみたいに、ドキドキしながら、私は、その紙を、ゆっくりと開いた。
そこには、急いでたのか、書きなぐったように雑で、何度も消した跡が殘る、それでいて、懐かしいような、どこか親しみの持てるような文字が、びっしりと並んでた。
芽へ。
お前がこの手紙を読んでいる時、もう俺は地上にはいないだろう――――。
……って、不謹慎だったな、わりぃ、マジでスマン。
どうしても一回やってみたかったんだ、これ。
お前なら分かるだろ?
まあ、それはさておき……今、お前はどんな気持ちだ?
怒ってる?
そりゃそうか、噓ついたんだもんな、ごめん。
後悔してる?
だろうな、俺がお前の立場でも、多分後悔するだろうな。
これからどうすればいいか、悩んでる?
やっぱりな、お前らしい……っていうか、誰でもそう思うよな。
俺に対して、々言いたいことはあるだろう。
自分に対して、々思うところはあるだろう。
俺も俺なりに必死に考えて、お前に天啓のごとく素敵なアドバイスをしてやりたいと思ってたけど……案の定、そんなナイスな言葉は殘せてやれそうにない。
ただ、これだけは伝えておきたい。
心のままに生きろ!
……なーんて、なんだかんだ流されやすい俺が言うのも笑えるけどさ。
でも、神に誓って言うが、俺は最初から捕まる気満々だったわけじゃない。
本気で警察を欺いてやるつもりだった。
この手紙も保険みたいなもんで、読まれることなく捨てる可能は十分あると思ってた。
俺は、結果としてはお前の罪を被ることになったけど、別に後悔はしてないし、むしろよくやったと自分で自分を褒めてやってもいい。
ピンチの妹をかばうとか、漫畫の主人公みたいでカッコイイじゃん?
モンスターが蔓延るダンジョンとか面白そうでテンション上がるじゃん?
ようするに、俺は俺がやりたいようにやって、今回のことも満足してるから、お前は気にせず好きに生きろってことだ。
つっても、こんな月並みの言葉並べても納得できねーだろうな。
じゃあ、俺が戻った時、好きなだけ罵倒でも懺悔でも謝でも何でもしろ。
長くなっちまったけど、俺が言いたいのは以上だ。
さくっと攻略して、俺の勇敢なダンジョン冒険譚を聞かせてやるから、お前もリア充になって俺に自慢してくれよな。
それじゃ、お疲れ様。
未來のダンジョン制覇者(予定)にして偉大なる兄、天地より。
……。
………………。
「……は……はは…………あははははっ!」
お兄ちゃんは、バカだ。
本當に……本當に、バカだ。
いつも、大事なことは言わなくて、噓ついて、カッコつけて、無理にお兄ちゃんらしくしようとして……。
真面目で、気が利いて、自分より周りのことを考えて、頼りになって、優しくて……。
「ありがとう、お兄ちゃん……。私、もう、大丈夫だから」
なんだろう。
長い……長い間、じたことのない、そんな気分だ。
なんだか、とっても、清々しい。
今まで、もやもやと、霧がかかってたのが、一気にパァっと、晴れた気がする。
吹っ切れた。
私はもう、迷わない。
私の心は、救われて、求めてる。
今度こそ、変わるんだ。
弱くて、逃げてばっかりで、自分じゃ何にも決められない、どうしようもないくらい、わがままな私から……。
正義を貫き、悪を裁く、強くて、明るくて、自分に正直な……勇者に!
だから――――。
「待つのは、私じゃないよ。私、決めたから……待っててね、お兄ちゃん」
ニジノタビビト ―虹をつくる記憶喪失の旅人と翡翠の渦に巻き込まれた青年―
第七五六系、恒星シタールタを中心に公転している《惑星メカニカ》。 この星で生まれ育った青年キラはあるとき、《翡翠の渦》という発生原因不明の事故に巻き込まれて知らない星に飛ばされてしまう。 キラは飛ばされてしまった星で、虹をつくりながらある目的のために宇宙を巡る旅しているという記憶喪失のニジノタビビトに出會う。 ニジノタビビトは人が住む星々を巡って、えも言われぬ感情を抱える人々や、大きな思いを抱く人たちの協力のもと感情の具現化を行い、七つのカケラを生成して虹をつくっていた。 しかし、感情の具現化という技術は過去の出來事から禁術のような扱いを受けているものだった。 ニジノタビビトは自分が誰であるのかを知らない。 ニジノタビビトは自分がどうしてカケラを集めて虹をつくっているのかを知らない。 ニジノタビビトは虹をつくる方法と、虹をつくることでしか自分を知れないことだけを知っている。 記憶喪失であるニジノタビビトは名前すら思い出せずに「虹つくること」に関するだけを覚えている。ニジノタビビトはつくった虹を見るたびに何かが分かりそうで、何かの景色が見えそうで、それでも思い出せないもどかしさを抱えたままずっと旅を続けている。 これは一人ぼっちのニジノタビビトが、キラという青年と出會い、共に旅をするお話。 ※カクヨム様でも投稿しております。
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