《キチかわいい猟奇的とダンジョンを攻略する日々》俺に変人コンビが舞い降りた!
「ウェーイ! マユー、ヒサしぶーりデース! ゲンキしてたデスかー?」
「ふふ、君は本當に神出鬼沒な子だね。まさか二層で會えるとは思わなかったよ」
「にゃっはははぁあぁあゲぇぇぇンキぃゲンキぃぃいぃだあよぉぉおおぉ」
青い瞳に高い鼻、金の短髪、百九十センチを超える長痩軀の、やけにハイテンションな二十代後半の外國人男。
切れ長の目に白の、茶髪のおさげ、百五十センチ程度で小柄の、ミステリアスな雰囲気を漂わせる二十代前半の日本人。
すごい……。
この二人……共通點が面白いほど見當たらない。
そんな、あまりにもミスマッチな珍コンビが、まるで警戒せずに並んでスタスタと近づいてくる。
「お前が言うな」ってツッコミを覚悟の上で、あえて言わせてもらおう。
何だ、この変な二人組は。
今まで出會った囚人連中とは、完全に一線を畫する。
まず、安全な拠點勤務ならともかく、魔と対峙する探索班や防衛班は普通、屈強な男が大半を占める。
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その點、この二人はどうだ。
眼鏡の方は言わずもがなだが……外人男の方も、俺以上に筋とは無縁の、細っちょろいマッチ棒じゃないか。
服裝も布と革だけで金屬の類は一切につけておらず、無防備の一言に盡きる。
……まあ、それこそ「囚人服のお前が言うな」ってじだけどさ。
じゃあ、魔法使いタイプなのかと言えば、それも怪しい。
なぜならば、コイツらは防どうこう以前に武すら持ってない。
完全に手ぶらだ。
俺が鉈を離さず握り締めているように、どんな理由があれ武くらい持つのが魔への禮儀(?)というものだろう。
それをコイツらは、武裝している方がむしろ頭おかしいと言わんばかりだ。
ここまでくると、何かこう……いっそ清々しい。
一周回って天晴れだよ。
「ム……! ムムムッ! よくミーたらー、マユにツレがいるんじゃアーリませんかー! ワーオ、アンビリーバボー! シンじられなーい!」
ようやく俺の存在に気がついた外人男が、振り手振りをえて大げさに驚く。
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マユと行を共にしていて驚かれるのは、もはやデフォなリアクションだ。
ただ……いつもと違って、言葉に親しみや嬉しさのが含まれているようにじる。
「へぇ……もしかして、君が日比野天地君、かな? 噂には聞いていたけど、実に興味深い存在だね。これは素晴らしい記事が書けそうな予がするよ」
「オー! テンチ・ヒビーノデシタかー! スバらしいー、アいたかたデース。これはシャッターチャーンスデスねー!」
え、俺のこと知ってんの?
俺みたいな、ダンジョン歴がメチャクチャ淺いカス新人の若造を?
「うにゅぅぅうぅうぅぅてぇんちゃぁぁんゆうぅぅめぇぇじぃぃいぃん……?」
いや……もちろん、ちゃんと分かってるさ。
有名なのはお前の方だよ、マユ。
今まで出會った先輩方がマユを見たときの反応たるや……人気絶頂のアイドルや若手実力派の俳優もかくや! ってじだった。
殘念なことに、のベクトルは真逆の方向だけど。
俺はきっと、最近なぜかマユの隣にいる腰巾著の冴えないモブ野郎として認識されているのだろう。
「イヤー、『キチガイKにベッターリでアタマがクレイジーなヘンジンのクソガキ』スゴーくタノしみにしてマーシタ! ……デモ、イガイとフツーなカンジデースね! クソツマンネーでしたデスヨー!」
……うん。
想像以上に、ボロカスに言われてました。
俺が一何をしたっつーんだ。
ろくに知りもしない人間のことを、よくもまーそこまで悪く言えたもんだな。
よろしい、ならば戦爭(クリーク)だ。
っていうか、KってのはキチガイのKだったのか。
けしからん蔑稱だ。
考案したやつが分かり次第ぶっ殺してやる。
マユは、キチガイはキチガイでもキチかわいいキチガイなんだ。
「ふふ、君が悪い意味で個的すぎるから、大抵の人間が平凡に見えてしまうだけだよ。日比野君、無遠慮で失禮な発言を許してやってくれ。彼に悪意はないんだ。ただ馬鹿なだけでね」
「オーーゥ、ヒドいイわれようデースねー!」
「にゃはははははははぁぁぁあぁぁあぁあぁぁ」
オーバーリアクションなボケ擔當の外人男。
冷靜沈著なツッコミ擔當の眼鏡。
楽しそうにケタケタと笑うマユ。
いつ魔が襲って來るか分からないダンジョンで、どうして俺は安い漫才を見せられているのだろう。
呆気に取られて口をポカンと開けたまま固まっていると、眼鏡は「おっと」とつぶやいて咳払いをした。
「そういえば、自己紹介が遅れてしまったね。私は雨柳(あまやぎ)巡流(めぐる)、ここでは報屋を生業としている」
「ボクはローニン・フロックハートとイイマース。こうミえてフォトグラファーデース。ハジメマシテー、テンチー!」
「あ、ど……どうも。日比野天地……高校生、です……」
に手を當てて會釈をする雨柳……さんと、俺の手を勝手に摑んでぶんぶん握手するローニン……さんに釣られて、俺は半ば自的に、もはや周知となっている名前を名乗った。
ていうか……え?
「え……っと……報屋? フォトグラファー? このダンジョンで……ですか? それは、つまり……どういうことなんですか?」
「読んで字の如く、だよ。モンスターの攻撃パターンや特、習、生態、可食部分から、ダンジョンの構造、ギミック、マップ、自生している植の特徴、有効活用法に至るまで、あらゆる報を仕れて普及する仕事さ」
「な、なるほど……」
そういう仕事があるとは全く存じ上げなかった。
まあ、よく考えたら俺がベースに滯在していたのはわずか一時間弱。
その後は、ひたすらマユとダンジョン生活。
ベースの風景すらうろ覚えなのに、どんな仕事があるかなど知っていようはずもない。
「オーマイガー! テンチはフォトグラフをシらないデシタかー。ソレはジンセイのハンブンをソンしてるとオナじデスヨー!」
「……いや……そもそも、ダンジョンにカメラとかないじゃないですか」
これまた勝手に俺の肩を摑んでぶんぶん揺らしながら、ローニンさんが悲痛なびを上げる。
う、うるせえ……。
テンションもノリも正反対な二人と同時に會話するのってすげー疲れる。
「ナルホード、テンチはゼンゼンなーにもシらないデシタねー! なら、イッツショーターイム! ゴランいただきマショー、ボクたちのスーパースキルを!」
「ふふ、君の指示に従うのは癪だが、それが一番手っ取り早いね」
そう言うと、突然ローニンさんは戦隊ヒーローの変の時みたいなポーズをドヤ顔で披しながら、高々とんだ。
おそらく……いや、間違いなく、そのポーズに意味はない。
イタい……イタすぎるよ、この人……。
「Photographer《フォトグラファー》ーーーー!!」
「やれやれ、騒々しい男だ。では、私も……Writer(ライター)」
すると、二人の手元を淡いが包み……一瞬のに、ローニンさんの手には大口徑レンズの一眼レフカメラが、雨柳さんの手には中世ヨーロッパを思わせる羽ペンと羊皮紙が握られていた。
「おお……!」
「どうデースか、テンチー! ハンパねーじゃないデスかー?」
何度見ても魔法には驚かされるな……。
カメラと……紙とペンを出す魔法か……。
なるほど、それで寫真家(フォトグラファー)と作家(ライター)ってわけか。
いいなぁ。
ちょうど、マユとの記念寫真でも撮れればなぁと思っていたし、マユとの思い出を綴った日記をしたためておきたいなぁと思っていた。
俺がしいをピンポイントに狙い撃ちしたかのようだ。
『次のレベルアップで覚えたい魔法ランキング』の一位と二位と言っても過言ではない。
「さて、私達の魔法をご披したところで……ついでに、お互いのステータスを公開するのはどうかな? 本當は無闇に相手のステータスを見るものじゃないが、君のデータを取りた……コホン、親睦を深めるためにも合理的な提案だと思うんだが、どうだろうか」
「…………はあ、別に構いませんけど……めっちゃ弱いですよ、俺」
この人、今何か不穏なことを言いかけなかったか?
別に隠すようなもんじゃないからいいけどさ。
この二人のステータスも気になるっちゃ気になるし。
「オー! イイデスネー、ソレ! すごくすごーくキョーミありマース! ヒサしぶーりにマユのもミたいデース!」
「にゃははははぁぁあぁあぁぁイイぃぃよぉおぉぉぉお」
人のを見るのは久しぶりだな。
どれどれ……。
NAME:Meguru Amayagi
LV:14
STR:84
AGI:104
INT:286
MP:134/192
SKILL:Writer,Scanning,Bookmark,Hearing ability up
NAME:Ronin Flockhart
LV:13
STR:127
AGI:169
INT:159
MP:108/146
SKILL:Photographer,Flash,Dynamic visual acuity up,Luck up
うおぉっ……!
思ったよりレベルたっかいな。
どっからどう見ても全然強くなさそうだったのに……人は見かけによらないにもほどがあるだろ。
けっこうなベテランさんなのだろうか。
とはいえ、この二人にステータスで負けてるっていうのは、何というか解せぬ。
レベルって非すぎるだろ。
ちなみに、マユは……。
NAME:Mayu Kogarashi
LV:72
STR:1164
AGI:1396
INT:575
MP:864/979
SKILL:Vacuum slash,Auto counterattack,Weapon generation,Reflexes up,
Physical ability up,Poison resistance,Magic power absorption,etc.
うん、やっぱり俺のマユは最強だぜ。
でも、一週間前と変わりなし……か。
きっとマユくらいのレベルになると、次のレベルアップまでの必要経験値量も膨大なんだろうな……。
最後に、俺はと言うと……。
NAME:Tenchi Hibino
LV:3
STR:21
AGI:24
INT:30
MP:6/21
SKILL:Seasoning
まるで長していない……。
そろそろレベル上がってもいいんじゃないかなぁ。
ほとんど戦ってない分際で偉そうに言うのも何だけどさ……。
「ワーオ! マジでカスデスねーテンチ! チョーウケマース、ハハハハハッ!」
「へぇ……珍しいタイプだ。スキルは……うん、なるほどね」
「ムムム……シーズニング! ナンデスかーコレ、オモシロそーデース。ミせてクーダさいテンチー、オネガイしマース!」
「にゃっハハハぁぁあぁぁあぁてぇんちゃぁあぁんサぁぁトぉおぉオぉぉサぁぁぁトぉぉオぉぉぉおぉ♪」
雨柳さんは、何が面白いのか俺のステータスをじっくり見つめてブツブツ呟く。
一方、ローニンさんとマユは、ギャーギャーと喚きながら二人して俺のを執拗に揺さぶりやがる。
しのマユはともかく、頭一つ高い外人のあんちゃんにお願いされて、素直にスキルを見せる義務もなければ義理もない。
……ないのだが、あまりにしつこいので仕方ないから使ってやることにした。
「…………調味料《シーズニング》」
俺は、手で拳銃の形を作って、大きく口を開けるマユに五グラムの角砂糖を直接食らわせた。
にへらーっと至福の笑みを浮かべるマユ(かわいいなチクショー)。
一言も斷りなく、カシャカシャと遠慮なくフラッシュをたくローニンさん(やっぱうざい)。
目はこちらへ釘付けになりながら、目にも止まらぬ高速でペンを走らせる雨柳さん(ちょっと怖い)。
「ふふふふふふふふ、実に面白いね。同じスキルの使い手がいないわけではないが、君のような高校生男子は前例がない。習得するスキルの法則を解明するためにも、可能なら君の趣味嗜好から過去までじっくりと調査したいところだ」
「オー……メグルのワルいクセがでまーした。ブッチャケ、ちょとキモチワルーいデース」
「にゃははははははははぁあぁぁぁあ」
うへぇ……。
薄々づいてはいたけど、だんだんと確信へと変わってきた。
この二人は関わり合いになっちゃいけないタイプの人種だ。
マユが他の人と楽しそうに會話するなんて滅多にないことだから心苦しいけれど、ここは早期離と決め込んだ方が無難なんじゃなかろうか……。
「じゃ、じゃあ、俺達はそろ――――」
「オーーウ、そいえばテンチアーンドマユー! ボクたちをニソウベースまでオクっててくーださいヨー。さっきゴエーともオサラバしちゃいまーしたし、このトーリデース!」
「ああ、私としたことが大事なことを失念していた。今回は武を持ってきてないから私達だけじゃ心許なくてね……もちろん禮は弾むから、よろしく頼むよ」
「にゃっはははぁぁあぁもっちろんイイぃぃいぃいヨぉぉぉおぉぉお♪」
「そろ………………」
あるぇーー……。
なんてこったい……。
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