《キチかわいい猟奇的とダンジョンを攻略する日々》おあがりよ! 魔法料理人マジカル✩てんち

「フレーイムドーッグラーーーーンッ♪」

サユが上機嫌で魔法を唱えると、今ではお馴染みとなった炎のワンちゃんが、すばしっこく逃げ回る角の生えたウサギ――ジャッカロープに悠々と追いついて、元に鋭い牙を突き立てた。

短い鳴き聲を殘して火柱となるウサギを見て、俺はサユとハイタッチをわす。

「うぇーーい、さっすがサユ! 俺だと手こずる魔も平然と倒してのけるッ。そこにシビれる! あこがれるゥ!」

「うぇーーい、アハハハハ! まー、あたしの手にかかればよゆーよゆー!」

ダンジョンに來てから三十日が経過した。

最近、俺はマユが寢靜まった後にも一人でコツコツと魔退治に勵んでいる。

もちろん、マユに釣り合う男になるための努力だ。

と言っても、安全重視をモットーに部屋から離れすぎないこと、絶対に無理をしないことを徹底しているため、効率はよろしくないのだが……。

しかし、今日のようにサユがいればこの通り。

めちゃくちゃはかどるのはもちろんのこと、何といっても賑やかで楽しい。

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「むっ……! むむむっ! やったぞサユ、俺のレベルが上がってるっ!」

「おおおおおーっ! おめでとーーてんちにぃ~!」

久しぶりのレベルアップをけても心も羽が生えた気持ちで、サユと顔を並べて通知表をもらってはしゃぐ小學生のようにステータスを覗く。

NAME:Tenchi Hibino

LV:4

STR:28

AGI:32

INT:37

MP:26/34

SKILL:Seasoning,Magical cooking

うむ、相変わらず弱い。

クッソ弱い。

笑えるほど低いステータスだろ……ウソみたいだろ……レベル4なんだぜ……それで…………。

ん? いや、でも――――。

「おおっ、何かスキル増えてるじゃん! えーっと……『魔法の料理(マジカルクッキング)』。……うん、これもう完全にただの料理人じゃねえか! ふざけんなボケナスがあああっ!!」

「あははっ! いーじゃない料理人、カッコイイよー。すごいすごーい!」

「くぅぅ……あ~、もーどうでもいいや。便利かもしれねーしな。覚えただけの字だ! やったぜヒーハーーーー!」

どうにも、サユと一緒にいるとテンションが三割増しになってしまう。

だがそれがいい!!

「ぬふふふー、これでマユねえにまた一歩近づいたねー、てんちにぃ」

俺のレベルアップを我がことのように喜ぶサユ。

ええ子や……。

マユが人だとするならば、サユは妹だろうか。

うん、いいね!

あれ? その場合アユはどういうポジションになるんだろう……。

…………小姑?

面と向かって言ったらブッ殺されそうだ。

「だなー! この短期間でレベル4なら大したもんだろ。へっへっへ、こりゃあアユも俺を見直すこと間違いねーな。『どうやら私が誤解していたようです。あなたはマユおねえちゃんに相応しい素敵な紳士です!』ってじでさぁ」

「うん、それはないと思うけどねー」

そこは冷靜にツッコむんかい。

「おいおーい、こういう時は社辭令で同意してくれよー。まあいいや、上等な食材も手にったことだし、今から日比野シェフが腕を振るってやりますか!」

「わーい、やったー! レベルアップのお祝いお祝い~!」

ここ數日、実に順調で充実した日々を送っている。

キモ蟲ゾーンは抜けたし。

マユはかわいいし。

兇悪な魔が出ることもなく、ヒヤッとする事件も不慮の事故もないし。

マユはかわいいし。

レベリングも危なげなくこなせるようになってきたし。

マユはかわいいし。

願わくば、このままスムーズにつつがなくダンジョンとマユを攻略して、無事に地上へ帰りハッピーエンドとなりますように……。

そんな希を強く抱きつつ、気にスキップをして鼻歌じりにポニーテールをリズミカルに揺らすサユを追って、俺は安全な部屋へと戻った。

「――はい、サユさん。本日のメインディッシュは『ジャッカロープのマスタードソース煮込み』です。使用するのはこちら、ジャッカロープのモモとなりまーす。さあ拍手~」

「ぱちぱちぱちー! 二層でいっちばんオイシイかもって、攻略本に書いてあったねー」

「そうです。見た目の可らしさで多の罪悪は覚えますが、これが超うまいのです。地上でも、フランスの伝統料理としてウサギはポピュラーなものとか何とか聞いたことがあります。まあ、俺は食べたことないですけど」

「そんなマメ知識はいいから、早く早く~!」

「コホン。ではまず、ジャッカロープのモモに塩、コショウ、タイムをり込み、両面を軽く焼きが付くまで焼きます」

「わ~、もうおいしそー! ねぇねぇ、味見していい?」

「ダメです。お次は、マスタードをにたっぷり塗り、潰してペースト狀にしたヴェノムキャタピラーの蟲と採集した野草、きのこ、ローリエと一緒に弱火で三十分ほど煮込みます」

「うぇぇ……ヴェノムキャタピラーの蟲……。あたし苦手なんだよねぇ……」

「最後に塩とコショウで味を整え、自生していたダンジョン産の芋を蒸かしてガルニチュールっぽく添えれば……はい、完ーっ!!」

「わぁっ、てんちにぃすごーい! オシャレでおいしそう!」

料理番組さながらにお送りした調理に対して、見事なリアクションを提供してくれたサユ。

サユは待ちきれないとばかりに、「いただきま~す♪」を言い終わるや否やの早さで出來上がった料理にかぶりつく。

「ん~~! おーいしーーーーっ!」

「うん、我ながら良いじだ」

ジャッカロープのは、淡白でクセがなく上質な鶏に近いが、しっかりと野味溢れる後味も殘るところにジビエらしさが垣間見える。

心地よいプリップリな弾力に、じわっと口中に染み渡るまろやかなの悪魔的な火力。

さらには、なめらかで上品な辛さのマスタードソースと、特徴的な苦味とコクのあるヴェノムキャタピラーの蟲が味を絶妙に引き締めていて、ジャッカロープのうまみをさらなる高みへとステップアップさせている。

ああ、浮かぶ……鮮明に思い浮かぶぞ……。

野山を元気に駆け回る、かわいらしくも力強い一匹のウサギの姿が……!

――――いや!

違う…………何だ…………?

熱々のスープを飲み干してがポカポカするみたいに、部からじわじわと力が湧いてくる!

まさか……これは………………俺だ。

間違いない……まさに今、俺自がウサギと化している……!

「……て……てんちにぃ? ど、ど、ど、どうしたの、急に……」

「ん? 何が?」

トンデモ漫畫さながらのオーバーリアクションを脳で描いて愉悅に浸っていた俺は、現実に舞い戻ってサユを見る。

あんぐりと口を開けて唖然としたサユが、俺の顔を追いかけてプリティーな目をせわしなく上下させる。

はてなと首をかしげ、そしてようやく気づく。

そう、いつの間にか俺は飛び跳ねていたのだ。

通常ならばあり得ない、立ち高飛び三メートル五十センチという偉業を平然とし遂げて……ウサギのようにピョンピョンと。

「うおっ!? な、なんじゃこりゃーーっ!!」

あまりにも遅ればせながら、俺は驚愕した。

どうなってんだ、一……。

「わーーーーっ! すごいすごーい、あたしもだーー! 何これ、おもしろーーい!!」

歓喜の聲を上げるサユに再び目を向けると、俺と同じく驚異のジャンプ力でロケットのように飛んでいるではないか。

いや、サユは三メートル強なぞ普段から余裕で飛べるのだから『俺と同じく』というのは語弊があろう。

恐るべきことに、七メートルは飛び上がっている。

リアルなワイヤーアクションというか……理法則とは何なのかを考えさせられる、かなり異様な景だ。

「ねえねえ、これが、魔法の料理(マジカルクッキング)なんじゃない?」

「こ、これが……!?」

なるほど!

つまり、何気なく調理したが、もれなくステータスを上昇させる魔法の料理になる……ということか。

おいおい、何て素晴らしいパーフェクトなスキルだよ。

俺はもちろんのこと、(不要とは思うが)マユの戦闘力までアップさせられるし、もしかしたら傷を癒す回復料理なんて代も作れるかもしれない。

パッと唱えてドーンと炸裂する魔法と比べると地味だし手間がかかりすぎるは否めないが、それでも汎用の高さはエクセレントの一言に盡きる。

苦節一ヶ月……ついに來たか、俺の時代が!

「ふふ……ふふふふふ……ハーーッハッハッハッハ!!」

この時、景気よく飛び跳ねながら高笑いする俺は、完全に失念していた。

ここが、大小様々な木々が所狹しと生い茂る部屋であり、頭上には太くしっかりした枝があり、軽はずみにジャンプして思い切り頭突きなどしようものならハンパなく痛いということを。

「ハハハハハハハハ――――ガボフッッ!?」

「てて、てんちにぃ!?」

案の定である。

後頭部に強烈な衝撃をけたと同時に、さっきまでのハレルヤな気分がバラバラに吹っ飛んだ。

著地はおろか満足なすら取れずに、どっかのスペランカーなら軽く死ねる高さから無様な格好で地面に叩きつけられてしまった。

「ふが……ぐふ……ッ」

「わわわわわ……! だ、大丈夫ー!? ごすっ! どちゃー! ってすっごい音がしたけど!?」

我がは地へ……魂は天へ…………。

仰向けで大の字になって力盡きた俺は、心配そうにを揺する天使サユに看取られ……そのまま安らかに息を引き取った……。

などということはなく、幸いにも単なる打撲と足首の捻挫で済んだのであった。

……何か最近、魔にやられることはなくなったのに、なぜか妙に苦痛を味わう頻度が増しているような気がする…………。

おかしな話だ。

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