《キチかわいい猟奇的とダンジョンを攻略する日々》お酒は二十歳になってから

「ホン…………ットにバカですね、あなたは」

「ぅぐっ……」

マユとの気まぐれフリーハントを終え、安全な部屋で安らかなスリーピングタイムを迎えた矢先。

目覚めたアユの開口一番がこれである。

あんまりだとは思わないだろうか。

しかし、殘念ながら反論の余地がない。

「高笑いしながら飛び跳ねていたら木の枝に頭をぶつけて、著地に失敗した挙句に足首をひねった、なんて……間が抜けているという次元を超えてますね」

「ぐぐぐぐぐ……!」

どうしてこうなった……。

昨日、レベルが上がった時は「これでアユも俺を見直すに違いない!」とウキウキしていたというのに、なぜ呆れられて心底バカにされているのか。

「はぁぁ……大、今日一日ずっと顔を引きつらせて変な歩き方をして……あれでバレないとでも思ってたんですか?」

「ぐぐぐぐぐぐぐぐぐぐぐぐ……!!」

思っていた。

努めて平靜を裝っていたつもりだった。

だって、マユに心配をかけたくないじゃないか。

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たかが捻挫ごときで……しかも、あんなカッコ悪い怪我の仕方をした俺が、どうしてマユに弱音を吐くことなどできようか。

努力の甲斐あって、何度か首をかしげられたがマユには悟られなかったはずだ。

なので、結果として怪我が悪化して腫れが酷くなった今も、俺は強がったことをしも後悔していない。

それどころか、アユにも「忠道、大儀である」とねぎらいの言葉をかけられるだろうと期待すらしていたほどだ。

ところが、実際はご覧の通りの有様だよ。

「……まあ、その気概は評価しますけどね……。だから、今回だけは特別に治してあげます。ほら、足を出してください」

「ぐぐぐ……って、ん? 治すって……どうやって?」

「いいから、早くしてください」

「は、はい……」

言われるがままに痛む足を差し出すと、アユは手を近づけて呟く。

「ヒーリング」

以前にも経験した回復魔法の白いに包まれた患部は、見る見る間に腫れが引いていき、じんわりとした心地よい溫かさだけが後に殘った。

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たったの數秒で「怪我? は? 何のこと?」と言わんばかりに元通りだ。

マユの「痛いの痛いの飛んでけー♡」に匹敵する治癒力と言っていい。

そんな人生最高の機會は殘念ながらまだないけど。

「す……っげえ! アユって回復魔法まで使えるのかよ! やべーな、補助のエキスパートじゃねえか!」

「大げさです……っていうか、うるさいです。靜かにしてください」

驚き、賞賛を送る俺の言葉に、ぶすっとしながら解いた髪をくるくる指に巻きつけるアユ。

うむ……拠のない勘だが、これ以上褒めても何も出ないどころか毆られそうだからやめとこう。

それにしても、この三姉妹の素晴らしい役割分擔はどうだ。

マユは理攻撃擔當にして近接戦の鬼でありマイスイートハニー。

サユは魔法攻撃擔當にして遠距離戦のスペシャリスト兼ムードメーカー。

アユは補助魔法擔當にして回復から洗濯、裁までこなす生活の要。

人格が違うとはいえ一人の人間なのに、なぜスキルまで別々なのかは分からないが、もはやチートとしか思えない。

もしも、この三姉妹がパーティーを組むことができれば、ダンジョン制覇など楽勝なんじゃなかろうか。

……あれ? その場合、俺のポジションはどうなるんだ?

…………料理係……かな……。

「いやー、助かったよアユ。マジでどうしようかと……。お禮と言ってはなんだけど、これ飲む? 今日作った自信作」

謝しながら俺が差し出したのは、まんまココナッツみたいなダンジョンココヤシの果実にハチミツを加えて、二層に生えているリカーヒヨスという爽やかな甘みのある薬草を漬け込んだ飲みだ。

名づけて『ハチミツココナッツミルクリカーヒヨス風味』。

マユに甘味を提供することに余念のない俺が、攻略本を頼りに苦心の末に作り出した一品で、まだ飲んではいないが絶対うまいと斷言できる。

「……あなたにしては気が利くじゃないですか。別に飲みたいわけではないですが、そういうことでしたら、まあ、そうですね……いただきましょうか」

一見するとツンツンとした態度だが……ごくりとを鳴らして、ったひょうたんに釘付けになる様子からは「飲みたい!」という隠しきれない求がにじみ出ている。

言葉とは裏腹に、アユはけ取るや否や半分近くを一気に飲み干した。

その顔からは、常時刻まれた険しい眉間のシワが消え去り、かすかな笑みさえ浮かび上がった。

ふっ……してやったり!

唐突だが、やはり俺の本業は戦闘ではなく料理なのだと確信した。

「な、何ですか、そのしたり顔は。不愉快ですっ!」

「いや~、べっつに~~? で、どう? うまいか?」

ニヤニヤする俺に気づいてムッとするアユ。

ここで調子に乗って「どやっ、天才だろ俺!」とでも言おうものなら、限界まで絞りに絞った雑巾のごとく思いきり顔をしかめられること必至なのでやめておく。

「ふ、ふんっ、悪くはないですね……。そんなことより! 最近は無駄に頑張ってるみたいじゃないですか。ろくに寢ずに一人でもコソコソと魔を倒したりして」

「ふっふっふ、まあな。まずはレベルアップしてお前に認められること。そして、いずれはマユを止めて妹公認の仲になるのが俺の目標だからな」

キリッ!

を張り、夢を語る年のように目を輝かせて宣言する俺の言葉を聞いて……アユは銘をけるどころか、明らかに引いていた。

「ちっ!!」

しまいには、得意技の舌打ちを盛大にかまして、汚を見る目で俺を見下す。

「あなたがどれだけ強くなろうが、私はぜっ…………っっったいに認めませんけどね。ああやだ、気持ち悪い……。ほんと変わりましたよね、あなた。限りなく悪い方向に……」

「ふっ、は人を変えるってこった……。さらに! お前に言われてから、俺はちゃんとマユのことを知る努力もした。もはや凩マユ検定試験でもあろうものなら満點合格できると豪語するレベルだ!」

「……たしかに知らなすぎるとは言いましたが……今のあなたが言うと完全に変質者ですね……。それで? 的には?」

「ズバリ……マユのスキルを全て! 網羅した!」

俺は攻略本に挾んでいた一枚の紙を広げて、アユに得意げに見せつけた。

「これは…………」

真空斬り……あらゆるを切り裂く斬撃を飛ばす。最大程は二十五メートル程度(推定)。威力、距離に比例してMPを消費。

化……瞬間的に化させる。化時間、部位に応じてMPを消費。

……想像した武を瞬時に生できる。武のサイズに応じてMPを消費。

毒耐……毒によるダメージをけない。

電撃耐……電撃によるダメージをけない。

音波耐……音波によるダメージをけない。

病気耐……病気にならない。

化無効……魔法、スキルによる弱化を無効。

反撃……攻撃に対して自的に反撃を行う。

力上昇……力が上昇する。

速度上昇……反速度が上昇する。

視力上昇……視力が上昇する。

能力上昇……能力が上昇する。

スキル効果上昇……スキルの効果が上昇する。

狂気……の高ぶりに応じてSTR、AGIが上昇する。

威圧……目を合わせた相手のSTR、AGIを一時的に低下させる。

暗視……暗い場所でも見通せるようになる。

察知……生の気配、敵意が察せられるようになる。

痛覚鈍麻……痛みに対する覚が鈍くなる。

力吸収……生を殺すごとに疲労が回復する。

魔力吸収……生を殺すごとにMPが回復する。

「なるほど……スキルを全部、日本語に訳したのですか。ご丁寧に説明まで書いて、隨分とマメなことを……。それにしても、よく調べましたね」

「すげえだろ。ま、これがの力ってやつかな」

……と、自慢しているものの……実は、先日ソロで狩りをしている時に雨柳さんとローニンさんにバッタリ會って、こっそり教えてもらったのは緒だ。

出會って早々、挨拶もなしに「俺にできることなら何でもする! 何でも教える! 調味料だって全部くれてやってもいい! だから頼む、マユの個人報を全部くれ!!」とんで頭を下げた時の「こいつ、いよいよヤベーな……」と言いたげな二人の冷めた目は、今でも鮮明に思い出せる。

それにしても、流石は報収集班……そしてマユファンクラブ副會長だ。

まさか、ここまで詳細な報を、しかも二つ返事であっさり提供してくれるとは思わなかった。

ついでにマユのスリーサイズまで聞いたら腹パンされたけど。

「強化系のパッシブスキルが多いな。代わりに攻撃スキルは真空斬りしかなくて、魔法も一切なし。ファイターってかバーサーカーってじか……いやー、マユにぴったりだな!」

これも教えてもらった……というか、よくあるゲームと同様なのだが、スキルにはアクティブスキルとパッシブスキルの二種類があるらしい。

アクティブスキルとは、俺の『調味料』のように、MPを消費して自分の意思で発するスキルのことだ。

対して、パッシブスキルは『能力上昇』のように、自的に常時発しているスキルのことで、MPを消費することはない。

「どうだよアユ、わずか二週間足らずでこの進化! マジリスペクトじゃね? そろそろお兄ちゃんって呼んでくれてもいいぞ? むしろ呼んでくれ!」

「うざっ! しんでもごめんデスぅ。だいたい、このくらいはトーゼンのじょのくちデスぅぅ。あなたはまだぜーんぜんわかってまセン~」

「おいおーい、ちょっとは俺の努力を認めてくれてもいいじゃねーか」

「ふんっ! だいたい、これだってほんとーにじぶんでしらべたのかどーか……おーかた、じょーほーやのアマヤギさんにでもきーたんじゃないデスかぁぁ?」

「ギクッ! いい、い、いや~、まあちょっとだけヒントをもらったというか何というか……。っていうか…………」

……ん?

あれ?

何か……何かおかしいような……。

「え、えーっと……どうかしたか? アユ?」

「はぁあぁぁあ? べつにろーもしませんけろぉぉおぉぉぉ?」

「…………」

いやいや、どう見ても変だ。

いつの間にか、顔は赤いし、ろれつは回ってないし、目は座ってるし。

まるで、酒を飲んで酔っ払ってるような……。

「いいれすか? たいせつなのわぁ、ろんなスキルがあるかじゃあないんれすよぉぉ。スキルのせいれマユおねーちゃんがくるしーのがぁぁわかるかってゆーのがぁーしってほしいんらったんれすよぉぉ」

「…………」

やばい、何か語りだした。

いつも毅然としたアユの変わり果てた姿のせいで、申し訳ないけど容が全く頭にってこない。

そもそも、何言ってるのか分からない。

マジで一どうしたんだコイツ……。

――――あ。

もしかして……もしかすると……俺特製のミルクのせい?

『魔法の料理』のせい?

つまり……つまり…………俺のせい?

「あー……アユ、落ち著いて聞いてくれ。多分だけど、お前は今ちょーっと調が悪いっていうか、そのミルクが――」

「らまってきいてくらさい! ここからがらいじなんれすから!」

「は、はい……すみません」

怒られた。

これはもう、どうしようもない。

仕方ない……気が済むまで話を聞くしかないか……。

それにしても、まさかこんなことになるとは……。

イメージ的には、傷とか毒とかを治す効果になると思っていたのに……酔っ払うって予想外すぎるだろ。

今後は料理の効果をしっかり確認しないと、落ち著いて食事もできやしない。

くそっ……意外と不便なスキルじゃねえか……。

「マユおねえちゃんのスキルわぁぁ……ひとりになるんれすぅ……られもちかくにいられなくなるんれすよぉ……そんなのってひろいれすよねぇぇ……」

「あー……はいはい」

マユのスキルは一人になる?

誰も近くにいられなくなる?

そうかそうか、なるほどイミフ。

「こーげきしたくないのにぃ、かってにこーげきしちゃうしぃぃ……いっしょにいるらけれめーわくかけちゃうしぃぃ……。マユおねえちゃんわぁ……マユおねえちゃんわぁぁ、なぁんにもわるくないのにぃぃぃ……」

「あー……はいはい」

攻撃したくないのに、勝手に攻撃してしまう?

一緒にいるだけで迷をかける?

マユは何も悪くない?

そうかそうか、なるほどイミ――――ん?

「らから……らからぁぁ……かわいそうらからぁ……あなたわぁぁ、ちゃぁんと……わかって……ほし……くて…………」

「………………」

寢た……。

うつらうつらと重そうにを揺らしていたアユは、手にしたひょうたんと一緒にこてんと地面に転がり、眠りについた。

火照った寢顔、安らかな寢息。

いつもの俺なら、それらを存分に堪能しながら幸福を噛み締めて共に夢の世界へと旅立ったであろう。

しかし、今は違う。

アユの言葉が、これまでの出來事が、頭の中を駆け巡っていた。

「そうか……そういうことか…………!」

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