《キチかわいい猟奇的とダンジョンを攻略する日々》きれいなおにいさん

いつだったかな……。

サユがやってみたいってパパに言って、ほうそうをしてみた。

自分の聲がおうちいっぱいに聞こえるのが面白くって、マユもアユものどがガラガラになるまであそんだ。

とっても楽しかったけど、ママに「みんながこまっちゃうからきんきゅうの時じゃないと使っちゃダメよ」って言われて、それからは使ってない。

だから、パパもママもサユもアユもいなくなって、一人でうとうとしてる時にいきなりこわい聲が聞こえて、すごくびっくりした。

ほうそうがなってから、どのくらいたったかな……。

このまま、ここにいてもいいのかな……。

でも、おへやから出たらあぶないのかな……。

でも…………。

わかんない。

なんにもわかんない。

パパ、ママ、こわいよ。

サユ、アユ、さみしいよ。

みんな、早く帰ってきて。

ずっとずっといっしょにいて。

マユ、いい子にしてるから……。

おべんきょうも、もっともっとがんばるから……。

マユを一人にしないで――――。

コン、コン、コン……。

ドアをたたく、ちっちゃな音。

びくっとがはね上がる。

心ぞうがバクバクする。

「だ…………だれ……?」

パパ? ママ?

ううん、今日はおしごとで、おとまりだもん。

サユ? アユ?

ううん、それならドアをたたいたりなんかしないもん。

組員の人?

………………かな?

あ……。

カギ……かかってるんだった。

開けなきゃ。

でも、こわくてが……かな――――。

バキッ!

ガチャ――――。

おっきな音に――ドアが、開く音。

おへやにってきたのは……知らない男の人。

「にゃっはぁあ……こぉんばんわぁあぁあぁぁ、お姫様ぁぁあ♪」

の人みたいにスラッとした、細くてきれいなお兄さん。

長くてさらさらした黒いかみに、やわらかそうな白いはだ。

しずかでゆったりとしたき。

とってもやさしそうな顔。

なのに……。

なんでだろう……なんでかわからないけど、おちつかない。

心がざわざわする。

気のせい……かな……。

「お……お兄さん…………は…………?」

消えちゃいそうな聲しか出せないマユの目をまっすぐ見つめて、お兄さんはずっとニコニコしてる。

こんなふうに子どもみたいにわらう大人の人なんて、マユは見たことない。

「僕は青天目ルカと申しますぅうぅぅ。ちょぉおおど今日からお父さんのお仲間さんになりましてねぇえぇぇえ、今夜はお泊りでぇ頑張って警備してたんですよぉぉおぉお」

「そ……そうなん、ですか……ご、ごめん、なさい…………」

そっか……新しい組員さんなんだ……。

マユのとこに來たのは……もう大丈夫だから、なのかな?

「騒がしくってぇぇ怖かったですよねぇえぇぇマユちゃぁぁぁん。一人でじぃーっとしてて偉い偉ぁぁいいぃいい」

ルカさんは、マユの目の高さに合わせてしゃがんで、そっと頭をなでてくれた。

ふわっとして、ママみたいで、ほっとして力がすぅってぬけた。

安心したら、またいろんなことがもやもやとうかんできた。

「は、はい……すっごく不安で……こわかった、です……。あ、あの、みんなは……なんともなかったんですか? サユとアユは?」

マユのことばに、ルカさんはえがおのまま答えてくれる。

「あぁああぁぁぁ、皆さんお疲れのようでぇぇ気持ちよぉぉおぉく眠ってますよぉおお。サユちゃんとアユちゃんもねぇぇえ。隣の部屋にいますのでぇ、さあさぁああ行きましょぉおぉぉお♪」

ルカさんは生き生きとした聲でそう言って、マユの手を引いた。

サユ……アユ……よかった、なんともなくって。

本當に……本當によかった。

ありがとう、かみさま――――。

「――サユちゃぁあんアユちゃぁああぁん、お姉ちゃんが來てくれましたよぉおぉぉおお」

おきゃくさんのための、おっきなおへや。

マユのおへやからおしゃべりするのが聞こえちゃうから、ぜんぜん使ってない。

でも、ちゃんとおそうじしてかたづいてる、そのおへやのちょうど真ん中。

四角くてきれいなテーブルの上で、サユとアユはならんでおぎょうぎよくあお向けになってた。

ああ……。

もう、おたんじょうびなんて、そんなのどうなってもいい。

プレゼントなんて、そんなのなくっていい。

みんなが……サユとアユがいてくれれば。

マユは本當に、それだけでいい。

目がうるうるして、よく見えないけど。

お姉ちゃんなのに、かっこわるくてはずかしいけど。

でも、やっぱりすごくうれしくって、マユは手をいっぱいに広げて二人の間に思いっきりとびこんだ。

ぎゅうっと、力いっぱいだきしめた。

かすれた聲で、名前をよんだ。

「サユ、アユ、起きて……。マユ、すっごくさみしかっ――――」

ころ……。

ころ……ころ……。

ぼとっ。

ぼとっ。

「…………?」

なにかがころがって、ゆかに落ちた。

二つ。

にぶい音。

なんだろう?

顔を上げた。

「…………………………………………え…………?」

ずっとずっと見てきた顔。

すぐそば。

すぐそこにあるはずの、サユとアユの顔が。

頭が。

…………あるはずのところに、ない。

「……え…………え……………………??」

ない。

ない。

首から上が。

どこ?

なんで?

どうして?

どういうこと?

だって……。

だって、サユは……アユは……なんともないって…………。

「あぁららああぁあぁぁ、せっかくキレーぇええに並べたのにぃ落っこちちゃいましたねぇえぇええ。可いぃお顔に傷が……あぁぁああよかったぁぁだいじょぉおぶでしたぁぁあああっ♪」

え……?

きれいにならべた?

落ちた?

え……………?

「はぁいマユちゃぁぁん、あんまり激しくしちゃぁあダメですよぉぉ? 安らかに眠ってるんですからぁぁあ」

ルカさんが、すごく大切そうに、やさしくかかえ上げて、テーブルにおいた。

それは……。

それは………………。

サユとアユの、頭だった。

「な…………なん…………で………………………」

今日の朝に見たのとおんなじ顔が。

いつもいつも見てる顔が。

いつもとちがって、からはなれて……。

これじゃあ、まるで……し……し…………。

「死んじゃいましたぁぁぁああ☆ いやぁ~殘念ですがぁぁ誠に憾ですがぁあぁぁ必死に守ろうとしたんですがぁぁぁあぁ無念! 力及ばず! でしたぁぁあぁっっ」

「ぁ………あ…………ぁあ、あ……………………」

うそ……。

うそだ……っ。

マユをおどろかせようとしてるだけだよ。

だって……だって、サユとアユはお外にいたんだもん。

ここにいるのは……これは……そう、作り

そうに決まってる。

「あっ! でもでもおぉぉお……ほら! 見てくださいよぉぉコレ。こっちの方はぁ間に合ったみたいですよぉぉぉおぉ?」

ルカさんが、サユ……の作りのちっちゃな右手を。

強くにぎりしめられた右手を、ゆっくり開いた。

大切そうににぎられてたのは……よれよれになった、ちっちゃな四つ葉。

「ずぅぅぅっと離さなかったんですよねぇぇ……よぉっぽど大切だったんでしょぉおねぇぇえ。それとぉおぉ、コ・レ・もぉぉ……」

アユ……の作り……のかたにかけられた、ポーチ。

ルカさんが、とってもうれしそうにポーチの口を開けて、さかさにする。

いっぱいにつまってた、いろんな押し花で作ったしおりがひらひらと落ちてテーブルに広がった。

「いやぁあぁ小學校で作ったなぁぁあぁ、懐かしいですねぇええぇ。そぉぉいえば今日……マユちゃんのお誕生日なんですってねぇぇ……。プレゼント! じゃぁああないですかぁ! よかったですねえぇええこぉんなにたくさぁああぁぁん♪」

「い…………い、いや………………」

ちがう。

作り、なんかじゃない。

見ればわかる。

さわればわかる。

これは……これは……ほんとに…………。

ほんとの……サユと……アユ――――――――。

「い……やぁぁぁああぁあぁああああああああっっ!!」

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