《キチかわいい猟奇的とダンジョンを攻略する日々》撃っていいのは、撃たれる覚悟のある奴だけだ

「あ……っう……ううぅ…………」

「やった……やったぞ! よしっ! ついにKを殺せるっ!!」

膝上から切斷された両足を抑えて苦しそうにくサユを見ながら、サブリーダーは顔を綻ばせて喜びを発させた。

「さあ、止めを刺すぞっ! 全員、魔法を叩き込めっ!!」

ドクドクと絶え間なく流れるの量から、すぐに治療を施さなければ一時間もしないに死に至ると思われるが、當然ながらサブリーダーにサユを放置する気は全くない。

「「「おおおおおおおおおっっ!!」」」

ファフニールを圧倒し、赤子と遊ぶように自分たちの総攻撃を容易くあしらった、あのKに深手を負わせた。

たとえ姑息な不意打ちであろうと、サブリーダーの奇跡的な快挙を大多數の者が手放しで賞賛して、各々の武を高く突き上げてんだ。

とはいえ、複雑な心境の者もいないわけではない。

當初より寢込みを襲撃するという人道に背く計畫を実行する予定ではあったが、実際に目の當たりにした卑劣さと慘たらしさに戸い、あどけないを集団で追撃することに躊躇する者もなからず存在した。

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しかし、何年も前から後を絶たないKによる無差別傷害事件……そして、極めつけとなった先日の凄慘で殘酷な猟奇殺人が、數派である者達の口をつぐませていた。

ついこの間まで共に戦い笑い合った仲間を失い、悲しみに暮れた皆に対して処刑の中止を訴えることなど、どうしてできようか。

ゆえに、一致団結とまではいかないまでも四十人弱の鋭全員が再びサユに武を向けるまでに、さして時間はかからなかった。

「いっ……たたた……くぅ……いそが、なきゃ……」

「! 何だ……!?」

足を失ってさらに小さくなったに狙いを定める集団をよそに、サユは背負っていた水のリュックサックの中をゴソゴソと漁っている。

回復効果のある魔法道を危懼してサブリーダーは焦燥したが、すぐに無駄な足掻きだと気付いてほっと息をつく。

なぜなら、部位の欠損を元通りに治す魔法道も魔法も存在しないからだ。

せいぜい痛みを和らげて地獄に落ちろと心ほくそ笑むサブリーダーが、勝利を確信して聲高に命令を下す。

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「ハハハハハッ! これで終わりだ! 死ねええええええっっ!!

「ごめん……アユ…………ちょっとだけ……おねがい……!」

サユが何かを取り出して、口に含んだ。

しかし、それがどれほど優れた効果を持つ魔法道であろうと時すでに遅し。

誰もがそう考え、放たれた大量の魔法がサユを包み込もうとした。

その時――――――。

「ディスペル」

フッ――――と。

暗闇に飲まれて同化する影のように。

あるいは儚く散る線香花火のように。

とりどりに眩く魔法が、サユの目前で不意に溶けて消え去る。

「なっ――――――――!?」

先ほどのように魔法で軌道を逸らしたわけでもなければ相殺したわけでもない。

魔法そのものを消したのだ。

あれだけの數を、一瞬で。

いや、それだけではない。

STR上昇、AGI上昇、INT上昇、五強化、炎耐上昇。

萬全を期すためサブリーダー達が事前にかけていた補助魔法が全て、余すことなく効果を失っていた。

「こ……これは…………一、どういうことだ…………!?」

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「まったく……サユおねえちゃんは甘いんだから……」

NAME:Ayu Kogarashi

LV:72

STR:562

AGI:1003

INT:1104

MP:1492/1612

SKILL:Sewing,Cleaning,Illumination,Cloth generation,Hearing,Extra hearing,Regeneration,Cure poison,Cure sleep,Cure paralys,Power down,Magic power down,Speed down,Skill delay,Dispel,Magic seal,Magic power absorption,Abnormal state resistance,Magic sealed invalid,Resistance enchant,Scanning,Eyesight up,Hearing ability up,Magic effect up,Magic range expansion

(『ソーイング』『クリーニング』『イルミネーション』『生地生』『ヒーリング』『エクストラヒーリング』『リジェネレーション』『キュアポイズン』『キュアスリープ』『キュアパラライズ』『パワーダウン』『マジックパワーダウン』『スピードダウン』『スキルディレイ』『ディスペル』『マジックシール』『魔力吸収』『狀態異常抵抗』『魔法封印無効』『耐付與』『解析』『視力上昇』『聴力上昇』『魔法効果上昇』『魔法範囲拡大』)

一つのに三人の人格が宿っていることなど知らないサブリーダー達には、何が起こっているのか理解できないだろう。

いや……たとえ知っていたとしても、サユとアユの人格を瞬時に代する方法に思い至るのは、たった一人。

日比野天地を除いて他にいない。

「はあ……極力これだけは使いたくなかったんですけど……。あんな人のスキルに助けられるなんてし……いえ、かなり……いえ、ものすごく癪ですから」

サユが口にしたのは、天地が『魔法の料理(マジカルクッキング)』を駆使して作った超即効の睡眠薬だ。

本來、マユが眠っている間の數時間、サユとアユはどちらかがランダムで出てくるのだが、途中で代することはできない。

それゆえに、天地がいかに「アユは勘弁してくれ!」と願おうとアユは出てきてしまったし、アユがいかに「この人うざいからサユおねえちゃん代わって!」ともうと活時間の限界までサユと代することはできなかった。

ただし、その法則には例外がある。

『活時間が殘っている間に強制的な睡眠、昏睡に陥った場合』にはサユからアユ、あるいはアユからサユにコンバートできるのだ。

それを解明したアユは、MPが切れたせいでコブラソルジャー程度の魔にサユが窮地に立たされるようなことが二度と起きないように、『魔法の料理』を會得した天地に心の底から嫌々頼んで対策を講じたのである。

「イィ~~ッヒッヒッヒッ!」と話の魔のようなノリと怪しげな調理法で天地が作り上げたパチンコ玉サイズの丸薬……というより毒は、生した本人すら驚くほど強力で、服用すると『睡眠耐』スキルを持っていようがコンマ數秒で睡眠狀態に陥る。

調理時間の問題で量産こそできなかったものの、かくしてサユとアユは互いに好きなタイミングでれ替わることができるようになっていたのだ。

「くっ……怯むな! 奴が重傷であることは間違いないんだ! 魔法が使えない者は直接攻撃しても構わん! 休む暇も反撃する暇も與えるなっ!!」

「……マジックシール……ソーイング」

この機を逃すまいと攻勢に出ようとする集団を相手に、足を失っているアユは冷靜に魔法を呟く。

広範囲の魔法封印と裁魔法によって、サブリーダー達が一斉にんだ魔法は何の意味もないただの言葉へと変わり、津波のように押し寄せていた重裝備の集団は互いの手足を細い糸で滅茶苦茶に結ばれて崩れ落ちた。

「魔法が……封じられた!?」

「くっそ、何だこの糸!? ほどけねえ……っ!」

「馬鹿な……これだけ多くの魔法を使えるなんて……あり得ない!」

この場の誰よりも弱々しく小さなに、今日だけで何度驚かされたのか。

サブリーダー達が次々と繰り出される數多の魔法に翻弄される最中、続くアユの行はさらなる驚愕をもたらした。

「――――ッ! 奴の……足が……!」

サブリーダーはアユを憎らしげに睨みつけ、そして目を疑った。

アユは裁魔法によって、斷ち切られた両足を元通りに合していた。

しかし、それはあくまで継ぎ合わせただけに過ぎない。

立ち上がることは當然できず、つなぎ目から流れ出るも絶えることは――

「エクストラヒーリング」

アユが小さく唱えると同時に、強烈なが彼の両足を包み込み…………サブリーダー達がきを止めて目を瞠った、わずか數秒後。

そこにあったのは、まるで何事もなかったかのような綺麗で白い足だった。

痛ましい出はぴたりと止まり、切斷の跡は一筋も殘っていない。

「そん…………な…………ことが………………」

失った手も、足も、指の一本でさえも、決して戻らない。

それは地上であろうとダンジョンであろうと変わらない。

いや、現代の醫療技をもってすれば指程度ならば再接合できる可能があるため、その點において地上の醫學は魔法をも凌駕していると言えるだろう。

だが、たった今サブリーダー達が目にした信じがたい現実は、そんな次元を遙かに超越していた。

事実、ダンジョンでは手足を失った者の大半が魔駆除から離れて、ベースでの生産活や事務に従事することになる。

手足を失うことはダンジョンに生きる者にとって致命傷であり、引退と同義。

そのはずだった。

「さてと……できれば私がこいつらを殺してやりたい……けど……」

アユは數秒前までから切り離されていた足で強く地を踏みしめ、冷やかな目で集団を見回した。

「本當に殘念だけど、私の魔法じゃできないから……今度こそお願い、サユおねえちゃん。……ああ、ついでに……パワーダウン、マジックパワーダウン、スピードダウン」

「!? なっ…………!」

生気を吸い取られたようなと、重力が倍になったような負荷がサブリーダー達に降りかかる。

メジャーなステータスダウンのデバフだが、アユのそれは効果範囲と威力が桁違いで、全員が揃って武を地につけて膝を折った。

並みの魔法使いなら數分で効果が切れるマジックシールによる『魔法封印』も、いつまで経っても魔法が使えるようになる兆しがない。

不発に終わる魔法を繰り返しび、力がらない手で必死に糸を切ろうとする集団を最後に一瞥すると、アユは目を閉じて天地特製の睡眠薬を口にれた。

「――ありがとアユ、助かったぁー……。うん…………わかったよ、ごめん……あたしがバカだった……しょーがないよね…………」

ほんの一瞬、ふらりと意識を失って倒れかけた後――アユからサユへとれ替わり、サユはうなだれながら元気なく呟いた。

「本當に、こうするしか……ないんだよね…………。ケルちゃん、ベルちゃん……ローちゃん、スーちゃん……おねがい…………フレイムドッグラン!」

ようやく糸を切って襲い掛かろうとした集団の前に、再び現れた……炎の…………犬?

「じょ……冗談…………だろ………………?」

――――違う。

そこにいたのは、本から異なる魔法生だった。

地上のどこにでもいるサイズの大型犬が、今はオルトロスに匹敵する長五メートル近い化へと変貌を遂げている。

しかも、數は…………四匹。

「サンダーホーネット!」

さらに、恐怖はこれだけでは終わらなかった。

青ざめた顔で愕然と立ち盡くす集団の頭上に、今度は強烈に発しながら宙を舞う電気の蜂――を模した、長八十センチ弱の魔法生が出現した。

バチバチと放電する音が幾重にも重なって、痛いほどに耳をつんざく。

數は…………なく見積もっても、百は優に超えている。

「ヒィッ――――!?」

「サ……サブリーダー、逃げましょう! もう無理です! このままじゃみんな殺されます!!」

もはや、誰の心にも戦う気は微塵も殘っていなかった。

それほど圧倒的な脅威が、絶が、ひたすら全員の心の奧底まで覆い盡くした。

「くっっ…………総員撤退! 撤退ーーーーっ!!」

さしものサブリーダーも瞬時に現狀の打開が不可能であることを悟り、大聲で指示を飛ばす。

恐怖で震える足を懸命にかし、スピードダウンによって低下したAGIを限界まで酷使して口へと――――

「にがさ……ない……! アースウォール! ランドマイン!」

――向かう集団の目の前で、せり上がる分厚い土壁によって口が封鎖された。

それでも、集団には我武者羅になって逃げる以外に選択肢はない。

壁を破壊すべく、なおも突き進んだ次の瞬間――――。

數人の足元が突然、発した。

舞い上がる土石、土煙…………そして巻き込まれた者達の、ぐちゃぐちゃに散した下半片、飛沫。

どう見ても即死だった。

「う……うわああぁああぁああああっ!!」

「ごめんね……気が変わっちゃった。しょーがないよ、あたしたちは死にたくないもん……マユねぇのためだもん……。でも……だいじょーぶ、安心して……」

地中には、即死級の魔法地雷。

地上には、巨大な炎の魔犬。

空中には、電気蜂の大群。

もはや、誰にもどうすることもできず……ある者は武を落として膝から崩れ落ち、ある者はただただ立ち竦み、ある者は錯して喚き続けた。

「く……そっ…………この……化め…………!」

最後の最後に、わずかに殘った気力を振り絞って悪態をつくサブリーダーの視線の先で………サユは悲しそうに笑った。

「……ぜったいぜったい、痛くないように……ちゃーんと、さくっと…………してあげるから」

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