《キチかわいい猟奇的とダンジョンを攻略する日々》死ぬ死ぬ詐欺――よくもだましたアアアア!!
「ねえ、お兄ちゃん……ここ、だよね……?」
「……おう、多分……。ご親切などこかのどなたかが、ご丁寧に立て札を設置してくださってるから間違いないだろう。ただ……」
「うん…………壁……だよね…………」
「壁……だな…………」
マユパパ達の尊い犠牲……じゃない、足止めを無駄にはすまいと、超特急でマユのいる『ファフニールの泉』の前へとたどり著いた俺と芽。
しかし、そこにあったのは……壁だった。
『危険! 立ちり止!』と書かれた立て札の橫には、間違いなく口っぽい窪みがある。
おそらくは、マユが逃げられないように二層の最低ゴミクソゲス野郎共が魔法で口を塞いだ……といったところだろう。
つまり、これが誰かを陥れるためにわざわざ作られた手の込んだ笑えない謎のミスリードでなければ、この向こうにマユがいるはずだ。
俺と同じ結論に達した芽がワイルドに壁を叩き、刀で斬りつけ、肩をすくめてこちらを見る。
「私じゃ、ムリみたい……。お兄ちゃんは……あっ……その、えっと……ごめん…………」
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謝りやがったコイツ。
「私で無理ならお兄ちゃんごときじゃお察しだよね(笑)」ってか?
喧嘩の売り方が上達したなオイ、お兄ちゃんビックリだよ。
そりゃー俺の方がレベルが高いのにステータスは負けてるがな……舐めてもらっちゃ困るぜ、妹よ。
「ふっ……笑わせるぜ! この程度の壁を破壊するなど造作もない。狂気のマッドサイエンティスト顔負けの、この悪魔的な魔法料理を使えばなっ! フゥーーハハハハハ!!」
今まで作り置きしておいた傑作の魔法料理がったバッグから取り出した、ソフトボールほどの大きさの粘土っぽいを芽に自慢げに見せつけながら、俺はキメ顔でそう言った。
「…………何それ?」
「ふっふっふ、これはな……いや、百聞は一見にしかず。まあ見てろ……あ、火持ってない?」
「…………火打石なら、あるけど……」
「さんくす」
まるで、二十代のヤングな親を相手にのフリをして振り込め詐欺をするイタい哀れな男を生暖かく見守るように、「意地を張るなら好きにさせてあげよう」的な、不憫ので満たされた眼差しで俺を見る芽。(※俺個人の見解です)
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理知的で溫厚で寛大での大きいパーフェクトヒューマンな俺はしも気分を害することなく、以下の手順を優雅にこなした。
まず、粘のある必殺料理を一個……待てよ、ないかな……二個……いや、もういっそ手持ち全部を口にぺたっとアーティスティックにくっつけて配置。
エクセレント!
次に、ランウェイを歩くトップモデルのようにエレガントに壁から離れる。
ビューティフル!
続いて、用かつリズミカルに火打石を打ち付けて著火し、火矢を完させる。
グレイト!
最後に、それを目標のブツ、必殺料理に向けて…………放つ!
コングラチュレーション!!
天才的な才能と日々のたゆまぬ努力は俺を裏切ることなく、華麗にった矢は見事に目論見通り命中し、そして――――必殺料理は、ちょっと俺もひく程の大発を起こした。
「ひゃぁっっ!??」
これほどとは思ってなかったが事前に結果が分かっていた俺とは違い、予備知識ゼロだった芽は突然の発に心臓が破裂する勢いで驚き、奇聲を発しながら飛び上がって俺にしがみつく。
ふっ……これぞ、対マユパパのために試行錯誤した料理の、殺傷力が高すぎるゆえ泣く泣くボツにした至高の作品の威力だ。
土煙が宙を漂い、発の殘響が耳をキーンと刺激し、口の壁がガラガラと崩壊する。
芽は魂を吹っ飛ばされたような放心狀態でその様子を呆然と眺めた後……壊れかけの機械人形のようにギシギシとぎこちなく顔をこちらに向けた。
そんな芽に、俺は心の中で言い放つ――「ドヤッ!!」と――――。
「ドヤッ!!」
おっと、思わず口から出てしまったじゃないか。
まさか數秒後、あの寡黙な妹に本気で怒られることになるとは知らず、俺は束の間の優越に浸っていた。
「まあまあ、落ち著け……今はそんなことで怒ってる場合じゃない。早くマユの元へゆかねば……! ゆかねばだろう!!」と半ばはぐらかすことで激怒する芽をなだめて、俺達はいよいよファフニールの泉へと足を踏みれた。
「う……おっ……!」
「な……何……これ…………」
ぶっちゃけ、俺はマユの心配なんてあまりしてなかった。
だって、マユは最強だから。
なので、俺の心境としては「マユが処刑される!? マユを助けなきゃ!」よりも、どちらかと言えば「マユが処刑される!? 愚かな自殺志願者を止めなきゃ!」の方が的をている。
別に、マユを殺そうとする絶対神への冒涜者を一心不に救ってやろうという気なんて頭ない。
むしろ死ねと思う。
だが、俺はマユに殺人願があるとは思えないし、サユとアユだって姉を殺人者にはしたくないはずだ。
だから、マユのために仕方なくクズ共を助ける…………つもりだった。
何が言いたいかというと、そんな俺にとって目の前の景は半ば予想通りであり、半ば想定外だったってことだ。
「……これ…………ひ……人……?」
俺達のすぐ近く……だだっ広い部屋のり口付近に散らばる、かつて人だった燃えカス。
えぐり取られた地面と、バラバラにちぎれ飛んだ手や足や頭や。
正確な數は定かではないが……処刑人達が全滅したのは間違いない。
それ自は、無念ではあるがさほど驚くことではない。
俺が驚いたのは、彼らの死因が明らかに焼死、あるいは死であるということ。
そして、のような真っ赤な泉の中央で、見覚えのあるイバラでぐるぐる巻きにされた挙句、同じく見覚えのある氷柱で貫かれた巨大な竜だ。
「これは……もしかして…………」
「あっ! お兄ちゃん、あれ……!」
俺が真実に到達すると同時に、芽が部屋の右端を指差す。
そこには、壁に寄りかかってうずくまる一人の――俺が會いたくて會いたくて震えたしのマユ……じゃないな、おそらくはサユがいた。
マユじゃないのは意外だったが……何はともあれ無事で何よりと思って、俺は勢いよく手を振って走り出す。
「おーい、サユーー! 俺だーー、俺が來たぞーーーーっ!」
「……え? サユ? え……? え??」
「……! てんちにぃ……!?」
なぜかキョトンとして「え?」を連呼する芽をよそに、俺はポカンとして瞬きを繰り返すサユに爽やかな笑顔で近づいて肩をポンポンと叩く。
「ホントにてんちにぃだ……もー、今までどこ行ってたのー? っていうかおそいよぉ、もーちょっと早く來てよねー……」
「いやー悪い悪い、こっちも々あってな。しっかし、元気そうでよかった……と思ったら、そうでもない? 何か元気なくね? まさか怪我でもしたのか!? 大丈夫か!?」
見た目には何ともないが、どこか聲と調子にいつもの爛漫さがなくて気になった俺が興気味に尋ねるも、サユは無理やり笑って否定する。
「…………あはは、なーんともないよー。ただ、さすがにちょーっと疲れちゃったかなぁー……」
「そう……か……。あ~……まあ、そりゃそうだよな、うん……。その、あれだ……お疲れ!」
…………俺は馬鹿か!
この慘狀を見てよく言えるな、俺って奴は!
こいつらを殺したのは間違いなくサユだ。
サユがそんなことをしてしまった……せざるを得なかった理由も、それによってけた神的ダメージも、よく考えなくても分かるじゃねーか。
何が「元気なくね?」だよ、俺は頭イカれてんの?
「え……と……お兄ちゃん……さっきから、何言ってるの? サユさんって……マユさんの、妹さん……だよね? あの……例の…………」
「あ? 當たり前じゃん。どっからどう見ても……って、見たじはマユだな。マユなんだから、そりゃそうなんだけど」
「え? えーっと…………え??」
の再會をするはずが何とも微妙な空気になりかけた場を、はてな顔の芽が偶然にもリセット(できたか甚だ疑問だが)してくれた。
にしても、さっきから何なんだ芽は。
この狀況のどこに疑問が…………。
――――あっ。
「あー、そっかそっか! そういや言ってなかったっけか? うっかりしてたなぁ、う~ん……まあ、その説明は後にしよう。とにかく今は――――」
いっけね、芽にマユの多重人格のこと話してないじゃん。
とはいえ、こんなところで長話してる場合じゃない。
マユパパと雨柳さんとローニンさんも心配だし、まずは一旦戻って――――と思った、その時。
「グォォオオオオオォオオオッッ!!」
「――――っ!!?」
あり得ないことに。
信じられないことに。
普通に考えて死んでるだろってレベルでボロ雑巾にされていたファフニールが……突然、覚醒した!
イバラを引きちぎり!
氷柱を砕し!
翼を広げて薄暗い天井スレスレまで力強く飛翔したファフニールが、ぎらりと星のように輝く瞳を俺達に向けて威嚇する。
マユの約束された勝利の包丁が無限の剣山となって突き刺さり、サユの極大魔法によってだらけになったままであるにも関わらず、その圧倒的な威圧と存在とラスボスとその他諸々はもう……もう……ダメだ、日本語では表現できない。
「や……やべええええ! サ、サユ、もう一回やっちまってくれっ!」
助けに來ておいてカッコ悪いことこの上ないが、それが一番手っ取り早くて確実だと思い、俺は咄嗟にサユに頼む。
が――――。
「うはー、ごめん! あたし、もうMPが……それに、もー疲れて一歩もけないよーーーー!」
「マジかよーーーーーーーー!!?」
「ど、ど、どどど、どうしよう……お、お兄ちゃん…………!」
「ど、ど、どどど、どうって……とにかく逃げるしか……」
初めて目にするビッグでヘヴィーでリアルなドラゴンさんに、俺と芽はワクワクする余裕など微塵もなかった。
その上、空前絶後にテンパるビギナー冒険者に対して、現時點での最強モンスターは挨拶も手加減も一切する気はないらしく、非にも口に降下して早々と退路を斷った。
そう、「知らなかったのか……? 大魔王からは逃げられない……!!」と言わんばかりに。
「く……くっそ…………こうなったら戦うしか……」
と、勇敢な言葉を吐いたはいいが……え? 戦う?
MPゼロのサユと、料理しか取り柄のない俺と、レベル3の芽が?
ファフニールと?
マジかよ。
勝てるわけねーじゃん。
やばたにえんの無理茶漬けだろ。
「てんちにぃ! あれあれ! あっちあっち!」
ストックしてある魔法料理で何とか切り抜けられないかと無茶と知りつつ思案する俺に、本當に一歩もけないのか座り込んだままのサユが口と逆方向を指差しながら呼びかける。
すぐさま指先を追うと、縦橫一メートルに満たない小さなが限りなくひっそりと開いており、その奧にうっすらと下り階段が……見えた……気がした。
もしも、あの先が行き止まりであればまさしく袋の鼠だが、もはや迷う時間もなければ代替案もない。
「よし……あそこに逃げよう! 走れ走れ走れーーーーっ!!」
ひと欠片の勇気と九分九厘の恐怖のを込めて絶した俺は、魔力も力も盡き果てたサユを背負い、ビビって震える芽の手を引いて、百パーセント中の百パーセントの全力全開で駆け出した。
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