《キチかわいい猟奇的とダンジョンを攻略する日々》蛍火の杜へ

突如復活したファフニールに口を塞がれて絶絶命の窮地に陥った俺と芽とサユだったが、口と真逆の場所にどこかへ繋がる(と信じたい)を発見し、無我夢中に走った。

意外にも慈悲深いファフニールは、挨拶もなく背を向けて立ち去るちっぽけな人間共を容赦なくファイアーすることなく見逃してくれたため、俺達は何事もなく謎のへ飛び込むことができた。

――まではよかったのだが…………。

「……なあ……何か……長くね…………?」

「うん……もう、けっこう降りてる……よね……」

人が一人ようやく通れる程度の幅しかない暗ーーくて狹ーーい階段を降りること、およそ五分。

未だ眼前にが差し込むことはなく、足元すら覚束ない真っ暗闇が続いていた。

………………おかしくね?

すでに、一層から二層に続く階段の三倍くらい歩いてる気がするんだけど……。

行き止まりじゃないのは大変結構なことだが、違う意味で不安になってきた。

「くっそ、攻略本にも載ってねえだろうしなぁ……。あっ、サユはここ通ったことねえの?」

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いかに立ち止區域と言えど、あのマユならばひょっとしたら……と背中におぶったサユに尋ねるが、

「いやー、あの泉にはマユねぇ何度か來たことあるけど……には気付かなかったなぁー」

と、淡い期待は呆気なく打ち砕かれてしまった。

つまり、正真正銘の前人未到ってことか……。

大丈夫かよおい、どこに繋がってんだよ。

上り階段だったら「もしかして地上に出られるんじゃね?」という希も生まれるが、非常に殘念ながら下りだ。

……っていうか…………。

「ぜぇ……はぁ……ぜぇ……はぁ……」

「……てんちにぃ大丈夫? ごめんねー、重いでしょ?」

「い、いや、大丈夫大丈夫……よゆーよゆー……」

これでもレベル4なだけあって、小柄なサユ一人なら羽のように軽い……けど……けど……。

サユが背負ってるリュックサックがくっっそ重いっ!

そういやこれ、包丁コレクションとか俺の作った保存食とかマユが殺した魔の生とかが、ごっちゃごちゃってるんだった。

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包丁とかいくらでも作れるんだから捨ててよくね? と思うが……前に聞いたところ、特に出來がよかったり手に馴染んだやつはキープする主義らしい。

っく……正直、力の限界だが……マユのお気にりを勝手に捨てるわけには……いや、だが…………。

「お兄ちゃん……代わろうか? 私の方が、STRも高いし……」

「そりゃ……ステータスじゃあ、負けてる……が……妹に、任せちまったら……兄としての面目が、丸潰れ……だろ……げほっげほっ!」

「……いや、カッコつけてる、つもりかも、しれないけど……その狀態になった時點で、すでにかなり、潰れちゃってるから……」

心配と呆れをミックスさせた芽のツラを見なかったことにして、俺は息を切らせながらガクガク震える足を懸命にかす。

これが単なるクソだりぃ力仕事だったら、ありがたい代の申し出に食い気味で了承したところだが……おんぶだよ? する人と合法的(?)に著できるんだよ? 代わってたまるかよ!

背中に伝わる好ましいによって疲労も吹っ飛びニヤける俺に、気のせいか芽が窒素より冷たい目を向けているような気がしないでもないが……それも見なかったことにしよう。

「あっ! なーんか明かりが見えてきたよー!」

弾むサユの聲に反応して、沈んでいた目線を上げると……たしかに、闇の向こうにぼんやりとしていた。

ついに訪れた終わり。

嬉しいような殘念なような……。

とにもかくにも、俺達はで下ろして自然と軽やかになった足で人類未踏の地へと降り立った。

「うわぁーーっ! すっごーーーーい!」

「な……何、ここ……本當に、ダンジョンなの……!?」

そこに広がっていた景は……當然ながら見たことがなく、當然とは言い難いほど想像を絶する別世界。

視界いっぱいに數えるのもうんざりするほど屹立する「樹齢數千年はあるんじゃね?」と思しき伝説の世界樹みたいな荘厳な樹木。

どれだけ見上げても目視できない木のてっぺんのさらに奧の奧、かすかに認識できる天の果てを、複雑に絡み合って隙間なく覆い盡くしている太いツタ。

土壌のかさを象徴するかのごとく青々と生い茂るフレッシュな草花。

とりわけしい、ふわふわの綿を纏ったタンポポに似た可憐な花が仄かに発し、さながら宵闇の中で戯れる無數の蛍のように儚げに揺れている。

辺り一面に咲き誇るタンポポの溫かみのある淡いは、鬱蒼とした樹海を神的に照らすだけじゃなく、俺達の張と不安を優しく溶かしてくれた。

「はぁ~~……すっげえなぁ……」

一瞬、マジで「え? 天國? それとも異世界?」と思った。

いや、今もその可能は捨てきれない。

それほどダンジョン離れした場所であり、かつ現実離れした場所だった。

「えー……っと……サユ、もしかしてここが……三層……なのか?」

「ううん、こんなとこ三層には……ってゆーか、四層にも五層にもないよー!」

「………………マジ?」

「マジマジ! 五層までならマユねぇが端っこから端っこまで行ったことあるもん、間違いないよー」

えぇ……?

ここが三層でも四層でも五層でもない?

でも、俺達めちゃくちゃ階段降りたじゃん。

んん……?

……ってことはだよ?

導き出される結論は……。

ここはなくとも六層……ひょっとしたら、それより下……ってこと?

「い、いやいや、そんな……昔のゲームの、裏ワザみたいなこと、あるわけ……」

「だ……だよなー! まさかそんな、二層から一気になんて……興ざめっつーか、どんなクソゲーだよっつーか、大炎上っつーか、低評価レビューの嵐っつーか……サユの気のせいなんじゃねーか? な、なあ?」

「……………………あはは……はは…………」

俺と芽が同意を求めて縋るような思いを込めてサユを見るが……「いや、やっぱり見覚えはないよー」と言いたげな困ったような半笑いを返される。

………………………………やばくね?

幻想的な風景に魅せられて危うく観客気分に浸りそうになっちゃったけど……よくよく考えれば、こいつぁやばいですよ。

だって、攻略本頼みのレベル4ザコ料理人とレベル3アサシンとMP0魔法使いが未知の下層にいるんだぜ?

RPGで例えると、最初の町の周辺でちまちまレベル上げしてたら、いきなりラストダンジョンに飛ばされた……みたいなもんじゃね?

萬が一の時は、この狹い階段を避難所として使えないだろうか……。

「……うぉっ!」

と思ってチラッと後ろを振り向くと、そこには今來た所だけちょこっとが開いた一際ぶっといツタが螺旋狀になって遙か天まで続いていた。

「…………俺達、こんなとこ下りてきたのか……」

「うっわー……すっごい高さだねーー」

なるほど……こりゃもう二度と戻りたくねえな、しんどすぎて。

どのみち、上にはファフニールが待ち構えてるわけだから余計モチベが上がんねえ……てか、わざわざ死にに行くようなもんだ。

「……ん? あれは…………」

ふと、嫌でも目を奪われる大樹と蛍タンポポ(仮稱)に隠れて、見慣れたがひっそりと輝いているのが見えた。

そろ~っと念のため用心して近づくと……。

そこにあったのはやはり、想像通り、あるいはそうだったらいいなぁという願通り、ダンジョンに住まう誰もがお世話になっている、魔を寄せ付けないセーブクリスタルだった。

「おおおっ! 見ろよ芽、サユ。ここがどこなのかはサッパリだが、とりあえず一息つけそうだぞっ!」

「ホントだー! いやぁよかったよかったー」

「うん……この広さだと、どこからどこまで大丈夫なのか、分かんないけど……一応、危険はなさそう……かな……」

今度こそ一安心した俺達は、包み込むような暖かさのクリスタルの下、ふんわりとらかい草の上で倒れ込むように腰を下ろし、深く息を吸って長ーく吐いた。

「ふぃ~、ちょっと休憩して今後のことを考えようぜ」

「さんせーーっ!」

俺の提案に元気よく手を挙げて賛同するサユとは対照的に、芽があからさまに不満たらたらなジト目を向ける。

「……それはいいけど……その前に、教えてよ。どういうことなの?」

「へ? 何が? ……って、あーそっか、忘れてた」

まさかのファフニールさんのせいですっかり頭から消えていたが、そういえば芽にサユとアユのことを説明しなきゃいけないんだった。

正直、俺だって分からないことだらけではあるのだが……とにかくの安全が保証された今、休息がてらに俺は知っている限りのことを思い出に浸りながら芽に話した。

「…………え? 多重……人格?? え、スキルで……??」

「うん、そうそう。いやー何でもアリってじだよなースキルって。すげーよなぁ」

「いやいやいや、え? え……ええぇ……?」

再び「え?」癥候群を発癥させて、サユをじろじろとが開くほど見つめる芽。

対するサユは、流石の対人能力でニカッと笑って手を差し出した。

「えーっと、遅くなっちゃったけど……はじめまして、ひめねぇ! ……って、マユねぇの一つ下だから、あたしと同い年なんだっけ? じゃー……ひめちゃん! でいい?」

「え? あ、うん……それは、いいけど……あっ、はじめまして……いや、そうじゃなくて……」

まだ混しているのか、激しくテンパっている芽がおずおずと握手に応じる。

まあ、自分より小さいの子にちゃん付けで呼ばれたら戸うのも無理はない……って、理由は百パー違うだろうけど。

「え……っと…………このこと、お父さんは、知ってるの……?」

「あー、おとーさんは知らない……ってゆーか、知ってるのはてんちにぃだけかなぁー」

「えっ、そうなのか!?」

噓だろ……てっきり知ってると思ってた。

だって父親だし。

うっわ……知らなかったとはいえ、こんな大事なことを今まで黙ってたなんて知られたら……。

うん、大変恐ろしい結末しか想像できない。

「いやー、最初はてんちにぃにもヒミツにするはずだったんだけど……あ、この人ならだいじょーぶそーだなーって思ったから。まー、でも、まさかてんちにぃがマユねぇを……とまでは思わなかったんだけどねー、むふふふふ」

「…………ふーん……」

にまにまとするサユの言葉をけて、気のせいか芽が本日何度目かの負のを帯びた視線を俺に突き刺してくるが……やはり見なかったことにしよう。

と、それから思い出話をえた大変和やか(?)な歓談タイムが続くかと思いきや……サユが突然、表を曇らせる。

「……それでね、それまではマユねぇってずーーっと一人ぼっちだったんだけど……てんちにぃが一緒にいてくれるようになって、これでマユねぇも、きっと……って……そう思ってたんだぁ……。でも…………」

「あっ! そうだサユ、違うんだよ! 俺も大変だったっつーか、決して――――」

そうだ、サユ達からしたら、俺は何も告げずに突然姿を消しているんだ。

慌てて釈明しようとする俺のに、サユは人差し指をそっと當てて悲しそうに微笑む。

「だいじょーぶ、てんちにぃがマユねぇを見捨てるわけないって、あたしは分かってるから。でも……ううん……えーっと……とにかく、これからはずーっと一緒にいてよね、てんちにぃ」

「…………おう、當然だ」

サユは俺の言葉を聞いて満足そうにしだけ口角を上げる。

そして、今度は芽の方を見た。

「それと……ひめちゃんも……一緒にいて、くれるの……?」

「……それは………………」

真っ直ぐに目を見つめて真剣に問うサユに、言い淀む芽。

その答えを待たず、サユは続ける。

「そーだよね、まずはちゃんと會って、それからだよね……。ただ、これだけは分かってほしいんだけど……マユねぇはホントに優しくて、だから……だから……嫌いにならないでね」

そう言い殘して――――。

サユはふっと糸が切れたようにパタンと倒れた。

……って、これじゃまるで息を引き取ったかのような表現だが、何も心配することはない。

芽はマジで慌てふためいたが、慣れている俺はすぐに分かった。

代の時間が來たのだと――――。

芽……ようやく會えるぞ……マユに」

そして、わずか十數秒後。

ようやく……本當にようやく、その時はやって來た。

「ん……うにゅぅぅうううぅうぅぅ……よおぉおおぉぉおくねたぁああぁあっ♪」

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