《キチかわいい猟奇的とダンジョンを攻略する日々》To see the future
考えても、考えても、私には、分からない。
大好きだったお父さんと、お母さんを、なんで殺しちゃったのか。
あの日……。
二年以上も學校を休み、ずっと家に引きこもる私を心配して、お父さんとお母さんは、忙しいのに仕事を休んで、私と一緒に、今後のことを話し合った。
向かい合って座る私は、本當に申し訳ない気持ちと、それでも踏み出すことができない、自分の弱さと、もうどうでもいいっていう、自暴自棄な気持ちから、何も言わず、何も聞かず、ただ俯いて、やり込んでたゲームのことばかり、考えてた。
そんなどうしようもない私に、容は覚えてないけど、お父さんとお母さんは、とても気を遣った溫かい言葉と、私の気持ちを必死に考えてくれた提案と、気強い説得を、何時間も続けてくれた。
それなのに…………。
私には、お父さんとお母さんの優しさが、ただただ辛くて、押しつぶされそうなくらい、重くて、が苦しくて、そして、どうしても耐えられなくなって、頭が真っ白になって……。
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気づいたら、お父さんとお母さんは、を流して倒れてた。
いつの間にか、真っ赤に濡れた包丁を握り締めてた私は、自分が犯した罪を認めず、目の前の景から目を背けて、できるはずもないのに、自分を正當化しようと、わけの分からない妄想に浸った。
本當に馬鹿だ。
なんで、私が死ななかったんだろう。
……分かってる。
私には、死ぬ勇気なんて、なかったんだ。
けないけど。
もう、手遅れだけど。
誰でもいいから……誰か…………。
私を殺して――――。
そう思ってた私を、お兄ちゃんは、自分を犠牲にして、救ってくれた。
死んじゃえばいい、だめな妹なのに。
お父さんとお母さんを殺した、人でなしの妹なのに。
助けてもらって、実はホッとしちゃった、弱蟲な妹なのに。
無口でも、無想でも、引きこもりになっても、人殺しになっても、昔から変わらずに接してくれた、優しいお兄ちゃん。
口にも、態度にも、出さなかったけど……そんなお兄ちゃんが、私は大好きだった。
だから……。
だから、助けられた私の人生は、お兄ちゃんのために使おう。
ダンジョンでもどこでも行って、モンスターでも何でも倒して、お兄ちゃんを守ろう。
そうすることが、私の罪滅ぼし。
それが、私のやるべきこと。
それが、私のしたいこと……。
いや――――。
違う。
そうじゃない。
そうじゃなかった。
ようやく、お兄ちゃんに會えて、一緒にいられるようになって、気づいた。
私はただ、お兄ちゃんを慕う気持ちを、言い訳にして、罪から逃げてるだけなんだ。
お父さんとお母さんへの、罪悪。
お兄ちゃんへの、負い目。
自分自への、嫌悪。
本當は、ちゃんと向き合わなくちゃいけない、背負わなくちゃいけない、そんなから、どうしても、逃げたくて……そんなカッコ悪い理由で、私はダンジョンまで、來てしまった。
お父さんも、お母さんも、消せない罪も、何もかも考えないようにして。
そのくせ、私は後悔してる、私は頑張ってる、私は償ってる、だから、私を認めて、私を許して、私をめて……そう、お兄ちゃんに、アピールしてる。
私は本當に、救いようがないくらい、馬鹿で、ズルくて、卑怯で、悪い人間だ。
優しいお兄ちゃんは、絶対に私を、怒らない。
気を遣って、お父さんとお母さんのことも、絶対に話さない。
きっと、これからもそう。
私のことを、誰も知らない、ダンジョンで。
み通り、誰にも責められることなく、咎められることなく。
お兄ちゃんを守るっていう、自己満足を貫いて。
そして、勝手に許された気分になって……私は、死ぬんだろうなぁ…………。
「――――ん……ぅう~ん……」
頭が、重い。
ぼーっとする。
起き上がりたくない。
……いいや、もうしばらく、このまま……。
って、あれ?
私……いつの間に、寢て……?
それに……頭に何か、らかいが…………。
「あっ……起きたか、芽」
「ぅひゃあぅっ?!」
固く閉じたまぶたを持ち上げ、うっすらと広がる視界――を、埋め盡くすくらい間近に、お兄ちゃんの顔がぼんやりと映り、すごくびっくりして、私は変な聲を上げて、飛び上がった。
私に、膝枕をしてたお兄ちゃんは、ぽかんと目を丸くした。
「お、お、お兄ちゃん……!? な、何してる、の……?」
「は? 何って別に……つーか、大丈夫か? もうちょっと安靜にした方がいいぞ、念のため」
「……え…………?」
いつも以上に、私を心配してくれる様子に、何だか違和があって、私は首をかしげる。
「えーっと……安靜にって…………どうして?」
「はぁ? いやいや、どうしてってお前、そりゃー……え? 覚えてないの?」
「? 覚えて……って……何を?」
何を言ってるんだろう、お兄ちゃんは。
まるで、私が大怪我でもした、みたいな……。
私は、普通に……。
……普通に…………。
「ん……と……私、いつ寢ちゃったんだっけ……?」
たしか、お兄ちゃんと、マユお姉ちゃんと、ご飯食べて……。
その後……そう、マユお姉ちゃんが、寢ちゃって……。
それから……。
何か……何かが……あった、ような…………。
「あ~……その……あれだ! いきなり木の実が落ちてきたんだよ、お前の頭に。そりゃもう見事にぶち當たってスコーン! って盛大な音を立てて、いやー、マジでびびった~!」
「…………そう……なんだ……」
言われてみれば、そうだった気が……気が…………全然、しない。
たしかなのは、に絡みつく、怖くて不快なじと、ずしりと全にのしかかる、疲労と倦怠。
それと……お兄ちゃんが、あさっての方向に、目を泳がせてることと、お兄ちゃんは、噓がすっごくヘタだってこと。
でも……本當は何があったか、なんて、別にどうでもいい。
お兄ちゃんは、優しい噓しか、つかないから。
きっと、私が知らなくていい、ことなんだ。
「……私、どのくらい、寢てた? お兄ちゃんは、寢てないの……?」
「んー、二時間くらいかな。俺は芽が心配だったし、あまり眠くなかったから。……久しぶりにマユに會えて、まだ興してるのかもな、うん」
「…………」
お兄ちゃんは、変わった。
前は、あんまり自分を、持ってなかった。
こんなに真っ直ぐ、素直に気持ちを伝えることなんて、なかった。
最初は、ちょっと引いちゃったけど……でも……私が好きなところは、変わってなかった。
「アユ……じゃない、マユもまだ寢てるし、もうしばらく寢てていいぞ。ってか、あんまり無理するなよ? 調子悪かったり、悩みとかあったらちゃんと言えよ? まあ……俺がヒャッハーしたせいでご覧の狀況になってるわけだから、ぶっちゃけ偉そうなことは『お前が言うな』ってじだけどさ……」
「あはは……。うん、分かった……ありがとう」
私は、すぐそばで寢息を立てて、丸くなってるマユお姉ちゃんに、目を向けて、頷いた。
「じゃあ……もうちょっとだけ、寢よっかな……」
しだけ迷って、私はまた、お兄ちゃんの膝に、頭を乗せる。
「おやすみ……お兄ちゃん…………」
「おう、おやすみ」
マユお姉ちゃん……。
あのお兄ちゃんを変えて、あのお兄ちゃんが好きになった、不思議なの子。
こんなに小さなで、私なんかより、ずっと辛いことがあって……それなのに、私なんかより、ずっと強くて……でも、本當は、弱いところもあって……。
いつか…………。
マユお姉ちゃんと、一緒にいたら……いつか私も、変われるかな……?
弱くて、噓つきで、逃げてばかりの、けない自分を。
お兄ちゃんみたいに、自分に正直に。
マユお姉ちゃんも、守れるくらいに、強く。
そんな未來を、いつか――――――。
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