《キチかわいい猟奇的とダンジョンを攻略する日々》THE 3rd DAY ~サユちゃんは語りたい~

樹海での迷子、三日目。

これぞファンタジー! という神的で幻想的な荘厳さに最初はテンションMAXだったものの、いい加減ちょーっと見飽きてきた今日この頃。

「いっくよ~~……ウィンターウインドーーーー!」

舵取り不能なマユに代わり、本日の出番は比較的し易いサユ。

ってなわけで、早速お得意の超絶魔法を派手にぶっぱなしてもらっている。

目的は魔を掃討するため……などではなく、余計にタチが悪い自然現象を吹き飛ばすためだ。

ため……だったのだ……が…………。

「……うあー、ダーメだねー、これは~。ふつーのきりじゃないっぽいよぉー」

「う~~ん、そっかあ……」

昨日は大人しかったのに、今日は一転して猛威を振るってやがるクソ霧野郎。

どうやら不思議なダンジョンパワー的な何かが働いているらしく、サユの風魔法をもってしても一瞬で元通りにモワモワと立ち込めてしまう。

つまり、お手上げだ。

「仕方ねえ……こうなったらリアルラックを信じて、ひたすら歩き回るしかねえな……」

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「あっ! じゃあさじゃあさー、ここの木をぜーんぶ燃やしちゃうとかよくない? ぶわーってさ! そしたらスッキリして歩きやすくなるしー、遠くまでよく見えるんじゃない? すごくない? あたし天才じゃない?!」

「いやいや、サユちゃん、私たちまで、燃えちゃうから、それ。あはははっ」

霧も晴れんばかりの気な笑顔で騒な提案をするサユに、すかさず芽が呆れながらのツッコミをれる。

あの芽が、出會って間もない相手にこれほどフランクでナチュラルでフレンドリーな応対をするなんて……。

素晴らしい。

した。

これも、サユの親しみやすいキャラクターゆえか。

「む~、カッキテキなアイディアだと思ったんだけどなぁー……まいっか! それじゃー、頑張ってもどろ~~!」

「「おーーっ!」」

手っ取り早い攻略法は殘念ながら不発に終わったが、俺達はしょぼくれてお通夜ムードになることもなく、今日も明るく元気いっぱいに出発した。

「――――それでねー、あたしはマユねぇとてんちにぃの仲を全力で応援することにしたってわけなんだよー」

「えぇぇ……うちのお兄ちゃんと、マユお姉ちゃんだよ……? サユちゃんは、それでいいの? 本當に?」

「は? 芽、お前それどういう意味? なあ、どういう意味で言っちゃってんの? 今サユはすげえいいこと言ったと思うんだけど?」

闇雲に歩き始めて間もなく。

巧みな駆け引きと激しいきで白熱した昨日のかくれんぼとは打って変わって、今日の俺達はとにかく……騒がしかった。

探索ついでの気晴らしのおしゃべり――いや、口と足をかす割合で考えると、もはや『メインはおしゃべり、ついでに目的を見失った適度な運』へといつの間にやら行がシフトしてしまった我々一行は、何の生産もない雑談で大いに盛り上がっていた。

「いやー、たしかにてんちにぃはちょっとアレっていうか、この人やばいなーって思う時もそこそこあるけどさー……でもでも、なんていうかそこも含めて面白いんだよね~」

「え? 何それ? それはどういう評価なの? 俺はどういうリアクションすればいいの?」

ラリった挙句の「あいらーびゅー」事件などなど、墓場まで持っていこうと今まで隠してきた俺の數々の醜態をあっさり暴してくれやがったサユは、思い出し笑いを必死にこらえながら、なおもべらべらと喋る。

「いやいやー、ちゃーんとほめてるんだよー? これでも、てんちにぃのことはかなーり気にってるんだからさー。なんなら、あたしのカレシにしてもいいくらいだよー」

「へぇ、マジで? そりゃ栄だな」

「なっ!? ちょ、まっ、ちょっ、ちょっとサユちゃん! だめだよ、そんな、からかったら。お兄ちゃん、単純なんだから、本気にしちゃったら、どうするの? いくら冗談でも、言っていいことと、悪いことが、あるよっ」

「……うん、そうだな、芽。言っていいことと悪いことはあるよな。ところで、自分の言葉に何か引っかかるところはないかい?」

まるで俺が勘違いして良からぬ愚行に走るのではと危懼するかのような妹の辛辣な言葉に、かに傷つく俺。

そんな俺の傷心は、もちろん華麗にスルーされる。

「まー、今のは半分ジョーダンだとして……ねね、芽ちゃんはさー、好きな人とかいた? 誰かと付き合ったことってある? っていうか、ここに來る前じゃなくっても、ほら、一緒にモンスターと戦ってるにだんだん……とかさー。もしかして今、一層にいる誰かと付き合ってたり?」

「え? えぇええ?! わ、私? い、い、いや、わた、私は、そんな、付き合う、とか、そういうのは……」

思わぬ方向に話が進み、芽があからさまに揺して顔を赤らめる。

そんな反応を面白がるように、サユはぐいぐいと芽に近づいて俯く顔を覗き込んだ。

何やら急に俺の疎外が半端ない。

「え~~ほんとにぃ~~? だってだって、芽ちゃんだって十三歳なんだからさぁー、そーゆー経験あるでしょ~? ねーねーいいじゃーん、教えてよ~」

「やっ、そっ、わた、本當に、そんな……好きな人……なんて……」

にやにやしながら、タメなのにさも人生経験富な歳上のお姉さん……いや、むしろオッサンのごとくサユが執拗に絡み、明らかに困り果てた様子の芽があたふたしながらチラリと俺に意味深な目を向けた。

むっ……どうやら助けを求めているようだな。

この手の話は芽的にどうなのかと思ったが……案の定というか、あまり得意ではないらしい。

「まぁまぁ、そのくらいにしとけよサユ。お前は知らないだろうが、芽は口下手で無想でコミュ障の元引きこもりなんだ。経験(笑)なんてぜんっっ……っぜん全くもって皆無なんだから、あまりれてやるなよ。なあ、芽」

よし、さりげない助け舟だ。

これで平和的に場を収めることができよう。

そう確信した俺は、芽からの惜しみない謝の言葉と尊敬の眼差しを一けるべく待ち構えた。

ところがどっこい。

芽は呆れと諦めと怒りと苛立ちを絶妙にブレンドした複雑な面持ちで俺を睨んだ挙句、

「お兄ちゃんって、ほんと……はぁ~~~~っ……」

と、深い深い、深~~~~いため息をついた。

なぜなのか。

「え~~? そっかなぁー? そんなこともないと思うけどなー」

「ってか、サユの方こそ意外なんだが。花より団子っつーか、なんてこれっぽっちも興味なさそうなのに……」

俺の素樸な疑問に、サユはなぜかを張って自慢げに答える。

「んっふっふー。バナってのはね、大人のレディのたしなみなんだよー、てんちにぃ。こー見えても學校じゃ友達とよく話してたんだよね。まっ、べんきょーばっかりしてたアユとか、ピュアすぎるお子ちゃまなマユねぇとは違うってことなのだよー」

「……あー…………うん、そうか、なるほど、そりゃすごいなー……」

言いたいことが山ほどあるにはあるが、まあ……いいや。

うん……わかった、この話はやめよう。

ハイ!! やめやめ。

「さてと……無駄話はこれくらいにして、いい加減マジメに樹海を目指そうぜ。今日は絶的なまでに霧が濃いから、三人で協力して注意しないとろくにけなさそうだ。頼んだぞ、サユ、芽」

「はーーーーいっ♪」

「………………」

(今さらながら)やる気を出した俺と元気よく返事したサユとは対照的に、無言でそっぽを向く芽。

どうやらご機嫌が斜めってると長年の兄歴が告げている。

えーっと……俺のせい?

「あのー……芽さん、もしかして怒ってらっしゃる? えー、その、あれだ……なんかゴメン……」

「……別に、怒ってないし」

「そ…………そうですか…………」

うっそだぁ~。

と火に油を注ぐような真似をしないだけの判斷力が備わっている俺は、これ以上逆鱗にれることのないよう懸命に思いとどまり、黙って行を開始した。

……が、そんな狀態で探索が捗るわけはなく、結局この日も俺達の努力は無駄に終わった。

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