《キチかわいい猟奇的とダンジョンを攻略する日々》宇宙よりも遠い場所

「おい、湊ー! 今日は節約とかケチくせーこと言うんじゃねーぞ! いっぱい出せよ、ーっ!」

「もちろん、お詫びなので頑張って作りますが……あなたの分はなめにします。マユさん達にご迷をおかけした罰です。しは反省してください、花凜」

「ハァァァァ!? んだよそれ! いーじゃねーか別に、死んでねーんだしよぉ。つか、アタシだって剣ブチ折られたっつーの! お互い様だろーが!」

「どうしてそうなるんですか、まったく……」

…………何だか、妙な展開になっちまったなぁ。

たっぷり一ヶ月も樹海で迷子になって、ようやく進展があったかと思ったら問答無用の闇討ちを仕掛けられ、それから三十分も経たないに名前しか知らないってのに闇討ち相手と仲良く食卓を囲むことになるなんて……。

わけがわからないよ。

つーか、別に斷ってもよかったんじゃん。

コミュ障オブザイヤーの芽に自迎撃バーサーカーガールのマユが、事を知らない初対面の人とわいわい談笑できるとは思えないし、そもそも俺だって普通にめんどくせえ。

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じゃあ、どうして俺は愚かにもイエスと即答してしまったのか。

それはひとえに、目の前にいる善良を絵に描いたような男が醸し出す『いい人オーラ』のせいで、まるで斷った方が極悪人になりそうだという恐ろしい罠が――

「どうかしましたか、天地さん? もしかして、調がすぐれないのですか?」

靜かに浮遊するセーブクリスタルの下で皆が円形になってくつろぐ中、ついつい心ここにあらずになってしまっていた俺の顔を、紅月さんが干しを切り分ける手を止めてそっと覗き込む。

フォトショで職人が加工したような超絶イケメンが目と鼻の先に現れ、俺はしどろもどろになって目を泳がせた。

「あ、いえいえ、そ、そんなことは全然……っていうか、そんな丁寧語はやめてくださいよ。俺より年上じゃないですか」

「そーだぞ、湊。いっつも言ってっけどよぉ、お前のデスマス気持ちワリーんだよ、マジで」

「いや、これは僕の癖というか、この方が話しやすいもので、つい……。すみません、気に障りましたか?」

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「あ、いえいえ、紅月さんがよければ俺は全然……あはははは」

つい今しがた出會ったばかりの俺達の前で、平常運転と言わんばかりの自然な態度の二人。

マイペースレベルでは雨柳&ローニン夫婦に引けを取らない。

すでに終えられた簡単な自己紹介を思い出しながら、俺は改めて二人を観察する。

「それにしても、三人ともお若いですよね。その歳でこんな所まで來るなんて、本當にすごいです」

――紅月湊、二十一歳。

俺でも知ってる超有名國立大學に在籍していたという、學力と顔面の両偏差値がアホほど高い秀才男子。

さらさらとした鮮やかな茶髪。

長い前髪の奧で優しいを放つ、二重の大きな瞳。

和な笑みを浮かべた際に覗かせる、綺麗に並んだ真っ白な歯。

モデルと見紛うスラッとした長

魔法使いっぽさを殘しながら現代ファションとしても通用するスタイリッシュで知的なローブ。

こんなジメジメとした不衛生なダンジョンにおいても全くれることのない整っただしなみで、隣にいると男としてのレベル差が際立って猛烈に恥ずかしい。

加えて、ちょっと話しただけでも伝わる品行方正さ。

嫌味がひと匙も含まれていない穏やかな口調に、一挙手一投足が優雅な落ち著いた立ち居振る舞い。

きっと、この人は就職活で苦労することはないだろう。

採用面接なんか、笑顔で「よろしくお願いします」と言って椅子に座った段階で合格が確定しそうな、そんな育ちの良さ、人としての完璧さをじさせる。

「ちっくしょう、このアタシが年下のに……。次は油斷しねーぞ!」

――八重樫花凜、十六歳。

驚いたことに、俺とタメだ。

前髪を頭頂部でいい加減に結んだ、無造作なセミロングの金髪。

長い睫に攻撃的な切れ長の目。

機嫌を端的に示すように深々と刻まれた眉間の皺。

スレンダーで、にしては高い長。

、膝、肘にあてがった鉄製のプロテクターにノースリーブのインナー、ショートパンツというアウトドアに最適なきやすい服裝。

好意的に表現するとワイルド、忌憚のない表現をすると暴な印象をけるが、まさしくピンポン大正解。

ガサツでらしくない――どころか男の中でもガラの悪い人種を想像させる口調に、あぐらをかいて忙しなくかす、落ち著きのない立ち居振る舞い。

先の襲撃に対する侘びの気持ちなど微塵もじられない。

きっと、コイツは辻斬り的な傷害罪で捕まったのだろう。

いかにも「むしゃくしゃしてやった、誰でもよかった」とか言って何も悪くない通行人をぶん毆りそうな、そんな不條理で手前勝手な橫暴さ、ジャイアニズムをじさせる。

……一見すると、これ以上ないほどミスマッチなコンビである。

どうして一緒に行しているのか、不思議でしかない。

だが、とある一點に関してだけ、この二人は非常にバランスが取れている。

とある一點……そう、ビジュアルが抜群にいいという點だ。

この天上天下唯我獨尊暴力ヤンキーは、紅月さんと比べても見劣りしない……どころか、これ以上ないくらいお似合いの人なのである。

なりと態度で正直かなり減點されているが、それでも素のレベルがめちゃくちゃ高い。

それっぽい服を著てそれっぽい化粧をしてそれっぽい禮儀作法をわきまえれば、世界トップモデルでもアイドルでも十二分に通用しそうだ。

何というか……驚くほど絵になる。

並んで座っていると、完全にファンタジー世界の主人公とヒロインにしか見えない。

芽さんとマユさんなんて、まだ中學生のの子なのに……モンスターは怖くないんですか? 戦わなくても、誰も責めたりはしないと思いますが……どうして、こんな危険なことを?」

あらかた調理は終わったのか、蓋をした大きめの鍋を焚き火の上にセットした紅月さんが芽に目を向ける。

仕方ないんです、人を殺して追われてるんで(笑)。

と言ったら、どんな顔をするだろうか。

芽とマユが骨に消極的だったため、俺が代表して三人分の自己紹介をしたのだが、その一節は省略……いや、腳した。

今の俺達は、ただただ仲良しな三人組の探索チームだ。

ゆえに、紅月さんの問いは至極真っ當な疑問なのだが……。

「…………あ……その、えっと……」

今まで一貫して「私は話しませんよ」という意思表示とばかりに刀を手れするフリをしていた芽が、ワンテンポ遅れて紅月さんの問いかけに反応を示す。

あからさまに助けを求めるように俺を見て、マユを見て、再び俺を見る。

俺は質問対象から外れているので口出しはできないし、マユに至ってはここにたどり著いたと同時に丸まって睡するというフリーダムっぷりだ。

仕方なく覚悟を決めた芽は、久しぶりにクールな刀使いを演じているような背びした口調で答えた。

「……怖いだなんて、思ったことは、ありません。むしろ、モンスターを倒して、強くなるのは、楽しいです」

「ハッハ! いいねいいねー、言うじゃねえか! 無想で気なガキかと思ったけど、意外とイイ格してんなあ! お前みてえな奴ぁ、大好きだぜっ!」

なぜかその一言が琴線にれたらしく、一気に好度が高まった八重樫さんが芽の頭をわしゃわしゃとかきした。

言うまでもなく、芽は相當に嫌そうだ。

「そういやあ、お前らレベルってどんだけだよ? 三人でここまで來たってこたぁ、かなりつええんだろ? 実際マユはハンパなかったしよぉ、ちょっとステータス見せてくれよ」

…………え?

「待ってください、花凜。まだ會ったばかりの人に失禮じゃないですか。マナー違反ですよ」

「ったく、相変わらず堅っ苦しいなあ~。アタシらだって見せんだからいいじゃねえか、減るもんじゃねえしよぉ。大、こうして一緒にメシ食うってなったんだから、もう知らねえ仲でもねえだろうが。なあ、いいだろ? なっ?」

…………やばい。

し話した限り、この二人はマユのことは知らないみたいだし、噓をついているようにも見えないし、噓をつく理由もない。

つまり、マユが全層で指名手配される最悪の事態にはまだ至っていないということであり、それは大変な朗報だ。

しかし、今ステータスを見て俺がレベル5、芽がレベル4だと分かったら、この二人はどう思う?

この一か月で俺も芽も一応レベルアップはしたものの、そんなのは笑えるくらい微々たる差だ。

紅月さんはともかく、八重樫さんはどうやってここまで來れたんだとか、どうして他に仲間はいないんだとか、々うざいほど聞いてくるに違いない。

そして、そうなった時に噓を貫き通せる自信はないし、正直に言ったらどうなるのか想像もできないが、協力してくれると考えるのは蟲が良すぎるし、むしろ敵対する可能の方が高い気がする。

ならば……。

「あーっと、えーっと……それより! もしかして、お二人って、その……つ、付き合ってるんですか?!」

「「…………は?」」

あまりにも苦しくて唐突な質問に、芽は「何言ってんのーーー!?」みたいな顔をしているが、幸いにも話を逸らすことには功し、八重樫さんは一瞬キョトンとしてから大笑した。

「アッハハハハハッ! アタシと湊が? 噓だろ、ありえねえ! マジで言ってんのかよ、ウケる!」

「うーん、付き合ってるのではなくて、付き合わされてるってじですかね、僕は。まあ、放っておけないとは思ってますけど」

「おいおい、お前がちったー見所のある使える奴だから連れてってやってんだろーがよ。アタシのおかげですげーレベルも上がってんだし、ウィンウィンじゃねえか。謝しろよなっ」

「何度も言ってますが、もっとみんなと足並みを揃えた方が安全なんですけどね……」

「ざっけんな! あの腑抜け野郎共、ビビっちまって未だに五階層なんかでモタつきやがってよぉー。あんな奴らほっときゃいいんだよ!」

…………。

えっと……無事に不穏な話題は流れてくれたけど、それより今……何かおかしいことを言わなかったか?

未だに五層なんかで……とか何とか……。

え?

たしか、今の最前線って五層だったような……。

「仕方ありませんよ、五階層は本當に難易度が高かったですから。それに、今は僕達も長いこと足踏みしてるじゃないですか」

「チッ、まあな。もう半月になるか……流石のアタシもこの森と霧には參るぜ、ったく。……そういやぁ、お前らはいつからここにいるんだ?」

何か引っかかるものをじながら、俺は「一ヶ月も迷ってる」と言うべきか一瞬考えて、當たり障りのない答えを適當に口にする。

「え、えーっと……今日で三日、ですかねー……」

「そっかそっか、お前らも苦労してんだなぁ。やっぱ區切りの十階層ともなると、きっちぃなぁ~。まあ、ムズけりゃムズいほど燃えてく――――」

「「じゅっ!?!?」」

想像を遙かに超えたワードが飛び出し、俺と芽は揃ってんだ。

當然ながら、紅月さんと八重樫さんは目を丸くしてポカンとしている。

當たり前だろ、と思っているのだろうが……殘念ながら俺たちにとっては全然當たり前じゃない。

「じゅ……十層……なんですか? ここ……」

「はぁ!? お前、何言ってんだ?」

…………もはやこれまでだ。

正直、適當に報を聞き出してお別れしようと思っていたのだが……まさか、ここが十層だなんて想定外すぎる。

俺の見通しが甘かった。

こうなったら……先の展開は読めないが、全てを話して助力を乞おう。

幸か不幸か、この二人も樹海を抜け出せずに困っている。

いくら俺達が殺人鬼とその一味だとしても、この場を切り抜けるために一時的な協力関係を築ける可能は決して低くはない……と信じたい。

という結論に達した俺は、戸芽に目を向けて「全部話そう」と意思を告げ、二人の練冒険者にこれまでの経緯を余さず語った。

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