《キチかわいい猟奇的とダンジョンを攻略する日々》僕の王の力がああああ!!

完全にノープランで飛び込んだ狹いの下には、幸いにも初見殺しの剣山が敷き詰められているわけでもなければ、おぞましい化が大口を開けて待ち構えているわけでもなかった。

り臺のような親切設計の緩やかなカーブを描き、ほどなくして俺はだだっ広い部屋へとあっさり吐き出された。

「ぅぐっ!」

「ふに゛ゅっ!」

勢いそのままに生い茂る草花の上をゴロゴロと盛大に前転した俺は、慣の法則に抗えず、一足お先に到著してふらふら立ち上がろうとしていた芽に背後から強烈なタックルをお見舞いしてしまった。

サプライズ落とし神的ダメージを負ったばかりのところに文字通りの追い打ちをかけられた芽が、悲痛なきとともにぶっ倒れる。

助けに來たつもりが、なんて外道な所業をしてしまったんだ俺は……。

「す、すまん。大丈夫か芽?」

「うぅ……な、なんとか……。それより、一、何が……。ここは……?」

気を取り直して、俺と芽はひとまず周囲を見渡す。

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仄かに発する蛍タンポポに照らされた緑の絨毯は、り落ちる前とほとんど変わらない景。

鬱陶しい霧も邪魔くさい木々もなく、視界は極めて良好。

果ての見えない森ではなく、土壁で囲まれた校庭ほどの広い部屋には、奧で立派に屹立する一本の巨木を除けば、特に目立ったは……。

「「――――ッ!?!」」

いや、違う。

あれは……木じゃない。

「お、お兄ちゃん……あ、あれ、って……」

「……ああ……やべえな、ありゃ」

あれは、まるで……そう、ヤマタノオロチだ。

パッと見、何の変哲もない――のように見えていたのは……手足、尾。

ド太い幹は、

そして、八方にびる枝は……大蛇の頭だ。

風にそよぐ枝を思わせる様相で木の首をわずかに揺らし、実に巧な彫刻と思いたい兇悪な顔面の赤黒い雙眸からかすかなが放たれている。

首一本の長さが、五メートルはあるだろうか。

それが合計八本。

こいつぁ、どう考えても雑魚モンスターじゃない。

フロアボスだ。

恐ろしいまでの巨が邪魔をして確認できないが……おそらく、あいつの背後に下の層へ降りる階段があるに違いない。

……つか、落としの先にゴールがあるとかクソゲーすぎんだろパンチ食らわすぞクソボケダンジョン設計者。

いや、そんなことより……そんなことより……だ。

あの木製ヤマタノオロチの、首の付け

ちょうど中央の集合部、そのてっぺんから明らかに異質な紫褐の何かが…………生えている。

ヤマタノオロチの一部、とは考え難い。

というか、信じられないが……気のせいだと思いたいが……嫌な予しかしないが……見覚えがある。

「ね、ねえ、お兄ちゃん……。なんか……よく分かんないけど……変、じゃない?」

かすれた聲でそう言って後ずさる芽の違和の理由は、おそらくヤマタノオロチの様子だろう。

派手に転げ落ちてきた俺達に気づかないわけがないにもかかわらず、八つもある頭はこちらを向く気配すらなく、なぜか弱々しくぐったりとうなだれている。

「……だよな。あの毒々しいしたキモイの……芽にも話したことあるけど、前に俺を二層から一層に飛ばした新種のモンスターだ。多分だけど、あいつがあのヤマタノオロチっぽいやつに寄生してる……というより、乗っ取ってるみたいだな……」

「え、ええっ?!」

正直、その認識で正しいのかどうかは定かではない。

が、あのハエトリグサもどき――パラサイトヘルズスネアは、以前カマキリにくっついていたが、その時のカマキリも似たような死にかけ狀態だった。

なんでこんなところにいるのか、そもそもボスモンスターにまで寄生するなんてアリなのか、疑問は山ほど沸いてくるが、とにかく今はそんなことを考えている場合じゃない。

「よし……不幸中の幸いと言うべきか、とりあえず襲ってこないようだし、上に戻る方法を考え――」

「天地ーー! 芽ーー! 無事かーーーーっ!?」

ひとまずは危険がなさそうなことに安堵していると、大きな聲とともに八重樫が、続いてししてから紅月さんがから飛び出してきた。

ちなみに、當然のごとく二人とも俺のように無様に転げ回ることはなく、スマートに著地した。

「おっ! 二人とも大丈夫そうだな。ったく、ビビらせんじゃねえよ」

「天地君がいきなり飛び込んだ時は焦りましたけど……本當によかった」

八重樫と紅月さんは俺達を見てをなでおろしたが、奧の方でどっしり陣取る大型生が視界にるや否や、揃って限界まで目を見開いた。

「なん……っだ、ありゃ……!」

まあ……いくらこの二人でも、そう思うよな。

俺はパラサイトヘルズスネアについて、知っている限りの報を端的に説明した。

「……なるほどな。んなやべえモンスターがいるなんて知らなかったぜ。……つっても、落ち著いて考えりゃー大したことなさそうだな」

「そう……ですね。どうやら一定範囲まで近づかなければ危険はなさそうですし……。流石に一度攻撃すればどうなるか分かりませんが、この距離を保って數撃で仕留めれば問題なさそうですね」

たしかにそうだ。

あのヤマタノオロチ……完全に憶測ではあるが、本來は部屋にった瞬間、魔法なりブレスなりで攻撃してきたんじゃなかろうか。

というか、そうじゃないといくらなんでもボスとしてはお末すぎる。

仮に、を乗っ取られたことで遠距離攻撃をすることがなくなった……とするならば、これは思わぬ幸運だったのかもしれない。

それにしても、やはり頼もしきかな、今日まで過酷な日々を乗り越えてきた練冒険者である二人は、俺の話を聞いて間もなく冷靜に現狀を打破する道筋を導き出したな。

仰る通り、八重樫ならばこれだけ離れていてもかぬモンスターごとき苦もせず倒すことができるだろう。

まあ、萬全を期すならばさらに最強無敵のマユの方が……。

「って、そういやマユは俺達がここにいることを――」

「にゃっっっははハハハぁあアアアッっ!」

芽のピンチやらヤマタノオロチやらのせいで、心配無用なマユのことを不覚にも失念していた矢先、実にナイスなタイミングでマユは現れた。

に落ちる前に八重樫とちょっとめて俺達とはし離れていたはずだが……そこはやっぱりマユだ、よく気づいてくれた。

「おおっ! マユ、いいところに! 今からあれを――」

俺は華麗な宙返りでフィニッシュしたマユに駆け寄り、さっそく作戦を伝えて存分に切り刻んでいただこうとした、のだが――

「にゃはあぁあ……なああぁにナニぃぃアレレぇえええ? おぉぉおもしろそおぉおおぅでぇぇぇきるキルきるキ・ル・し・たああぁイイにゃアアアアアっ♪」

マユは新しいオモチャを與えられた子供のようにパァっと顔を輝かせると、麺切包丁を握った腕をぐるんぐるん回しながら勢いよく走り出した。

「うぇっ!? ちょっ、まっ」

俺は慌ててマユの肩を摑んだ……が、もちろんそんなことで止められるはずはなく、マユは摑まれていることに気づくことすらなくトップスピードに達した。

「うおわあああぁあああああっっ!!」

右手一本でなんとかしがみついてなおも制止しようと闘するが、もはや俺の両足は完全に宙に浮いて、鯉のぼりの鯉のような狀態になってしまっている。

こうなったらもう、マユの好きにさせよう。

小細工なぞ弄さずとも、どうせマユが圧倒するだろうし。

そう思って、俺は手を放そうとしたのだが……。

ばくんっ!!

「…………………………へ?」

俺は、完全に甘く見ていた。

油斷していた。

マユならば絶対に大丈夫だと、そう過信していた。

そんな俺を嘲笑うように、パラサイトヘルズスネアは、その巨大な図からは想像もできない速さで俺とマユを捉え、飲み込んだ。

――――――――――俺の左腕の、肘から下を殘して。

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