《キチかわいい猟奇的とダンジョンを攻略する日々》許されざる者、太に灼かれて -ライジングサン-

あれを目にするのは何ケ月ぶりだろうか。

たしか……ダンジョンに落とされてから芽と再會するまでに約一ケ月……それから樹海に來るまでに約一ケ月……樹海で迷い続けて約一ケ月……。

そうか……もう三ケ月以上も経つのか。

遙か彼方から我々全人類……いや、全生を溫かく見守り続けている、神と比肩し得る偉大なる存在――太

アユに回復魔法をかけてもらっている最中、遅まきながら現在地を確認しようと前後左右三百六十度を丹念に見回した後に天を仰いだ、その時。

俺の眼前には、文字通りの天空がどこまでもどこまでも広がっていた。

雲一つなく、端から端まで青で塗り潰されたキャンパス。

その中心で、己の神々しさを主張して煌々と眩しいを放つ太がドンと鎮座している。

わずかな熱を帯びた遠赤外線がの奧底までじんわりと染み渡る、懐かしの覚。

別に日向ぼっこが好きだったわけでもないし、なんなら晴れの日より雨の日の方が落ち著くようなキャだった俺だが、それでもなんとなく慨深いものがある。

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言うて數カ月ぶりでこれなのだから、何年、何十年ぶりにシャバの空気にれた先輩囚人方々に至っては、のあまり太教なる宗教を興して日々太に頭を垂れて熱心に祈りを捧げたに違いあるまい。

よ、ああ素晴らしき、太よ。(日々野天地、心の俳句)

……って、ん? 太

え? ダンジョンで? 空? 太

「こ……ここは……ダンジョンの外……なのですか……?」

放心狀態の俺に気づいたのか、いつの間にかアユは泣き止んで空を見上げ、同じように呆けている。

「……いや……うーん……どう、なんだろうな……」

前代未聞、起源不明、出不能、最奧未開、死者多數のダンジョンから外に出る方法――それはモンスターに食われることです。

いやいやいや、そんなわけないっしょ。

とは思うものの、実際に俺もアユもこの通り、お天道様の下にいる。

まったくもって謎だらけだが、一つだけハッキリしていることが……。

「でも、ここ……どう見ても日本じゃなくね……?」

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「そう……ですね……」

今、現在、俺達がいる場所……頭上を見上げている間は日本のどこと言われても不思議じゃないが、周囲はボロボロになった石造りの跡であり、家も道路も人も車も何もない。

學がないので、外國の世界文化産的な場所である可能はゼロじゃないが、なくとも日本じゃないことはたしかだ。

あまりに信じられない景に、俺とアユはしばらくの間、ただただ唖然として辺りを眺めた。

「うーん……人もモンスターも見當たらないな……とりあえず探索あるのみか。アユ、大丈夫か?」

「もう……だから私のことより、あなたは自分の、こと……を…………っ」

「……?」

泣いたり謝ったりした自分の言を思い返して気恥ずかしさをじたのか、ぷいっと顔を背けて仏頂面で答えようとしたアユだったが、なぜか急に言葉を詰まらせる。

「なっ……?! お、おいっ、どうしたんだよ、それ!?」

俺としては主にメンタル面を心配していたのだが、見るとアユの顔や首、手足は広範囲に渡って真っ赤に腫れて、ところどころに痛々しい水ぶくれができていた。

「うっ……あ、ぐ…………っ」

「いつの間に……! 何なんだこれ、毒か?! 魔法か!? くそっ!」

改めて周りを必死で見渡すが、モンスターの影はおろか、怪しい霧も靄も霞もガスもなければ、変わった匂いも音もない。

未知のモンスターによる攻撃やダンジョンお馴染みのトラップという線はなさそうだ。

そもそも俺は至って健康なのに、なぜアユだけがこんなことになっているのか。

「あ、熱い……いた、い、あつ、熱い……熱い熱いっ、痛いっ……ッ!」

「しっかりしろ、アユっ! そ、そうだっ、回復魔法! それとあれだ、ほら、解毒魔法!」

顔を覆ってうずくまり苦しそうにもがくアユをとても直視できず、俺はあたふたしながら解決法を死ぬ気で考える。

が、アユを助けたい一心で口から出てきた案がことごとくアユ頼みなのはなんともけない。

くそっ、俺はなんて無力な役立たずなんだ……。

「ぅ……っく……ヒー……リング……キュア、ポイズン……」

淺く呼吸しながら、かすれた聲で絶え絶えに魔法を唱えると、アユの全を蝕んでいた炎癥がすぅっと溶けるように消え去った。

「ふぅ……治った……か。はあ~、ビビったぁー。一どうなって……――んえっ?!」

何が何だかさっぱりだが、ともあれこれで一安心……とホッとしたのも束の間。

確実に、絶対に、間違いなく、驚きの白さを取り戻していたはずのは、巻き戻しの映像を見ているかのごとく、再び赤く腫れ上がった。

「ぁ……うぅっ……い、痛い……天地、さん……」

「~~~~っ……だ、大丈夫だアユ。すぐに原因を見つけるから、もうしだけ頑張ってくれ!」

わけ分からん!

そう腹の底から全力でびたいが、アユが激痛に嘆いているのに、へっちゃらな俺が泣き言を言うわけにはいかない。

くっそ、何だ? 何が起こってるんだ?

相変わらず周辺は廃墟ではあるが平和そのものだし、空気はムカつくほどうまいし、お日様だって呑気にポカポカと――

「あっ……! そ、そうか……そういうことか……!」

ズガガガガンと全を稲妻が貫き、俺はついに真理へと辿り著いた。

俺は急いでアユをお姫様だっこ……は殘念ながらできないので、どうにか背負って近くの元建築だったと思しきズタボロの建へとダッシュした。

半ば以上が崩れ落ちていてほとんど屋外と変わらないが、わずかに殘った天井の下へり込み、そっとアユを橫たわらせる。

「アユ、もう一度ヒーリングを使ってくれ。今度こそ治るから」

「う………わ……かり、ました……。ヒー……リング……」

再度かけられた回復魔法によって治ったは、俺の目論見を外れることなく、數分間見守った後も綺麗なままだった。

俺は今度の今度こそ安心して大きく息をつき、力のあまり石造りの床に勢いよく前のめりに倒れ込んだ。

「はぁ……はぁ……天地さん……何だったんですか、さっきのは……。今までじたことのないような痛みでしたが……」

まだ後を引いているのか、手や頬をさすりながら眉をひそめてアユが俺に尋ねる。

「ああ……あれは太のせいだったんだよ。アユの方が知ってると思うけど、マユ……線過敏癥だったんだろ? しかも、かなり重度の」

「あっ……!」

そう、以前マユパパから聞いたマユの過去話に出てきた、マユの持病だ。

紫外線の影響を過剰にける質のようで、普通の人なら太に長時間當たっても日焼けする程度だが、マユにとっては火に直であぶられるに等しく、ごく短い時間でも火傷してしまうらしい。

俺はそんな病気があること自知らなかったが、マユは線過敏癥患者の中でもかなり深刻な病狀だったようで、當時は學校にも通えないほどだったらしい。

とは言え、あの時はもっとショッキングな話が次から次へと出てきたからあまり印象に殘らなかった……というか、ダンジョンにいれば死に設定だろ程度にしか考えてなかったが、まさかこんなことになるとは……。

つーか、たかだか日を數分ちょっと浴びただけで、あそこまで火傷するとか知るわけねえし。

あんな酷い癥狀、誰がどう見ても太の仕業じゃねえじゃん。

超兇悪なモンスターの毒か何かって思うじゃん。

なんて恐ろしく分かりにくい病気……マユファンクラブ會長の俺でなきゃ見逃しちゃうね。

「……そっか……マユおねえちゃん……こんなに、辛かったんだ……。ずっと……ずっと……」

昔のことを思い出しているのか、アユはをぎゅっと摑んで悲しそうに俯いている。

最近気づいたがどうもデリカシーに欠ける俺では、殘念ながら咄嗟に気の利いた言葉の一つもかけてやることはできないが、代わりに俺は黙ってアユの肩にポンと手を置き、今後のことを考える。

とりあえず、俺は一命を取り留めたし、アユの癥狀も落ち著いた。

うん、よかったよかった。

で、これからどうする?

頼もしき仲間とははぐれてしまったし、食料もわずかしかない。

俺は左腕を失ったし、アユはなくとも日中は日から出られない。

マユの様子がおかしかったのも気になる。

Oh……不安要素しかない。

そもそも、ここはどこだ?

が存在する以上、地球のどこか……だと思いたいが、それは楽観的と言わざるを得まい。

もしかしたら、あの太も実は幻覚魔法や魔法道のたぐいで、ここはまだモンスターが蔓延るダンジョンの中……ってことも絶対にないとは言えない。

そうだ、「あり得ないなんてことはあり得ない」くらいの気持ちじゃないとダメだ。

よし、最悪の狀況を想定してみよう。

え~っと……ここはまだダンジョンの中であり、十層よりもずっと下であり、見たこともない危険なモンスターもうじゃうじゃいて、俺の左腕は使いにならず、アユもろくにけず、マユも何か変で、水も食べなく、安全地帯も見つかっておらず、安心して寢ることもままならず、どこにいるかも無事なのかも分からない芽達が助けに來るまで何日も、あるいは何カ月もたった二人で生き抜かなければならない、と……。

「いや……無理だろ…………」

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