《キチかわいい猟奇的とダンジョンを攻略する日々》昔はマユのような冒険者だったが、膝に矢をけてしまってな……
鬼畜な縛りを課した見知らぬ土地での強制サバイバルが始まってから、十日が経った。
無理ゲーここに極まれりとは重々承知していたつもりだったが、その過酷さたるや、俺の覚悟とが甘ったれていたと認めざるを得ない。
なくとも、最終的にはガチ迷子になって本気で焦ったものの「テーマパークに來たみたいだぜ。テンション上がるなぁ~」という想をなからず抱いていた樹海での探索初期がチュートリアルどころか強くてニューゲームくらいの難易度だったと実するほど、今の俺とマユはいつ死んでもおかしくない狀況である。
その原因の九割近くを占めているのが……ここに普通にいたことだ。
そう――モンスターが、だ。
「エアーキャノン!」
アースウォールで作った簡易拠點の中から放ったサユの魔法が、高速で駆けるエクリプスウルフの橫っ腹を捉える。
知不能の空気砲は、ウルフの固い皮を貫いて大きな風を開けると同時に、人間ほどもある巨を十數メートル彼方まで軽々と吹っ飛ばした。
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「ふぃ~……やぁっと倒したよー。すばしっこいし、見えにくくなる魔法まで使うし、ほんっとメンドくさいなーも~」
「おつー。でもまあ、今回は三匹だけで助かったな。三日前だっけ? 十匹も出てきた時は……いやあ、本気で死んだと思ったわー」
「あははっ、そだね~」
モンスターがいた時點で地球という線は消えたが、未だ謎の現在地――とりあえず地上と言うことにしたが――ここでは、今までの総集編とばかりにバラエティかな多種多様のモンスターが頻繁に襲い掛かってくる。
ゴブリンやらオークやらヴェノムキャタピラー程度なら俺がシュッと刺して捻るが、問題はコブラソルジャーやミノタウロス、たった今サユが蹴散らしたエクリプスウルフといった強敵が大群で現れた時だ。
サユが本気を出せば駆逐すること自はチョロいのだが、無計畫に大技を連発してMPが枯渇したら詰むので、なるべく節約しなければいけない。
そして、アユの時がこれまた大変だ。
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大抵のモンスターが相手なら、漫畫に出てくるワイヤー使いのごとく裁スキルの糸で絞め殺したり天高く釣り上げてから墜落死させたりとなかなかえぐい強さを誇るが、さすがにサユと比べると大群を一気に殲滅することは難しいし、スライムのようにそもそも通用しない輩も割といる。
そんなわけで、エンカウントのたびに結構な力と神経とMPをすり減らすはめになるのだが、何よりしんどいのは一回一回の戦闘よりも……
「さってと……うーん、まだ日が高いな……。そんじゃ、まだ寢てていいぞ、サユ」
「え~? いやいや、あたしはもう充分寢たよお。このとーり元気元気~! だから今度は、てんちにぃが休む番!」
ここに來てから、モンスターが近寄れないありがた不思議システムであるセーブクリスタルを一度も見かけていない。
したがって、夜間に探索を行い、太のせいで行できない日中は、片方が寢て片方が見張りをしなければならないのだが……これがもう、本當に辛い。
ダンジョンでは適當に探索しても大一、二時間おきにはセーブクリスタルがあったので今まで気にしたこともなかったが、いつどこからどれだけの數のどんなモンスターがどのくらいの頻度で強襲してくるのか、それを四六時中たったの二人で警戒するだなんて、明らかにオーバーワークだ。
いくらサユとアユが最高に頼もしいといえど、こんな狀況で睡などできるわけがないし、そもそも歩けども歩けども荒廃した跡地帯で地面はい土とゴツゴツした石だらけなもんだから、これがまた負の連鎖になっている。
俺ですら気を病んでろくに眠れないのだから、片腕の貧弱な料理人に見張りを任せざるを得ないサユなんて、生きた心地がしないだろう。
今も笑顔でぴょんぴょん飛び跳ね、元気ハツラツをアピールして俺に気を遣ってくれているが、目の下にはくっきりと隈ができているし、し顔も悪いように見える。
やはり、かなり疲れているみたいだ。
「いやいやいや、俺は完全に目が冴えちゃったからさ。モンスターもほとんどサユに倒してもらってるから、すげえ楽できてるし。せめて見張りくらいさせてくれよ。なっ?」
こうまで俺が遠慮する理由は、サユの健康を気遣って……というのが大半だが、ぶっちゃけ申し訳ないという気持ちもけっこうある。
俺はこんなザマゆえに戦闘では雑魚相手にしか無雙できないし、得意の料理もかなりもたついて時間がかかるようになってしまった。
加えて、殺菌、消毒、洗濯はアユのクリーニングに、水分補給はサユのウォータースプラッシュに頼りきっており、俺はサバイバル生活においてけないまでに役に立てていない。
せめて見張りくらい、というのはガチのマジで本音だ。
「いやいやいやいや、でもでも、てんちにぃ最近あんまり寢てないじゃん。こーゆー時は無理にでも寢とかないとダメなんだよ。それに、順番は順番! ちゃんと守らないと、うん!」
「いやいやいやいやいや、でも……あ~、らちがあかねえ。う~ん、まあ、そうだよな……このままじゃジリ貧だよな。……よし、もうやめよう。うん、それがいい。決めた!」
「…………へ? 何?」
首をかしげるサユに、ここ數日考えていた妙案を披すべく、俺は足元の石を拾って地面に図を描いた。
「安全な場所が見つからないなら作っちまおうって話だ。このまま代勤務を続けるのは、正直もうお互いに限界だからな。いっそ二人でゆっくりじっくり休んじまおう。サユのアースウォールでさ、こんなじにでっけえ土蔵みたいなのを建てて俺達を完全に囲っちまうってのはどうよ?」
口に出すと単純すぎてアホらしい他力本願な策に、サユは微妙な角度で頷いて「う~~ん」と唸る。
「まあ、できるけどさー……すっごく分厚くしなきゃ壊されちゃいそうだよねえ……。ってゆーか、それだと真っ暗になっちゃうし、そのうち空気もなくなっちゃうんじゃない? 出る時もどうするの? 作ることはできても、引っ込めることは魔法でできないよ? 壊すの?」
「厚さは三メートルくらいあればミノタウロスが殺到しても大丈夫……かな。暗いのは我慢してくれとしか言えん。空気は……そうだな、通気口みたいなのをあらかじめ作っとけば出口問題と一緒に解決できるんじゃね?」
「え~~? それだとスライムとかちっちゃい蟲系のモンスターがってきちゃわない? それに、地面から攻撃してくるモンスターもいたよね? ちょっと不安だなぁ~」
「うむむ……じゃあ基本は上下左右をがっちり固めて完全室にして、出口用に足元の一部分だけ壁を薄くしとこう。出る時は、そこをエアーキャノンで壊すじで。そんでもって、二階建ての一軒家くらいの広さにすれば酸素も大丈夫だろ、たぶん」
「うええ!? そんなにおっきいとMPかなり使っちゃうなあ……。ちょっと足りるかどうか、やってみないと分かんないよ?」
「MP回復の非常食が一応なくもないし……構わん! やっちまおう!」
「……ん! りょーかい!」
他にも問題點はある気がするし多強引だったかもしれないが、俺の強宣言に快諾したサユは、しばらく辺りをきょろきょろ見回してイメージを固めた後に「んん~~……アースウォーーーール!」と高らかにんだ。
猛烈な勢いで四方の土がせり上がり、見上げるほどの高さまで到達してから今度は太をシャットアウトしていく。
地面もアースウォールによって対モンスター用にコーティングされ、一分も経たないに俺とサユは外界から完全に斷絶された、ゴキブリ一匹り込めない超安全シェルターに包み込まれていた。
相も変わらず、そら恐ろしいまでに圧倒的な規模の極大魔法。
さすがは俺の知る限り最強の魔法使いだ。
「ふにゃー! つっかれたぁ~! いやー、やればできるもんだね~。うわっ、MPぜーんぶなくなっちゃったよぉ」
「ナイスサユ! よーし、これで二人とも思う存分休めるな!」
暗闇の中、サユがごろりと盛大に寢転ぶ音が聞こえ、俺も大の字になって背中から倒れ込む。
すぐ隣にいるサユの郭すら見えない、一筋のもさない暗黒空間だが、どちゃくそ安心できる。
最近、気を張り詰めっぱなしだったからなぁ……。
やべえ、この暗さと相まって秒で寢れるわ……。
「……ねえ、てんちにぃ……どこ?」
「……ふぁ? いや、すぐ橫にいるけど?」
ふっと意識が飛びそうになった瞬間、ぽつりと呟くサユの聲が耳に屆く。
おそらくこの辺と當たりをつけて右手をわさわさかしていると、サユの両腕が絡みついてきてガッシリとホールドされる。
「……えーっと……どうした? 蟲でもいたか?」
「んーん……なんとなく。この方が眠れそうな気がしたから。……だめ?」
「いや……全然」
よく分からんが、おそらく普段は底抜けに明るいサユも今は々と思うところがあるのだろう。
大の見當はつく。
まずは、俺だ。
俺が腕を失ったことを、アユと同様にサユも責任をじている。
時折、俺の腕を見て表を曇らせているし、何かにつけて人を要介護者みたいに丁重にもてなし、骨に気を遣ってくる。
正直、俺にとっては逆に苦痛でしかないのだが……。
そして、サユとアユ、そして俺にとっても気がかりなことが、もう一つ――
「マユねぇ……どうしたのかな……」
「……そうだな……」
今日までの十日間、マユが一度も起きていない。
いつもなら、通常はマユが活して、『マユ→サユ→マユ→アユ』というように、マユの睡眠時にサユかアユがランダムで覚醒するのだが……今はサユとアユだけが互に出てきている。
原因は不明だ。
こんなことは、今まで一度もなかった。
最初は、そのひょっこり出てくるだろうと無理やり楽観的に考えるようにしていたのだが、今は「もう二度と會えないんじゃないか」と最悪のことばかり脳裏をよぎるようになってしまった。
サユとアユも同じ気持ちなのだろう。
「……今の俺達みたいに、ちょっと疲れて眠ってるだけだろ。ここに來てから魔法料理のレパートリーも増えたし、今度出てきたら驚かせてやるぜ」
「あははっ、いいねー。見たことないモンスターもいっぱいだから、マユねぇなら絶対喜ぶだろうなぁ」
「だな」
よく知らない人なら、今のサユが思いのほか平気そうに見えるだろうが……俺には、辛くて寂しくて不安で押し潰されるのを必死で隠しているのがバレバレだ。
こんな時、紅月さんみたいな生粋のイケメンなら抱きしめるか頭をでるのかもしれないが、今の俺は……ないよ、腕ないよぉ!!
今、この時ほど、左腕を失ったことを殘念に思った時はない。
あ~あ……なんていうか、こう……そろそろ俺もマジでやべえな。
利き手じゃない方の腕の一本くらい、例えば足を失うより全然マシだろHAHAHAHAHA! と軽く考えていたが、実際には何をやるにしても満足にできずストレスがハンパねえ。
それに、せっかく打倒マユパパの頃に特訓した弓の技も上達して、戦闘で足を引っ張らない程度には活躍できるようになってたってのに……。
命が助かっただけ儲けものと言われてしまえばそれまでだが、これまで以上に俺の存在価値が危うくなってしまったのはたしかだ。
どっかにチートアイテムでも落ちてねえかなぁ……それかレベルアップしてチートスキルでも覚えねえかなぁ……。
「…………ん?」
俺が自己嫌悪に陥り逃避的な思考に耽っていると、唐突に目の前がぼわっとわずかに明るくなる。
見ると、俺の前方、手をばせば屆く空中に、紐で巻かれた羊皮紙が淡いを放ちながらプカプカと浮かんでいた。
……我ながら何を言っているのか分からねえが、マジで言った通りの現象が目の前で起こっている。
え? どゆこと?
「な……な……何? 何? てんちにぃ、何これ?」
「……いや、俺もさっぱり……って、あれ?」
二人で呆気に取られてまじまじと謎の羊皮紙を眺めていると、俺はその十數センチ下で小さな文字が並んでいるのに気づいた。
し間隔を置いて左から……『Open』、『Delete』……。
「? ?? ???」
謎が謎を呼んでいるが、推測するにこれは文字通り『Open』で羊皮紙を開き、『Delete』で羊皮紙が削除される……と思われる。
新手の罠かもしれないが、まさか開いたらウイルスに染したり発したりするわけはあるまい……と考えた俺は、恐る恐る『Open』に指を近づけてみた。
すると文字列は消え、紐がシュルシュルと勝手に解かれた羊皮紙が勝手に開かれていく。
俺とサユは顔を見合わせて、羊皮紙の中央に書かれた小さな一行の文字――懐かしき漢字を食いるように見つめた。
『我雨柳紙送魔得一字一M費近況場問』
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