《キチかわいい猟奇的とダンジョンを攻略する日々》最近なにしてますか? 忙しいですか? 教えてもらっていいですか?

『我雨柳紙送魔得一字一M費近況場問』

俺とサユは、閉空間に突如出現した謎の羊皮紙に書かれた謎のエセ中國語のような漢字の羅列を、たっぷり一分近くもが開くほど見つめていた。

訳は、わけの分からない狀況による混から正常に復帰するのに十秒、文字列を黙読するのに十秒、その意味を解読するのに三十秒、つまりどういうことかが判明して脳にツッコミどころが溢れて再び混のバッドステータスに陥るのに十秒……ってとこだろう。

「ま、待て待て。正解の確認なんだけどさ、この文章を翻訳すると、ようするに……」

『アタシは超天才マジカルジャーナリスト雨柳巡ぽよ☆ 今日はなんとびっくり! メールを送れるぶっ壊れ魔法を覚えちゃったンゴ。マジあざまる水産よいちょまるってじで沸いたw テンションあげみざわww でもねでもね、たった一文字やり取りするのにもMP使っちゃうの。ありえなくない? なしよりのなしじゃない? マジつらたん……ぴえん。ってかさー、てんちゃん達は最近どこでなにしてんの? すきぴロスでキャのアタシにはかなしみが深いから、とりまメンディーだろうけど秒で返信お願い卍卍卍卍卍』

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「――ってこと?」

「うん……全然違うけど、大そういうじじゃないかなぁ、たぶん」

なるほどなるほど……。

は? 何その便利すぎる魔法? そんなんあり? なわけねーだろ、ふっざけんな!

と憤っても仕方ない。

むしろ、これはすげえタイムリーかつありがてえ。

「ねえねえ、これでひめちゃん達が無事かどうか分かるんじゃない? 早く返信しようよっ」

「ああ、そうだな!」

この十日間、俺は自分達のことで割といっぱいいっぱいになってたが、もちろん芽達の安否はずっと気がかりだった。

まあ、鬼みたいに強くて怖くて意外と面倒見のいい八重樫もいるし、機転が利いて回復魔法が使えて家事までこなせる完璧超人の紅月さんもいるし、ぶっちゃけ俺達よりよっぽど大丈夫だろうけど……それでも、ダンジョンでは萬が一ってのがある。

ただ、可及的速やかな連絡に當たって一つ問題が……。

「うーん……紙の下んとこに『Reply』って文字が浮かんでるから、これを押せば返信できそうだけど……一文字ごとにMP消費するんだよな……。むむむ、なんて返すのがベターか……」

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「ん~、むつかしいねー。雨柳さんみたいなのが一番節約できそうだけど……うあー、あたしは苦手だなあ」

「俺も……。くっそめんどくせえな……」

雨柳さんのMPなんて全然覚えてねえけど、どんだけ高くても二百もないだろう。

つまり、原稿用紙一枚……どころか、その半分にも満たない文字數で、今日に至る激の日々を簡潔に要約しなければならないのか……。

しかも、こんなエセ中國語で。

最初はとんだチート魔法だなファッキンと思ったが、使い勝手を考えたら案外そうでもない気がしてきた。

っていうかこれ、もしかしたら返信の時は俺のMP消費するんじゃね?

それだったら詰むんだけど、四十五文字でどうしろと?

いや、そこはもう考えたらダメだ。

とにかく、できるだけ端的かつ確実に伝わる天才的で悪魔的な文章を試しに送ってみよう。

うん……。

こりゃあ、ゆっくり眠るのはしばらくお預けだな……。

――あれから、もう十日も経ったんだ……。

お兄ちゃんと、マユお姉ちゃんと、離ればなれになった、あの日……。

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私達は、十層のフロアボス、八つ首の木龍を、一時間に及ぶ死闘の末に、なんとか倒すことができた。

と言っても、私のレベルじゃ、首を斷ち斬る力も、囮になってする素早さも、なかったから、私は隅っこの方で、八重樫さんと紅月さんが戦ってるのを、ただただ見てることしか、できなかった。

二人とも、やっぱりすごい。

八重樫さんは、火炎ブレスに突っ込んで木龍に近づき、何度も何度も、再生する木龍の首を、何回も何回も、スパスパと簡単に斬り落としたし。

紅月さんは、私が攻撃されないように、木龍を引き付けながら、魔法で攻撃も補助も回復もして、八重樫さんがきやすい立ち回りをしてたし。

落とした首が百を超え、ようやく再生の限界を迎えて、大きな音を立てて木龍が倒れた時も、二人は軽く笑って、グータッチしただけだった。

そんなに特別な戦闘じゃない、一瞬で倒したモンスターと大して変わらない、ってじの、その何気ない仕草を見て、私は自分の弱さを、二人の強さを、改めて強くじた。

「天地君とマユさんは、自分達が上層と下層のどちらに飛ばされたかすら分かりません。かと言って、下手にかず僕達の助けが來るまで待つより、いずれにせよ人がいる層まで辿り著けるように上層へと向かうはずです」

そう言って、紅月さんは次の層に続く階段の橫、先に進む上で必ず目にる壁面に、ナイフで大きく、文字を刻んだ。

『0日目、10月15日15時23分、合流に向けて下層へ。紅月』

「彼らが下層から僕達とすれ違ってここまで戻ってきた……あるいは、上層からさらに人のいる五層まで上がり、それから再度ここまで降りてきた……どちらの場合にしても、最終的には確実に合流できるよう、こうして僕達の行履歴を目に付く場所に殘しながら進みましょう」

「なるほどな……。逆に、あいつらもこんなじに、自分らがいつどこにいたかっつーのを殘してるかもしんねえから、見落とさねえように気ぃつけねえとな。……あいつらがそこまで頭回るかっつー話だが……まあ、天地ならそこら辺ちゃんとして……いや、微妙だな……」

激戦の余韻もなく、冷靜に、いつも通りのテンションで、紅月さんと八重樫さんは、今後の方針を話し始めた。

私なんか、お兄ちゃんとマユお姉ちゃんがいなくなってからずっと、嫌な予ばかりが頭をよぎって、何も考えられないのに……。

なんだか、もう、自分がクールな剣士っていう、自己暗示をするのも、バカバカしい。

私にできることは、二人の言うことに黙って従い、できるだけ足手まといにならないように、ただついてくことだけだ。

きっと、それしかなく、そして、それが一番正しい。

強くて、頭のいい、ベテランの二人に任せれば、お兄ちゃんにも、マユお姉ちゃんにも、きっとすぐに會える。

早ければ……一週間とか?

ううん、三日くらい?

もしかしたら、明日?

実は、今日中だったりして?

……なんて。

そんな風に、なんの拠もない期待を抱いて、そして……なんの手がかりもないまま、十日が経ち、今に至った。

「――ぶえっっくしょんっ!! う゛ぅ~、さみぃなチクショウ……」

モデルみたいなビジュアルとのギャップが著しい、豪快なくしゃみを、恥じらいを欠片も見せずに放つ八重樫さんに、たき火で溫めたスープを渡しながら、紅月さんが心配そうに、聲をかける。

「大丈夫ですか、花凜。思った通り、火力が心許ないですね……。やっぱり、僕がもうしたき木を取ってきた方が……」

「あーもう、いいっつってんだろ、しつけーな。一人で行したら危ねえって誰でも分かんだろが」

「それはそうですが……」

初めて、ここに降り立った時、私達は一様に、言葉を失った。

その理由は、そう、今まで経験したことがないほど、凍える寒さだったから。

……じゃ、なくって、

「しっかし、マジでどうなってんだよ、ここは……。まさか、生きてるにまた雪が見れるとは思わなかったぜ」

「ですね……。花凜が火屬魔法を使えて本當に助かりました。とは言っても、無暗に使用してしまってはMPがいくらあっても足りませんから、そこは気を付けないといけませんが……」

そう、辺りを見渡せど見渡せど、延々と純白の雪原が、広がってたから。

……って、いうのもあるけど、それよりも、

「まあ、雪なんかさみぃわ邪魔だわでゴミみてえなもんだけどよ……。そんなもんより、さすがのアタシもアレにゃあ驚いたぜ。つーか、十日経った今でも信じらんねえよ」

「ですね……。一ここは……いえ、この世界はどうなっているのでしょうか……」

そう……私達の頭上、ずっとずっと遠くでり輝く、かつては當たり前に存在してたけど、今は當たり前に存在しないはずだった

――太

階層間の、長い階段を下りた先で待ってたのは、無數の氷の粒が、を反してきらきらと瞬く、しい雪國だった。

いつものように、暗くて、じめじめした迷宮を想像してた私達が、數カ月ぶり――八重樫さんにとっては五年ぶりで、紅月さんにとっては二年ぶり――の太と、雪がちらちらと舞う、広大な世界を目の當たりにした瞬間のは、すでに見飽きた現在でも、全く褪せることなく、思い出せる。

「にしても、五日も一直線に歩き続けたってのになんの収穫もなく、手ぶらで戻ってくることになるとはなぁ……。どんだけ広いんだよ、くそっ」

うんざりしたような、怒ってるような、複雑な顔で、八重樫さんは十日前に私達が下りてきた場所を、忌々しそうに睨みつける。

白い絨毯と、點々と生えた枯れ木だけが視界を占領する、どこともしれない謎の場所に、ぽつんと……と表現するには、大きすぎる、縦も橫も、直徑何キロもありそうな、巨大な石造りの塔。

どうやって建ってるのか不思議な、今にも倒れそうで不安になる、鉛筆を地面に突き刺したみたいな形をした塔の、最下部に見える、階段。

その階段の橫の壁面に刻まれた、紅月さんの文字が、吹きさらす雪で三分の一ほど、隠れてる。

『0日目、10月15日15時54分、北へ探索を開始。100m置きに目印を配置し、10日後に帰還予定』

『10日目、10月25日16時34分、北探索から帰還』

「たしかに得るはありませんでしたが、行履歴は殘してきましたから、僕達の行は無駄ではありませんよ。……もどかしいですが、今はこうして地道に捜索するしかありません」

「まあな。でも、まあ……無駄になってる方がいいんだけどな。あの階段から、能天気な顔でひょっこり現れてよぉ。ここに飛ばされるよか、幾分マシだろ?」

「それは……そうですね……」

たぶん今、八重樫さんも、紅月さんも、私と同じことを、思い返してる。

この十日間の、辛かった日々のことを。

寒さと疲労で奪われる、力。

見たことのないモンスターを、警戒して、消耗する、集中力。

それと……セーブクリスタルが、見つからないから、一時も安らぐことができず、しずつ削られていく、神力。

私ほどじゃ、ないだろうけど、二人とも、かなり堪えてるみたい。

「なあ、ちょっと思ったんだがよ……。あのクソ植に転移させられんのって、あのダンジョンの中だけなんじゃねえか? さすがに、こんなだだっ広い世界のどっかに飛ばされるなんざ、あり得るか? だとしたら、こんな所を探し回っても時間の無駄っつうかよぉ……」

「……花凜の言う通りかもしれません。ただ、楽観的な憶測で行を決めるべきではないと思います。あの中のどこかにいるのであれば、彼らなら絶対に大丈夫です。いずれ必ずここまで辿り著くでしょう。ですが、ここにいるとしたら危険が全くないとは言えません。そして、その可能がゼロではない以上、僕達はここを捜索するのが最善ではないでしょうか」

楽観的……。

紅月さんの言葉に、私は違和を覚える。

お兄ちゃんと、マユお姉ちゃんなら、きっと無事だと、いつも紅月さんは言う。

今も、「絶対に大丈夫」とか、「危険が全くないとは言えない」とか、そういう風に言う。

それこそ、楽観的だ。

たぶん、私が心配しないように、気を遣ってるんだろうけど……。

でも、いくら私だって、分かってる。

ダンジョンの中を、たった二人で生きるのが、どれだけ難しいのか。

それに、お兄ちゃんは、腕が……。

「――――ッ?!」

暗い気持ちが、に込み上げてきた、その時。

不意に、目を疑う出來事が、やってきた。

……ぐるぐるに巻かれた紙が、いきなり空中に現れた。

……我ながら、何を言ってるのか分からないけど、本當に、言った通りの現象が、目の前で起こってる。

え? どういうこと?

「な……な……なんだなんだ? おい芽、なんなんだ、そりゃ?」

「……い……いや、私も、全然……」

三人で、呆気に取られて、ぷかぷかと浮かぶ謎の紙を眺めてると、ふと、その十數センチ下で、小さな文字が並んでるのに、気づいた。

し間隔を置いて、左から……『Open』、『Delete』……。

「? ?? ???」

謎が謎を呼んでる、けど……たぶん、これは……。

「これは……もしかして、通信魔法……?」

驚いた様子で、紅月さんが、口を開いた。

「おそらく、これは特定の相手に手紙を送ることができる魔法です。似たような魔法を一度だけ見たことがありますが……たしか、お互いが一定距離間にいないと使えない制限があったはず……。まさか、こんな場所まで……誰が……」

やっぱり、そうだ。

でも……何、その便利すぎる魔法? そんなの、ありなの? ずるくない?

それに……そんな魔法を使える人に、全く心當たりなんて、ない。

私の目の前に、浮いてるから、たぶん私宛て、なんだろうけど……。

とにかく、危険はなさそうなので、とりあえず私は『Open』に、指を近づけてみた。

すると、すぅっと文字は消え、紐がシュルシュルと、勝手に解かれた。

その紙に、書かれてたのは……。

『我雨柳紙送魔得一字一M費天マ近況場把握』

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