《キチかわいい猟奇的とダンジョンを攻略する日々》死漁りとは、心しないな。だが、分かるよ。は甘いものだ。
芽達のいる雪原地帯を目指して、勘と運命を信じて……平たく言うと闇雲に歩き続け、とある山岳の一角に位置する山頂へと辿り著いた俺とアユ。
夜明け前の薄明かりを頼りに遙か先の遠方を見渡すが、ここまで苦労して山を登ったのに雪は一ミクロンたりとも視認できない。
そこに山があったから登っただけだと強がる元気もなく絶していたら、ふとアユが近くの巖に何かがあるのを発見した。
「天地さん……これは……」
そ……そんな馬鹿な……。
待て待て、たぶん見間違いだ、そうに違いない。
そう思って目を瞑り、深呼吸して、新たな気持ちでゆっくり目を開くが……うん、これは……あれだな、どう見ても。
……人間の死だ。
しかも、たくさんの。
「ええっと……な、なんでこんなところに……。數は、十……二十……くらい、か……? よく分からんが、見たじ死んでからそんなに時間も経ってないっぽいな……」
モンスターに殺されたのか、防もも大半がバラバラで見るも無殘な有り様になっている。
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その一方で、裝備品の武や鎧に錆はないし、の腐敗は進んでいるものの白骨化までは至っていない。
元醫大生の紅月さんがいれば詳しく分かったかもしれないが、俺には死後一カ月……いや二週間くらいかな? という見立てしかできない。
というか、かなりスプラッターな現場なので、ぶっちゃけ割とマジで直視したくない。
風に乗って鼻が曲がりそうな悪臭が惜しげもなく配達されてくるし、可能なら見なかったことにして今すぐ下山したいくらいだ。
しかし……。
「この人達……みんな日本人じゃないですね……。腐敗のせいで判別しづらいですが、髪やのからして外國人ではないでしょうか」
「うぉっ、すげえなアユ……よくそんなに近づいて見れるな……」
「もちろん気持ち悪いですし臭いますし、普段なら絶対に嫌ですけど、これは……いえ、この人達は、ここに來て初めて見つけた貴重な報源です。調べないという選択はあり得ません」
「……だよ……な……」
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さすがは、凩三姉妹で一番神年齢が高いと思われるアユだ……面構えが違う。
と一瞬思ったが、よく見ると平然そうな顔はし青ざめているし、手も震えている。
これだけ大量の死を目の當たりにしているんだから、そりゃあ當然だ。
まして、しっかり者でクールでダンジョン歴五年の高レベル冒険者といえど、芽よりもさらにいの子なんだからなおさらだ。
それでも、アユは迷うことも弱音を吐くことも文句を言うこともなく、毅然としている。
なぜなら、アユの言う通り、この死の山は地上のことを知る大きな手掛かりだからだ。
ならば、キモイだのなんだの弱な寢言をほざいてないで、年長の男子たる俺が率先して調査しないでどうするってんだ。
「……たしかに、どいつも金髪の白人で、なくともアジア人じゃねえな……。ってことは、こいつら……外國の囚人ってことか……?」
「私は知らないのですが、他の國でも日本と同じように、収容所代わりに犯罪者をダンジョンへ送るものなのですか?」
俺とアユは、それぞれ死を検分しながら言葉をわす。
「大半の國はそうだったはずだ。……思えば、なんでそんなわけ分からん鬼畜の所業を世界共通で決めたのかは謎だけどな」
「それなら、この人達が外國の囚人という可能は高いですね……。日本各所のダンジョンが繋がっていると判明した時點で、もしかしたらとは思っていましたが……。ただ、この人數でここまで來ているとなると、私達がいたダンジョンと比べて、かなり探索が進んでいることになりますが……」
「ん~……例えばアメリカとか中國とか、犯罪者の數自が日本より圧倒的に多いからなぁ……。プレイヤーが多いほど全クリが早くなるってことだろうな。こいつらが一部のガチ勢なのか、この地上のどっかに人がもっと大勢いるのかは分からねえけど……」
「いずれにしても、この人達が私達よりも長く地上を探索していた練の冒険者であることはたしかです。芽さん達と合流するための魔法道……なんて都合の良いはめないでしょうが、何か役立つがあれば使わせてもらいましょう」
「そうだな。……つっても、武も防もぶっ壊れてるか重すぎて使えねえな、こりゃ。でも、なくともマッピングはしてるだろうから、地図はどっかにあるはずだ」
「ごとモンスターに食べられているか、風に飛ばされでもしているかで、どこにもない可能もありますけどね」
「おまっ、それは考えたらダメなやつだって。つーか、そんなネガティブなこと言いだしたら、この最前線トッププレイヤー達を慘殺した超ヤバいモンスターはこの近くにいるんじゃねえかなーって不安も出てくるじゃねえか、おい」
「……そうですね、いざとなったら……最近面白いスキルを覚えてウキウキしていた人になんとかしてもらうしかありませんね」
「い、いや、俺は、ほら……二回スキル使っちゃったから、ちょっと休憩っつーかなんつーか……」
「冗談ですよ。まあ、この人達がどれほどの実力だったのかは分かりませんが、大人數だから撤退がかえって難しかったのかもしれません。私達は二人だけですし、どんなモンスターが現れても逃げるだけなら容易でしょう」
「そ、そうだな……。一応さっきから警戒はしてるけど、全然大丈夫そうだしな。見晴らしもいいし、この辺りは割と安全そう……――ん?」
お互いが慘死の不快を紛らわすように、いつになく非生産的で軽妙な會話を続けていたところ、俺は比較的軽裝な死の背負ったバッグの中から、丁寧に作られた本……というより手帳を見つけた。
これほどの製本技をダンジョン暮らしの囚人が持っていることに正直驚いたが、よくよく考えれば俺達がいたところも負けてはいない。
今はもうほとんど無用の長となってしまった雨柳さん著のダンジョン攻略本だって、似たようなレベルだ。
とはいえ、ハイグレードっぽい武からも察していたが、外國ダンジョンの生産技もやはりハンパねえ。
俺の異変に気付いたアユが隣から覗き込む中、俺は手帳をパラっとめくった。
「……! これは……! なるほどなるほど……そういうことか……」
「手記、でしょうか……英語……のようですね。読めるんですか? 天地さん?」
「いや、さっぱり分からん」
「……はぁぁぁぁぁ~……」
珍しくアユが俺に真剣な顔で真面目に問うたのに、俺の回答でアユはあっという間にいつも通り呆れた顔で小馬鹿にしたような長いため息をついた。
「と、とりあえず英語圏の人達ってことが分かっただろ? 解読は……そうだ、雨柳さんにメールで頼めば……」
「どうやってですか? 英語ですよ? たった一文やりとりするだけでも相當のMPを消費するじゃないですか。近況を簡単に報告だけでもMPがカツカツな現狀で、なんの役に立つかも分からない手記を翻訳する意味があるんですか?」
「…………そうですね……」
完全論破されてしまった。
俺の英語力が高校生の平均よりちょい下くらいなのは事実だし、最終學歴が小學校低學年のの子相手に「お前だって読めないじゃん」と言い訳するのはあまりにも見苦しいので自重しておく。
さりとて、このままでは悔しすぎるし、何よりもせっかく貴重な報がご丁寧にも手記になっているというのに「読めませんでした」では悲しすぎるので、俺はなんとか読めそうな部分を眼になって探してみた。
「むむむ……六月十二日のとこ……なんか太って単語がよく出てくるし……たぶん、この日に地上に來たんじゃねえかな……」
「なるほど、今から約五カ月前ですね……。意外と大丈夫そうじゃないですか。その調子で他に何か有益なことは書いてありませんか?」
「無茶言うなよ……。えっと……あっ、なんかモンスターの絵が描いてあるな。初めて見るモンスターを記録してあるのか……特徴とか魔法とか書いてあるっぽいし……つーか絵うまっ! 何この人、プロ?」
「絵畫系のスキルを持っている人がいたのかもしれないですね。それよりも……これは使えるかもしれません」
「え? 使えるって……このモンスター記録がか? たしかに弱點とか書いてあれば助かるけど……言っちゃなんだけど読めないんだし、あんまり意味ないんじゃねえか?」
「重要なのは、モンスターの生息域です。ここと、し前に私達がいた跡地帯とでは、全く違うモンスターが出ました。それは芽さん達がいる雪原地帯でもそうでしょうし、この人達が通ってきた場所でもそうでしょう」
「そうか……! つまり、この手記の中に芽達が遭遇していたモンスターがいた場合……」
「彼らが來た経路を辿っていけば、芽さん達と再會できるかもしれません」
これは大発見だ。
たとえ芽達が出會ったモンスターが手記に描かれていなかったとしても、モンスターには住んでいる地域の特が多なりとも見て取れる。
水が富な場所なら魚類や両生類だったり、寒い場所ならが多かったり、暑い場所なら炎魔法を使うモンスターが多かったり……。
だから、しでも雪原地帯に生息し得るモンスターが描かれていれば、その方面へ向かった方が、ヒントもなしに探し回るよりもよっぽど芽達に近づける可能がある。
「おお……! なんか希が出てきた気がするな!」
「そうですね……まあ、この手記の他に地図が出てくれば一番手っ取り早いのですが……」
「ははっ、それな。じゃあ、もうちょっと探してみるか」
暗闇を歩いているような旅に一筋の明が差し込んできたことで、さっきまでのお通夜気分が明らかに変わった。
死を漁るハイエナのような行も、どこか化石を発掘する考古學者のような気さえする。
そう思うと、死累々の地獄が寶の山に見えてきた。
……って、それはさすがにやべえな。
不謹慎ってレベルじゃねえぞ。
本當に申し訳ない。
「…………天地さん……今、何か言いました?」
「へっ? いや、何も?」
おっと、し雑念が……いかんいかん、注意力散漫だ。
いくら周囲にモンスターがいないからって、気を抜いちゃ……
「――グォオオオオォオオオオッッ!!」
「「ッ!?!」」
突然の咆哮に、俺とアユは同時に飛び上がって、すぐに周りを見回した。
しかし、そこには変わらない平和な風景が広がるだけで、やはり何も――
「あっ――――!」
その時、嫌な予がして……というかもう、予というより確信を抱いて、上を向いた。
遙か上空、距離およそ二百メートル先に、それはいた。
夜が明ける直前の淡いをけ、暗灰の巨大なドラゴンが翼を羽ばたかせてホバリングしながら鋭い眼で俺達を睨みつけている。
遠くて正確には分からないが、おそらく大きさはファフニールに勝るとも劣らないだろう。
しかも…………一匹じゃない。
「ご……五匹も……!?」
愕然としたアユの呟きで加速する恐怖に押しつぶされないように、俺は強く歯噛みする。
「おいおい……またドラゴンかよ……ッ!」
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