《キチかわいい猟奇的とダンジョンを攻略する日々》すばらしきこのせかい

天地君達が行方不明になってから、約二カ月。

いや、居場所は分かっている。

未だかつて誰も足を踏みることができなかった、未知の領域。

ダンジョンの深淵。

あぁ……知りたい……。

知りたい――――!

そんな願いにダンジョンが応えるように、先日私は通信魔法を得た。

神などただの一度も信じたことはなかったが、この時ばかりはダンジョンの神に心の底から謝した。

彼らの冒険譚から明かされた、ダンジョンの謎。

に満ち溢れた樹海。

他のダンジョンとの合流。

そこを探索する練冒険者との邂逅。

かつてない強大なフロアボスに、再び相まみえた強制転移をる魔

そして、深層に延々と広がっていたのは、広大な大地、雪原、跡、山岳、蒼穹、それに……太

「ふふふふふ……面白い……なんっっって面白いんだ……っ!!」

彼らが綴る拙く端的な漢字の羅列が、まるでき頃に心躍らせたファンタジー小説のようだった。

兄の忠告を無視して飛び込んだ新世界に、私は噓偽りなく満足していたつもりだった。

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何百回、何千回と夢想した魔と初めて巡り合った時は、で打ち震えた。

フィクションの象徴であるステータス表示を初めて目にした時は、網が焼き切れるまで眺め続けた。

レベルアップして取得した魔法が初めてアニメーションのようなあり得ない景を映し出した時は、高鳴るの鼓が収まらず數日間眠れなかった。

それからも、空中を漂う超常的な結晶に不可思議な魔法道、多種多様なダンジョン構造……私は常に枯れることなく新鮮な刺激を與えられていた。

それと、まあ、ついでに、そこそこ愉快な伴も思いがけず得ることができた。

しかし――――。

そんなダンジョンでさえも、私の心をいつまでも満たすことはできなかった。

攻略が五層で足踏みしている頃。

いや、その前から、すでに非日常は日常へと変わってしまっていた。

代わり映えのしない毎日。

退屈な平穏。

現狀を甘する愚かな人間が腑抜けた表で呑気に闊歩する様子を見るたびに、私は楽園の閉園が迫るような焦燥を覚え……それはやがて、冷たく乾いた諦念となって心を凍り付かせていった。

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そんな私の心に、彼らは再び熱い燈をともしてくれた。

凩マユ……日比野天地……日比野芽……。

今の彼らは、まさに私を虜にする小説の主人公でありヒロインだ。

彼らの一挙手一投足が、腐りかけていた私をい立たせる。

見たい……彼らの語を見続けたい。

もっと近くで、いつまでも、どこまでも。

結末が訪れない喜劇を、燃え盛る炎を、恵の雨を、目が眩みそうなを、もたらしてくれ、私の命が盡きるまで――。

「ヘーーイ、メグルー! ヨーイできまーしたヨー!」

「おお、本當かい? 予想以上に早いじゃないか。いつになく気合がっているようだね、ローニン」

「あたぼーデース! こんなワクワクするボーケン、ひさしぶーりじゃないデスカー。ハヤーくシャシンにオサめたくて、モーたまりまセーン!」

「ふふふ……危険だと言っているのに相変わらずだな、君は」

やはり、ローニンは私と同じ人種だ。

満たされて溢れて零れ落ちるまで、心臓を貫く甘な衝撃を求めて止まない。

この男の、こういうところが、私をたまらなく安心させてくれる。

「さあ、早速行こうか。誰かに見つかると面倒だ、くれぐれも気を付けるんだよ」

「オーー! モチのロンデース!」

本來であれば、私達は二層の住人を攻撃して傷を負わせた罪で、まだ魔駆除の懲罰中のだ。

あと四カ月ほどだったかな。

罪を犯してダンジョンに服役している私達が、そこでさらに処罰を課されているとは稽な話だ。

だが、もう一日たりとも拘束されたくはない。

この世界が、まだまだ私の期待を超えてくれると証明されてしまったのだから。

まあ、ここの連中は基本的に脳が年中お花畑だ。

悟られずに出ていくことくらい、コーヒーをれるより簡単だ。

私達の管理責任は、非常に心苦しいが剛健氏に全て被ってもらうと――

「おい、お前ら……こんな夜更けにデートか? お熱いこったなぁ、あ゛あ?」

「ゲゲッ! ゴーケーンじゃあーりまセンカー!」

……やれやれ、どうやらローニンがマークされていたようだ。

それにしても、意外と目敏い男だ。

無力化できなくはないが……このゴキブリ並にしぶとい脳筋を速やかに靜粛に、となると難しい。

「……どうしてバレたのかな?」

「へっ、長い付き合いになってきたからなあ、お前らともよ……なんとなく分かんだよ。ローニンなんかは言うまでもねえが、お前までガキみてえにキラキラした顔しだしちゃあ、そう長くはもたねえって思うだろ? 雨柳よぉ」

……驚いた。

どうやら最近の私は、こんなガサツな男にさえ察することができるくらい自分を抑圧できていなかったらしい。

これでは、もう言い訳のしようもないな。

「これは完敗だな。できれば穏便に済ませたかったんだけどね……こうなっては仕方ないかな」

「ワルくオモわないでくだサーイネ、ゴーケーン」

レベルでは劣っているが、対人戦闘では能力の差などさして問題ではない。

數の利に加えて、長年に渡って収集してきた魔法道を駆使すれば、一層のリーダーが相手でも充分に戦える。

まして、剛健氏は私達に必要以上の怪我を負わせないよう、強すぎる力をセーブしなければならないからなおさらだ。

「あ~、待て待て。俺は別にお前らを止めようってんじゃねえ」

両手を上げて戦の意思がないことを示す剛健氏の顔には、たしかに『鬼の剛健』という畏怖に相応しい闘気はじられない。

「へえ……じゃあ、見送りに來てくれたってことかな? 隨分とお優しいね」

「ちげーよ。これは、お前らにとっても悪くねえ話のはずだ。…………俺も連れてけ」

「ハア? ナニいってるデスカ、ゴーケーン。カワイソーに、ノーミソまでマッスルになっちゃったデスネー。イッソーのリーダーであるアナタが、フザケんじゃねーデスヨ」

予想外の提案をけ、ローニンの悪態にボディブローで返す剛健氏の思考パターンを再考するが、やはり真意は測りかねる。

どういうことだ……?

たしかに剛健氏は娘を溺しているが、これまではマユ君の意思を尊重するため……ひいてはマユ君と他の囚人達との間に生じている軋轢を深めないため、あえて彼を放任してきたはずだ。

いや……それは表向きの理由であり、私の推測では、剛健氏は過去のトラウマによる負い目や罪悪から、マユ君と正面から素直に向き合えなくなっていると思っていたのだが……。

「……なんつーかよ……こないだの件で、ようやく気づいちまったんだよ。俺は言い訳ばっかして逃げてんだなって……。いい加減、ごちゃごちゃ考えてねえで、やりたいようにやらなきゃあ後悔するなって思ってよ。……って、彰人達にも言われちまったんだがな……」

「……ゴーケーン…………」

「俺だけじゃあ、あの泉は突破できねえ……! お前らには考えがあるんだろ? だから、その……あ゛あ゛、クソッ! すまねえ、こんな態度じゃ駄目だよな……頼む……この通りだ……っ!」

……なるほど……遅すぎるが、この男も変わったということか。

以前のような々しい筋達磨のままだったら聞くに値しなかったが……こうして実直に頭を下げられては斷るに斷れない。

最前線で探索した経験のある高レベル冒険者か……私やローニンとは違いパワータイプであることも含めて、まあ役に立つだろう。

「分かった……こちらこそよろしく頼むよ」

「ヨロシクデス、ゴーケーン! めっちゃカンドーしまーしたヨー! ウェーーイ!」

「雨柳……ローニン……ありがとよっ……」

さて、思いがけない拾いをした。

まず目指すのは、芽君との合流。

今は雪原地帯を南に抜けて荒原を進んでいるらしいが、わざわざ戻ってきてもらうわけにもいかない。

凄腕の興味深い冒険者が二人同行しているとなると、追いつくまで何日かかるか……――おっと。

「ふふふ……芽君から返信がきたみたいだ。さあ、今度は一どんな発見があったかな? ああ、楽しみだっ。まるでプレゼントの包みを開けるようだよ、ふふふふふっ」

「……お前、そんな奴だったか……?」

「オー、メグルー! めっちゃんこタノしそーデスネー! ハヤくボクにもミせてくーだサーイ!」

『荒原先山岳著最高山頂竜見今行』

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