《キチかわいい猟奇的とダンジョンを攻略する日々》ネバーエンディングナイトメア

「うわああああああああああっ!!」

ガチの絶

そりゃそうだろ。

ドラゴンから逃げるためとはいえ、どれだけ深いかも分からん地割れに心の準備なしでダイブしたんだから。

十メートル以上だったら普通に死ぬよ?

五メートルくらいでも足イっちゃうよ?

ってか、勢いあまって頭から落ちてるから相當ヤバい。

しかし、さすがに何も考えてないわけはない。

事前に時間を見て『魔法の料理・改』の魔法が使えるようになったことを確認していた俺は、クソマズ泥沼団子を急いで飲み込んだ。

「んがっ……マッドスワンプッ!」

本日二度目の魔法で落下先に泥沼を生するや否や、盛大に突っ込んだ。

モンスターをまんまと嵌めた時は快だったが、自分がハマるとドロドロヌチャヌチャと気持ち悪く、死ぬほどきが取りづらくて辟易する。

これで溺れ死んだらダーウィン賞をいただけるが、別にいらないので俺は必死にもがいてなんとか出した。

「ぶっは! 大丈夫かサユっ! えっと……と、とりあえずアユと代させないと……!」

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アホほど調理済みの強力睡眠薬をぐったりしているサユの口に水で流し込みながら、辺りを確認……しようと思ったが、頭上からかすかにし込むしか源がなく、ほぼほぼ真っ暗闇で何も見えない。

自分とサユの呼吸音以外には何も聞こえないのでモンスターはいない……と信じたいが、靜けさが別の意味で恐怖を掻き立てる。

「うっ……く……ぇ、エクストラヒーリング……」

チェンジが終わり、アユがすぐさま回復魔法を唱える。

淡いがアユの全を優しく包み、苦痛に歪んだ表がスゥッと和らいでいくのを見てホッとで下ろす。

よかった……どうやら大事には至っていないようだ。

「……ありがとうございます……天地さんのおかげで命拾いしました」

「いや……俺は大したことできなかったよ、マジで……」

戦闘には參加できず、ただ背負って逃げるだけで回復料理もどれほど効果があったやら……。

肝心な時に、俺は本當に不甲斐ない。

「助かったのは事実なのですから、いつも通りおどけてください。……さて、とにかく今は……クリーニング、イルミネーション」

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はべとべと、周りは真っ暗という劣悪な環境が、アユの洗濯と照明の魔法によって……なんということでしょう!

瞬く間に全がスッキリ綺麗になり、出現した小さな球が周囲を真晝のように照らす。

といい、相変わらずサバイバルで有用すぎるスキル構だ。

「……魔はいないようですね……。ふぅ……し休憩しましょうか、さすがに疲れました」

「だな……これからどうするかも考えないと……っと、雨柳さんからのメールだ。何回來てもビビるな、これ。どれどれ……」

MP回復の魔法道でも使っているのか、雨柳さんからは割と頻繁にメールが來る。

その分、芽達の近況がはっきりと伝わってくるので非常にありがたいと言えばありがたいのだが……あの人はけっこう暇なのだろうか。

『妹雪原越山岳著最高山竜見今行登頂明日予定』

「…………へっ?」

これは、つまり……芽達が雪原を越えて山岳地帯に到著して……一番高い山の山頂に竜が見えたから、今からそこへ行って明日には著きそう……ってことか?

いやいやいや! やばいやばい、やばいって!

それって、ここのことじゃね? 竜ってアレのことじゃね? まずいまずい、それはまずい!

す、す、す、すぐに返信しないと!

えっと、えっと、え~~~~~っと……

「落ち著いてください、私が書きます」

そう言って、アユは宙に浮かぶ羊皮紙と羽ペンを橫からかっさらってスラスラと書き始める。

この頭の回転の速さ、富な語彙、丁寧な字。

まさか返信の半分近くはアユが書いているだなんて、さしもの雨柳さんも気づくまい。

……気付いてない、よな?

それから俺とアユは、休息しつつ現狀の整理と今後の方針について話し合った。

まずは、現在地。

落っこちてきた地割れからの距離は、五十メートルといったところだろうか。

ドラゴンの追撃が怖いので深いほどいいなあとは思っていたが、想定よりもずっと深い。

今まで実を見たことなかったけど地割れってのはそんなもんなのか……と納得せざるを得なかったが、しかし落ちた先はどう考えてもそんなもんじゃないだろと言いたくなる場所になっていた。

地上から十數メートルまでは単純に縦十メートル橫二メートルの地割れがそのまま垂直に走っているのだが……どういうわけか、そこから下は広い空間、というか部屋になっている。

明らかに人工的っぽく正方形に整えられているし、あまつさえ西洋風っぽい錆だらけの鉄製両開き扉まである。

つまり、ここはただの地割れではなく、人の手によって作られた何かだったのだ。

地割れが口という斬新な発想を取りれているのか、はたまた地割れによって偶然ここと繋がったのかは定かではないが……。

差し當たって、俺とアユは力とMPの回復、そして雨柳さんに現在の狀況を知らせるべく、扉の向こうから突然モンスターや謎の原住民が襲ってこないことを祈りながら、部屋の片隅でひっそりと休んだ。

で、今後についてだが……山頂に戻ることは普通に可能だ。

アユの裁魔法で蜘蛛の糸みたいに登ってもいいし、サユのアイシクルピラーで階段を作ってもいい。

ただ、問題はドラゴンだ。

並大抵のドラゴンなら五匹だろうが十匹だろうがサユの敵じゃないのだが、卑怯なことに奴らは相打ち狙いのカウンター魔法を使ってきやがる。

アユのディスペルで無効化はできるのだが、敵を足止めするにせよ攻撃するにせよサユじゃないと厳しいので、いちいちアユと代している余裕はない。

神展開は、ドラゴンが俺達の存在を忘れてどっか遠くへ旅立ってくれることだが……雨柳さんからのメールによると、ドラゴンは山頂を城にしているのか全く離れる様子はないらしい。

ここのドラゴンはこんな魔法を使ってきてやべえってことは返信しておいたので、芽達が下手に近づくことはないだろう。

なので、これから時間をかけて雨柳さんや芽達と相談して、ドラゴンを駆逐あるいは追い払う方法を模索していくことにした。

「さて……地割れの中にいることも、妙な場所であることも伝えましたが……どうします? 天地さん」

「ん~……そうだなぁ……」

數時間ほど休み、どうやらここが安全であることは分かった。

なので、一番手堅いのは先にドラゴンをなんとかし、芽達と合流した上でここを探索することだろう。

しかし……もしかしたら、この先は外に通じているかもしれない。

扉を開けたらユートピアが広がっているなどと夢みたいな妄想はしていないが、どこか別の出口がある可能は十分あり得る。

それに、こんないかにもな場所……ひょっとしたらお寶が眠っているんじゃ? とRPGにれたことのある人であれば當然考えるだろう。

「疲れも取れたし、MPも回復した。ヤバそうだったらここまで戻ってくればいいし……ちょっとだけ様子を見てこようか」

俺の提案に、アユは素直に頷いた。

二人で慎重に扉を開けると……そこは石造りの狹い一本道になっていて、奧の方がわずかに明るくなっていた。

特定の床を踏んだら矢が飛んでくるとか鉄球が転がってくるとか、そんな古典的な罠も視野にれながら二人でを寄り添ってゆっくり進んでいくと、特に何事もなく明かりの元である大部屋に辿り著いた。

「…………広っ!」

奧に広いその部屋は、サッカー場くらいある。

壁には定間隔に燭臺と円柱があるが、その他には何もない。

マジでサッカーでもできそうなじだ。

そして……その最奧に、いいニュースと悪いニュースがあった。

いいニュース……寶箱がある。

悪いニュース……それを守るようにモンスターがいる。

口からじゃ遠くて細部までは確認できないが、アンデッド系……だろうか……背中に骨の羽が生えた骸骨が十字架に磔になって靜かに浮遊している。

ひと際目を引くのが、骸骨の部から腹部にかけてが禍々しい裝飾を施された楕円形の姿見鏡になっているところで、奇妙すぎて雑コラ畫像みたいだが、そこはかとなく不気味だ。

「……ものすごくあからさまですね……」

「ああ……なんつーか、どっからどう見ても重要アイテムとその守護者ってじだな……」

もう探検は十分だ。

出口がないことも分かったし、どうやらあのモンスターもこっちが近づかない限り襲ってくる気配はない。

ならば、俺達がすべきことは、Uターンして心置きなくドラゴン討伐に専念することだ。

ここはその後でいい。

ただ……。

「……でも、なんか……めちゃくちゃ弱そうだな、あいつ……ちいせえし……。魔法で解析だけしとくか?」

アユの魔法『解析(アナライズ)』では、普通にステータスを見ても名前しか分からないモンスターやアイテムの詳細が分かる。

これによって、初見のモンスターのスキルや俺の魔法料理の効果、解したモンスターのや野草が食べられるかなどを前もって調べることができ、今までもかなり重寶してきた。

どうせなら、あのモンスターのことをしでも調べてから戻ろう。

「そうですね……見るだけなら問題なさそうですよね。では……アナライズ」

Name:Nightmare

Level:80

Skill:Resurrection,Memory of fear

「名前が……『ナイトメア』か……うわっ、レベル80!? こえぇ……弱そうに見えるけど、こりゃ無理無理! スキルが……『復活(リザレクション)』に『恐怖の記憶(メモリーオブフィアー)』って二つしかないけど……なんかヤバそうだな……」

解析(アナライズ)特有の記載がされた羊皮紙を二人で見つめ、その高すぎるレベルと見たことのないスキルに揃って息を飲む。

「八重樫さんと紅月さんがいれば、もしかしたら……ですけど、危ない橋を渡る必要はありませんね」

「だな。寶箱の中は気になるけど、命より大事なもんはねえ。なくとも、もっとレベル上げてメンツが揃ってからにしよう」

「天地さんにしては賢明な判斷ですね。それでは、早くここから……出て……」

冷靜で淡々とした、いつものアユの聲がなぜか徐々に揺れて、そして途切れた。

なぜか直して呆然とするアユの視線を追うと、謎の奇怪なモンスター、ナイトメアの……目? と言っていいのか分からないが、頭蓋骨の目の部分が赤黒くっている。

やっば……! ステータス見るだけでもダメなの? マジで?!

と焦って冷たい汗が背中を這うが……落ち著け大丈夫クールになれ俺は冷靜だ大丈夫、やつとの距離はまだまだ遠い。

走って逃げて扉を閉めればOK。

たぶん追ってこないし全ては杞憂……になってくれ、頼む!!

「っ~~~~逃げるぞアユ! 急げっ!」

「……………………」

「? アユ……?」

俺は板についたきで逃走のフォームに移行するが、いつもなら俺より早く撤退の決斷を下しそうなアユが、なぜか微だにしない。

限界まで見開かれた目が、真っ直ぐナイトメアに吸い寄せられている。

まるで、奴の鏡が映し出している何かに心を奪われているような……。

いや、でも、遠目で見ても明らかに何も映っていない。

「くっそ! こうなったら力ずくで……!」

何か妙な神攻撃の一種かと思った俺が、アユを背負って逃げようとした……その時――――。

ナイトメアが、今まで経験したことのない強烈な黒いを放ち、俺は目が眩んで數秒間視界が暗転した。

そして、正常に戻った時……ナイトメアがいた場所に、一人の男が立っていた。

「なんだ…………誰だ、あいつ……?」

歳は……二十代半ばといったところだろうか。

病人のように白いに、運なんてしたことないような細い

長めのウルフヘアに、シュッとした目鼻立ち、綺麗に整った顔。

元を広げてラフに気崩した真っ白のシャツに、シワ一つない高価そうな黒いスラックス。

……ぶっちゃけ「どこのホストが突然転移してきたんだ?」ってじだ。

え? 何? どゆこと?

よく分からんが、とりあえず……。

「……あ……ぁ……あぁ…………」

アユの様子が、やっぱりおかしい。

たしかに理解が追いつかない展開ではあるが、気味の悪い正不明のモンスターがイケメンホストに変わったってのは、気が抜けこそすれど絶はすまい。

だが、アユはまるで人間の形をした死神が現れたかのように真っ青な顔で怯えている。

もしかして、知っている人なのか……?

いや、余計なことを考えている場合じゃない。

とにかく今は……逃げよう!

――そう決めたのと同時に、男がいた。

両腕をだらりと力なく垂らして、

地についてないような頼りない足取りで、

をゆらゆらと左右に揺らし、

薄暗く狂気に満ちた瞳を向けながら、

底の知れない冷たくて殘忍な笑みを浮かべて、

を逆なでするような異様に間延びした聲で、楽しそうに笑った。

マユみたいに――――

「にゃっハハハはぁあぁぁあアアっ♪」

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