《キチかわいい猟奇的とダンジョンを攻略する日々》どうあがいても、絶。
「やったかっ!?」
という俺の言葉は、當然のごとくフラグとなってしまった。
ルカは平然と立ち上がり、ぞっとする不気味な笑みをさらに奇妙に歪めた。
「にゃっハハはあぁあっ! 素晴らしぃいいッ! すごおぉぉおくイイぃぃいいですねえぇぇサユちゃぁああん! こおぉぉんなに清々しイイぃいい気分は久しぶりですよぉおおおっ!」
おそらく、エアーキャノンが當たる寸前に化スキルを発させたのだろう。
だからって無傷とか……チートすぎるだろ。
化中はガンガンMPが減っていくから常時無敵狀態ではないはずだが……同じく消費がハンパない大規模全力魔法をインパクトの瞬間だけ化で防がれたんじゃあ、いくら回復手段があるとはいえサユの方が先にMPが枯渇するのは確実だ。
どうにかして、化するもより早く……あるいは気づかれないように攻撃しないと……。
「それじゃあぁぁあ改めましてぇええぇ本気で! 楽しく! 殺し合いましょぉおおかぁあぁあああっ!」
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昂るに呼応するように、ルカのきがまた一段階シフトアップした。
ひょっとしたら、これもマユが持っていた『狂化』スキルなのかもしれない。
これまで出會ったどんな相手よりも……マユパパよりも、ファフニールよりも、八重樫よりも、それどころか……マユよりも速く、ルカはウォータースプラッシュとエアーキャノンの連をいとも容易く躱して、ぐんぐん距離を詰めてくる。
「こんっ……のぉっ!」
一、この化けはどれだけ強くなるのか。
そんな恐怖と焦りに耐えながら、サユはがむしゃらに攻撃を続ける。
もはや、かすることすらなくなった魔法の一発がルカのし前方の地面を穿ち――――突然、大発した。
衝撃による熱風で髪がなびくのをじながら、俺は天井まで立ち昇る火柱にルカが飲み込まれるのを見た。
「これは……ランドマインかっ……!」
普通に攻撃したのでは當たらないと悟ったサユは、即座にルカの進行方向上の地雷へと狙いを切り替えたのだ。
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ただ魔法が強力なだけじゃなく、ちゃんと使いこなした上で機転を利かせてに戦を練り上げる。
これがサユのすごいところだ。
これならさすがに……!
「にャッはハはハァアあぁあああっッ!!」
しかし、ルカは何事もなかったかのように炎を裂いて突進してきた。
完全に意表を突いたと思ったのに、ルカには見抜かれていた。
こんなん、もう……どうしようもな……――
「――――――っ!?」
ルカがすぐ目の前まで迫り、に濡れた禍々しいナイフを悠々と振り上げた、その時――。
くるくると回転して、舞い上がった。
鮮をまき散らしながら。
――――ルカの右手が。
「エアーキャノンッ!!」
一、何が起こったのか。
俺には分からなかったし、ルカにも分かっていないようだった。
なくなった自分の右手をどこか他人事のように冷めた目で眺めるルカに、サユはゼロ距離から追撃を放った。
だが、心臓を貫くはずだったその攻撃を、ルカは左腕で弾いて強引に軌道を逸らすと……俺の目には全く映らない、とんでもない速さのジャンピングバックスピンキックでサユの左側頭部を痛烈に打ち抜いた。
「サユッッ!!」
俺は背中に冷水をぶっかけられたような怖気が走り、十メートル以上も吹っ飛んで倒れたサユに急いで駆け寄った。
抱き起こして何度も名前をびながらを揺するも、サユはぐったりとしてピクリともかない。
一瞬、頭がショートして俺までぶっ倒れそうになったが……よくよく見てもサユに目立った外傷はない。
そっとってみても頭蓋骨に異常はなさそうだし、も出てないし、ただ気絶しているだけのようだ。
まともに蹴りを食らったように見えたが、うまく衝撃を殺していたのだろう。
俺は折れた腕で必死に回復料理を取り出し、水とともにサユに飲ませる。
「……いやぁああぁ、こどもの長には驚かされますねぇぇ…。本當に強くなりましたよぉおぉお、サユちゃんもアユちゃんもぉおぉぉ……」
だらりと力したルカが、舐めるような視線をサユに向ける。
その右手は、鋭利な刃で斬ったように手首からスパッと切斷されて、絶え間なくが流れ落ち……左手は、肘から下の骨が見るも無殘なくらい砕しており、ぐっちゃぐちゃになって原形を留めていない。
左手はエアーキャノンによるもので、威力を考えると正直それだけで済んでいるのが奇跡と言っていいが……右手はどうしてそうなったのか。
その答えは、今もひっそりと空中に陣取っていた。
さっきまでサユが立っていた場所から二メートルほど前方に、目を凝らさないと見えないくらい細い糸が一本、ぴんと張られている。
「サユちゃんになる前にぃいぃ、こぉっそり仕込んでたみたいですねえぇぇ……。かしこいですよねぇええぇほんっとおぉおおにぃぃいぃ。まんまと引っ掛かっちゃいましたよおぉおぉぉ」
そういうことか……。
まさか、あの切羽詰まった狀況でアユがそんな置き土産を殘していたとは、全く気付かなかった。
スリープミストによる視界の阻害に加え、ウォータースプラッシュとエアーキャノンの連に注意を払っていたルカには気づけるはずがない。
普通であれば実現し得ない、サユとアユによる見事な姉妹コンビネーション。
だけど……。
だけど、それでもルカは倒せなかった。
「あ~らららぁあぁぁ……ずいぶんとカッコ悪くなっちゃいましたねぇぇえ……。余興のつもりだったんですけどぉぉ、ちょぉおっと見くびりすぎちゃいましたねぇええぇ。仕方ないなぁあぁぁ……それじゃぁあぁ……」
そう言って、ルカは『武生』により新たなナイフを作り出した。
いや、ナイフ……と言っていいのか、その形狀は特殊、というか異様だ。
なぜか、柄の先端が針みたいに鋭く尖っている。
だが、気になることは他にもある。
そもそも、その奇抜な武を持つ手はもうない。
どうする気かと思って見ていると、ルカはそれを口にくわえ……柄を右手の切斷面に躊躇なく突き刺した。
「なっ……!?」
「にゃははぁあぁ……どうですかぁあぁああ? 海賊の船長みたいでしょぉおぉぉ? でもでもぉぉ、こっちはどぉおぉしようもなさそうですねえぇぇえ……」
痛みなんてまるでじていない様子でけたけたと笑いながら、次にルカは右手に刺したナイフで左腕の肘から下を斬り落とした。
當然、激しくが噴き出すが……ルカは全く気にも留めない。
「さぁああぁてさてぇえぇぇ、こんな狀態なのは非常に殘念ですけどぉおお……最後のお楽しみ、いっちゃいましょおぉぉかぁあぁああっ♪」
違う……。
こんな絶絶命の狀況下で、それでも俺はどうしても考えてしまった。
こいつとマユは、全然違うと。
スキルも、きも、笑い方も、ついさっきまでルカはマユとそっくりだと思ってしまっていたが、今はっきりと気づいた。
このイカレサイコパスは、ねじ曲がった快楽と勝手なを満たすために自分も他人も平気で傷つけ陥れる、救いようのない真正のゴミクズだ。
マユは、こんな腐れ外道とは違う。
マユは、人を傷つけることを嫌う。
だから、『自反撃』スキルが発しないように人から距離を取って、ずっと孤獨に耐えてきた。
一方的に恐れられ、明確に疎まれ、不當に蔑まれても、絶対に恨むことも憎むことも怒ることもなく、平気なふりをして元気にへらへらと笑っていた。
マユは、いつも俺を助けてくれる。
俺がオルトロスに殺されそうになった時には、颯爽と駆けつけてあっという間に瞬殺してくれた。
俺がコブラソルジャーに重傷を負わされた時には、ファフニールの泉まで三日三晩かけて超神水(仮稱)を取ってきてくれた。
可くて、強くて、頼りがいがあって、無邪気で、純粋で、正直で、裏表がなくて、自由で、奔放で……それがマユだ!
細切れにしたオルトロスの目玉をほじくる姿は勇者だ!
引き裂いたばかりの臓にかぶりついてまみれになっている姿はエキサイティングだ!
雨柳さんやローニンさんと楽しそうに談笑する姿は可憐だ!
ゴキブリにびびって慌てふためく姿はキュートだ!
何より、俺と一緒に歩いて、食べて、話して、遊んで、休んで、水浴びして、寢て、そんな何気ない気ままな日常を送っている時のマユは……まさしく天使だ!
「……あれあれぇぇえぇえ? なぁぁんか出てきてくれないっぽいですうぅぅう? なんでですかぁあぁ? おかしいですねええぇえぇぇ?」
マユは一カ月前から姿を見せてくれない。
でも……今はそれでいい。
「……あんたなんか、顔も見たくないってことだろ」
これ以上マユも、サユも、アユも、こんな危険な奴と戦わせたくない。
俺が……こいつを倒す。
「そぉぉですかあぁ……それはそれはぁ傷つきますねえぇぇえぇ……。それならぁあぁぁ、予定を前倒ししましょぉぉおかぁああぁあっ」
ルカが、右手に突き立てて裝著したナイフの先端を俺に向ける。
「あなたの悲鳴でぇぇマユちゃんを起こしてもらいましょぉおおかぁぁあっ。いやあぁぁあぁ、人って面白いですよねぇええぇ……大事な人がなくなっちゃうとおぉぉ、すっごぉぉぉおく熱的になっちゃうんですからあぁあ。……あなたならぁあぁぁ、マユちゃんの心にも響いてくれますかねぇぇえええ?」
不思議と恐怖はない。
過去最強最悪の敵と相対しているというのに、チキンハートな俺が意外なほど落ち著いている。
誰かを本気で守ろうとしている時……死ぬ覚悟ができた時……案外、人はそんなもんなのかもしれない。
「ハッ……俺の悲鳴なんて一億回は聞いてるから、なんの意味もねえよ。あんたの斷末魔の方がまだウケんだろ」
勝算なんてない。
あるわけない。
だが……負けない作戦なら思いついた。
「だぁいじょぉおおぉぶですよぉぉぉ。マユちゃんはぁ優しいぃぃ子ですからあぁあ。サユちゃんとアユちゃんの時だってぇえぇぇ、すごぉぉおおくイイぃぃぃ顔してましたよぉぉお……にゃっっハははハハあぁあぁああっ!」
俺がドス黒い魔法料理を口に放り込むのと同時に、ルカがいた。
……いたというか、消えた。
目で追うことすらできない。
あぁ……俺はこのまま、なすすべなく一方的になぶり殺されるのか……。
だが、俺はただでは死なない。
そして……せめてもの抵抗として、絶対に聲は上げない。
上げてなるものかっ!
――――ガッッキイィィィィィンッ!!
ぐっと歯を食いしばって目を閉じると、不意に耳をつんざくような金屬音が鳴り響いた。
俺はまだ生きている。
痛みも……ない。
なんだ? どうした?
「あぁあぁぁ……よぉぉぉおやくお會いできましたねぇええぇ……。うれしいですねえぇえぇ、夢のようですよぉおおぉおおおっ♡」
目を開けると……すぐ目の前、手の屆く場所に後ろ姿があった。
いつもこうやって俺を守ってくれた、小さくて、華奢で、でも頼りになって、安心する、そんな後ろ姿が。
ルカのナイフを止めた大ぶりの麺切包丁を見るまでもない。
「マユ……っ!」
「……うぅうぅぅ……てん……ちゃぁん……」
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