《キチかわいい猟奇的とダンジョンを攻略する日々》星に願いを

「……ん……う~ん……」

なんだ、この覚……。

なんか、こう……的に言うと、無くなったはずの手足がなぜかあるような、そんな……。

いや、うん、あるわ。

だって覚あるし、くし。

……どういうことだ?

っていうか、俺……たしか心臓を刺されたような……。

「――うぉっ!?」

考えがまとまらないまま目を開けると、眼前には鮮やかに輝く満天の星空がいっぱいに広がっていた。

「ふっ……ふつくしい……! もしや、ここは……天國? やっぱり俺、死んだ……?」

起き上がり、飛び跳ね、に傷一つないことと五満足であることを確認した俺は、現狀を把握すべく辺りを見回――

「!?! マ……マユっっ!?」

すぐそばで、ナイフが刺さった背中をで真っ赤に染めたマユが倒れていることに、俺は遅まきながら気づいた。

天國じゃねえっ!

していた脳が一気に覚醒し、なぜか治っている心臓が驚きで散した。

自分のに何が起こったかなんてどうでもいい!

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とにかく今はマユの治療をしないと……!

「大丈夫か!? マユ! くっそ、出が……。ナイフ……これ、下手に抜いたら逆にやべえ、よな……そうだ! 回復魔法を使えば……!」

――いや……ちょっと待て。

バッグをひっくり返し、ボトボトと落ちる魔法料理の中からヒーリングが使えるようになる水の団子を探すため忙しなくかしている手を、ピタリと止める。

俺のヒーリング程度で、これほどの傷と出をなんとかできるか……?

微妙な気がする。

というか、無理な気がする。

とはいえ、他に有効そうな魔法のストックもない。

アユのエクストラヒーリングなら速攻で完治するだろうが……當の本人が意識不明の重だ。

回復の丸薬を飲ませることさえ難しい。

どっかに何か強力な回復手段は……あるわけねえよな、そんな都合よく……

「あっ! そうだ……寶箱! こんなところにあるんだから、もしかしたらもしかするかも……!」

俺は部屋の奧に意味深に置いてあった、いかにも重要アイテムがってますよと言わんばかりの寶箱を思い出し、急いで走った。

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あんなチート級のモンスターが守っていた隠しダンジョン風な場所の寶箱なんだから、きっと賢者の石とかエリクシルとか世界樹のなんちゃらとかフェニックスのなんちゃらみたいな、そんなファンタジーっぽい蘇生薬ないし超回復薬がってる可能だってあるはずだ。

否、むしろってないとおかしい。

これ見よがしに鎮座していたはずの寶箱が、なぜか壁際にひしゃげて転がっているが……んなこたぁどうでもいい。

きっと、激闘の最中にぶっ飛ばされたんだろう。

そんな記憶は全くないけど。

「…………あ、あれ?」

期待と不安を抱きながら開け放った寶箱の中は……見事に空っぽだった。

起死回生の超絶レアアイテムどころか、上っ面を取り繕うような定型文の賞賛だけがつらつらと書かれた安っぽい賞狀すらない。

――ざっっけんな!!

と心の中で高らかとぶが、今はぶちギレてる時間も惜しい。

さすがに、最初から中に何もなかったってことはない……と信じたいから、きっとマユが先にゲットしたのだろう。

つまり、そのアイテムによって俺が生き返ったと……そういうことか?

だとしたら、こんな最果ての境の超絶鬼畜ボスを倒した報酬としては割に合わないどころの話じゃない。

いや、普段なら十分すごい寶だと泣いて喜ぶところだが、収支が差し引きマイナスの現狀では、せめて同じを五個はくれよと言いたい。

「ああ、くそっ! 他に何か……何か可能はないか……っ」

往生際悪く周辺を見渡すが、マユとルカが生しまくった包丁とナイフ以外にがそもそも……

「…………ん?」

よくよく見ると、ルカの死がどこにもない。

てっきり、マユが倒してくれたんだと思っていたが……。

その代わりとばかりに、高レベルのキモ怖モンスター、ナイトメアがバラバラになって散している。

やっぱり、あのモンスターがルカに変化していた……のだろうか。

で、ルカが死んで元の姿に戻ったってとこか……。

ったく、忌々しい野郎だ。

時間さえあれば地獄の業火で燃やし盡くしてやるってのに……。

いや、ちょっと待った……たしかこいつ……。

「一か八か……試してみる価値はある……か」

俺は久々に両手で用の鉈を握り、ナイトメアの頭蓋骨目掛けて思い切り叩きつけた。

呆気なく砕けた骨の上に鉈の刀を橫にして置き、踏んづけて飛び跳ねてぐりぐりして、念りに微塵にする。

決して、やけになって殺意の波に目覚めたわけでもなければ、邪気眼によって封印していた魔王が解き放たれたわけでもない。

どうしても必要な工程なのだ。

「ふう……こんなもんかな。手持ちになんか使えそうなもんは……ええい、考えてる暇もねえ! これとこれだっ!」

ぶちまけたバッグの中から良さげな食材を適當に摑み取る。

ヤシの実に似た果実に、タロイモっぽい芋に、クルミの面影がじられる木の実。

どれも樹海で自生していた、保存に優れた自然の幸だ。

「よし、これを……こうして……」

まずは、ダンジョンヤシの実の上部を切り、中の白い果を削ぎ落とす。

次に、お手製のおろし金で果とダンジョンタロイモをすりおろす。

そして、木の実と々にしたナイトメアの骨、すりおろした果、芋、砂糖を混ぜ合わせる。

後は、しずつ水を加えながらひたすらこねる。

すると、完全に即興で考えたにしては上々の、見た目は(遠くから見たら)うどんとかクッキーとかに見えなくもない、とても魔の骨りとは思えない満足のいく生地が出來上がった。

「急げ急げ……! あ゛~くっそめんどくせえな、俺のスキル……」

小さな団子狀に型した生地を、空になっているダンジョンヤシの実の中に放り込みながら毒づく。

俺が見出したわずかな明……それは『魔法の料理・改』でナイトメアの魔法をコピーすること。

アユの『解析(アナライズ)』でステータスを覗いた時、こいつにはたしか『復活(リザレクション)』とかいう、名前からしてそれっぽい魔法があったはずだ。

回復魔法なんて使うじじゃないので意外過ぎて印象に殘っていたが、今思えば『恐怖の記憶(メモリーオブフィアー)』で変化する前にやられないためだったのかもしれない。

が、今はそんなことどうでもいい。

こんな高レベルモンスターが使う聞いたこともない魔法……いかにも強力そうじゃないか。

……ただ、問題がある。

俺のスキルは調理時間や仕上がりによって効果に差が出てしまう。

なので、いい加減な料理を作ろうものならクソみたいな効果しか期待できないし、々にしただけの骨を我慢して食べても料理と見なされず不発に終わる。

さらに、使い勝手の悪い仕様で『コピーするスキルは選べない』ときたもんだ。

もちろん、この一刻を爭う事態にリテイクなんてできるわけがないから、必然的に一発勝負だ。

「しゃおらっ! ファイアーーーーッ!!」

焦りを吹き飛ばす意味を込めて無駄にテンションを上げてび、ダンジョンヤシの実に火を放つ。

勢いよく燃え盛るファイアーボール狀態を経て黒焦げになった実の中から、ようやく完した料理――名付けて『たっぷりナッツが薫るもちもち芋団子~食べてくれなきゃ今夜はナイトメア~』を取り出す。

ナイトメア分は控えめだし、なかなかに香ばしいそそる匂いだが……今大事なのは味よりも結果だ。

確率は二分の一……ん? そもそも明らかにボスっぽいじのモンスターでも俺のスキルは有効なのか……?

やべえ、そこまで考えてなかった。

もし失敗したら……ええいっ、この期に及んで悩んでも仕方ねえ!

俺は団子を口にれ、ひたすら祈りながら咀嚼し、飲み込み、マユの手をそっと握り、唱えた。

「…………復活(リザレクション)!」

回復魔法特有の白いがマユを包み、一瞬で全回復――という期待は……裏切られた。

マユのに変化はない。

流れ出るは止まる気配もなく、広がった溜まりが俺の浪費した貴重な時間を無慈悲に突き付けている。

頭から氷水を大量にぶっかけられたみたいにドザーッとの気が引いていく。

「……だめ……か……」

くそっ……何やってんだ、俺は……。

こんなことなら、助かるかどうか分からなくても普通に手當てしていれば……。

自らの愚かな行いを悔いている最中……俺は異変に気付いた。

俺の周りに、うっすらと赤く明滅する蛍のような小さく儚げな謎の発が二十……いや、三十近く穏やかに浮遊している。

不可思議な現象に唖然としていると、その発は枯れ葉のごとくゆらゆらと靜かに舞いながらマユの背中の痛々しい傷口に吸い込まれていく。

すると、深々と突き刺さっていたナイフが自然と緩やかに抜け落ちた。

さらに一つ、二つ、三つと、発が傷口にれて雪のように溶けて消えていくたびに、マユの傷はだんだんと塞がっていき……あっという間に元通りの白く綺麗なへと戻っていった。

目をぱちくりさせて至近距離で凝視するが、わずかな傷跡すら殘っていない。

苦しそうな険しい表も和らぎ、青白かった顔にも赤みが差してきた。

「……治った……のか……? はぁあぁぁぁ……よかった……よかったぁ……」

安心して全から力がこそぎ抜け落ちた俺は、大の字になって盛大に倒れ込んだ。

いやー……今回ばかりは本當にもうやべえと思った。

間違いなく日比野天地史上最大の事件だった。

でも……生きてる。

俺もマユも生きてる。

正確には一回死んだけど。

こんな心臓に悪いイベントは二度とごめんだが……結果だけ見れば、久しぶりにマユが現れてくれたし、俺に至っては失った腕まで治ったし……まあ、なくとも最悪の事態は免れたと言えるだろう。

後は、目を覚ましたマユと一緒にしすぎる星空をロマンチックな雰囲気で観賞できれば、數年後にはいい思い出として笑って語れるようになるかもしれん。

「それにしても……この星空はなんなんだ? わけ分からん……って、んん……?」

ふと、目の前に広がる星々に違和を覚えた。

よく見ると、カラフルでずっと見ていられる十以上のラインナップの中で、ひと際きらめく白い星が妙に規則的な配列をしている。

寢転んで長い間ボーッと眺めて、ようやく気がついた。

あれは……文字? 英語?

めっちゃ分かりにくいけど……えーっと……。

『When you wish upon a star』

「……あなたが星に願う時……?」

なるほど、つまり……どゆこと?

まったくもって意味不明だが……とりあえず星に願えってこと?

この年になってそんな子供じみたことをしたくはないが……しかし、こんな意味深なメッセージを見つけちゃったからには、実行せざるを得ない。

まさか『なんでも願いが葉う』なんてことはなかろうが、もしかしたらおまけの褒の一つや二つあるかもしれん。

ん~……願い……願いかぁ~……。

ちょっと前までだったら「マユの怪我を治してしい!」と額を地面にりつけて祈っただろうが、その問題は無事に解決したばかりだ。

じゃあ、他には?

そりゃ、もちろんマユに好かれたいとか好意を持ってしいとか両想いになりたいとか付き合いたいとか人になりたいとか結婚したいとか、そんなじだろ。

を言えば、さっさと芽達と合流したいってのも追加したいところだが、どうやら近くまで來てるみたいだし、あえて一つに絞るとしたらやっぱりマユの好度一択かな。

で? 願うってどうすんの?

聲にしろってこと?

なんかハズいけど……まあ、世界の中心でべってわけじゃないし、とりあえず小聲で呟いてみるか。

「…………っ……あ~……っと……」

何気なく口にしようとした、のだが……寸前で思いとどまる。

別に迷う必要はない。

まさか願ったら葉わなくなる呪いにかかるってことはないだろうし、何も起こらない可能だってある。

軽いノリでサクッと言えばいい。

だが、俺は今の今までマユとの生活を通じて募っていった一つの願いを思い出した。

それは現実的に不可能なことだし、まだ「トラックに轢かれて異世界に転生して神にチート能力もらっての子にモテまくってチーレム無雙したい!」と願った方が幾分かはみがあるかもしれない。

……いや、それはないか。

とにかく、単なる妄想、単なる現実逃避だ。

けど……。

それでも俺は、ずっと「こうなればいいなあ」と願ってやまなかった思いを、ぽつりとこぼした。

「……マユの……マユの中の人格みんな……みんなと一緒に、ずっと楽しく暮らせたら……いいなあ……」

誰に言ったわけでもない心からの聲が、広々とした部屋の中央で誰にも聞かれず掻き消えた、その時……

奇跡が起こった――――

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