《キチかわいい猟奇的とダンジョンを攻略する日々》ウォーキング・デッド

マユの中の人格みんなと、ずっと一緒に楽しく暮らしたい――

俺がそう願ったのは、一度や二度ではない。

サユとアユと出會ってからたまに、マユの過去を知ってからは毎日、そんなあり得ない時をかに夢見ていた。

これは俺の個人的な願でもあるが、決してそれだけじゃない。

だって、ふざけてるだろ。

自分の命より何倍も大切な妹を失ったマユが、誰よりも再會を切しているマユが、誰よりも近くにいるのにただの一言も語り合えず、一瞬たりとも笑い合えないだなんて。

たとえサユもアユも、悲しみと絶に耐えかねたマユの心が生み出した幻に過ぎないとしても、俺にはどうしても許容できない。

神的疲労がピークを迎えて死んだように寢転んでいた俺は、謎の星文字に従ってぽつりと心中を呟いた――その直後。

「うッ――――!?」

星が……天井を覆い盡くしていた大量の星が、示し合わせたかのように一斉に強烈なを放った。

かつてないレベルの閃がもろに俺の目を直撃し、痛みに似た衝撃が脳まで突き抜けるとともに俺は反的に目をぎゅっと閉じた。

Advertisement

それでも瞼の裏側にチカチカと激しく明滅するがしつこくこびりつく。

頭を盛大にシェイクされたような不快な覚まで襲ってきて、俺は次第に気持ちが悪くなっていき……覚すら曖昧になっていく。

くそっ……なんだってんだ、一

願えっつーから願っただけだぞ。

死ぬ思いをして……っていうか実際に死んでまで苦労してボスを倒した勇者に対して、なんて仕打ちだ。

「…………ん?」

なんだ……?

なんか……聞こえる……?

かすかにだけど、音がする。

「――……いき…………どう……」

「だい…………はず……――」

これは……聲だ。

一人じゃない。

何か話してる……?

誰だ?

ここには俺とマユしかいないのに。

「ねえ……もう……てん……にぃ」

あっ……だんだん聞こえるようになってきた。

目もも、だいぶよくなってきた。

……って、あれ?

この聲って……――

「ちゃんと生きてるんだよね!? お願いだから早く目を覚ましてよ、てんちにぃってば!!」

Advertisement

「――――っ!?」

一気に鮮明かつ大音量で飛び込んできた聲に、心臓がびくっと跳ね上がる。

でぱっちりと開いた目に真っ先に映ったのは……サユだった。

え……サユ?

サユ……だよな、うん。

ほんのし迷った理由は一つ。

なぜか、サユの髪が真っ黒だったからだ。

「……さ……サユ……?」

芝生に両手をついて、大きく見開いた目にこぼれそうなくらい涙をにじませたサユが、至近距離から俺の顔を覗き込んでいる。

……ん? 芝生?

あれ?

いつの間にか、俺はしく整えられた青々とした芝生の上にいた。

「どういうことだ……? サユ、ここは――ぐっふ!?」

言い終わるより早く、サユが無警戒だった俺のに勢いよく飛び込んできた。

「てんちにぃ……! 生きてた……ほんとに、生きてた……よかった……よかったよぉ……」

「サユ……」

そうか……サユは気を失った後も、マユの中で事の顛末を見守っていたのか。

となると、俺が手足をぶった切られたことも心臓をぶっ刺されたことも當然ばっちり目の當たりにしたわけだ。

そりゃ、心配もするわな……。

手と聲を震わせるサユにかける気の利いた言葉がパッと思いつかず、俺はしでも安心させようと優しく頭をぽんぽんする。

「わりぃな、あんな自しか俺には思いつかなくて……」

「やれやれ……相変わらず無茶ばかりしますね、天地さんは。私たちの気も知らずに、まったく……」

「……え…………?」

サユの隣に、瓜二つの……というか、もはや同一人といってもいいの子がもう一人、ほっとした表で俺を見つめている。

見慣れたポニーテールとストレートという髪型の違いを見比べれば……いや、見なくても俺ならもう口調だけで分かる。

分かるけど……なんで?

「アユ……え? え? な、なんで、サユとアユが一緒に……?」

口をぱくぱくさせながらサユへアユへと視線を往復させる俺に、アユは肩をすくめて答える。

「分かりません。マユお姉ちゃんが気を失ったところで私とサユの意識はなくなって、気づいたらここに……」

噓だろ……これは夢か?

葉うはずのない共演が、今まさに目の前に……。

なぜか髪は黒いけど、そんなのは些細なことだ。

……もしかして、これがあの謎の星の効果なのか?

願い事をなんでも一つ葉えてくれる的な?

マジかよ、とんでもねえな……これは理不盡な死にゲーをクリアした甲斐があったなっ!

「それよりも今は天地さんとマユお姉ちゃんです。特にあなたは……その……」

「……ああ……」

アユが口ごもるのも無理はない。

ちょっと前まで、俺は我ながらぞっとする凄慘な狀態だった。

アユのスペシャルな回復魔法でも手の施しようがない、というか即死だったはずだ。

しかし、どういうわけか俺は生きている。

理由は全くもって謎だが……。

「ぶっちゃけ俺にもさっぱりなんだが、まあ俺はこの通りだ。それにマユも大丈夫だ。なんとか治療が間に合ったから……って、あれ? マユは? つーか、ここはどこなんだ?」

サユとアユが一緒にいる、ということはマユもいるものだと勝手に思っていたのだが……辺りを見回してもマユの姿が見えない。

さっきまでいたはずの窟じゃないってことは薄々気づいていたが、ここは……庭、か?

とにかくでかい、學校くらいあるんじゃないかという大きさの立派な建がまず目にった。

石造りの外壁にアーチ形の窓がついた、何様式かは分からんが西洋風のモダンな住宅、というかお屋敷が視界の半分を占め、殘りの半分には無駄と豪華の極みとしか思えない噴水や、鮮やかな花が咲き誇る整った庭園、何人も侵を許さない高くて頑丈そうな塀に門が非の打ちどころのない完璧な調和を保って配置されている。

真上に目を向けると、どんよりとした雲が空を覆っているから地上ということはたしかだが……。

「えっとね……ここ、あたし達のおうちだよ」

「はぁ!?」

家!?

ここが?

マユと、サユと、アユと……ついでにマユパパの?

「いや……え? いやいや、どう見ても個人の所有とは思えないんだけど……」

「まあ、うちは事務所も兼ねてるから多広いですけど……別に、そんなに驚くほどではないでしょう?」

「そ……そう、か……?」

明らかに常識がおかしいが、俺よりも常識があるアユが言うんだから、なんかそんな気がしてきた。

というか、この際それはどうでもいい。

問題は……。

「じゃあ、ここは……ダンジョンの外ってこと、か?」

「そう……とも限らないと思います。私達がいた頃から五年も経っているにしては、あまりにも綺麗すぎますし、変わってなさすぎますから。……死んだ人間が現れたばかりですし、むしろダンジョンにおける超常現象、魔法や幻の類といった可能が高いかもしれません」

アユの推測に、俺は不思議と納得した。

なんというか、ここは……現実っぽくないじがする。

どこがと問われてもうまく答えられないが、どこか違和がある。

「とにかく中にろーよ。きっとマユねぇは中にいるんじゃないかな? ほら、マユねぇあんまり外に出られないしさー」

「そうだな……――ん?」

サユの言葉に頷いて庭を後にした、その時。

どこか遠くから聲がした……気がした。

家の中からではなく、もっと離れた場所から。

だが……。

「……どうしたんですか? 天地さん」

「いや……なんか聞こえた気がしたんだけど……たぶん気のせいだ。行こう」

改めて耳をすませるが、人の聲どころか風の音さえ聞こえない。

まあいい。

一番可能があって一番怪しいのは、この家だ。

俺達は、これまたどでかい玄関のどでかい扉を開けて――

「うおああああああっ!?」

――開けた瞬間、俺は思わず聲を上げてのけぞり、思い切りぶっ倒れて後頭部を強打しそうになった。

理由は、あまりの豪邸っぷりに驚いたから……ではない。

いきなり、全まみれで変したが腐れ落ちそうな人型の化け――ゾンビが襲い掛かってきたからだ。

「っ――ソーイング!」

引き裂かんばかりに、あるいは絞め殺さんばかりにばされた腐敗臭漂う骨むき出しの手が、俺の首にセンチ単位まで迫った時、アユの魔法糸がゾンビの全を一瞬で絡めとった。

腰が抜けた狀態でみじめに後ずさった俺は、あまりの衝撃展開に頭が真っ白になり、低く唸りながらもがくゾンビを、呼吸もまばたきも停止したフリーズ狀態で呆然と見つめることしかできなかった。

「えっ、え、エ……エアーキャノン!」

俺と同じく目をまんまるにしてぽかーんとしていたサユが、我に返って魔法でゾンビを跡形もなく吹き飛ばす。

ぼとぼとびちゃびちゃと腐が散らばり、再び靜寂を取り戻してから數秒。

完全に固まっていた俺達は、ようやく脳を再起して互いを見る。

「……あ……あ、あの、サユさん、アユさん……お、俺は教養がないから知らないんだが、上流階級のお宅ではこういった前衛的な従業員を雇うのが普通だったりするのでしょうか……?」

「ん、んなわけないじゃん! な、なんなのこれ……」

「一つだけたしかなのは……やはり、ここは私達がいた地上ではないということでしょう。まったく、ずいぶん悪趣味な歓迎の仕方ですね……」

ふ……ふっざけんなっ!

俺はマユやサユやアユと一緒にいることを星に願って、それが葉った。

はい、それで終わり、ハッピーエンド!

それでよくね?

それがなんで、こんなバイオハザードな現狀に繋がるの?

かつての生家で的な再會……みたいなじじゃねえのかよ!

誰だよ、こんなゴミみたいな演出考えたやつは!

ハァーしょーもな、クソゲーレベルですわ!

「ね、ねえねえ、怖いけど早く行かなきゃ……マユねぇが心配だよ」

「ああ、たしかに……いつものマユならゾンビくらい楽勝だけど、まだ目が覚めてないかもしれねえし、ケガも治ったばかりだしな」

恨み言は盡きないが、今は何よりマユだ。

抜けてしまった腰はアユがご親切にもヒーリングしてくれたので、俺達は慎重に家の中へとる。

「うわぁ……」

部は當初の想像通り綺麗で豪華ではあったが……おびただしい量のが床や壁にべっとりと張り付いていた。

まるでホラー映畫に出てくる洋館みたいな不気味な有様に、サユとアユも言葉を失っている。

「えっと、一応だけど……俺は流行に疎いから知らないんだが、上級國民のお宅ではこういった奇抜な裝飾が當たり前だったりするのでしょうか……?」

「……馬鹿ですか、あなたは。はぁ……私達の部屋は二階です。気を付けて進みましょう」

照明もつかず、いかにも曲がり角からゾンビがわらわらと飛び出してきそうな雰囲気の薄暗い廊下を靜かに抜け、そろりと階段を上る。

――いつかダンジョンから解放され、念願かなってマユと人同士になってから家を訪れて、マユパパ相手に「娘さんを俺に下さい!」と土下座で頼み込む日が來るのだろうか、と妄想したこともあったが……まさか、こんな違う意味でドキドキする家庭訪問になろうとは思いもしなかった。

などと張のあまり現実逃避じみた思考が頭をよぎりながら進むと、幸いにも何事もなくマユとサユとアユの共同の部屋へと辿り著いた。

のだが……。

「あ、あれ? 開かない……鍵がかかってる」

サユが取っ手をもどかしそうにガチャガチャと暴に回すが、明らかに他の部屋と比べて特別頑丈そうな、マユパパの過保護っぷりが見て取れる分厚いドアはびくともしない。

「マユねぇ、いる? ねえ、いたら返事して! マユねぇ!」

大聲で呼びかけ、レベル73の腕力でドンドンとドアを叩くが、中からはなんの反応もない。

いないのか、それともいるけどまだ起きてないのか、いまいち判別できない。

だが、ゆっくり待とうにも問題が……。

「――! 天地さん、サユお姉ちゃん、ゾンビが……!」

「くっそ!」

音につられたのか、廊下の両サイドから合計六のゾンビが近づいてきた。

俺としては「半分は任せろ!」とカッコつけたいところだが、今はお手製の魔法料理もなければ用の弓も鉈もない。

ゾンビは見たきは遅いし、強さ的にはゴブリン相當だと思われるから倒せなくもなさそうだが……。

「アイシクルピラー!」

「ソーイング!」

俺が逡巡している間に、片側はサユの魔法で全氷漬けに、もう片側はアユの魔法で鋼鉄並の糸が蜘蛛の巣狀に張り巡らされたことで、あっという間に片付いた。

おいおい、頼もしすぎるだろ……。

まあ、一人でドラゴンを圧倒し、あの青天目ルカを相手に善戦もしたサユとアユが揃ってるのだから、當然といえば當然の結果か。

「あまり悠長にもしていられませんね。二人とも、し離れていてください」

アユがそう言うと、魔法の糸は鞭のような軌跡を幾重にも描いて、次の瞬間ドアはサイコロステーキ狀に切り刻まれてゴロゴロと崩れ落ちた。

ひえっ。

「――――マユねぇっ!」

真っ先に駆け出したサユが部屋の中へとる。

カーテンは隙間なく閉め切り、シャンデリアの明かりが消えた真っ暗な室の片隅。

大人三人でも余裕で寢られそうな大きなベッドの端に、ぴくりともかない人影が一つ。

黒い髪の小さなの子が、顔を俯けて壊れた人形のように力なくだらりと座っていた。

    人が読んでいる<キチかわいい猟奇的少女とダンジョンを攻略する日々>
      クローズメッセージ
      あなたも好きかも
      以下のインストール済みアプリから「楽しむ小説」にアクセスできます
      サインアップのための5800コイン、毎日580コイン。
      最もホットな小説を時間内に更新してください! プッシュして読むために購読してください! 大規模な図書館からの正確な推薦!
      2 次にタップします【ホーム画面に追加】
      1クリックしてください