《【電子書籍化決定】人生ループ中の公爵令嬢は、自分を殺した婚約者と別れて契約結婚をすることにしました。》さようなら。あなたと私

♢♢♢

「アロナ、久しぶり!大きくなったね」

手紙のやりとりはたまにしていたが、こうしてきちんと顔を合わせるのは三年ぶりだろうか。ルーファスは、相変わらず國の王子とは思えないほんわかとした表で微笑んだ。

「ごめん、今の言い方おかしかったかな。本當は綺麗になったねって言いたかったんだ」

照れたように頬を掻くルーファスに、アロナは恭しい挨拶を返す。

「ご挨拶が遅れ申し訳ございません、殿下」

「あれ、もう名前で呼んではくれないの?」

栄でございます、ルーファス様」

アロナがそう口にすると、ルーファスは嬉しそうに笑う。四度目の人生でも、ルーファスは何一つ変わっていないと、アロナは思った。

まぁ、彼にとっては一度きりの人生なのだしそう考えること自がおかしいことではあるのだが。

本宮殿から馬車をしばらく走らせた場所にある、比較的こじんまりとした離宮。王妃が住まう宮を別に建ててからは、この場所は子供の遊び場のようになっていた。

「アロナは、まだ男が苦手なの?」

「ええ、そうですね」

「十歳になったら王立學園へ學するんでしょう?その時に困りそうだね」

初夏の輝くしが降り注ぐテラスで、二人で紅茶とお菓子を嗜みながら、ルーファスが口にする。

「いえ。私は學園には行きません」

アロナは、きっぱりとそう言った。そのことも既に両親には話してある。リュート夫人という優秀な家庭教師の他にも、彼には各分野に通した家庭教師達がついている。

特に母であるグロウリアは「泥棒貓に目をらせなくてはいけない」と難を示したが、アロナはすぐさま反論した。

――たかだか數年の為に學園にり、その結果妃教育が滯ってしまえば本末転倒。ルーファスがいくら心変わりしようとも、國王が認めた婚約は覆せない

と。

つまりアロナは、この結婚には必要ないということを示してみせた。サムソンやグロウリアにとっても、娘が王族となること自に価値があるのであって、アロナとルーファスの仲はどうでもいい。

弱なルーファスよりも國王や王妃に気にられることの方が、重要なのだ。両親の分を知しているアロナはそこを強調し、學園には通わないという意見を通した。

「アロナがいないと寂しいよ」

「ルーファス様でしたらすぐに學園の中心人になれます」

「それは僕が王子だから?」

「それもありますが、あなたはとてもお優しい方ですので」

アロナからしてみればそれは嫌味を含んでいたが、それがルーファスに通じるはずもない。

彼は嬉しそうに頬を緩ませながら、焼き立てのクッキーを一口かじった。

(こうしていると、本當に不思議だわ)

やはりルーファスという人間は、は優しいのだとアロナは思う。自分が死ぬたびに流していた涙は、きっと本なのだろうと。

優しく、慈悲深く、そして優不斷だ。他者を慮るあまり、事を自では決められない。

それは裏を返せば、責任を取りたくない者の言い訳のようにも見える。だから彼は、エルエベ達の言うことには逆らえなかった。

大切な家族を、傷つけることになるから。

(客観的に見ると稽だわ)

アロナは事務的であり、合理主義者であり、を押し殺し生きてきた。

確かに、今までルーファスへのを盲信し溺れていた自分は、実に稽で哀れだった。

けれどそのを復讐という牙にすげ替える気にはなれない。それではあまりにも、救いがなさ過ぎるというものだ。

四度目の人生は、幸せに。

そうまでは思わないが、もうルーファスに囚われて生きていくのはごめんだ。

流した涙と共に消え去った、彼への想い。

目の前でにこにこと笑いながら他ない話をするルーファスを見ながら、アロナは自然と弛む頬を隠すことはしなかった。

(さようなら、ルーファス)

不思議なほどに、彼の心は凪いでいた。

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